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ゲーム中盤

この展開は考えてなかったので引きこもりたい①

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 ミノタウロスが出る階層に向かい、私が落ちた何もないフロアを突っ切って次の階段を降りる。
 本来、このフロアのモンスターは討伐参加者全員で突破するものだったんだろうな。
 この討伐イベントは、私の知っているアメリアのストーリーには無かったものなので、追加配信かクロエルート独自のイベントだと思う。

 何かの予感みたいに、胸の奥がザワザワする。
 気のせいであってほしいけど……。
 そんな変な緊張感で、次のフロアに向けて私の集中力はすさまじいものがあった。
 見つかりにくくするための隠密ステルスは出力をさらに強くし、索敵ソナーで敵の位置を確認しながら進む。

 私のピリピリ感を感じ取ってか、男性陣も黙々と進んでいる。
 これってちゃんと親密度上がるよね?と、心配になるくらい全員黙って進んでいる。
 親密度上げの為に討伐に来たのに、これでは逆効果なんじゃないかと思うけど、胸のざわつきがそれどころじゃないと警告してくる。

 直下のフロアに到着し、辺りを見回してみたけど特に索敵ソナーに反応はない。


「今、この場所から半径十メートル以内に目的の敵ミノタウロスは居ないようですわ。ここから先はどうしましょう?」

「そうだな……手分けをして何とかなる討伐ではないし、様子を見るのも手だと思うが……」


 ナイルは少し緊張気味のよう。そりゃそうよね、学生同士で来るような難易度の討伐ではないもんね。


「このフロアから伸びる出入口は七つあります。うち一つは更に地下に行く階段ですね。このフロア以下は強力なモンスターが沢山闊歩しているので、できればこのフロアで標的に遭遇しておきたいですね」


 そうフロアの説明をしてくれたシモンは、流石に落ち着いている。冷静に分析できる大人が居てくれるだけでも安心感がある。それに低く安定した声に癒しの効果があるのか、聞くと気分が落ち着いてくる。
 私も大人だけど、見た目はご覧の通りお嬢様のクロエだし、声も高めで説得力があまり出ないので、こういう場面でシモンのような人が居てくれると助かる。


「ミノタウロスの角をいかに効率よく回収するかも考えないとな。お嬢さんがパニックになって消し炭にしちまったら困るからな!」


 ジーンは私の頭をポンポンと軽く叩く。まだ何もしてないのにご褒美いただきました!
 一応、緊張を解いてくれてるんだよね?本当は頭ポンポンなんて余計に緊張してしまうけど、ジーンの明るい口調から気配りを感じる。
 気配りは感じるんだけど……私、そんなに何でも燃やし尽くしそうなのかな?
 ここは良いところを見せなくちゃ!と気合いを入れる。


「それでは、一度隠密ステルスを解いて、索敵ソナーの範囲を広げてみますわ」

「そんなこと出来るのか?」

「はい、おそらく出来ると思います。今はふたつの魔法を同時に発動させていますので、ひとつに集中すればある程度範囲を広げられるかと……」

「なんと。クロエ様はどれほどの魔力をお持ちなのですか? ここに着くまでの間も、ずっと魔法を発動されていましたが、王直属の魔法士でもここまで酷使すれば魔力は尽きかけていますよ。私の団でも魔法士は数人が休憩しながら交互に魔法を使います。
 失礼ですが、クロエ様の今のレベルはおいくつでしょうか?」

「私のレベルは22ですわ。そこまで高くはありませんわよ?」

「えっ!? お嬢さんは学生だよな? レベル22なんてそれなりの冒険者くらいはあるぞ?」

「俺だってかなり鍛錬してレベル17なんだが」


 ナイルが少し凹んでしまった。一応フォローしておく。


「先日のワイバーン討伐でレベルアップ致しましたの。私、体力は人並み以下ですから、レベルアップして丁度良いくらいですわ」


 魔力の数値はとんでもないけどね、と心の中で付け足して隠密ステルスを解く。
 同時に索敵ソナーの範囲を広げると、手に取るようにモンスターの位置を感じることができた。


「居ますわ。このフロアは迷宮のようになっているようです。私の索敵ソナーの範囲には、現在二体のミノタウロスの気配があります。少し位置は遠いですがそのうち行き会うかと。どなたか、書くものをお持ちではないでしょうか?」


 誰も紙やペンと言った「書くもの」を持っていなかったので、私は自分のバッグからはがきサイズのスケッチブック(※急に描きたくなったら使う用)を取り出した。
 まだ一度も使っていない、真っ白なスケッチブック一枚目が迷宮の地図って!
 イラスト用に使いたいと思っていたから、ちょっとモヤっとするので一枚ちぎり取る。
 フロアに突っ伏して、現在地から自分の見えている範囲を地図に書き起こしていく。


「お嬢さん、地図を書くの巧すぎないか?」

「それはありがとうございます。私、趣味で絵を嗜んでおりますの」

「クロエにそんな趣味があるとは、知らなかったぞ。兄上もご存知ないのではないか?」

「聞かれていないことは、お伝えしておりません。ただの趣味程度ですから、お恥ずかしくて誰かに披露できるものではございませんし」


 地図を書いている私を見て、少し時間がかかると踏んだのか、三人は私を守るように布陣する。
 警戒しなくても、まだ近くにはたいしたモンスターはいないのだけど、その気持ちが嬉しくてちょっと頑張っちゃった。


「できましたわ!」


 テッテレー!っと、自分で効果音を付けたくなるくらいのいい出来!
 私の出来上がりの声を聞いて、寄ってきたみんなに説明をする。


「私たちの位置がここです。まだ階段を降りたばかりですが……この階段はフロア中心になるようです。フロアの北と西の位置に目的のミノタウロスが一体ずつ居て、移動しています。どうやら、私たちのいる中央に向かっているようですので、ここに居ればいずれモンスターの方から私たちを見つけてくださいますわね」

「お嬢さん、この黒い丸がミノタウロスということは分かったが、こっちの星マークはなんだ?」

「さすがジーン! やっぱり気になっちゃいます? 気になっちゃいますわよね? うふふふふ!」


 良家の子女の笑みとは思えない、ゲスい笑い方をしてしまったせいで、若干シモンとナイルが引いている。ジーンは気にしていない……というより、星マークが気になって気付いていないみたい。


「こちらは、迷宮と言えばでおなじみの宝箱ですわ。何が入っているか分かりませんが、レアアイテムゲットできるチャンスですわよ? うふふふふ」

「な、宝箱だと!? そんなものも分かるのか? ホントにすげーお嬢さんだな!」

「ミノタウロスをここで待つのも良いですが、まだ少々時間がかかりそうですし、宝箱の回収も致しませんか?」

「いいねぇ! エンジンをあっためるにも、懐をあっためるにも!!!」

「私も、宝箱というのを一度見てみたかったんですの!! 皆さん、いかがかしら?」


 ノリノリなのはジーンと私だけだったけど、宝箱の中身が高価な物や希少な物だった場合は国に献上することを条件に、シモンもナイルも付き合ってくれることになった。
 まずは自分たちの居る場所から一番近い宝箱に向かって移動する。
 地図のおかげで迷わず宝箱までたどり着いて箱を開けると、中には実にゲームっぽい金銀財宝というようなお宝が入っていた。

 中には少し大きくて赤く丸いルビーのような宝石があり、それがとても気になったので、私はそれを手に取った。


「お嬢さんはその宝石が気になるのか?」

「ええ、この宝石が何かとても重要な物のように思えるのです。こちらは私がいただいても?」

「ああ、お嬢さんが見つけた物だ。好きにしていいぜ。他の奴らもいいよな?」


 ジーンがシモンとナイルを交互に見ると、二人は了承の意味で軽く頷いた。
 それぞれが自分が気になるものを取り、残りはジーンがほくほく顔で袋に詰める。
 一度中央地点に戻らないと他の宝箱まで行けるルートがないので、移動ルートにモンスターがいないか確認するために、索敵ソナーを展開させる。


「!! 皆さま、いけない!!! このままこちらへ走ってください!」


 私の号令とともに全員が反射的に走り出すと、さっきまで宝箱があった場所の壁が崩れ、ミノタウロスが姿を現した。
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