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ゲーム序盤

親密度上げがキツくて引きこもりたい

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 親密度上げに明け暮れたおやすみDAYが明け、次の日がやってきた。
 連休なので、今日もおやすみ。うえーい!

 一日引きこもってイラストでも描いていたいのに、ウエンディがLUK上げと新キャラのハルとの親密度上げについてやたら提案してくる。
 午前中だけはイラストを描かせて!と懇願し、スチルを眺めてニヤニヤしながら作業ができた。
 鉛筆描きが出来たら、次は色付けもしたいところ。
 デジタルに出来たら一番いいのに! でも、パソコンがない世界なので仕方がない。
 午後からハルを訪ねる予定なので、途中で画材屋に立ち寄ってみるつもりだ。

 せめて水彩絵の具でも、色鉛筆でもいいから色が付くものが欲しい。

 スケッチを何枚か描くことができたので、満足した私は午後からまた街へ出かけることにした。
 今日は出勤日のガイウスが、やたら馬車を出そうかと言うのでお願いした。
 親密度が500を超えたからなのか、ガイウスのアピールがちょっと……いえ、かなり多くなっている気がする。


「お嬢様、お口元が汚れております」

「お嬢様、お足元が危ないので失礼します」


 などなど。何かにつけて私に触れようとしてくる。
 イケメンに触れられることに慣れていない私は、その度にヒィ!って中身は三十路と思えない態度でアワアワしてしまう。

 画面で見るのと違って、実際に触れられるのは破壊力抜群なんだって!

 顔を真っ赤にする私を見て、ガイウスがクスクス笑うので、中身はあなたより年上なのに~って悔しい思いをしている。
 早く免疫をつけないと、このままでは心臓がえらいことになってしまいそう。

 そんな自分の執事に翻弄されながら街までやってくると、商業エリアの入口で馬車を降りた。


「お嬢様、ここでよろしいのですか?」


 名残惜しそうな、なんだか子犬みたいな顔でガイウスが私を見るので、この人本当に殺し屋なのかしら?と疑ってしまう。
 でも、今日はガイウスからしたらライバルに当たるハルとの好感度上げなので、見つからないように行動しなきゃいけないから、心を鬼にしてここでお別れする。


「ええ、大丈夫。また夕方になったら迎えに来てくれるかしら?」

「お嬢様、かしこまりました。大変名残惜しいですがお待ちしております」

「家の仕事もあるでしょうから、一度家に戻ってくださらないと私がお父様に怒られてしまいますわ」

「では、旦那様を黙らせに……」

「やめて! やめて! もう、ガイウス。そういった冗談、私は嫌いです!」

「冗談ではないが?」


 流石にちょっと腹が立った。たとえ中身が三十路を過ぎた女黒江 茜に変わったとしても、クロエの親を手にかけるなんて冗談にも程がある。
 ギロっとガイウスを睨み、せいいっぱいドスを効かせた声で私はガイウスに詰め寄った。


「そんなことをしたら、もうあなたとは口を聞きません! 二度と言わないと約束しなさい」

「……はい。お嬢様、二度と申しません」


 心なしかガイウスの表情が恍惚としているように見えるけど、気のせいよね?
 とにかく、今は大人しくなってくれたのでヨシとしよう、うん。
 ガイウスってひょっとしてドM属性なのかな? アメリアでプレイした時はそんな風じゃなかった気がするけど……。

 引っかかるところは少々あるけれど、気にしない事にして私は商業エリアでハルのプレゼントを選ぶことにした。
 ハルへのプレゼントは、レザーのキーホルダー。
 少しゴツ目のシルバーの金具と上品な茶色に焼き印がカッコカワイイ品だ。
 これも公式印の攻略アイテムだ。
 ハルは女の子みたいな見た目なので可愛いと言われることが多く、男性扱いするとすごく喜ぶ。
 だからといって、自分の可愛い見た目が嫌いなわけじゃないという、少々面倒くさい設定のキャラクターだ。

 昨日の結果で公式プレゼントを渡すとプラス100くらい親密度がアップすることが分かっているので、公式プレゼントで一気に親密度を上げる作戦を決行する。
 親密度が250を超えないと討伐に誘っても50%の確率で断られてしまい、討伐に行くことができなくなる。
 このゲームでは討伐に行くことで親密度がより深くなるし、討伐に行かないと登場しないキャラクターもいる。

 クロエの誕生日がなかなか思い出せず、それまでに出来る限り全攻略キャラクターを早く出してしまいたい私は、少しだけ焦っていた。

 ハルへのプレゼントを手に、自分用にと画材屋に寄って色を付けられる道具を物色する。
 絵具もいいけど、24色の色鉛筆がとても素敵だったのでそれを購入した。

 占い師のハルは、公園の片隅に占いの店を出している。
 昨日の朝、アメリアが公園に居た理由が今なら理解が出来る。ハルの所に行っていたのだろう。

 公園までは寄り道さえしなければ、そんなに時間をかけることなく行くことができる。
 昨日は公園までの間に人助けをしすぎたから、今日はそのまま公園へ直行した。
 ハルの占いの店は公園の少し奥まった場所に建っていた。
 ゲーム画面で見るよりも実際はとても立派な石作りで、お洒落な外観だった。
 店舗兼住居なので、二階はハルの家となっている。

 早速ハルの店のドアを開けると、アミュレットやストーンブレスレットなど、アクセサリーがずらっと並んでいて、とてもキラキラした店内が目に飛び込んできた。


「わあ、素敵」


 思わず感嘆の声を挙げてしまうほど、見事な店内だった。


「いらっしゃいませー。あ、クロエ様」


 私の声を聞いて、奥からハルが出てきてくれた。


「こんにちは、アプリコットさん。今日は占いをお願いしに来ましたの」

「本当ですか!? 昨日の今日で来てくださるなんて、嬉しいですね。どうか私のことはハルとお呼びください。堅苦しいのは、少し苦手なのです」

「奇遇ですね、私も堅苦しいのは実は苦手なんです。では、ハル。私のこともクロエとお呼びいただけますか?」

「え!? ですが、流石に侯爵令嬢を呼び捨てにはできません。クロエさんとお呼びしても?」

「私だけハルって呼び捨てなのも、なんか嫌です。では、敬語を辞めてくださるなら、譲歩してクロエさんでもいいけど……。どう?」


 譲らない私を見て、ハルはふふふっと可愛らしく笑い、了承してくれた。


「見た時に思ったけど、頑固な人だなぁ。わかったよ、敬語はやめる。ただ、人前ではやっぱり不敬に当たるから、敬語プラス様にさせてもらうけどいいかな?」

「わかった。それがこの世界のルールなら、仕方ないもんね」

「この世界のルール……?」


 私はしまった!と口元を抑えたけど、既にちょっとハルは察している様子なので、占いをされたらどうせこの世界の人間じゃないってバレそうだし、訂正はしないでおいた。
 占いのブースに案内されると、真っ暗な部屋一面に星座が描かれていた。
 プラネタリウムの機械が中央に設置されていて、そこから投影されているみたい。
 床は透明なガラスで出来ていて、360度すべてに星が輝いているように見える。
 まるで宇宙の中に居るみたいな感覚になる。


「わあ、まるで宇宙そのもの。ハルは本当にセンスがいいね」

「ふふ、まるでクロエさんは宇宙を知っているみたいだね」

「一応ね。自分の目で見たことはないけど」

「では、占いを始めるからそこにある椅子に座ってくれる? 寝そべる感じで……そう」


 ゆったりとしたリラックスチェアに背中を預けると、ハルの占いが始まった。


「クロエさん、あなたは遠いところから来たみたいだね。
 ボクたちの文明より遥かに発達している場所だ。そう、我々の神と同じ次元のよう。
 何か、大切なことを忘れているみたいだね……そのことでとても焦っている。違いますか?」

「ええ~!? すごい! 全部当たってる! そう、私、自分の誕生日が思い出せなくて」

「なるほど。それなら、クロエさんのご両親か仲の良いお友達に聞けば解決すると思うけど……」

「はっ! 確かにそれはそうかも? でも、なんかちょっとおかしいと思われないかな?」

「それなら…………うん、クローゼットの右奥にある箱の中にヒントがあるみたいだね。一度確認してみて」

「ありがとう、そうしてみる! でも、力のある人には私のことなんてお見通しなのが、ちょっと恥ずかしいかも」

「いいえ、クロエさんからは何かとてつもない力を感じていたから、神と同等の力を持っているなんて驚いたよ」

「私にはそんな力はないけど……魔法系の能力はチートだから、似たようなものかもしれないかな?」

「ボクらにはわからないような言葉を使ったりするところも、神って感じ!」

「そ、そう? このことは二人の秘密でお願いしたいんだけど……」

「勿論! クライアントの秘密は絶対守ります! これでもプロだからね」


 まかせて!と胸を張るハル。二人で顔を見合わせて、ふふふっと笑い合う。
 秘密を共有できて、違う意味で心を許せる人ができたことが嬉しく思う。
 占いの部屋から店舗に戻ると、私はプレゼントを渡していないことを思い出した。


「なんだかハルとは気が合うね。あ、そうだ。これを来る途中でハルへのプレゼントにと思って」


 プレゼントを渡すと、ハルは包みを開けて、ただでさえ大きな目を丸くする。


「待って! クロエさん! 何でこれをボクが欲しがってたって知ってるの? 昨日はじめて会ったばかりだよね?」

「え? ええ。商店で見つけて、ハルに似合うなーって。喜んでもらえて良かった!」

「喜ぶなんてもんじゃないよ!! これ、ずっと欲しいと思ってて、でもボクには似合わないかっこいいデザインだからって諦めてたんだ! いいの? 貰っても?」


 か、かわいい。ハルがクロエより年上とは思えないくらいに。


「ええ、ぜひ貰って! そうじゃないと選んだ甲斐がないし。凄くハルに似合うと思うんだけどなあ」

「ありがとう! 早速使わせてもらうね!」


 時間が切り取られたようにフリーズし、キラキラの背景に花が飛んでいる。
 ハルの一枚目のスチルが発動した。
 スチルで切り取られた時間が元に戻ると、今にもジャンプしそうな勢いでハルは家の鍵を新しいキーホルダーに移し替えている。
 本当に欲しかったんだろうなと、母親の気分でそれを見守ってしまった。
 こうして、ハルとの時間は楽しいものになった。
 これはきっと目標の親密度250を軽く超えちゃっているかもしれない!

 家に戻ってワクワクしながらステータスをチェックする。


『ステータスはこちらになります』

--------------------------------
 クロエ・スカーレット(17歳)
      Lv.20

属性:火・地・風・闇

HP(体力)…………… 91
MP(魔力)…………… 5000
ATK(物理攻撃力) … 47
MAT(魔法攻撃力) … 1500
DEF(物理防御力) … 21
MDF(魔法防御力) … 2000
LUK(運の強さ) …… 130

親密度
アメリア(幼馴染)…… 420/500
クロム(婚約者)……… 502/999
ナイル(婚約者の弟)… 448/500
ガイウス(執事|暗殺者) 523/999
ハル(占い師)………… 185/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500

特別スキル
スチル耐性……………… 100
虫の知らせ……………… 30

--------------------------------

「……え?ウエンディさん?ハルの親密度の上がり方、おかしくないですか?」

『ハル・アプリコット様とは、相性が20%です。親密度は上がりにくい設定となっております』

「ええ! ってことは、毎日ハルに合わないと……」

『ハイ。毎日ご機嫌を取っていち早く250を目指してください』

「ひえええ!!!」


 ここにきて、相性のハードルがどーん!と立ちはだかる。
 相性が悪い相手の親密度上げるの本当にシンドイのよ、このゲームは!
 LUKが落ちるのなんて気にしない! もう言っちゃう!!


 やっぱり、このまま引きこもってていいですか?
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