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2)さなの家へ
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2)さなの家へ
組合長が、さなの笑顔に笑顔で答える。
「 今からお母さんのとこに行くところ。 あれ、さなちゃん、まだ学校の時間じゃない、お昼前だよ 」
「 あ、はい、 あの、学校の先生にお母さ… 母から電話があって、海女仕事が入ったから直ぐに帰りなさい、って。 だから急いで帰ってたんです。 だから、さぼってるんじゃなくって… 」
「 あー、大丈夫、大丈夫。 全然うたがってないから。 それに、お仕事、組合から行ってるんだから、私が知らない訳ないでしょう 」
さなは、あっそうか、と言いながら、真っ赤になっている。雄一の地元では、小学生でも高学年になると、こんな幼い反応をする感じの子は見たことが無い。良くも悪くも、もっとスレている。
雄一は、素直に正直に答える少女に好感を持った。おかあさん、と言いかけてから「はは」と言い直す辺りも良いと思う。反対に、組合長の質問は、分かってて聞いているから意地悪だな、と思った。全然悪気は無さそうだけど。
ここから雄一はスクーターを降りて、さなという少女と並んで歩く事になった。組合長は、もっとスピードを落として、歩く人に合わせている。
さなの身長は、雄一と比べるとかなり低かった。176センチの雄一は、男性の平均よりは高い方だが、さなの頭の天辺が真下に見える。30センチ以上は低いと思う。
細い土の道は3人の他には誰もいないので、真ん中に雄一、右側に組合長のスクーター、左を少女が歩いている。
最初は、両側の2人の声が雄一を跳び越えて会話していく。その中で雄一は次の事が分かった。
・海女エリアの小学校だから、海女に関係する行事は学校よりも優先される。小学校は義務教育だから、反対に出席日数の決まりが無くて、進級や卒業にも影響が無い。自分の家族の誰かが海女に関係している児童がほとんどだから、時々こういう事はある。(でも、個人差はある)
・ただ、見習いとは言え、実際に『海女』をしている子どもは、今の学校では、さな1人らしい。普通は中学校を卒業してから始める人がほとんどで、それに、海女の家の女の子が全員海女になる訳ではなく、数は年々減っているそうだ。
・さなは、今は自分の家に海女が1人もいない事を考えて、人よりも早く見習いになって、この海女エリアに住んで良いと自分でも思いたかったそうだ。(組合長は、気にしなくていいのに、とフォローしている)
そして、組合長は、さなに今回の仕事の事を話し始める。
「 さなちゃん、お仕事内容は聞いてる? まだだよね。 えっとね、 このお兄さんは映像の勉強をしているすごい人なんだけど、海女の取材と、お仕事ぶりを撮影したいんだって。 でも、やっぱりお仕事中は撮影って難しいでしょ、カメラの気配で獲物が逃げてもだめだしね。 だから、まだ見習いで練習中のさなにちゃんに、撮影の被写体をやってもらう事になってね。 お兄さんも『見習いでもいい』って言ってくれたし、お母さんも賛成してくれたから。 だから、海女組合の代表として、お兄さんに全面協力してあげてね。 『全面協力』って分かる? とにかく、お兄さんの言う事に組合の代表として全力で応えてほしいという事。 何か分からない事ある? 」
と、いつも組合長の話は勢いがすごい。
さなは、恥ずかしそうに『被写体』の意味を聞いてきたので、雄一が「撮影のモデルさんになる事」と説明すると、
「 えっ、 わたしなんかで、モデルさんなんて出来ますか? もっと美人とか、大人の人じゃないと。 わたしなんて、まだ潜りも下手だし、子どもだし、きちんと被写体、できないと思います。 本当にわたしなんかでいいんですか? 」
と、真面目と心配が混ざった表情で雄一を見上げてくる。
さなの、元々のきれいな顔立ちに、一瞬ちらっと大人の表情が混ざって、少しどきっとする。
でも、雄一はそんな心の動きは見せない様にして、
「 あ、大丈夫だから気にしないで。 ぼくの方も思いっきり撮りたいから、獲物を捕る事よりも、潜ったり泳いだりしているところを思いっきり撮りたいんだ。 確かに、小学生の子どもなのは想定外だけど、きみが… えっと、さなちゃんって呼んだ方がいいのかな… 」
と、ここで話を中断した。
「 え… そうですね… あの、わたしももう『ちゃん』という歳じゃ無いと思いますから… あの、組合長さんは小さい時から、さなちゃんって呼んでるからいいんですが… あの、よかったら『さな』って呼び捨てにして下さい。 大人の人だから、そう言ってくれた方がわたしも安心します 」
さなは、気持ちを上手く言葉には出来なかったけど、自分よりも年上の雄一には呼び捨てにされる方が、一番楽な様であった。
「 うん、分かった分かった。 じゃあ、さな。 さなは小学生で、確かに大人の海女さんよりは劣る部分も多いと思うけど、それ以上に撮影に頑張って協力してくれて、その結果、大人の海女さん以上の映像が取れたらうれしいな 」
すると、組合長もノリ良く、
「 そうそう、さなちゃん。 この島の海女全員の名誉が、さなちゃんのモデル振りにかかってるんだから、お兄さんの言う事をよく聞いて、どんなに大変な内容でも、大人の海女さんでも出来ない様な事でも頑張っちゃいなさい。 頼んだよ 」
と続ける。あまり中身を考えていない話し方にも聞こえるが、ただ「頑張って」と言いたいのだろう。
「 はい、一生懸命に頑張ります。 まだ潜るのも人の半分しかできないけど、頑張ります 」
さなは、少し顔を赤くして返事をした。この意味を聞くと、潜る時間がまだ1分半ぐらいで大人の半分しか出来ないと言う事だった。反対に、雄一にとっては11歳で1分半は、すごいという意味で驚きだったが。
それから、もう少し3人で会話を続けながら進んだ。
雄一の滞在が2週間の予定である事。さなの家に泊めてもらう事。雄一が18歳の専門学校生である事(本当は23歳)。等々。
「 あの、それで、わたしは、その… ゆういち…さんの事を、何とお呼びしたらいいでしょうか? 」
と、さなが聞いてきた。さなの言葉づかいは、かなり丁寧で遠慮しているのか、少女の性格なのかはよく分からないが、海女の世界では上下関係が厳しいのかもしれない、と雄一は思った。ただ、組合長の気さくさを考えると違うのかもしれない。
「 う~ん、どうかなあ… さなは、どう呼びたいのかな? 」
「 それは… むつかしいです… ゆういちさんって言うのは、わたしみたいな子どもが図々しい気がして… でも名字で… でも、何か偉そうで… わたしみたいな子どもが、大人の人を呼ぶのが上手く考えられなくて、むつかしいです… 」
雄一は、本当は23歳だから大人と言えば大人だけど、今は18歳と言っているので大人では無い気もするが、11歳の小学生の少女から見れば、それでも大人に感じるのかもしれない。
すると、横で聞いていた組合長が、また、何か楽しそうな表情で、
「 さなちゃんは『被写体』として撮影されるモデルで、雄一くんは映像を記録するカメラマンだから、『先生』はどう? モデルさんってカメラマンの事を先生って呼ぶでしょ。 さなちゃんはどうかな? 呼びやすくない? 」
「 あ、それ、いいです。 先生なら言いやすいです。 ゆう… せんせいが嫌じゃないなら… ですが… 」
雄一の本音は、半人前の自分が『先生』とは照れ臭い呼ばれ方だと思ったけれど、小さい頃、大人になったら先生になりたいと思った事もあったので、正直、呼ばれてみたい。
なので、
「 じゃあ、さな。 ぼくの事は『先生』で。 組合長さんは雄一くんでお願いします 」
組合長が、楽しそうに笑う。
雄一は、楽しい空気のまま、何気なしに小学校の制服の事を聞いてみる。
「 そう言えば、その、さなの制服、似合ってるね。 ぼくの方では小学生の制服って見ないけど、ここでは当たり前なの? 」
「 え…っと、 制服というか、 これは絶対の服とかじゃなくて… (組合長の顔を見て教えてもらってから) 標準服という服装で、着たい人が着てもいい制服なんです。 私服でもいいんですが、でも、みんなこれを着てます 」
上は白い半袖のカッターシャツの襟元が開いているタイプで、下は紺色のプリーツスカート、白のソックスに白い運動靴。とても基本的な作りで、最近の中学や高校の制服と比べても、こちらの『標準服』の方が制服っぽい。
さなの、薄っすらと日焼けした肌に、白いカッターシャツが眩しい。半袖からすらりと伸びる腕は、細さと弾力を同時に感じる。
スカートの丈は、ちょうど太腿の真ん中あたりで、一般的な中学の制服よりも短い。さなの太腿から膝、ふくらはぎを通して靴下に続くラインも、腕と同じく、細いのに弾力を感じさせながら伸びている。
雄一は、素直な感想として、
「 さなは手足のラインがきれいだね 」
と話しかけたが、さなは、自分ではそうは思っていないようだった。
「 わたし、本当は脚が自信なくて、短いスカート、すごく恥ずかしいんです。 学校でみんな一緒だとまだ我慢できるんですが、さっきから先生の前で脚を出しているのが恥ずかしくって。 こんなこと言ってすみません 」
言われて気が付いたのは、さながスカートの裾を下に引っ張っている事だった。今、始めたのではなく、ずっと前からしていた気がする。少し前屈みに歩いていた事にも思い当たる。それもスカートのせいだったのかもしれない。
良い脚なんだけどなあ… 海女の衣装で隠れないといいんだけど… どんな衣装なのかなあ…
雄一は、「短いスカート恥ずかしい、脚が自信が無い」の話を聞いて、あらためて衣装の事が気になった。
このきれいな脚を意識してしまうと、とても心配だ。
こんな事を考えていると、さなが、
「 あっ、 あそこが家(うち)です。 遠くてすみませんでした 」
と、先を指差した。
行き先に木造の家が見える。平屋(一階建て)の様だ。最近、平屋の家屋を見る機会が少ないので、雄一にとっては家も貴重な『被写体』に思えた。
それにしても、スクーターと徒歩で、ゆっくりだったとは言え、菱形金網のフェンスから海女エリアに入って30分は過ぎている。
海女エリアの小学校や商店などがある中心街が、エリア入り口から反対の方向だというので、さなの通学はかなり大変な事が想像できる。毎日、かなりの距離を歩かされているようだ。さなの家と、もう1軒は、海女エリアの中でも本当に不便な場所に住まわされている事を感じた。
さなの家が近づくにつれ、少しずつ視界の中で大きくなってくる。
木造平屋建て。少し古そうだが、みすぼらしくは無い。何となく昭和を感じる造りだ。
正面の壁の真ん中に、横に引く『引き戸』が付いている。
まず、組合長が、呼び鈴も押さずに、いきなり戸を横に引いた。
がらがらがらがら…
少し重い音をさせながら入り口が開く。懐かしい… と言うよりも、雄一には見た事の無い風景だ。
「 ゆうこさ~ん、いる~ こんにちは! 電話した件、連れて来たよ! そこでさなちゃんも一緒になったから 」
雄一は、鍵も開いているのにびっくりしたが、組合長の動きを見ると、これはいつも通りの当たり前の事らしい。
中に入ると、そこは土間だった。幅は2メートルくらい。その向こうに高さ50センチぐらいの畳の間が拡がっている。
横を見ると、土間に流しと台所がある。何だか時代劇に出てくる家みたいだ。
「 は~い! 」
3人が中に入るのと、返事が返ってくるのとが同時だった。
部屋の向こう側の扉から1人の女性が入ってきた。
にこにこした丸顔。黒髪。
ムームーと言うハワイのワンピースに似た青い服を着ている。ノースリーブで襟ぐりが広く開いていて、ウェストで軽くくびれたスカートが、ゆったりした襞を流しながらふくらはぎの半分くらいまでを隠している。
足元は裸足だった。
この時、雄一は、この島の暖かさと同時に、ゆうこという母親の自由さも感じとっていた。
「 組合長さん、こんにちは。いつもさながお世話になっています。 さな、お帰り~。 ああ、あなたが雄一くんね。いらっしゃい。今日からよろしくね。自分のうちだと思ってくつろいでね 」
雄一も、よろしくお願いします。お世話になります。と返事をしたが、ゆうこというおばさんの雰囲気に圧倒されていた。
土間よりも50センチも高い畳の上に居るからはっきりとは分からないが、身長はかなり低そうだった。それでも、存在感がすごい。決して圧迫感とかは出していないし、やさしい感じなのに、それでも圧倒されてしまう。
体型は、ムームーで腕以外はほとんど隠れているが、それでも、ぽっちゃり体型なのがはっきりと分かる。その割には、半分見えているふくらはぎは太くはないし、裸足の足も小さくて細めだ。
それとは反対に、ムームーの胸の辺りが大きく盛り上がっている。全身がぽっちゃりなのか、この胸の盛り上がりがぽっちゃりに見せているのか、そこはよく分からない。
そして、顔は、47歳と聞いていたけれど、37歳の間違いでは?と思えるくらい若く見えた。
丸顔でにこにこしているところは、さなと似ているが、血のつながりは無いから顔立ちは全く違う。
さな、がかわいい美少女系と言うなら、この継母はかわいらしいアラフォーおばさん、という感じで、雄一が普段セックスの相手をしている30代半ばのおばさんと比べても、ほとんど年齢差を感じさせない。
むしろ、顔のレベルはこちらのゆうこの方が高そうだし、胸の破壊力は圧倒的に勝っている。
雄一は、少し下半身が充血しかけているのを感じたが、慌てて静めようとして、今回の目的は映像制作、映像制作、と心で繰り返していた。
ゆうこおばさんを見た一瞬に、雄一の心の中はこんなに煩悩が膨らんでいた。
一方、そんな風に見られているとは知らない、ゆうこの方は、さなに、家に呼び寄せた事について話し始めたので、組合長が「もう言ったよ」と説明している。
「 じゃあ、さな、 早速、雄一くんと一緒に漁場に行っといで。 もうお昼だけど、食べたらしばらく潜れないだろう… あ、雄一くん、さなはね、空腹じゃないと気持ち悪くなっちゃうの。 雄一くんは何か食べてく? 」
「 え、いや、ぼくだけ悪いですよ。 さなを待たせちゃうし… あっ、すみません、ぼくもさなの事、さな、って呼ぶ事にしてるので、呼び捨てですみません 」
「 呼び捨てでいいのいいの。 その方が距離が近いよね。 食事も大丈夫。 さなは今から着替えてくるから。 さな、裏で着替える? 」
すると、さなは、はい、と言って、部屋の隅にある包みを持って、さっき、ゆうこおばさんが入ってきた扉から出て行った。
ゆうこおばさんの説明が続く。
「 この家、ここ一部屋なの。12畳だけど。 裏にお風呂があるから、そこの脱衣所で着替えてくるって。 いつもはここなんだけど、今日は雄一くん居るから、もちろん恥ずかしいからね。 まだ子どもだけど、そろそろ恥ずかしい年頃だしね 」
雄一も、もちろん、11歳の女の子が男の前で着替えるのが恥ずかしい事は当たり前だと分かっている。
それよりも、雄一は、さながどんな服を着てくるのかが気になっていた。やっぱり、あの脚がでている事がすごく重要な気がしたし、それでもまだ、全く見当もつかないのだ。
ふと、先ほど、組合の事務所の壁に貼ってあった写真が頭に浮かんだ。
海女の写真もいくつかあって、ウェットスーツは無いけれど、観光海女の白いシャツと白いショートパンツ姿の物や、下が白いパレオみたいな巻きスカートの物とか、昔の白黒写真では下半身は男の海パンの様な物をはいて上はトップレスの物もあった。
まだ、ここにいる組合長に昔の写真の事を聞くと、本来、一番泳ぎやすいのは裸であり、だから、昔の大きな戦争の頃までは男の水泳のスタイルと同じ様にしていた時期もあったとの事。
明治や江戸と言われる頃には男と同じくふんどしをしていた時代もあったそうだ。
でも、今は、全国100%、ウェットスーツになっているから、やっぱり、さなちゃんの衣装が何なのかは組合長も分からない、との事であった。
それを聞いて、雄一は益々分からなくなっていった。でも、「とにかく、ウェットスーツ以外で、脚さえ出てれば何でもいいや。脚、頼みます!」と心で神頼みをしていた。
その内、ご飯とみそ汁と漬物だけの軽食が出てきて、雄一は組合長とゆうこおばさんと3人で食べ始めた。
みそ汁が美味しいのは感じたけれど、やはり衣装が心配で味が全然分からなかった。
組合長が、さなの笑顔に笑顔で答える。
「 今からお母さんのとこに行くところ。 あれ、さなちゃん、まだ学校の時間じゃない、お昼前だよ 」
「 あ、はい、 あの、学校の先生にお母さ… 母から電話があって、海女仕事が入ったから直ぐに帰りなさい、って。 だから急いで帰ってたんです。 だから、さぼってるんじゃなくって… 」
「 あー、大丈夫、大丈夫。 全然うたがってないから。 それに、お仕事、組合から行ってるんだから、私が知らない訳ないでしょう 」
さなは、あっそうか、と言いながら、真っ赤になっている。雄一の地元では、小学生でも高学年になると、こんな幼い反応をする感じの子は見たことが無い。良くも悪くも、もっとスレている。
雄一は、素直に正直に答える少女に好感を持った。おかあさん、と言いかけてから「はは」と言い直す辺りも良いと思う。反対に、組合長の質問は、分かってて聞いているから意地悪だな、と思った。全然悪気は無さそうだけど。
ここから雄一はスクーターを降りて、さなという少女と並んで歩く事になった。組合長は、もっとスピードを落として、歩く人に合わせている。
さなの身長は、雄一と比べるとかなり低かった。176センチの雄一は、男性の平均よりは高い方だが、さなの頭の天辺が真下に見える。30センチ以上は低いと思う。
細い土の道は3人の他には誰もいないので、真ん中に雄一、右側に組合長のスクーター、左を少女が歩いている。
最初は、両側の2人の声が雄一を跳び越えて会話していく。その中で雄一は次の事が分かった。
・海女エリアの小学校だから、海女に関係する行事は学校よりも優先される。小学校は義務教育だから、反対に出席日数の決まりが無くて、進級や卒業にも影響が無い。自分の家族の誰かが海女に関係している児童がほとんどだから、時々こういう事はある。(でも、個人差はある)
・ただ、見習いとは言え、実際に『海女』をしている子どもは、今の学校では、さな1人らしい。普通は中学校を卒業してから始める人がほとんどで、それに、海女の家の女の子が全員海女になる訳ではなく、数は年々減っているそうだ。
・さなは、今は自分の家に海女が1人もいない事を考えて、人よりも早く見習いになって、この海女エリアに住んで良いと自分でも思いたかったそうだ。(組合長は、気にしなくていいのに、とフォローしている)
そして、組合長は、さなに今回の仕事の事を話し始める。
「 さなちゃん、お仕事内容は聞いてる? まだだよね。 えっとね、 このお兄さんは映像の勉強をしているすごい人なんだけど、海女の取材と、お仕事ぶりを撮影したいんだって。 でも、やっぱりお仕事中は撮影って難しいでしょ、カメラの気配で獲物が逃げてもだめだしね。 だから、まだ見習いで練習中のさなにちゃんに、撮影の被写体をやってもらう事になってね。 お兄さんも『見習いでもいい』って言ってくれたし、お母さんも賛成してくれたから。 だから、海女組合の代表として、お兄さんに全面協力してあげてね。 『全面協力』って分かる? とにかく、お兄さんの言う事に組合の代表として全力で応えてほしいという事。 何か分からない事ある? 」
と、いつも組合長の話は勢いがすごい。
さなは、恥ずかしそうに『被写体』の意味を聞いてきたので、雄一が「撮影のモデルさんになる事」と説明すると、
「 えっ、 わたしなんかで、モデルさんなんて出来ますか? もっと美人とか、大人の人じゃないと。 わたしなんて、まだ潜りも下手だし、子どもだし、きちんと被写体、できないと思います。 本当にわたしなんかでいいんですか? 」
と、真面目と心配が混ざった表情で雄一を見上げてくる。
さなの、元々のきれいな顔立ちに、一瞬ちらっと大人の表情が混ざって、少しどきっとする。
でも、雄一はそんな心の動きは見せない様にして、
「 あ、大丈夫だから気にしないで。 ぼくの方も思いっきり撮りたいから、獲物を捕る事よりも、潜ったり泳いだりしているところを思いっきり撮りたいんだ。 確かに、小学生の子どもなのは想定外だけど、きみが… えっと、さなちゃんって呼んだ方がいいのかな… 」
と、ここで話を中断した。
「 え… そうですね… あの、わたしももう『ちゃん』という歳じゃ無いと思いますから… あの、組合長さんは小さい時から、さなちゃんって呼んでるからいいんですが… あの、よかったら『さな』って呼び捨てにして下さい。 大人の人だから、そう言ってくれた方がわたしも安心します 」
さなは、気持ちを上手く言葉には出来なかったけど、自分よりも年上の雄一には呼び捨てにされる方が、一番楽な様であった。
「 うん、分かった分かった。 じゃあ、さな。 さなは小学生で、確かに大人の海女さんよりは劣る部分も多いと思うけど、それ以上に撮影に頑張って協力してくれて、その結果、大人の海女さん以上の映像が取れたらうれしいな 」
すると、組合長もノリ良く、
「 そうそう、さなちゃん。 この島の海女全員の名誉が、さなちゃんのモデル振りにかかってるんだから、お兄さんの言う事をよく聞いて、どんなに大変な内容でも、大人の海女さんでも出来ない様な事でも頑張っちゃいなさい。 頼んだよ 」
と続ける。あまり中身を考えていない話し方にも聞こえるが、ただ「頑張って」と言いたいのだろう。
「 はい、一生懸命に頑張ります。 まだ潜るのも人の半分しかできないけど、頑張ります 」
さなは、少し顔を赤くして返事をした。この意味を聞くと、潜る時間がまだ1分半ぐらいで大人の半分しか出来ないと言う事だった。反対に、雄一にとっては11歳で1分半は、すごいという意味で驚きだったが。
それから、もう少し3人で会話を続けながら進んだ。
雄一の滞在が2週間の予定である事。さなの家に泊めてもらう事。雄一が18歳の専門学校生である事(本当は23歳)。等々。
「 あの、それで、わたしは、その… ゆういち…さんの事を、何とお呼びしたらいいでしょうか? 」
と、さなが聞いてきた。さなの言葉づかいは、かなり丁寧で遠慮しているのか、少女の性格なのかはよく分からないが、海女の世界では上下関係が厳しいのかもしれない、と雄一は思った。ただ、組合長の気さくさを考えると違うのかもしれない。
「 う~ん、どうかなあ… さなは、どう呼びたいのかな? 」
「 それは… むつかしいです… ゆういちさんって言うのは、わたしみたいな子どもが図々しい気がして… でも名字で… でも、何か偉そうで… わたしみたいな子どもが、大人の人を呼ぶのが上手く考えられなくて、むつかしいです… 」
雄一は、本当は23歳だから大人と言えば大人だけど、今は18歳と言っているので大人では無い気もするが、11歳の小学生の少女から見れば、それでも大人に感じるのかもしれない。
すると、横で聞いていた組合長が、また、何か楽しそうな表情で、
「 さなちゃんは『被写体』として撮影されるモデルで、雄一くんは映像を記録するカメラマンだから、『先生』はどう? モデルさんってカメラマンの事を先生って呼ぶでしょ。 さなちゃんはどうかな? 呼びやすくない? 」
「 あ、それ、いいです。 先生なら言いやすいです。 ゆう… せんせいが嫌じゃないなら… ですが… 」
雄一の本音は、半人前の自分が『先生』とは照れ臭い呼ばれ方だと思ったけれど、小さい頃、大人になったら先生になりたいと思った事もあったので、正直、呼ばれてみたい。
なので、
「 じゃあ、さな。 ぼくの事は『先生』で。 組合長さんは雄一くんでお願いします 」
組合長が、楽しそうに笑う。
雄一は、楽しい空気のまま、何気なしに小学校の制服の事を聞いてみる。
「 そう言えば、その、さなの制服、似合ってるね。 ぼくの方では小学生の制服って見ないけど、ここでは当たり前なの? 」
「 え…っと、 制服というか、 これは絶対の服とかじゃなくて… (組合長の顔を見て教えてもらってから) 標準服という服装で、着たい人が着てもいい制服なんです。 私服でもいいんですが、でも、みんなこれを着てます 」
上は白い半袖のカッターシャツの襟元が開いているタイプで、下は紺色のプリーツスカート、白のソックスに白い運動靴。とても基本的な作りで、最近の中学や高校の制服と比べても、こちらの『標準服』の方が制服っぽい。
さなの、薄っすらと日焼けした肌に、白いカッターシャツが眩しい。半袖からすらりと伸びる腕は、細さと弾力を同時に感じる。
スカートの丈は、ちょうど太腿の真ん中あたりで、一般的な中学の制服よりも短い。さなの太腿から膝、ふくらはぎを通して靴下に続くラインも、腕と同じく、細いのに弾力を感じさせながら伸びている。
雄一は、素直な感想として、
「 さなは手足のラインがきれいだね 」
と話しかけたが、さなは、自分ではそうは思っていないようだった。
「 わたし、本当は脚が自信なくて、短いスカート、すごく恥ずかしいんです。 学校でみんな一緒だとまだ我慢できるんですが、さっきから先生の前で脚を出しているのが恥ずかしくって。 こんなこと言ってすみません 」
言われて気が付いたのは、さながスカートの裾を下に引っ張っている事だった。今、始めたのではなく、ずっと前からしていた気がする。少し前屈みに歩いていた事にも思い当たる。それもスカートのせいだったのかもしれない。
良い脚なんだけどなあ… 海女の衣装で隠れないといいんだけど… どんな衣装なのかなあ…
雄一は、「短いスカート恥ずかしい、脚が自信が無い」の話を聞いて、あらためて衣装の事が気になった。
このきれいな脚を意識してしまうと、とても心配だ。
こんな事を考えていると、さなが、
「 あっ、 あそこが家(うち)です。 遠くてすみませんでした 」
と、先を指差した。
行き先に木造の家が見える。平屋(一階建て)の様だ。最近、平屋の家屋を見る機会が少ないので、雄一にとっては家も貴重な『被写体』に思えた。
それにしても、スクーターと徒歩で、ゆっくりだったとは言え、菱形金網のフェンスから海女エリアに入って30分は過ぎている。
海女エリアの小学校や商店などがある中心街が、エリア入り口から反対の方向だというので、さなの通学はかなり大変な事が想像できる。毎日、かなりの距離を歩かされているようだ。さなの家と、もう1軒は、海女エリアの中でも本当に不便な場所に住まわされている事を感じた。
さなの家が近づくにつれ、少しずつ視界の中で大きくなってくる。
木造平屋建て。少し古そうだが、みすぼらしくは無い。何となく昭和を感じる造りだ。
正面の壁の真ん中に、横に引く『引き戸』が付いている。
まず、組合長が、呼び鈴も押さずに、いきなり戸を横に引いた。
がらがらがらがら…
少し重い音をさせながら入り口が開く。懐かしい… と言うよりも、雄一には見た事の無い風景だ。
「 ゆうこさ~ん、いる~ こんにちは! 電話した件、連れて来たよ! そこでさなちゃんも一緒になったから 」
雄一は、鍵も開いているのにびっくりしたが、組合長の動きを見ると、これはいつも通りの当たり前の事らしい。
中に入ると、そこは土間だった。幅は2メートルくらい。その向こうに高さ50センチぐらいの畳の間が拡がっている。
横を見ると、土間に流しと台所がある。何だか時代劇に出てくる家みたいだ。
「 は~い! 」
3人が中に入るのと、返事が返ってくるのとが同時だった。
部屋の向こう側の扉から1人の女性が入ってきた。
にこにこした丸顔。黒髪。
ムームーと言うハワイのワンピースに似た青い服を着ている。ノースリーブで襟ぐりが広く開いていて、ウェストで軽くくびれたスカートが、ゆったりした襞を流しながらふくらはぎの半分くらいまでを隠している。
足元は裸足だった。
この時、雄一は、この島の暖かさと同時に、ゆうこという母親の自由さも感じとっていた。
「 組合長さん、こんにちは。いつもさながお世話になっています。 さな、お帰り~。 ああ、あなたが雄一くんね。いらっしゃい。今日からよろしくね。自分のうちだと思ってくつろいでね 」
雄一も、よろしくお願いします。お世話になります。と返事をしたが、ゆうこというおばさんの雰囲気に圧倒されていた。
土間よりも50センチも高い畳の上に居るからはっきりとは分からないが、身長はかなり低そうだった。それでも、存在感がすごい。決して圧迫感とかは出していないし、やさしい感じなのに、それでも圧倒されてしまう。
体型は、ムームーで腕以外はほとんど隠れているが、それでも、ぽっちゃり体型なのがはっきりと分かる。その割には、半分見えているふくらはぎは太くはないし、裸足の足も小さくて細めだ。
それとは反対に、ムームーの胸の辺りが大きく盛り上がっている。全身がぽっちゃりなのか、この胸の盛り上がりがぽっちゃりに見せているのか、そこはよく分からない。
そして、顔は、47歳と聞いていたけれど、37歳の間違いでは?と思えるくらい若く見えた。
丸顔でにこにこしているところは、さなと似ているが、血のつながりは無いから顔立ちは全く違う。
さな、がかわいい美少女系と言うなら、この継母はかわいらしいアラフォーおばさん、という感じで、雄一が普段セックスの相手をしている30代半ばのおばさんと比べても、ほとんど年齢差を感じさせない。
むしろ、顔のレベルはこちらのゆうこの方が高そうだし、胸の破壊力は圧倒的に勝っている。
雄一は、少し下半身が充血しかけているのを感じたが、慌てて静めようとして、今回の目的は映像制作、映像制作、と心で繰り返していた。
ゆうこおばさんを見た一瞬に、雄一の心の中はこんなに煩悩が膨らんでいた。
一方、そんな風に見られているとは知らない、ゆうこの方は、さなに、家に呼び寄せた事について話し始めたので、組合長が「もう言ったよ」と説明している。
「 じゃあ、さな、 早速、雄一くんと一緒に漁場に行っといで。 もうお昼だけど、食べたらしばらく潜れないだろう… あ、雄一くん、さなはね、空腹じゃないと気持ち悪くなっちゃうの。 雄一くんは何か食べてく? 」
「 え、いや、ぼくだけ悪いですよ。 さなを待たせちゃうし… あっ、すみません、ぼくもさなの事、さな、って呼ぶ事にしてるので、呼び捨てですみません 」
「 呼び捨てでいいのいいの。 その方が距離が近いよね。 食事も大丈夫。 さなは今から着替えてくるから。 さな、裏で着替える? 」
すると、さなは、はい、と言って、部屋の隅にある包みを持って、さっき、ゆうこおばさんが入ってきた扉から出て行った。
ゆうこおばさんの説明が続く。
「 この家、ここ一部屋なの。12畳だけど。 裏にお風呂があるから、そこの脱衣所で着替えてくるって。 いつもはここなんだけど、今日は雄一くん居るから、もちろん恥ずかしいからね。 まだ子どもだけど、そろそろ恥ずかしい年頃だしね 」
雄一も、もちろん、11歳の女の子が男の前で着替えるのが恥ずかしい事は当たり前だと分かっている。
それよりも、雄一は、さながどんな服を着てくるのかが気になっていた。やっぱり、あの脚がでている事がすごく重要な気がしたし、それでもまだ、全く見当もつかないのだ。
ふと、先ほど、組合の事務所の壁に貼ってあった写真が頭に浮かんだ。
海女の写真もいくつかあって、ウェットスーツは無いけれど、観光海女の白いシャツと白いショートパンツ姿の物や、下が白いパレオみたいな巻きスカートの物とか、昔の白黒写真では下半身は男の海パンの様な物をはいて上はトップレスの物もあった。
まだ、ここにいる組合長に昔の写真の事を聞くと、本来、一番泳ぎやすいのは裸であり、だから、昔の大きな戦争の頃までは男の水泳のスタイルと同じ様にしていた時期もあったとの事。
明治や江戸と言われる頃には男と同じくふんどしをしていた時代もあったそうだ。
でも、今は、全国100%、ウェットスーツになっているから、やっぱり、さなちゃんの衣装が何なのかは組合長も分からない、との事であった。
それを聞いて、雄一は益々分からなくなっていった。でも、「とにかく、ウェットスーツ以外で、脚さえ出てれば何でもいいや。脚、頼みます!」と心で神頼みをしていた。
その内、ご飯とみそ汁と漬物だけの軽食が出てきて、雄一は組合長とゆうこおばさんと3人で食べ始めた。
みそ汁が美味しいのは感じたけれど、やはり衣装が心配で味が全然分からなかった。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
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