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あの部屋は?
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リディア姫との約束を果たすための日がやってきた。
今日はパーティーではないので化粧は控えめにし、地味な薄い緑色の袖の長いワンピースを着て、しっとりとした装いを心掛けた。
準備が整うと、ヴィクトル様に「一人で執務室に来い」と言われた私は恐る恐るその命令を受け入れ、執務室へと向かった。
扉をノックし、慎重に中へと足を踏み入れると書類に目を落としながらもヴィクトル様が私に言った。
「そこで待っていろ」
私は黙って言われた場所に立ち、胸の鼓動が速くなるのを感じながらも、身動き一つせずにヴィクトル様の言葉を待った。
しばらくして、ヴィクトル様が書類から顔を上げると私は自然と背筋を伸ばす。引き出しから一つの箱を取り出し、私の前まで歩み寄り、その箱を開けた。
「貞操帯だ。城に行く時は必ずつけるように」
「はい……わかりました……」
箱の中には黒い革でできた不穏な形状の道具が入っていた。使用方法を知らなかった私でも不貞防止のために使われるものだとすぐに理解できた。
何とも言えない不安と違和感が私を包んだ。リディア姫の遊び相手をするだけなのに何故こんなものをつけなければならないのだろう。
私が知らないだけで大人の貴族の女性はみんな付けているのだろうか?
「着けてやる。たくし上げろ」
「はい……」
ヴィクトル様の冷徹な命令に従い、私は服の裾を引き上げて、その装着を待つことしかできなかった。彼の手が下着とストッキングを下ろすと、私の下半身はさらけ出された。
これまで何度かヴィクトル様に体を見られてきたが、それでもこの瞬間に感じる恥ずかしさには慣れない。
貞操帯が私の身体に装着され、鍵がカチャリと音を立てて閉じられる。その感覚はまるで重い鎖に繋がれたようで、下半身が不自然に重く感じる。
冷たい皮が肌にぴったりと密着し、変な違和感とともに、圧迫感が身体全体を包み込む。
「鍵は俺、それか使用人が持つ。屋敷に戻れば外していい」
ヴィクトル様の冷たい説明が耳に残り、私はただ黙って頷くしかなかった。この奇妙で重い装置を装着し、違和感に耐えながらリディア姫と会うために城へ向かうことになる。
◆
城の応接室に到着すると、その豪華さに圧倒される。大理石のテーブル、磨き上げられた壁、絨毯のふわふわとした質感、大きなソファが並ぶ部屋には気品と優雅さが漂っていた。その中で私を待っているリディア姫はまるでそこにいることが自然であるかのように輝いていた。
「ユミルリア!来てくれたのね!ずっとずっと待ってたの!」
リディア姫は嬉しそうに駆け寄り、私に抱きついてきた。その瞬間、彼女から漂う花の香りに包まれ、ただ温かさを感じるばかりだった。
「やっぱり具合が悪い?」
リディア姫は私の顔をじっと見つめ、疑念を抱いている様子だったが、私はすぐに否定の言葉を口にした。
「いえ、緊張してて」
私は貞操帯の違和感を感じながらも、そのことを言い出す勇気はなかった。それにリディア姫の純粋な笑顔に答えたくて、心からの笑顔を返す。
「緊張してるの?私も初めてお城に来た時はすごく緊張したからわかるよ」
リディア姫は優しく私を落ち着かせようとしてくれた。その言葉に少しだけ楽になったような気がした。幼い姫の笑顔は何もかもを包み込むような明るさを持っている。
「今日はいつまでいられる?」
リディア姫が私の手をぎゅっと握りながら、期待に満ちた目で私を見上げる。私は少し寂しさを感じながらも答えた。
「ヴィクトル様のお仕事が終わる夜までですね」
「そっか、今日はいっぱい一緒にいられるんだね!お城の中案内してあげるね!」
そして庭を見せてくれるとのことなので、私はリディア姫に案内されて中庭に連れて行って貰うことになった。
ん……?
私達の後ろには護衛の人が二人、少し距離を置いてついてきている。
これはリディア姫を見張っているのかもしれない。お姫様だから過剰なぐらい護衛がいないと危険だから仕方が無いのかもしれない。
◆
「そう言えばユミルリアの部屋は二つあるの?」
リディア姫が歩きながら不意に問いかけた。その質問に私は首をかしげる。
「いえ?一つだけですよ?」
「でも、あの可愛い部屋が最初はユミルリアの部屋だと思ったんだけどね。それならあの部屋は誰の部屋なの?」
「あの部屋……?」
その言葉に私はハッとした。リディア姫が私に会いに来た時にあの部屋を見たんだ。あの部屋は使用人がいつも足音を忍ばせる部屋。そして、もしかして――
「その部屋には何がありましたか?」
「ぬいぐるみや宝石箱、プレゼントの箱がいっぱい。ピンクが多くて、可愛いお部屋だったよ?」
その言葉が私の心を一瞬で支配した。あの部屋、私が立ち入り禁止だと思っていた部屋は、やはり誰かの秘密の部屋なのか?
そこは誰かの部屋なのか。そこにいる人にヴィクトル様は贈り物をしている?でも誰?恋人か愛人でもいるの?だからその人が屋敷で動きやすいように私を部屋に閉じ込めている?
ヴィクトル様が何をしているのか、何を隠しているのか。心に重くのしかかる不安が、私を支配していく。
今日はパーティーではないので化粧は控えめにし、地味な薄い緑色の袖の長いワンピースを着て、しっとりとした装いを心掛けた。
準備が整うと、ヴィクトル様に「一人で執務室に来い」と言われた私は恐る恐るその命令を受け入れ、執務室へと向かった。
扉をノックし、慎重に中へと足を踏み入れると書類に目を落としながらもヴィクトル様が私に言った。
「そこで待っていろ」
私は黙って言われた場所に立ち、胸の鼓動が速くなるのを感じながらも、身動き一つせずにヴィクトル様の言葉を待った。
しばらくして、ヴィクトル様が書類から顔を上げると私は自然と背筋を伸ばす。引き出しから一つの箱を取り出し、私の前まで歩み寄り、その箱を開けた。
「貞操帯だ。城に行く時は必ずつけるように」
「はい……わかりました……」
箱の中には黒い革でできた不穏な形状の道具が入っていた。使用方法を知らなかった私でも不貞防止のために使われるものだとすぐに理解できた。
何とも言えない不安と違和感が私を包んだ。リディア姫の遊び相手をするだけなのに何故こんなものをつけなければならないのだろう。
私が知らないだけで大人の貴族の女性はみんな付けているのだろうか?
「着けてやる。たくし上げろ」
「はい……」
ヴィクトル様の冷徹な命令に従い、私は服の裾を引き上げて、その装着を待つことしかできなかった。彼の手が下着とストッキングを下ろすと、私の下半身はさらけ出された。
これまで何度かヴィクトル様に体を見られてきたが、それでもこの瞬間に感じる恥ずかしさには慣れない。
貞操帯が私の身体に装着され、鍵がカチャリと音を立てて閉じられる。その感覚はまるで重い鎖に繋がれたようで、下半身が不自然に重く感じる。
冷たい皮が肌にぴったりと密着し、変な違和感とともに、圧迫感が身体全体を包み込む。
「鍵は俺、それか使用人が持つ。屋敷に戻れば外していい」
ヴィクトル様の冷たい説明が耳に残り、私はただ黙って頷くしかなかった。この奇妙で重い装置を装着し、違和感に耐えながらリディア姫と会うために城へ向かうことになる。
◆
城の応接室に到着すると、その豪華さに圧倒される。大理石のテーブル、磨き上げられた壁、絨毯のふわふわとした質感、大きなソファが並ぶ部屋には気品と優雅さが漂っていた。その中で私を待っているリディア姫はまるでそこにいることが自然であるかのように輝いていた。
「ユミルリア!来てくれたのね!ずっとずっと待ってたの!」
リディア姫は嬉しそうに駆け寄り、私に抱きついてきた。その瞬間、彼女から漂う花の香りに包まれ、ただ温かさを感じるばかりだった。
「やっぱり具合が悪い?」
リディア姫は私の顔をじっと見つめ、疑念を抱いている様子だったが、私はすぐに否定の言葉を口にした。
「いえ、緊張してて」
私は貞操帯の違和感を感じながらも、そのことを言い出す勇気はなかった。それにリディア姫の純粋な笑顔に答えたくて、心からの笑顔を返す。
「緊張してるの?私も初めてお城に来た時はすごく緊張したからわかるよ」
リディア姫は優しく私を落ち着かせようとしてくれた。その言葉に少しだけ楽になったような気がした。幼い姫の笑顔は何もかもを包み込むような明るさを持っている。
「今日はいつまでいられる?」
リディア姫が私の手をぎゅっと握りながら、期待に満ちた目で私を見上げる。私は少し寂しさを感じながらも答えた。
「ヴィクトル様のお仕事が終わる夜までですね」
「そっか、今日はいっぱい一緒にいられるんだね!お城の中案内してあげるね!」
そして庭を見せてくれるとのことなので、私はリディア姫に案内されて中庭に連れて行って貰うことになった。
ん……?
私達の後ろには護衛の人が二人、少し距離を置いてついてきている。
これはリディア姫を見張っているのかもしれない。お姫様だから過剰なぐらい護衛がいないと危険だから仕方が無いのかもしれない。
◆
「そう言えばユミルリアの部屋は二つあるの?」
リディア姫が歩きながら不意に問いかけた。その質問に私は首をかしげる。
「いえ?一つだけですよ?」
「でも、あの可愛い部屋が最初はユミルリアの部屋だと思ったんだけどね。それならあの部屋は誰の部屋なの?」
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そこは誰かの部屋なのか。そこにいる人にヴィクトル様は贈り物をしている?でも誰?恋人か愛人でもいるの?だからその人が屋敷で動きやすいように私を部屋に閉じ込めている?
ヴィクトル様が何をしているのか、何を隠しているのか。心に重くのしかかる不安が、私を支配していく。
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