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86.子が望めない
しおりを挟む「ナタリー、僕は君が思ってるほどきっと優しくはないよ。
興味がない女性には話しかけたいとも思わないし、そんな女性と2人で出かけたりすることなんかもほとんどない。
恵まれた場所で育てられたからか、やっぱりわがままなんだよ。
自分で欲しいと思った人以外近くに置きたいとは思わない。
だから執事だって事務官だって自分で選んだ人をそばに置いている。
そんな僕が優しさで生涯の伴侶を決めるなんてありえない。
僕がこれから先ずっとそばにいて欲しいと思うのは、君だからであり、君だけなんだ。
だからそんな言葉で断らないで、僕が嫌なら嫌と言って欲しい」
まるで乞うような眼差しで私の目を見つめ、そう言うエミリオ様。
わかってる。
エミリオ様は同情だけでこんなことを言う人じゃない。
それに私はエミリオ様が嫌なわけではない。
嬉しい、嬉しいに決まってる。
でも……
でも………
「嫌な… 嫌なわけ… ない…… っ……
でも…… でも…… 私じゃ… ダメなんです…… 」
言葉にならない言葉そんな私の声を聞いて私の体を包み込んでくれたのがわかる。
暖かい……この人とこれから先の人生ずっと過ごせたら、きっと幸せだと思う……
「私…… 私は…… もう子どもが……… 」
私は昨日医師の診察を受けた時に言われた。
2度の服毒、それに伴う高熱、その影響で子が望めるかはわからないと言うこと。いや、望めない可能性の方が高いと言われた。
それが事実なら、私は貴族との結婚はできない。
それなのに今私の身体を包み込んでくれている彼は高位貴族である侯爵家の嫡男。そんな方と結婚なんてできるはずがない。
「子ども?
子どもが産めないの?
それだけ?
それだけが理由?
それなら断る理由にはならないよ。
僕はナタリーのこどもが欲しいから結婚するわけじゃない。
もちろん授かったらそれはすごく幸せだと思う。でも授からなかったら授からなかったというそれまでだよ。
だってもしも僕に異常があったらどうするの?
そしたら僕は要らないって捨てられる?」
「そんなわけない!!異常があってもエミリオ様はエミリオ様で!………でも………
私は………」
「ナタリー、僕も一緒だよ。何があってもナタリーはナタリーのまま。
それにね、 “リーちゃん約束だよ。僕と結婚して” 」
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