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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】
第14話
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「どうかしたの?」
イーサンの部屋を後にし、自分の部屋へと送ってもらっている途中で、イアンは何か考え事をしている様子のグスターヴァルを見上げながら声を掛けた。
「うむ……どうもイーサンの様子が気になってな」
顎に手を当てながら前を向いたままグスターヴァルが答える。
「隊長が?」
何か変だったかな? とイアンは首を傾げる。
「分からないが、セバスチャンと何かあったような気がしてな。いや、もしかすると……」
「セバスチャンと?」
ふと何か気が付いたような顔をして立ち止まったグスターヴァルを、じっと見上げながら自分も立ち止まる。
「あぁ。この前ルイが執務室に来ていたんだが、ある話題からセバスチャンとイーサンの話をしていてな。ちょうどその時、部屋の外にイーサンと思われる気配を感じたんだが、入って来ずにそのまま帰ってしまったことがあったんだ」
ふむ、と頷いてグスターヴァルはイアンの問い掛けに答える。
「そうなの? なんでだろ」
もし本当にイーサンだったとしたらかなり意外な話である。
あのイーサンがセバスチャンに会わずに帰るなどとはとても考えられない。
「うむ、ちょうどその時の話題が気に障ったのかもしれんな」
「話題?」
「あぁ。ルイが、ふたりは恋人なのだろうといったことを話した時に、セバスチャンが強く否定してな。別に隠す必要はないと思うのだが……」
「なるほど……」
グスターヴァルの答えになんとなく納得してしまった。
確かにセバスチャンはずっとイーサンとのことを隠し続けている様子だった。
聖騎士隊の間では周知の事実なのだが、意外にも城の住人は一部の人間しか知らないようだった。
それほどセバスチャンが気を付けているのだろう。
なぜそこまで隠したがるのかは分からないが、知られて困ることでもあるのかもしれない。
「その時って、他に誰かいたの?」
もしかすると、その場に誰か知られたくない相手でもいたのだろうか?
ふと考えてグスターヴァルに問い掛ける。
「いや、ルイとセバスチャンと私だけだ」
「えっ? 3人だけ? だったらなんでセバスチャンは否定したんだろ? ルイさんも知ってることだよね、きっと。グスターヴァルは当然分かってることだろうし」
返ってきた答えにぎょっとする。
他に誰か城の住人がいたというのならともかく、従兄弟であるルイも知っていることのはずだ。
グスターヴァルの前でもイーサンは気にすることなくセバスチャンに構っていただろうから、今更隠す必要はないだろう。
それともまさか、セバスチャンは誰にも知られていないとでも思っているのだろうか?
「そうだな。もしかするとルイには隠しておきたかったのかもしれないな。理由は分からないが」
「そうなんだ……でも、それを聞いて隊長がショックを受けてるってこと?」
なんとなく納得しながらも、今度はイーサンのことが気になった。
今まで見てきたイーサンの態度から、セバスチャンのそういった言動については気にしていないように思える。
それなのに、急になぜ?
「ふむ。そこなんだがな……あいつがそんなことを気にするようには思えないんだが、他にも何かあるのかもしれんな。喧嘩をしているようには見えないが、どうも気になってな……」
グスターヴァルはじっとイアンを見下ろしながら真剣な顔で答える。
「そっか……うーん。でも、隊長は俺たちのことも気にしてくれてたし、今度は俺たちがなんとかしてあげたいね。もし本当にふたりに何かあるならだけど」
「うむ。そうだな……少し探ってみるか。では、イアンはイーサンの様子を見ていてくれないか? 私はセバスチャンの様子を見よう。それから、どこかで報告し合うことができれば良いのだが……」
グスターヴァルは再び考え込むように顎に手を当てる。
しかし、そんな様子を見ながらイアンは少しわくわくしていた。
もしかしたらイーサンとセバスチャンの一大事かもしれないというのに、グスターヴァルと一緒に何かできることが嬉しかったのだ。
「うん、分かった。じゃあさ、騎士隊の訓練場の奥に物置小屋があるんだけど、その裏がちょうど城の敷地との境目なんだ。そこで終業後に落ち合うっていうのはどう?」
不謹慎だとは思いながらも、嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
「なるほど。そこなら人目を気にすることなく会うことができそうだな。しかし、イアンは大丈夫なのか?」
こくりと頷いた後、グスターヴァルは心配そうな顔でじっと見下ろしてきた。
「え? 大丈夫かって、何が?」
きょとんとした顔でイアンはグスターヴァルを見上げる。
「いや、周りの騎士たちに不審がられないだろうかと。私は終わってから向かえばいいから、セバスチャンに何か思われることもないだろうが……」
「なんだ、そんなこと。大丈夫だよ。しばらく遠征とか街での任務の予定もないから毎日訓練だろうし、皆疲れちゃって、他の人のことなんて気にしてないから」
相変わらず心配そうに見つめているグスターヴァルを見上げながらにこりと笑う。
「そうか、それなら良かった……では、私はそろそろ戻らねば。……イアン、もう大丈夫か?」
少しだけ息を吐いた後、グスターヴァルは少し悲しげな表情になった。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとグスターヴァルのこと信じてる。グスターヴァルもそうでしょ?」
平気な証拠を見せるため、イアンは精一杯の笑顔をグスターヴァルに向ける。
「あぁ、もちろんだ」
漸くいつも見ている優しいグスターヴァルの表情になる。
柔らかい笑顔にイアンもほっとする。
「では、私は戻る。今日はゆっくり部屋で休みなさい。明日はふたりが休みだから、明後日から決行しよう」
ふわりとグスターヴァルに優しく頭を撫でられた。
大きく温かい手が気持ちいい。
もっと触れていて欲しかったが、そういうわけにはいかない。
「うん。ありがと、グスターヴァル。じゃあ……また明後日だね」
このまま離れるのが名残惜しい。
少しだけ寂しい表情を浮かべながらじっとグスターヴァルを見上げる。
「あぁ。またな……イアン」
頭に触れていた手を頬に移動させ、グスターヴァルはそっとイアンの唇に自分の唇を重ねた。
ふわりと唇に柔らかさと温かさを感じる。
そっと目を閉じた瞬間、それは離れてしまったが、目を開けると優しいグスターヴァルの笑顔があった。
イアンの中に、もう不安な気持ちはなくなっていた。
イーサンの部屋を後にし、自分の部屋へと送ってもらっている途中で、イアンは何か考え事をしている様子のグスターヴァルを見上げながら声を掛けた。
「うむ……どうもイーサンの様子が気になってな」
顎に手を当てながら前を向いたままグスターヴァルが答える。
「隊長が?」
何か変だったかな? とイアンは首を傾げる。
「分からないが、セバスチャンと何かあったような気がしてな。いや、もしかすると……」
「セバスチャンと?」
ふと何か気が付いたような顔をして立ち止まったグスターヴァルを、じっと見上げながら自分も立ち止まる。
「あぁ。この前ルイが執務室に来ていたんだが、ある話題からセバスチャンとイーサンの話をしていてな。ちょうどその時、部屋の外にイーサンと思われる気配を感じたんだが、入って来ずにそのまま帰ってしまったことがあったんだ」
ふむ、と頷いてグスターヴァルはイアンの問い掛けに答える。
「そうなの? なんでだろ」
もし本当にイーサンだったとしたらかなり意外な話である。
あのイーサンがセバスチャンに会わずに帰るなどとはとても考えられない。
「うむ、ちょうどその時の話題が気に障ったのかもしれんな」
「話題?」
「あぁ。ルイが、ふたりは恋人なのだろうといったことを話した時に、セバスチャンが強く否定してな。別に隠す必要はないと思うのだが……」
「なるほど……」
グスターヴァルの答えになんとなく納得してしまった。
確かにセバスチャンはずっとイーサンとのことを隠し続けている様子だった。
聖騎士隊の間では周知の事実なのだが、意外にも城の住人は一部の人間しか知らないようだった。
それほどセバスチャンが気を付けているのだろう。
なぜそこまで隠したがるのかは分からないが、知られて困ることでもあるのかもしれない。
「その時って、他に誰かいたの?」
もしかすると、その場に誰か知られたくない相手でもいたのだろうか?
ふと考えてグスターヴァルに問い掛ける。
「いや、ルイとセバスチャンと私だけだ」
「えっ? 3人だけ? だったらなんでセバスチャンは否定したんだろ? ルイさんも知ってることだよね、きっと。グスターヴァルは当然分かってることだろうし」
返ってきた答えにぎょっとする。
他に誰か城の住人がいたというのならともかく、従兄弟であるルイも知っていることのはずだ。
グスターヴァルの前でもイーサンは気にすることなくセバスチャンに構っていただろうから、今更隠す必要はないだろう。
それともまさか、セバスチャンは誰にも知られていないとでも思っているのだろうか?
「そうだな。もしかするとルイには隠しておきたかったのかもしれないな。理由は分からないが」
「そうなんだ……でも、それを聞いて隊長がショックを受けてるってこと?」
なんとなく納得しながらも、今度はイーサンのことが気になった。
今まで見てきたイーサンの態度から、セバスチャンのそういった言動については気にしていないように思える。
それなのに、急になぜ?
「ふむ。そこなんだがな……あいつがそんなことを気にするようには思えないんだが、他にも何かあるのかもしれんな。喧嘩をしているようには見えないが、どうも気になってな……」
グスターヴァルはじっとイアンを見下ろしながら真剣な顔で答える。
「そっか……うーん。でも、隊長は俺たちのことも気にしてくれてたし、今度は俺たちがなんとかしてあげたいね。もし本当にふたりに何かあるならだけど」
「うむ。そうだな……少し探ってみるか。では、イアンはイーサンの様子を見ていてくれないか? 私はセバスチャンの様子を見よう。それから、どこかで報告し合うことができれば良いのだが……」
グスターヴァルは再び考え込むように顎に手を当てる。
しかし、そんな様子を見ながらイアンは少しわくわくしていた。
もしかしたらイーサンとセバスチャンの一大事かもしれないというのに、グスターヴァルと一緒に何かできることが嬉しかったのだ。
「うん、分かった。じゃあさ、騎士隊の訓練場の奥に物置小屋があるんだけど、その裏がちょうど城の敷地との境目なんだ。そこで終業後に落ち合うっていうのはどう?」
不謹慎だとは思いながらも、嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
「なるほど。そこなら人目を気にすることなく会うことができそうだな。しかし、イアンは大丈夫なのか?」
こくりと頷いた後、グスターヴァルは心配そうな顔でじっと見下ろしてきた。
「え? 大丈夫かって、何が?」
きょとんとした顔でイアンはグスターヴァルを見上げる。
「いや、周りの騎士たちに不審がられないだろうかと。私は終わってから向かえばいいから、セバスチャンに何か思われることもないだろうが……」
「なんだ、そんなこと。大丈夫だよ。しばらく遠征とか街での任務の予定もないから毎日訓練だろうし、皆疲れちゃって、他の人のことなんて気にしてないから」
相変わらず心配そうに見つめているグスターヴァルを見上げながらにこりと笑う。
「そうか、それなら良かった……では、私はそろそろ戻らねば。……イアン、もう大丈夫か?」
少しだけ息を吐いた後、グスターヴァルは少し悲しげな表情になった。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとグスターヴァルのこと信じてる。グスターヴァルもそうでしょ?」
平気な証拠を見せるため、イアンは精一杯の笑顔をグスターヴァルに向ける。
「あぁ、もちろんだ」
漸くいつも見ている優しいグスターヴァルの表情になる。
柔らかい笑顔にイアンもほっとする。
「では、私は戻る。今日はゆっくり部屋で休みなさい。明日はふたりが休みだから、明後日から決行しよう」
ふわりとグスターヴァルに優しく頭を撫でられた。
大きく温かい手が気持ちいい。
もっと触れていて欲しかったが、そういうわけにはいかない。
「うん。ありがと、グスターヴァル。じゃあ……また明後日だね」
このまま離れるのが名残惜しい。
少しだけ寂しい表情を浮かべながらじっとグスターヴァルを見上げる。
「あぁ。またな……イアン」
頭に触れていた手を頬に移動させ、グスターヴァルはそっとイアンの唇に自分の唇を重ねた。
ふわりと唇に柔らかさと温かさを感じる。
そっと目を閉じた瞬間、それは離れてしまったが、目を開けると優しいグスターヴァルの笑顔があった。
イアンの中に、もう不安な気持ちはなくなっていた。
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