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26.王の気遣い

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「ビビド、よく戻った。
此度のことは早文で軽く確認しておる。

そちらが例の女性から?」


「父上、ただいま戻りました。
はい、こちらナターシャ嬢です。ダリアン王子の元婚約者でしたが、先日のパーティで婚約破棄となっております。
そのパーティーでの行動を見れば、今後どのような対応に出るか通常の範囲内での予測が難しく、私が身元引受人としてこの国にお連れした次第です」

「はっ、小難しい理由をつらつらと。そなたはただ単に「わー!父上!!何をおっしゃるのですか!?」」

王の言葉に焦ったようにビビド王子が言葉を重ねた。
どうしてそんなに王子が焦っているのかナターシャには理解できなかったが、それでもいつものように淑女の仮面をかぶり、王の御前で静かに頭を下げている。

「ナターシャ嬢、頭を上げてください。
此度はご苦労でしたね。あなたの心労は大変なものでしょう。

その場にビビドがいたのも神の与えた縁。どうか仲良くしてやってください。
しばらくは王家で保護をさせて頂きますが、その後のことはあなたの意向を伺いましょう。
ただし、先に国際会議のためにも先日のこと、そしてこれまでのことをおしえていただけるだろうか」

ナターシャのようにまだまだ若い女性に対し、これほど丁寧に、真摯に対応してくれる王がいる国はなんてすばらしいのだろう。
トレアール国の王族はもちろん丁寧には接するが、どこか見下しているのがわかる対応だった。いや、あれはきっと見下しているわけではなく、自分たちこそが高貴だと思っているからの対応なのだろう。

でもこの王はこちらの意向も聞いてくれるという。もちろんそれが通るかは別だが、それでもその好意が嬉しい。

「陛下のご配慮に心から感謝いたします。
ビビド王子にも助けて頂いた上にこのように保護していただき、重ねて感謝申し上げます。

私でわかることでしたらすべてお答えいたします。
ですのでどうかトレアール国の民は助けて頂けないでしょうか」

”ダリアン王子の婚約者”になると決められた日から民は守らなければならない存在だと思っていた。それが自分の行動で民に危険が迫るかもしれない。そう思うと恐怖に身体が震えそうになる。だから王に民を助けてほしいと願った。

「ほう、自分の身の安全よりも先に民の安全を欲するとは。
あなたは素晴らしい王妃になったことでしょうね。

これは執着する理由がわかりますね。
約束しましょう。私たちがトレアール国の民に手出しをすることはありません。
もし危険が及ぶ場合、手助けできるなら手助けすることも考えよう。
これでいかがかな」

ナターシャは王の言葉を聞き、ホッと息を吐き「はい、それだけで十分です。よろしくお願いします」と言った。
実際ビビド王子にジャッカル国に連れてきてもらうときもそれが一番の悩みの種だった。
自分がいたからどうにかなったわけではないが、シャーロットが王妃になってしまえば国民など蔑ろにされてしまうのではないかと思っていた。それがなくなってもどうなるか、国際会議にかけられるトレアール国がどうなるかわからない。
だから不安だったのだ。

王の約束を聞いたナターシャはこれまでのことを話し始めた。
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