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Black & White~そして運命の扉が開かれる~

第53話

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 優希と海斗が城に着く頃、グスターヴァルが森の入口へと下り立った。
 広げていた羽をゆっくりと折りたたむ。
 それと同時にアリスとジェイクが森の入口へと走ってきていた。
「グスターヴァルっ!」
 アリスが叫ぶ。森の周りには城の兵士も動物もいなくなっている。
 海斗が言う通りに今の所は運んでいた。
 グスターヴァルはアリスとジェイクの姿を確認すると、ゆっくりと腰を下ろす様に体を低くした。背中に乗りやすいようにしてくれている。
 ジェイクが先にグスターヴァルの背中へと飛び乗った。そしてグスターヴァルの脚の上に自分の足を乗せ、アリスに向かって手を差し出す。アリスはエーテルの剣を抱えている。
「ジェイク、これを先に」
 そう言ってエーテルの剣を両手で持ち上げる。ジェイクが柄を掴み、そのまま引っ張って受け取る。そしてすぐにグスターヴァルの背中に一旦置くと、再びアリスに手を差し出す。
「アリスっ」
「うん」
 アリスはジェイクの手を掴む。すると片手でぐいっと引き上げられる。ジェイクは細身ではあるが思った以上に力が強かった。いつになく男らしいジェイクに思わずドキッとしてしまった。
「大丈夫?」
 グスターヴァルの背中に乗ると、ジェイクがアリスを優しく見つめてきた。
「うん、大丈夫だよ」
 すぐにアリスはにこりと笑顔を返す。
「準備はいいか?」
 ふたりが背中に乗ったことを確認すると、グスターヴァルが低く問い掛ける。
「うん、お願いっ」
 アリスが答える。すると、それを合図にグスターヴァルがゆっくりと立ち上がり、羽を広げる。そしてバサッと大きく羽を羽ばたかせると一気に空へと飛び上がった。
「うわぁっ」
 ジェイクは思わず声を上げる。アリスは2回目だったが、ジェイクは初めての飛行である。興奮して目を輝かせていた。
「ジェイク、遊びに行くんじゃないんだからね」
 そんなジェイクを呆れた顔でアリスが眺めていた。
「少し急ぐぞ。ユウキ達が心配だ」
 グスターヴァルが飛びながらふたりに声を掛ける。
「分かった」
 アリスは答えながら、『グスターヴァルはほんとにユウキ中心に回ってるみたいだ』と思っていたのだった。ここまで想ってもらえる優希が少し羨ましくも感じていた。



 ☆☆☆



「まさか、子犬狩りで子猫も狩れたとはな。よくやった、ジャック」
 玉座に座り、囚われ跪かされている優希と海斗を見下ろしながら、イライザが満足そうにジャックに声を掛けた。
「ありがたき幸せに存じます」
 優希達から少し離れた位置で片膝をつき、ジャックが答える。
「ふっ、私から逃げようなんて馬鹿な真似をするからだ。可愛がってあげたものを」
 イライザはちらりと海斗を見る。
「結構だ。可愛がられるようなタマじゃないんでね」
 海斗はにやりと口の端を上げ、睨み付けるようにしてイライザを見上げる。
「ふんっ、ほんとに可愛くないねっ。……でも、その顔は嫌いじゃない」
 そう言ってイライザは玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りる。
 5段ほどある階段を下りると海斗の前に立つ。そして腰を屈め、海斗の頬を両手で掴んだ。
「相変わらずいい男だね」
 にやりと笑うと、イライザはそのまま海斗の唇に自分の唇を重ねた。
「っ!?」
 ずっとおろおろと様子を見ていた優希は言葉を失う。目の前で自分の恋人がキスされたのだ。声もなく驚き、呆然としてしまった。
「くっ……」
 しかしすぐにイライザが声を上げ、顔を離した。唇から血が出ているのが見える。
「年増は興味ないって言っただろ? 俺に触るな」
 海斗の口からも血が出ている。どうやら海斗がイライザの唇を噛み切ったようだった。先程よりも鋭い瞳で睨み付けている。
 愛する人の前でこんな醜態を晒されて、海斗は心の底から怒っていたのだった。
「ふんっ、まぁいい」
 イライザはぺろりと自分の唇を舐め、くるりと背を向けると再び階段を上る。そして玉座へと座り足を組む。
「お前たちはゆっくりと苦しみながら死んでいくがいい。あいつもな」
 そう言ってイライザが優希達の後方を指差した。
 ふたりはどくんと鼓動が強くなった。体が縛られてはいるが、なんとか後ろを振り返る。
 そこには、優希達と同じように縛り上げられ、兵士に連れられてきたエリスの姿があった。
「エリスっ!」
 思わず海斗が叫んだ。やはり捕まっていた。自分のせいで……。
 悔しくて申し訳なくて唇を強く噛み締める。
「カイトっ!」
 エリスも海斗の姿を見つけ声を上げる。
 逃げたはずの海斗の姿を再び見ることになるとは。助かってほしかった。しかも、大事な人と一緒に捕まってしまうなんて……。
 苦しそうに目に涙を浮かべている。
「エリスは関係ないだろっ。俺があいつを利用して勝手に逃げたんだっ」
 再びイライザを睨み上げると海斗が叫ぶ。
「ふんっ、あいつが手助けしてようとしてまいと、お前を逃がしたことには変わりないんだ。罰を与えるのは当然のことだ」
 ひじ掛けに肘を置き、口に手を当てながらイライザが鼻で笑う。
 海斗は必死に考えた。城の中に入るまでしか計画していない。その後はその場で考えると自分で言ったのだ。

(考えろ。何か方法はあるはずだ。魔女を倒して、俺と優希、そしてエリスが助かる道が……)

 床を見つめながら必死に考えを巡らす。しかし何も出てこない。海斗の額にじわりと汗が滲んでいた。

「海斗……」
 いつになく真剣に、そしてどこか余裕がないような海斗の横顔を優希はじっと心配そうに見つめていた。
(海斗ばかりに頼ってたらダメだ。俺も考えないと)
 そして優希もじっと前を見る。何かないか、どこかに……。
 そう思った時、イライザが座る玉座から少し離れた所に、これまた見事な姿見を見つけた。前に瑠依の店で見たものよりも更に豪華でキラキラと輝いている。まるで優希が首から下げている『メタトロンの鏡』のように――そう、鏡の周りは七色に輝くまるで宝石のような装飾がされており、鏡自体もキラキラと七色に光って見えたのだ。
(あれは?)
 思わずじっと見つめてしまった。あの鏡も何かあるのだろうか?
 そう考えた時――。
「優希君」
 すぐそばで、聞き覚えのある声が自分を呼んでいる。
「え?」
 優希はぼそりと囁くように問い返す。この声は……一体どこから聞こえるのか?
 他の人には聞こえていないようだった。誰も反応していない。
 しかし、この声は……優希はここへ来る前のことを思い出す。

『必要な時に私の名を呼んでください』

 ふと急に浮かんだ。あの時言われた言葉――そうだっ!

「瑠依さんっ! 瑠依さん聞こえるっ?」

 優希がこれ以上ないくらいの大声で瑠依の名を叫んだ。
 突然叫んだ優希を驚いた顔で海斗が見ている。
「何っ? ルイだとっ?」
 そしてイライザもぎょっとして周りを見回す。

「上出来ですよ、優希君」

 先程見ていたあの七色に光る鏡がふわりと光った瞬間、その鏡の前に、見覚えのあるあの綺麗な銀色の髪、透き通った緑の瞳で優希を優しく見つめている、瑠依の姿があった。
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