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第1章

私の婚約者

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「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」


高らかに宣言された婚約破棄の言葉。


その声はドルマン侯爵の庭に響き渡った。


ーーーー


今日はドルマン侯爵邸にてガーデンパーティーが行われている。
ドルマン家とは侯爵家を興して150年になる古参貴族。今は7代目当主のサムエル様が領地経営を行っている。



そんな侯爵家のパーティーに参加している私サリー・ナシェルカは、ドルマン侯爵の一人息子であるロディ様の婚約者。


ナシェルカ家は伯爵家。しかも興して間もなく、歴史も浅い貴族。だが、この縁談はドルマン侯爵から強引にお願いされたものなのである。


ロディ様が12歳、私が10歳の時に婚約の契りを交わした。ナシェルカ伯爵家は伯爵位ではあるものの、商が成功したため爵位に合わないほどの財を有している。そのため金銭的に逼迫していたドルマン侯爵令息との婚約をお願いされた。
私の父マイケル・ナシェルカは仕事に関しては冷静かつ客観的に物事を見る人である。しかしこれが私事となると全くだめ。お願いされると無下にすることができない。そのため執事のトムができるだけ空気を読んで悪意を持つ人たちを近づけないようにしてきた。だがドルマン侯爵の時はトムのフィルターから抜けおちてしまったのだ。父の学友であり、学生時代の想い出の品を片手にひさしぶりに話がしたいと言われ、さほど警戒することなくとおしてしまったとのこと。後でトムから頭を地面に擦り付ける勢いで謝られてしまった。


それでも侯爵家との繋がりがあるのはきっと悪くないと思う。それに何より格上の侯爵家への断りはそれなりの理由がないとやはり世間体も良くない。


そう思い、父が結んできた婚約を受け入れ、顔合わせの為に侯爵家に行った。
そこで初めてお会いしたロディ様。身長は私より少し大きいくらいで、綺麗な紫の髪が首元で綺麗に整えられている。だが、顔の前にかかる髪の毛は長く、目元を隠してしまっている。しかも俯きがちに話をするため、その表情をうかがい知ることができない。
そして挨拶を聞き取ることも困難なほどボソボソと喋る人だった。顔は悪くもなく、ただ良すぎることもない。そんな印象の婚約者。


縁があって婚約者となったのだから、これから信頼関係を築いていきたい。愛し愛されるような関係ではなくとも信頼できる人と結婚したい。そう思い私から話しかけるも、たまにこちらをチラチラと窺いながら、ぼそぼそと話す為、盛り上がることもなければ会話が広がることもない。そんなお茶会を何度か重ね、私は思った……


めんどくさい……

どうして毎回毎回私が会話を考え、会話を振って、一言二言で終わる会話をしなければならないのか。
これならまだ馬に話しかけていた方が気も楽。


そう思ってからは月に一度のお茶会も二人ともほぼ無言なまま……


月に一回だったお茶会はお誘いの連絡がなければこちらから確認の連絡を入れることもなく、2ヶ月に一度になり、2ヶ月に一度のお茶会は3ヶ月に一度になり、今では共に社交会に出席する時のみ、お会いすることになっていた。


その社交会であるガーデンパーティーも今回は馬車をよこすこともなく、もちろん本人が迎えに来ることもなかった。
だから私は両親と共に参加することにした。


言い方は良くないけれど、ドルマン侯爵家の状況をわかっているのかしら。


もし婚約解消になるのであれば、今までの支援金の返還をしなければならない。
まぁ、もしこちらの有責で婚約破棄となった場合は支援金はその場で返済義務なしとなるが、あちらの有責となった場合は返済に慰謝料請求も加わり、その額は大変な額になってしまうはず。
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