選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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64.父だった男からの手紙(前)

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『ナタリアへ

私からの最初で最後の手紙になるだろう。だから読まれるかどうかもわからないが手紙を書くことにした。

私はナタリアにとって、いい父親とはとても言えなかっただろう。
私はナタリアにうまく笑いかけることすらできなかった。
うまく話しかけることもできなかった。
だが君を愛していないわけではなかったんだ。

どうか私の話しを聞いてほしい。
私は学生時代からヨランダと付き合ってきた。
そんな時、君の母マリアとの婚約が決まったんだ。
家同士の結びつきを求めるものから始まった婚約ではあった。

だが私は、すぐにヨランダにそのことを伝え、別れを切り出した。
だがヨランダは学校卒業まで、マリアに子ができるまでと、その関係を続けることを希望した。

その時に拒否できなかった私の弱さが今の状態を招いてしまった………

社交界でも有名な子だったからマリアのことは元々知ってたんだ。
『綺麗で可愛らしくて、驕った部分もない。高位貴族からも婚約を打診されていると』

そんな子が私と婚約なんてとても信じられなかった。
だから婚約してもずっと不安だった。

私のその不安がわかっているかのように、私と婚約してからのマリアは男友達との会話の時ですら一定距離を取った。嬉しかったよ。ほかの誰でもなく、私を優先してくれているのだと。

だが、一点だけ、彼女はなぜか女性との交友関係について、私には口出しをさせなかった。
どうしても私がその女との付き合いはやめてくれと言っても『いくらマルク様でも私の友達を悪く言われるのは気分がよくありません。彼女はとてもいい人なんです。ですが、そこまで気にされるのでしたら少し会う機会を減らしますわ』そう言って、私のいう事を聞いてくれることはなかった。

私はなんだがそれが怖くて、そのことをヨランダに相談した。

すると彼女は言ったんだよ。
彼女は魔女なのかもしれない。だから薬か何かできっとマリアのことを洗脳してしまっているんだと。

最初はそんな言葉信じなかった。
だが、会う機会を減らすと言ったのに彼女はなおもその女性との付き合いを続けていた。

結婚した後もだ。

そして、子を産んだら嬉しそうに”彼女にナタリーを紹介しに行ってくる”、そう言って出かけたんだ。私は恐怖したよ。

本当にあの女は魔女なんじゃないかと。
私はマリアを奪われてしまうのではないかと怖かったんだ。

いつのまにか母までもあの女に感謝し、家に招待するようにと言っていたんだ。
このままでは子爵家は魔女に乗っ取られてしまう。

だからヨランダに相談した。
ヨランダはいい方法があると教えてくれた。
それは平民では魔女に魅入られないように、精神を保つ為の薬があるということ。だが、もしもすでに魔女に心の奥まで魅入られてしまっていたら拒否反応でひどい副反応を起こすこともあると。
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