上 下
4 / 166
第1章

あなたの婚約は破棄いたします

しおりを挟む

お母様ってこんなに強かったのね……
身長も小さく、細身の身体にピンク色の髪の毛、ぱっちりおめめの見た目から社交界では「永遠の20代」など呼ばれている母。こんなに怒ってらっしゃるのに、ずっと笑顔なのが一番怖い……母は怒らせてはいけない。これからのサリーの教訓になる出来事だった。


こんなやりとりをしても入り口に留まり続けるわけにもいかず、立場上帰るわけにも行かない。そう思って中に歩き出すとロディ様の腕にしっかりとくっついている女性と目が合う。私より少し年上に見える女性はニヤリと口角を上げるとロディ様の耳元で何かを囁き、こちらに向かって二人で歩き始める。


何か嫌な予感がするも主催者の息子、まして婚約者に挨拶しないわけにもいかない。ロディ様と目が合い、スカートの裾をもちあげ挨拶をしようとする…


「ロディ様、本日は


「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」




……………え?




高らかに宣言された婚約破棄の声はドルマン侯爵邸の庭に響き渡った。




その甲高い声が……






え?まずあなたはだれ??


そう。婚約破棄の宣言はロディ様の腕にくっついていた平均より背が高く、赤色の髪の毛に赤色のドレスを身にまとった女性よりもたらされた。




これはどうしたものかと思い、ふと横の母に目をやると、額に1本の血管が浮き出てヒクヒクとしていた。
その隣の父は半分ほどだらしなく口を開いたまま、その女性を見つめていた。


「ちょっと!私が話してんのよ!!黙ってないでなんとか言いなさいよ!?」




私が女性ではなく隣の両親を見ていたのが気に障ったのか、再度甲高い声が響く。
その声に私はどうにか平常心を保ち、できるだけ落ち着いた声を出そうとする。


「えと……まずあなたのお名前を伺っても宜しいですか?」




そう。婚約破棄の前にそんな素朴な疑問が口をつく。
だって正直こんな女性今までお目にかかったことがない。
初めましての方に婚約破棄すると言われて「はい」と答えられるほど頭にお花は咲いていないのだ。




「あっ、失礼しました。私ピーチル・ロシェンカと申します」




と、スカートの裾を摘んで挨拶をされる。


一応挨拶をするだけの常識はあるのね。と、驚いてしまう。そんなことより、ロシェンカと言えばロシェンカ男爵ね。


「ロシェンカ男爵令嬢、ごきげんよう。私サリー・ナシェルカと申します。」


私も淑女として名前を名乗るだけの簡単な挨拶を行う。
今後とも……だなんて口が裂けても言いたくはないわ…



「て、違うわ!あなたの婚約は破棄すると言ったのよ。承諾して破棄なさい」






「………承諾するのも破棄するのも構わないわ。ただひとつだけ聞かせて。


なぜあなたが言うの?      」

しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~

日之影ソラ
恋愛
小説家になろうにて先行配信中! 緑豊かな自然に囲まれたエストワール王国。 様々な種族が共存するこの国では、光の精霊の契約者を『聖女』と呼んでいた。 聖女となるのは王族の家系。 母親から引き継ぎ、新たな聖女となった王女ユイノアは、冒険譚に憧れる女の子だった。 いつか大きくなったら、自分も世界中を旅してみたい。 そんな夢を抱いていた彼女は、旅人のユーレアスと出会い、旅への憧れを強くする。 しかし、彼女に与えられた運命は残酷だった。 母の死によって変わってしまった父と、それを良しとしなかった国民。 クーデターにより国は崩壊し、彼女は一人ぼっちになってしまう。 そして彼女は再び彼と出会った。 全てを失った少女と、かつて世界を救った英雄。 一人と一人が交わり始まった二人旅は、はたしてどこへたどり着くのだろうか? 書籍約一冊分のボリュームです。 第一部完結まで予約投稿済み。 ぜひぜひ読んで楽しんでくださいね。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

処理中です...