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第10章『お前は誰だ』

3話

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「なぁ、カオル呼び出して『運命の子』のこと、確かめた方がいいんじゃねぇか?」
 買ってきたケーキを食べながら、タクヤは気になっていたことを問い掛けた。

 この町に来た時に、町の風景を眺めながらケーキが売っている店を何気なく見つけていたタクヤは、少しでも元気になってもらおうとイズミが眠っている間にケーキを買ってきた。
 しかしそんなことを知る由もないイズミからは、「お前がケーキ買うなんて珍しいな」と淡々とした返事が返ってきただけであった。
 タクヤががっくりしたのは言うまでもない。
 そして今、夕飯も食べずにふたりでケーキを食べながらのんびりとしていたところであった。
 
「どうだろな。カオルにしてもあの女にしても、何を考えてるのか分からんからな。本当のことを言うかどうかも……」
 カップをテーブルに置き、イズミは難しい顔で答える。
「重要なことだろ? 嘘つく意味なんてないじゃん」
 イズミの答えにタクヤは不満そうに顔を顰める。
「あいつらは信用できねぇからな。まぁ、そんなに急がなくても時がくれば分かるだろ」
 そう言ってイズミは3個目のケーキに手を伸ばす。
「……イズミ、本当にケーキ好きだよなぁ……。あ、そういや昔は色々作ってたんだろ? 俺には作ってくれねぇの?」
 黙々とケーキを食べるイズミを顔を顰めながら見つめる。そして、ふとイズミの昔の話を思い出し、タクヤは不満そうな顔で尋ねた。
「材料がない。作る場所がない」
 しかしイズミはケーキを食べながら淡々と答える。
「ちぇっ……あ、そうだっ! じゃあさ、全部片付いたらどっかに落ち着いてさ。そしたら俺にも作ってよ」
 むすっと口を尖らせたが、すぐにいいことを思い付いたと手をぽんと打ち、タクヤはイズミを窺うように見つめた。
「……そうだな。その日が来たらな」
 手を止めると、じっとケーキを見つめながらイズミはぼそりと答えた。
「大丈夫。絶対平和な世の中になるって」
 眉間に皺を寄せ、難しい顔をしているイズミを見つめながら、タクヤはにこりと笑った。

「おっ? うまそうなもん食ってんな」

 突然横から聞き覚えのある声がして、ふたりはハッとしてそちらを見た。
「あっ!」
 そこにはいつものようにニヤつくカオルが立っていた。
 どうやって部屋に入ったのか。相変わらず神出鬼没である。
「また勝手に入り込みやがって」
 じろりと睨み付けながらイズミが嫌そうに呟く。
「あれ? イズミちゃん……」
 ふとカオルが何かに気が付いたように、じっとイズミの顔を覗き込むようにして見つめた。
「なんだよ」
 更に嫌そうな顔でイズミはカオルを睨み付ける。
「いーや、なんにも」
「なんだよっ」
 嬉しそうにニヤつくカオルをイズミはムッとしながら怒鳴り付ける。
 全くこの男は本当に気に障ることしかしないと腹が立っていた。
「そうだイズミ。今聞いちゃえばいいじゃん」
 ふたりのやり取りを全く気にすることなく、タクヤは先程のことを思い出すとイズミに話し掛けた。
「こんなヤツ、聞くだけ無駄だって」
「なんの話だ?」
 不機嫌に答えるイズミを見ながらカオルは不思議そうに首を傾げる。
「運命の子の話」
 するとイズミの代わりにタクヤが答えた。
「ほ~お。もうそこまで話が進んでるのか。まさか、あっちも進んじゃったんじゃねぇだろうな?」
「死ね」
 真剣に尋ねるカオルをイズミは見ることなく鬱陶しそうに答える。
「えっ? 何が?」
「その心配はなさそうだな。うん、良かった良かった」
 何を話しているのかさっぱり分からず首を傾げているタクヤを見て、カオルは本当に安心したように頷いていた。
「何しに来たんだよ」
 大きく溜め息を付くと、イズミはちらりとカオルを見る。
「ん? お前達の様子を見に来た」
「あ、そ。じゃあ、もういいだろ? さっさと帰れよ」
 再びにやりとしながら答えるカオルを見て、イズミは無表情に話し、手をひらひらと振る。
「イズミちゃんってば冷たい……。せっかく会いに来たのに」
「うざい。邪魔」
 泣きそうな顔で見つめるカオルをイズミは嫌そうに顔を顰めながら見る。
「何っ? 今、邪魔って言ったか? もしかしてお前らラブラブなのか?」
 カオルはぎょっとしてふたりを訝しげに見た。
「えっ、そんなっ……ラブラブだなんて……。なぁ?」
 タクヤは顔を真っ赤にしながら慌てながらも、じっと上目遣いでイズミの反応を見る。
「別に。俺たちがどうなろうが何しようがアンタに言う義理はない。はっきり言って俺はアンタのこと信用してないから」
 するとイズミはじっとカオルを睨み付け、厳しい口調で答えた。
「何しようがって……イズミちゃんってば、そういうことしてたのぉ~。キャー、いやら……うぅっ」
 途中まで言い掛けたところで、イズミに容赦なく蹴り上げられ、カオルは苦しそうにうずくまった。
「ったく、アンタの頭ん中はどんだけ腐ってんだ」
 大きく溜め息を付くと、イズミは呆れながらうずくまったままのカオルを見下ろす。
「もうっ、ちょっとふたり共。そんなことはどうでもいいから、本題に――」
「そんなこととはなんだっ!」
「どうでもいいってどういうことだよっ!」
 タクヤがふたりの間に入り、話を戻そうと話し掛けた途端、思い切り睨まれた。
「えっ……えっと……」
 ふたりに怒鳴られ、タクヤはあたふたと慌てる。
「とっても重要なことだぞ? 俺のイズミちゃんがセッ……ぶっっ……」
 カオルが真剣に話し始め、言おうとした言葉に反応してイズミが強烈なパンチを浴びせ、カオルは呻き声と共に床に倒れた。
「えっ! 何っ? どうしたんだよっ?」
 床に倒れたカオルを驚いた表情で見下ろした後、タクヤは慌ててイズミの顔を窺うように見つめた。
「なんでもねぇよ」
 チッと舌打ちをした後、イズミはタクヤから目を逸らす。
「……イズミ、なんで怒ってんの?」
 タクヤはイズミの顔を覗き込むようにしてじっと見つめる。
「別に……お前、俺のこと、どうでもいいのかよ?」
 更に顔を背け、イズミは頬を膨らませると、振り返ることなくタクヤがいる方をじっと目だけで見て反応を待つ。
「そんなわけないじゃんっ!……って、俺は別にそういう意味で言ったんじゃないからな。俺はいつだってイズミが一番大事だ。……ただ、今は話が逸れちゃったから戻そうとしただけだよ。分かる?」
 身振り手振りしながらタクヤは一生懸命自分の言いたいことを説明する。
「……分かってるよ」
 顔を背けたまま、イズミは口を尖らせながら答える。
「あらら。イズミちゃんってば、ボースに甘えてんのか?」
 漸く立ち上がったカオルが面白そうに口を挟んだ。
「うるせぇっ。てめぇが余計なこと言うから話がややこしくなるんじゃねぇか」
 しかしすぐにイズミはムッとして、思い切りカオルを睨み付ける。
「まぁまぁふたり共。だからさぁ、話を――」
「お前、どっちの味方なんだよっ」
 宥めようとふたりの間に入るタクヤをイズミが勢いよく振り返り睨み付けた。
「イズミ」
「じゃあいい。話進めろ」
「なんじゃそりゃ」
 タクヤの答えに満足したのか、機嫌が直ったイズミをタクヤは呆れた顔で眺める。
「う~ん、ふたり共ラブラブで、お兄さん妬けちゃうなぁ」
「だからてめぇは余計なことを言うなって言ってんだよ」
 寂しそうにふたりを見つめるカオルをイズミは鬱陶しそうに睨み付けた。
「いや、イズミもどっこいどっこい……」
 しかしぼそりと呟いたタクヤの言葉に、イズミは勢いよく振り返ると今度はタクヤを思い切り睨み付ける。
 びくりとしたタクヤは慌てて知らん顔で横を向いていたのだった。
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