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ゲーム中盤

やり過ぎちゃって引きこもりたい①

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「で、俺がメンバーに選ばれたのはなんでだ? こんな高難易度、厳しいに決まってるだろう?」


 討伐当日、移動のために乗っている寄合馬車に揺られながら、半眼で抗議してくるナイルの機嫌を取るのに私は必死だった。
 ルカは視察のために地方へ行くクロムの護衛で、誘いに行くと出かけるタイミングだった。
 有力候補二人が不在になるため、ナイルに白羽の矢が立つことになってしまった。
 ナイルは学生の中ではかなりのレベルではあるものの、そこはやっぱりまだ学生の経験値。
 ジーンとシモンというレベルの高い大人と一緒の討伐に不満がダダ漏れだ。


「本当にごめんなさい。でも、この討伐を成功させればナイル様も成績爆上がりですから、ねっ! ねっ?」

「そんなふうに猫かぶっても、かわいくねえ」

「ふてくされないで~! また今度スカート覗かせてあげますから!」

「なっ!!! おまっ!!! 人聞きの悪いコト言うなよっ!!?」

「ん? お嬢さんのスカートの中? 悪い、その話は俺も興味ある。混ぜろ♪」


 スン!と私とナイルのこそこそ話に入って来たのはジーンだ。
 会話を聞かれてしまったことで、ナイルの顔がみるみる赤くなっていく。かわいい。
 私たちのそんな姿を見て、シモンは額に手を当ててため息を漏らしている。
 あわわ、ノリがお子様でごめんなさい!

 馬車の中では逃げ場がないナイルにジーンがあれこれ聞いているのを横目に、シモンの隣に座り直して一応謝っておく。


「失礼いたしました。幼稚な会話など、お耳ざわりでしたわね。私とクロム様は幼馴染で、つい子どもの頃のようなじゃれ合いをしてしまいまして。お恥ずかしいですわ」

「いえ、問題ありません。若さというのは勢いもあり、大変微笑ましいと思います」


 シモンの落ち着いた声と大人の男性特有の余裕のある笑顔……思わず顔がニヤけそうになるのを我慢して、会話を続ける。


「あら、そんなに年齢としは離れておりませんでしょう? シモン様は私の学友の中にも憧れている方がとても多くいらっしゃいますわ」

「……親子ほどはあると思いますが?」

「いやですわ。もしシモン様と私が親子でしたら、私はもう子育てしていないといけませんわね」

「ふむ、そう言われますと確かにそうでございますね」


 シモンはそう言うと、さっきよりも少し和らいだ笑顔を見せる。
 明るいブラウンの瞳が幌越しに当たる陽の光に照らされて、吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗だ。


「お嬢様、あと十分ほどで目的地でございます」


 御者から声をかけられたことで、私は一瞬トリップしそうになっていた思考を現実に引き戻すことができた。
 御者には到着十分前に声をかけてもらうよう、あらかじめお願いしてあった。
 理由は、今回の討伐メンバーに私の作った特別なクッキーを食べてもらうことにあった。

 手練れが居るとはいえ、今回の討伐は少し難易度が高い。
 今回、実験的に作ったクッキーには、光魔法を注入してある。
 これを食べて出発前に英気を養ってもらうと同時に、少しずつ携帯してもらって、私が上手く立ち回れなかった時の回復に使ってもらおうと作ってみた。

 回復薬だと瓶の蓋を開けて飲んで捨てるという三アクション必要だけど、クッキーならそのまま食べるだけで時間も短縮できる。
 そう考えて、補助・強化系クッキーと、回復系クッキーの二種類を作ってみた。
 メイドたちに試してもらったら、普段より動きが軽いくらいの変化はあったみたい。
 自分で食べてみた感じでは、補助・強化系はメイドたちのように体が少し軽くなった実感があった。
 回復系は膝を擦りむいたときに食べてみたら、それくらいの傷は綺麗に治すことができた。
 効果は感じられたのでどちらも成功していると思う。
 果たして日ごろから鍛錬している人間が摂取したらどうなるのか? 討伐で負った傷は治るのか? 気になるところではある。
 自分の荷物から、小分けにした二種類の袋をそれぞれに渡す。


「これは、私の手が回らない時の緊急用クッキーです。ピンクの包みのほうが補助・強化系で、グリーンの包みのほうは回復です。回復薬より早く口に入れられますので、ぜひ携帯してくださいませ。
 ただし、本当に緊急用ですので命の危険を感じた時は回復薬をお使いください。
 補助・強化系の方は、現地に着くまでに召し上がってくださいませ」


 それぞれ包みを渡して、私もピンクの包みを開けて補助・強化用のクッキーを食べる。
 食べると少しずつ身体が軽くなり、力がみなぎってくる。


「おお、これは……! 素早さと防御に効果が発揮されますね。先日のゼリーと言い、クロエ様は面白い発想をお持ちだ」


 クッキーをつまんだシモンが感心している。


「効果がきちんと発揮されて良かったですわ。事前に作っておけば魔法力の温存にもなりますし、美味しい物を食べてお腹が満たされれば、少しはリラックスできるかと思いまして考えてみました」

「ほお……! これは売れるぜ、お嬢さん!」


 効果を実感したジーンに商売を薦められる。このクッキーを知ったら、ハルも売れって言いそう。


「乾燥剤がありませんので、残念ながら売るのは難しいですわ。私と討伐に行く方のみの特別なお菓子ということでご了承くださいませ」

「うん、相変わらずクロエの作る菓子は旨いな! ……ところで乾燥剤って何だ?」

「ありがとうございます。ナイル様はいつも褒めてくださるので作り甲斐がありますわ。それから、乾燥剤というのはクッキーを湿気から守るもので、これがあれば少し長持ちさせることができるのですが……手に入れるのは少し難しいので」


 乾燥剤、シリカゲルは無理でも生石灰があれば良いと思う。ただ、私は生石灰が何から取れるのか良く知らない。
元の世界では普通に売られているものだし、あんまり作り方や材料を気にしたことは無かった。

 理系もっと勉強しておけばよかったなあ。流石のクロエも知らないものは勉強のしようがないもんね……今度ルカの魔法書の中に似たような魔法が無いか調べてみよう。

 クッキーを食べ終え、持ってきたお茶を飲んで一息ついた頃、北の鉱山に到着した。
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