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Wedding~消えた花嫁~

最終話

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 広間でアリスたちと別れの挨拶を済ませた後、優希と海斗そしてルイは更衣室に来ていた。
 ふたりの制服を置いたままだったからだ。
「着替えないと……あ、洗濯、じゃなくてクリーニング? あれ? ワンダーランドでクリーニングとかってできるんだっけ?」
 更衣室に着くと、優希はジャケットの裾を掴みながらひとりで慌てていた。
「良ければそのままお帰りください。そちらは差し上げますので」
 にこりと笑いながらルイが答える。
「ええっ! で、でもっ」
「いらないですか?」
 驚いて困った顔をした優希にルイはことんと首を傾げる。
「そんなことないよっ!」
 そういうつもりではないと、慌てて優希は首を横に振る。
「ふふっ、では貰ってください。私からのお礼ということで」
「……ありがと」
 相変わらず優しい笑顔を見せるルイに、断ることなどできなかった。
 優希は申し訳なさそうにしながらも素直にお礼を言って頷いた。
 返事を聞いたルイは笑顔のまま、更衣室の奥にあるクローゼットへと歩いて行く。
 扉を開くと、「そうですね」と独り言を喋っている。
 どうしたのだろうと優希はじっと見つめながら首を傾げた。
「何か袋を用意しますね。このまま持って帰るのも荷物が大変でしょうし」
 ぱんと両手を叩きながらルイが振り返った。
 なるほどと納得する。確かに靴もあるし、袋があった方が便利だろう。
「あっ!」
 ふと、『袋』という言葉で思い出したことがあった。
「ね、海斗。キティに買ったあの花ってどうしたっけ?」
 そう、わざわざ花屋に買いに行って用意したアレンジメントだ。
 すっかり忘れていたと優希はじっと海斗を見上げる。
「さぁ? 俺は持ってきてないぞ?」
 しかし海斗はあまり気にしていないのか、しれっとして答える。
「えぇっ! ってことは、もしかして海斗の部屋に忘れてきたのかな……俺、来る時持ってた記憶ない」
 朝来た時のことを一生懸命思い出そうとするが、全く記憶がない。
 買った後、どうしたのかさえ覚えていないのだ。
「そうかもな。来る時、優希は両手塞がってたぞ?」
 全く気にする様子のない海斗は、ふむと顎に手を当てながら淡々と記憶を辿りながら答える。
 両手が塞がっていたと言われ、優希も必死に思い出す。
 右手はメタトロンの鏡を握り締めていた。そして左手は……確か海斗と手を繋いでいた気がする、と考える。
「あっ……」
 漸く最後に見た光景を思い出した。
 ふたりで購入したアレンジメントは、海斗の部屋のテーブルの上だ。
「あぁ……忘れてきちゃってたぁ」
 思い出せたのはいいが、せっかく買ったのにとがっくりしてしまう。
「別にいいんじゃないか? また来る時にでも土産を持ってこれば」
 落ち込んで肩を落としてしまっている優希の頭を、海斗が優しくぽんぽんと叩く。

「お待たせしました」

 すると、白い布の袋を複数抱えたルイが声を掛けてきた。
 いつの間にかふたりの元へと戻って来ていた。
「はい、どうぞ」
 そう言って持っていた袋を差し出され、優希は慌てて手を伸ばそうとした。
「あぁ」
 しかし優希よりも先に、海斗がルイが持っていた袋全てを受け取る。
「海斗、俺も持つよ」
「大丈夫だ、これくらい」
 制服と靴だけのはずだが、思った以上に荷物が多いように感じて優希が声を掛けたのだが、海斗は渡そうとはしなかった。
 また子供扱いしてと、優希はむすっとした顔をしたが、構うことなく海斗は優希の手を取った。
「ちょっ……」
「またあの鏡の所へ向かうのか?」
 頬を赤らめながら声を上げようとした優希を無視して、海斗はルイに問い掛ける。
「いえ。実は、永劫の鏡からもう1つアイテムを作りまして」
 ふたりの前に立ち、ルイはにこりと微笑んだ。
「アイテム?」
 きょとんとした顔で優希が首を傾げる。
「はい。そうですね。特に名付けてはいないですが、まぁ言うなれば『メタトロンの鏡』の弟みたいなものですね」
「弟~?」
 全く何がなんだかといった顔で優希は声を上げた。
 興味がないのか、海斗は優希の手を握ったまま無表情に黙っている。
「えぇ。メタトロンの鏡ほどの力はありませんが、近い力は持っています。これです」
 にこりと笑って、ルイは右の中指にはめた七色に光る石が付いた指輪を見せた。
「わぁ、綺麗っ」
 キラキラと光るその指輪は、確かにメタトロンの鏡の石によく似ている。
「間違いなくおふたりを送り届けることはできますが……もしかしたら、また失敗するかもしれません。おふたりとも、後ろにお気をつけくださいね。では」
 にっこりと笑いそう言うと、ルイは右手を優希と海斗に向かって翳す。
「え?」
 どういう意味かと不思議そうに首を傾げながらルイを見つめた瞬間、目の前が真っ白になる程の光が放たれた。
 優希と海斗は眩しさで目を瞑る。
「おふたりとも、お気を付けてお帰りくださいね」
 うっすらと遠くでルイの声が聞こえた気がした。
 海斗は掴んでいた優希の手を力強くぎゅっと握り締める。



 ☆☆☆



 いつものように風を感じた。そのすぐ後――。
「いてっ!」
「いたっ!」
 体が浮くような感覚がした後、高い所から落ちたような衝撃に、ふたり同時に声を上げた。
「もうっ、瑠依さんってば、急に飛ばさないでほしいよ……」
 打ち付けた尻を摩りながら優希がぼやく。
 先程ルイが言っていた意味がなんとなく理解できた。
 恐らく、今朝ワンダーランドへ行った時もあの指輪を使ったのだろう。
「まったく……せめてベッドの上とかにしてくれたらいいのにな」
 同じように腰を打ち付けた海斗が顔を顰めながら溜め息を付く。
 ふたりがいるのは海斗の部屋の絨毯の上だ。
 この部屋の絨毯もふかふかのはずだが、これだけ痛いというのは勢いよく落とされているんだろうと推測する。
「優希、大丈夫か?」
 魔法で飛ばされたとはいえ、海斗は優希のことも渡された荷物もしっかりと握り締めていた。
 手を握ったまま、じっと優希を見つめている。
「うん……お尻が痛いけど、なんとか」
「それは困ったな」
「どういう意味だよっ!」
「そりゃ……もちろん……」
 にっと口の端を上げると、海斗は持っていた荷物を離し、体を優希の方へと移動させる。
「ちょっ……んんっ」
 優希の頬にそっと手を置くと、海斗は優希の唇にキスをした。
「あっちでは全然優希に触れなかったし、まだ夕飯には時間もあるしな……」
 唇を離すと、海斗はそう言って優希の肩を掴んで絨毯の上へと押し倒す。
「ちょっとっ!」
 真っ赤な顔で抵抗する優希を物ともせず、海斗はジャケットを脱がし、靴を脱がし、優希の上へと跨った。
「バカっ、もうっ! やだってばっ」
 なんとかして退かそうと海斗の腕や胸を叩くがびくともしない。
「優希……今日は泊まっていくよな?」
 頬にチュッと音をさせながら何度もキスをすると、海斗は耳元で囁くように問い掛ける。
「いかないっ!」
「ここはワンダーランドじゃないんだ。『今日は泊まる』と一言家族に連絡すればいい。そうだろう?」
 さらりと優希の髪の毛を触りながら、海斗が余裕の笑みを浮かべる。
「だからっ――」
「今日は帰さないよ、優希?」
 真っ赤な顔で怒鳴ろうとした優希の言葉を遮り、海斗は不敵な笑みを浮かべた。
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