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ゲーム序盤

お屋敷が広すぎて引きこもりたい

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 キラキラリア充オーラに充てられた私が目を覚ますと、クロエの部屋のベッドだった。
 誰が運んでくれたのか、を考えるとまた意識が飛んでしまいそうなので、ウエンディに今が何時なのか聞いてみる。


『ハイ、クロエ様。アナタが気絶してから約十時間が経過しています。日付が変わり、今は深夜の時間帯となります』


 じ、十時間!!?
 今が深夜ということは、まだ朝までは時間があるわけだ。
 二度寝するか、この世界についてのマニュアルをもう一度おさらいするか。
 時間があるとゲームかイラスト描きたくなっちゃうなぁ。
 しかも深夜帯って、ゲームとかイラストが捗る時間なんだよねー!


『クロエ様、どうされますか?』

「あ、ごめんなさい。自分の世界にトリップしてた。LUK運の強さはどれくらい回復した?」

『ハイ、LUKはアメリア様を喜ばせることで5回復しました。ですが、その後引きこもりたいというキーワードが発生しましたので、1マイナスされました。ただいまのLUKは6となります』

「うう、相変わらず低いなあ、LUKステータス。こう、ぐあーっと上げることはできないのかな?」

『方法はありますが、そのためには討伐イベントをクリアするのが良いでしょう。ただし、まだクロエ様はすべての攻略対象と出会っておりません。討伐に行くことは難しいと考えます。また、LUKステータスを上げることで攻略対象とは出会いやすくなります。』

「そうなると、やっぱり最初の目的はLUKのステータスを上げるのが一番いいよね。LUKは攻略対象しか集めることはできないの?」

『いいえ。群衆モブからも少ないですが集めることはできます。大幅に上げたいときは攻略対象からとなります。これはすべてのステータスに言えることです』

「そっか。ゲームでは最速攻略したくて、必要最低限のイベント要員以外は攻略対象としか絡まなかったから、気にしたことが無かったなー。ウエンディ、ありがとう」

『どういたしまして。何なりとお申し付けくださいませ』


 ウエンディはなんだかちょっと誇らしげに見える。機械だから気のせいだと思うけど、何となくね。
 どうしたものかと少し思案して、そういえば攻略対象との好感度があまりにも低かったことを思い出した。
 一番好感度が高いナイルですら280だった。
 ゲームでは好感度が500を超えると恋愛対象として認知されて、好感度の上限が999まで上がるんだけど……念のためウエンディに確認しておくか。


「ウエンディ。私の好感度がものすごく低かったのだけど、どうして? 好感度が500まで行けば恋愛対象になって好感度上限が上がる仕組みで合ってる?」

『ハイ。アナタの好感度が低いのは、引くレベルの嫌がらせを行っているのと、ツンデレのツンが過ぎて男性からも一歩引かれているからです。性格の悪さが反映されています。
 好感度につきましては、500を超えると上限が999まで上がります。いずれかの攻略対象の好感度を500まで上げることが、最初の目標となります』


「なるほど。って、ウエンディ、また性格が悪いって言った!? まあ、私の記憶の中にあるクロエもかなり極悪だもんなぁ。
 それをアメリアが解放していくんだよね~! 友情ストーリーはなかなか見応えがあったもんなぁ」


 ゲームの思い出に浸りながら、思い出したことがある。
 私、黒江茜転生前のとき、最後にクロエのイラストを描きかけだった。
 ひょっとしてそれが私のクロエ転生に影響したのかな?

 クロエはとても勝ち気で自信満々。その自信の根拠になるくらい頭も良く運動も出来て、地位もある。
 なのに人の心が分からず、人と接することに怖がっていた。
 10歳の頃に第二王子のクロムと婚約して新しい権力を手に入れてから、より人を見下す態度を取るようになってしまった。
 人が自分から離れていくことが怖くて、人を支配しようとしていたのよね。
 幼馴染のアメリアは、主人公スキルで天性の人たらしだから、周りの人から愛されている。
 クロエの欲しい物を持っているアメリアを、どうにか陥れたくて意地悪をするという歪んだ心を、アメリアが徐々に癒していく。

 この美しい友情ストーリーがなければ、私はクロエというキャラクターを好きになれなかったかもしれない。
 本編には関係ないサイドストーリーだから、必ずプレイしないといけないわけじゃないけど、どのキャラを攻略する時も必ずクロエを攻略していたのを思い出す。
 アメリアとクロエが仲良くしているほうが、意地悪を繰り返すクロエを見ているよりずっと良いと思っていたから。

 もちろん、仲良くなればゲーム中に妨害されないという利点もあったんだけどね。

 クロエのサイドストーリーを思い出し、創作意欲が沸きあがってきた。
 私はベッドから降りると、机に向かってイラストを描き始める。
 筆記具は羽ペンしかないし、紙の質も悪くて絵を描くには適してなかったけど、気持ちの高ぶりは抑えることができなかった。



 完成したのは、アメリアとクロエが笑顔で笑っているイラスト。
 自分としても下描きなしの割に良く描けたと思う。

 イラストの出来に満足していると、夜が明けてきた。
 朝日が昇るのを見て、私はひとつ案を思いつく。


「ねえ、ウエンディ。もし、私が朝食を作ってふるまったら、お父様やお母様はお喜びになるかな? 少しでもLUKは上がると思う?」

『ハイ、ほんの少しでも上がると思います。ですが、メイドたちからの好感度は下がります』

「そっか、お仕事取ってしまうことになるもんね。じゃあクッキーみたいなお菓子ならどう?」

『それでしたら、問題ないかと思います。小分けにして他の攻略対象にプレゼントしてはどうでしょうか』

「それ良いかも! じゃあ少しキッチン借りちゃおう!」


 その前に、自分の部屋が分からなくなるのを防ぐために、慣れるまでの目印に扉に私だけが気付くような小さな目印をつけた。
 部屋を出る時に、今回は忘れないようウエンディをしっかり携帯してキッチンへ向かう。

 キッチンへ……。

 ……コホン。
 あー、キッチンの場所が分からない。

 クロエの記憶は曖昧すぎて、強烈な記憶以外は思い出せない部分ところが多数ある。
 この時間、そろそろメイドたちが起き出す時間だろうから、一度階下に降りてウロウロしていれば、キッチンを見つけることができるだろうか?

 そんな私の憶測は見事に打ち砕かれる。
 お屋敷をまあまあ彷徨ったけど、キッチンを見つけることができなかった。
 というか、メイドひとりにすら出合わないってどういうこと!?

 無駄に広すぎるんだよ、このお屋敷!!!
 もう、引きこもりたい!!!

『クロエ様。引きこもりたいとお考えになりましたので、LUKが1減少しました』

 うう、朝から散々な目に遭ってしまった。私のLUKは残り5しかないじゃない。

 後で聞いたら、メイドたちの住まう場所は別棟で、キッチンもそちらにあるんだって。
 さすが侯爵家の家は広い。
 彷徨ったおかげで、だいたい本邸の間取りが分かったので、それだけでも収穫と思うことにした。

 また、新しい一日が始まる。今日も憂うts……いえ、良い日にしよう!

 頭の中でちょっと考えただけでもLUKが減るんだっけ。
 危ない、ネガティブワードがすぐに出ちゃうから要注意しなきゃだ。
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