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陛下の問いかけ
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久しぶりの再会を果たすとリディア姫は私を見た途端、嬉しそうに顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「ユミル!やっと来てくれたのね!」
リディア姫の小さな手が私の身体を強く引き寄せると私は目線を合わせる為に膝を折ってしゃがみ込み、彼女の温もりを受け入れるように体を密着させた。リディア姫は私から体を少し離すと潤んだ瞳でじっと見つめ返してきた。
「リディア姫、会いに来れなくて申し訳ございません」
「いいよ!仕方の無いことだもの!」
謝ると彼女はにっこりと微笑み、優しく首を横に振ってくれた。
その言葉に私は少し安心し、胸の中の重荷が軽くなるのを感じた。寂しい想いをさせてしまったことへの申し訳なさが消えることはなかったがリディア姫はその全てを受け入れてくれるようだった。
彼女は再び私に抱きついてきた。私もその温かな抱擁に応えるように背中に手を回した。しばらくそのままでいるとリディア姫は私の首に目を留めた。
「赤くなってる?」
「大丈夫です!これは病気では無いんで!」
彼女の問いに私は少し驚きながらも即座に答えた。私は首元を隠せる服を選んだが結局リディア姫の鋭い目には勝てなかった。
あれから毎日のようにヴィクトル様に抱かれていた。ヴィクトル様が「そんなに強く吸った覚えは無い」と言っていたものの、実際にはかなり強めに吸われていたようだ。貞操帯にこの首元の痣、私という所有物への束縛がますます強くなっているように感じていた。
リディア姫は首をかしげ、不思議そうな表情を浮かべる。その仕草に少し罪悪感を覚えた。私はその罪悪感を隠すようににっこりと微笑みを浮かべ、リディア姫の手を取ってぎゅっと握りしめた。
「そうですね。今日は部屋の中で遊びましょうか」
その言葉と共にリディア姫の手を引きながら、彼女の部屋へと足を踏み入れる。今日という日はリディア姫と楽しい時間を過ごすことに決めた。
◆
リディア姫の部屋の一角には豪華なテーブルがしつらえられており、その上には色とりどりの果物や美しいガラスのグラスが並んでいた。リディア姫がにこやかに手を振り、テーブルの端に置かれた一瓶を指差す。
「ユミル!このベリーの紅茶ね。すごく美味しいんだから、たくさん飲んでね!」
リディア姫が勧めると私は目の前に置かれたガラスのカップを見つめた。その中には濃い紅色の液体が注がれており、ほんのり甘い香りが漂っている。それはただのベリーティーではないことが一目で分かる。色も香りも、どこか特別なものを感じさせていた。
「これは……」
「特別なベリーを使っているんだって!とても珍しいものだってお兄様が!」
その言葉に私はさらに興味をそそられ、ゆっくりと一口、口に含んだ。すると口に広がる甘さと酸味が絶妙に絡み合い、その豊かな風味が喉を通る度に身体の中から温まっていくような感じがする。
「すごく美味しい……こんなに香り高い紅茶は初めてです」
私は感嘆の声を漏らし、リディア姫に微笑んだ。彼女も嬉しそうに顔を輝かせる。
「でしょ?だから、いっぱい飲んでね。体に良いし、きっともっと元気が出るわよ」
その言葉に背中を押されるように私はもう一口、そしてまた一口とカップの中身を飲み進めていった。
カップを手にしながら、ふと思った。リディア姫がこんなに気を使ってくれるのは私の元気のなさに気づいてくれたからだろう。
最初はあまり表情に出さないようにしていたけれど、リディア姫はすぐにその微妙な変化に気づき、私を気遣ってくれる。
紅茶の甘美な味わいが広がるたびにその温かさだけでなく、彼女の心遣いがじんわりと心に染み渡ってくるようだった。
普段は誰かに頼ることができない私だけれど、リディア姫の優しさに包まれると自然と心が落ち着き、力が湧いてくるような気がした。
「ユミルリア様、陛下がお呼びです」
不意にドアが開く音がして、私はその音に反応してそちらを振り向いた。入ってきたのは私を呼びに来た使用人だった。
心臓が跳ね上がるのを感じた。陛下、つまりシオン様が私を?突然の呼び出しに驚き、私は思わず立ち上がりそうになる。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、リディア姫の方を見た。彼女は私をじっと見つめており、その瞳には不安と心配が漂っている。
「申し訳ありません、リディア姫。話が終わり次第、すぐに戻ってきます」
「うん……早く戻ってきてね?」
小さく頷くリディア姫にまた申し訳なくなった。しばし葛藤が渦巻くが、急いで身支度を整え、部屋を後にした。
◆
執務室に案内されるとそこには一人で座っているシオン様がいた。私が足を進めると彼は静かに私を見つめている。私が前に進み出ると静かな室内にわずかな緊張が漂う。
「遅くなり申し訳ございません」
「あぁ……少し話があるんだが……」
シオン様の言葉に少し戸惑いながらも、私はその言葉を待っていた。次の瞬間、彼は突然立ち上がり、私の目の前に来ると肩を掴み、強引に自分の方を向かる。いつになく真剣な表情を浮かべているシオン様の顔に私は少し驚きと不安を感じた。
「ヴィクトルに酷い扱いを受けているのは本当なのか?」
シオン様がどうしてそのことを知っているのか、全く見当がつかない。もしかして、リディア姫が話したのだろうか?様々な思考が駆け巡るが私の口からは何も出なかったが、沈黙が続く中、シオン様は続けて言葉を吐いた。
「リディアが言っていたんだ。ユミルが部屋に閉じ込められているのではないかと……それで調べて、ヴィクトルの屋敷の使用人を問い詰めたら、全部吐いた。あいつ、ユミルに……あんな……」
隠していたことがついに明るみに出てしまった。必死に隠してきた事実を今ここで告げなければならないのだろうか。
「誤解です。ヴィクトル様は厳しいところもありますが……心配性なだけで……」
声が震え、言葉が不自然に途切れた。ここで正直に話してしまったら私は間違いなく離縁されてしまう。しかし、心の中でふと思う。
もし離縁してしまえば、私はもっと楽になれるのではないか?これ以上苦しむ必要がなくなるのかもしれない。ヴィクトル様もきっと私と離れて自由になれるのだから。
「ユミル!やっと来てくれたのね!」
リディア姫の小さな手が私の身体を強く引き寄せると私は目線を合わせる為に膝を折ってしゃがみ込み、彼女の温もりを受け入れるように体を密着させた。リディア姫は私から体を少し離すと潤んだ瞳でじっと見つめ返してきた。
「リディア姫、会いに来れなくて申し訳ございません」
「いいよ!仕方の無いことだもの!」
謝ると彼女はにっこりと微笑み、優しく首を横に振ってくれた。
その言葉に私は少し安心し、胸の中の重荷が軽くなるのを感じた。寂しい想いをさせてしまったことへの申し訳なさが消えることはなかったがリディア姫はその全てを受け入れてくれるようだった。
彼女は再び私に抱きついてきた。私もその温かな抱擁に応えるように背中に手を回した。しばらくそのままでいるとリディア姫は私の首に目を留めた。
「赤くなってる?」
「大丈夫です!これは病気では無いんで!」
彼女の問いに私は少し驚きながらも即座に答えた。私は首元を隠せる服を選んだが結局リディア姫の鋭い目には勝てなかった。
あれから毎日のようにヴィクトル様に抱かれていた。ヴィクトル様が「そんなに強く吸った覚えは無い」と言っていたものの、実際にはかなり強めに吸われていたようだ。貞操帯にこの首元の痣、私という所有物への束縛がますます強くなっているように感じていた。
リディア姫は首をかしげ、不思議そうな表情を浮かべる。その仕草に少し罪悪感を覚えた。私はその罪悪感を隠すようににっこりと微笑みを浮かべ、リディア姫の手を取ってぎゅっと握りしめた。
「そうですね。今日は部屋の中で遊びましょうか」
その言葉と共にリディア姫の手を引きながら、彼女の部屋へと足を踏み入れる。今日という日はリディア姫と楽しい時間を過ごすことに決めた。
◆
リディア姫の部屋の一角には豪華なテーブルがしつらえられており、その上には色とりどりの果物や美しいガラスのグラスが並んでいた。リディア姫がにこやかに手を振り、テーブルの端に置かれた一瓶を指差す。
「ユミル!このベリーの紅茶ね。すごく美味しいんだから、たくさん飲んでね!」
リディア姫が勧めると私は目の前に置かれたガラスのカップを見つめた。その中には濃い紅色の液体が注がれており、ほんのり甘い香りが漂っている。それはただのベリーティーではないことが一目で分かる。色も香りも、どこか特別なものを感じさせていた。
「これは……」
「特別なベリーを使っているんだって!とても珍しいものだってお兄様が!」
その言葉に私はさらに興味をそそられ、ゆっくりと一口、口に含んだ。すると口に広がる甘さと酸味が絶妙に絡み合い、その豊かな風味が喉を通る度に身体の中から温まっていくような感じがする。
「すごく美味しい……こんなに香り高い紅茶は初めてです」
私は感嘆の声を漏らし、リディア姫に微笑んだ。彼女も嬉しそうに顔を輝かせる。
「でしょ?だから、いっぱい飲んでね。体に良いし、きっともっと元気が出るわよ」
その言葉に背中を押されるように私はもう一口、そしてまた一口とカップの中身を飲み進めていった。
カップを手にしながら、ふと思った。リディア姫がこんなに気を使ってくれるのは私の元気のなさに気づいてくれたからだろう。
最初はあまり表情に出さないようにしていたけれど、リディア姫はすぐにその微妙な変化に気づき、私を気遣ってくれる。
紅茶の甘美な味わいが広がるたびにその温かさだけでなく、彼女の心遣いがじんわりと心に染み渡ってくるようだった。
普段は誰かに頼ることができない私だけれど、リディア姫の優しさに包まれると自然と心が落ち着き、力が湧いてくるような気がした。
「ユミルリア様、陛下がお呼びです」
不意にドアが開く音がして、私はその音に反応してそちらを振り向いた。入ってきたのは私を呼びに来た使用人だった。
心臓が跳ね上がるのを感じた。陛下、つまりシオン様が私を?突然の呼び出しに驚き、私は思わず立ち上がりそうになる。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、リディア姫の方を見た。彼女は私をじっと見つめており、その瞳には不安と心配が漂っている。
「申し訳ありません、リディア姫。話が終わり次第、すぐに戻ってきます」
「うん……早く戻ってきてね?」
小さく頷くリディア姫にまた申し訳なくなった。しばし葛藤が渦巻くが、急いで身支度を整え、部屋を後にした。
◆
執務室に案内されるとそこには一人で座っているシオン様がいた。私が足を進めると彼は静かに私を見つめている。私が前に進み出ると静かな室内にわずかな緊張が漂う。
「遅くなり申し訳ございません」
「あぁ……少し話があるんだが……」
シオン様の言葉に少し戸惑いながらも、私はその言葉を待っていた。次の瞬間、彼は突然立ち上がり、私の目の前に来ると肩を掴み、強引に自分の方を向かる。いつになく真剣な表情を浮かべているシオン様の顔に私は少し驚きと不安を感じた。
「ヴィクトルに酷い扱いを受けているのは本当なのか?」
シオン様がどうしてそのことを知っているのか、全く見当がつかない。もしかして、リディア姫が話したのだろうか?様々な思考が駆け巡るが私の口からは何も出なかったが、沈黙が続く中、シオン様は続けて言葉を吐いた。
「リディアが言っていたんだ。ユミルが部屋に閉じ込められているのではないかと……それで調べて、ヴィクトルの屋敷の使用人を問い詰めたら、全部吐いた。あいつ、ユミルに……あんな……」
隠していたことがついに明るみに出てしまった。必死に隠してきた事実を今ここで告げなければならないのだろうか。
「誤解です。ヴィクトル様は厳しいところもありますが……心配性なだけで……」
声が震え、言葉が不自然に途切れた。ここで正直に話してしまったら私は間違いなく離縁されてしまう。しかし、心の中でふと思う。
もし離縁してしまえば、私はもっと楽になれるのではないか?これ以上苦しむ必要がなくなるのかもしれない。ヴィクトル様もきっと私と離れて自由になれるのだから。
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