【完結】「お前が死ねばよかった」と言われた夜

白滝春菊

文字の大きさ
上 下
5 / 89

役目を果たせ※

しおりを挟む
 夜になってもヴィクトル様は屋敷に帰ってくることはなかった。このまま顔を合わせずに済むならその方が気持ちは楽……
 朝まで帰ってこないのかな。仕事か、それとも女遊びが激しかった人だし浮気で今夜も帰ってこないのかも。
 今こうしてる間にはお姉様を失った悲しみを私じゃなくて他の女性で紛らわして。

 ヴィクトル様と顔を合わせることが無くなって安心したけれどベッドの中で一人考える時間があるとまたあの時の声が浮かんできて私を蝕んでいく。
 食事も喉を上手く通らないし、心臓もずっと苦しいから今日は早く寝よう……寝てもあまり眠れないけど……

 お風呂に入ってから昨日とは別の紫色のシルクの夜着に着替え、ベッドに潜り込んで身体を丸めて自分を守るような体制になって目を閉じていた。

 ◆

「ユミル」

 頑張って寝ようとして、ようやく眠ることが出来たと思っていたのに急に名前を呼ばれて意識が覚醒する。室内は暗くて誰なのかわからないけどこの声は嫌と言うほどに知っている。
 さっきまで胸が苦しくて上手く眠れなかったのにその人のおかげで完全に覚めてしまった。

「っ……お、おかえりなさいませ……」

 半身を起こしながら震える声でベッドの横に立つ人に向かって出迎えの言葉を無理矢理出すとベッドの上に乗り込んできたヴィクトル様によって私の体が押さえつけられた。また『お前が死ねばよかった』と言われるのではないかと恐怖で身体が固まる。

「あ、あの……うっ……」

 ヴィクトル様が私の顎を持って無理矢理顔を合わせさせると暗闇に目が慣れてきて、ギラリと光る青い瞳で私を見つめている。

「大人しくしていろ」

 鋭い目付きでそう言われ、私は怖くなってぎゅっと目を閉じるとヴィクトル様の手が私の夜着の胸元に伸びてくるとびっくりしてその手を掴んで抵抗するとヴィクトル様に睨まれた。

「……おやめ、ください……」

 目が合った瞬間に竦み上がる。怖くて仕方がないのだ。もしかしてぶたれたり蹴られたりするのかもしれないと思うと抵抗すらできない。
 ヴィクトル様は何も言わずに私の夜着の胸元を左右に引くとボタンが勢い良く外れ、露出した肌にヴィクトル様が触れてくる。

「や、やめて……おねが……」
「役目を果たせ」

 冷たい言葉を投げられながら私の首元にヴィクトル様が顔を埋めてきてざらりとした舌が這う。
 役目。子供を産むことだけを望まれている。子供を産む道具として抵抗する事を止めないと。

 ヴィクトル様が首元から顔を離したと思ったらまた唇にヴィクトル様の唇が重なった。嫌いな女とキス、できるんだ……私だったら嫌いな人とキスなんてできないけどヴィクトル様は我慢ができる大人なんだ。

「ん……っ……」

 口の中にヌルりと舌が入ってきて息が上手くできない。ヴィクトル様は何度も角度を変えては舌を絡ませてきて私から酸素を奪っていくように貪る。

 呼吸ができなくて苦しいはずなのに体がどんどんと熱くなって、なんで?こんなに怖いことをされているのに……私は自分の感覚が信じられずに戸惑うばかりだった。

 唇が離れると私の首筋にヴィクトル様が吸い付くように口付けをした後、肌を強く吸われてちりっとした痛みが襲ってきた。

 痛くて嫌なのにヴィクトル様の行為は終わる気配がない。この行為の意味がわからないけれどヴィクトル様の顔が見えないし聞くこともできなくて怖い。

「い、や……」

 胸に触れるヴィクトル様の手に反応をして自分の体の熱が増していく。僅かな膨らみしかない貧相な胸なんて触っても何も楽しくないよ……私が男の人だったらもっと大きい胸の方がいいと思う。
 それでもヴィクトル様は私の胸を両手で撫でるように触りながらまた首に顔を埋めている。触れられている場所が熱いし、吐息がかかってぞわぞわする。

「っ……!」

 このよくわからない行為が早く終わらないかなと、この感覚に気を取られていると今度は左の胸を口に含まれて熱い舌の感触が直に伝わってくる。音を立てて吸われてびくりと体が反応してしまう。
 異性に触られたのは勿論だけど赤ちゃんみたいに舐められたことなんてないからこんな時どうしたらいいのかわからない。
 柔らかかった胸の先はだんだん固くなって、それを唇で摘まれ、舌で舐られるとくすぐったいような変な感じがする。

「んんっ……」

 ある程度弄った後は口を離して終わるのかと思ったけどヴィクトル様はもう片方の右の胸に吸い付いた。
 左の胸と同じように吸われたり意地悪く軽く噛まれたりして声が出てしまうのが恥ずかしくて必死に歯を食いしばるしかなかった。

 怖いのか、嬉しいのか、気持ち悪いのか、気持ちいいのか、わからない。ただ、もっとしてほしいと思ってる自分がいるなんて、ヴィクトル様をほんの少し、まだ好きな私がいるなんて、認めたくなくて自分の感情なのにどうにかなりそう。
 嫌なのにヴィクトル様に触れられて感じている自分が意味がわからなくてしょうがない。内心、どこかで期待でもして……

『お前が死ねばよかった』

 今こうして二人きりでいるとあの時のヴィクトル様の言葉が頭に響いて胸が苦しい。
 もう触られたくないし、消えてしまいたいのに胸に触れていた手がお腹の辺りを撫で回した後にヴィクトル様が私に命じてくる。

「足を開け」

 よくわからないまま、素直に言うことを聞いてゆっくりと自分の足を開くとはしたなくも下着を何かで濡らしている感覚に顔に熱が集まった。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...