【完】仕合わせの行く先~ウンメイノスレチガイ~シリーズ1

国府知里

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Story-1 王都リベル防災大会

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 石畳の王都中央公園には、都民の多くが集まっていた。毎年の王都南西地区大火災の復興を祝い、そして再発防止を啓蒙するための大会がここで行われるのだ。

「国王陛下はお見えになるのですか」
「いや、やはり体調がすぐれないらしい。今回もやはりハリー殿下が大会を率いてくださるそうだ」

 リバエル国きっての由緒だだしきリベル士官学校の生徒たちは、整列をみだすことなくささやきあう。この炎天下にあっては、その制服の下に滝のような汗を流さずにはいられない。だがそのようなことを表にはおくびにも出さない。この二人を、監督生のモリスと、後輩のベンジーという。

「この暑さは相当こたえるでしょうね。国王陛下が心配です」
「まったくおれも、ベンジーに同感だ」

 モリスがベンジーをみた。ベンジーもモリスをみた。そして二人の視線は声のほうにむいた。

「はっ、殿下!」

 いつのまにかハリーが仕官生たちの列に並んでいた。

「殿下、なぜこのような場所に」
「おれが隊列に混じったことに気がつかないとは、この暑さがこたえているのはおまえたちのほうだな」
「も、申しわけありません」
「それよりも、先の火災で多大に尽力してくれた北東地区の一団がもうすぐ到着する。表敬をもって迎えてくれ」

 公園には各地や各機関からの参列者が続々と集まってくる。士官学校の隊列の隣にやってきたのは、国家最高の学術研究機関であり教育機関でもあるリベル中央大学の生徒たちだ。その中にはわずかだが女子生徒も交じっている。若い士官生たちがすこしばかり色めき立つのはいなめない。

 公園の中央には、大きな黄色い消防車両が並んでいる。これもまた消火活動の機動力となった功労者だった。王都各地から集めた車両は七台。北東地区の車両が合わされば、全地区がそろって八台。これほど整備された消防車両を持つ国家はそうはない。

「立派な消防車両ですね。あの黄色を見るたび、ぼくはこの国に生まれたことを誇りに思います」
「そうだろう。あれは兄上が行われた偉業なかでも、特別に優れたものだとおれも誇りに思っているのだ」

 リベル王都はその地理と気候の関係から、春は西から、秋は東から吹く風が強い。ひとたび火事が起こると、町の一角があっという間に燃え広がる。夏と冬はまた海風がつよく、都民は常に火災に気をもんで生活をしている。そんな都民にとって黄色い消防車は、町の安全のシンボルのようなものだった。

 そして、東の街道から北東の一団の列がやってきて、その隊列が少しずつ見えてきた。
 そんなとき、だれかがぽつんと言った。

「ここへあの一団が来たら、どこに入ればいいのかしら」

 確かに公園は参列者や見物人でいっぱいで、ぎゅうぎゅうにおしこめば北東の一団が入れる場所はないとはいえなくとも、決して表敬を示されたと思えるような空間はそこにはなかった。言われてようやくはっとしたハリーは、すぐにモリスたちに声をかけた。

「このままでは彼らが公園に入れない。一番の功労者たちが迎え入れられないなどとあってはならない。なんとかしなければ」
「し、しかし、一団はもうそこですし、この民衆たちにどうやって動いてもらえばいいのでしょう」
「どうすれば…」 

 士官生たちはあわてふためいた。ちからわざで民を押しのけるにしても、ここにいる人数では足りない。憲兵たちに知らせるにも、この人波をかきわけてでは時間がない上、統率が取れない。そんな状態で無理なことをすればけが人が出かねない。

「消防車をどかせばいいんです」

 さっきのつぶやきと同じ声が聞こえた。見ると、リベル中央大学の女子生徒だった。モリスは眼を鋭くして女生徒に食ってかかった。

「消防車両はこの大会のシンボルだぞ! どかせるわけないだろう。国王様も王宮からご覧になっているんだ」
「でも…消防車を動かすのは人ですよね? 人が動かなければシンボルはただの置物です」
「この不敬者が!」

 焦りもあってモリスがおもわず女生徒につかみかかろうとした。その手を取って押さえたのはハリーだった。

「いや、君の言うとおりだ。モリス、ベンジー、ゾイド、グラン、ベイン、ラケル、それからシヨン、各地区の消防車両担当者のもとへ急げ。バレンは北東の隊へ事情を説明しに行け。車を移動して、北東一団を迎える場所を作るのだ。
 車はゆっくり動かせ。決して誰も傷つけないように。いそげ!」

 ハリーの一声で、士官生たちは素早く散っていった。ハリーは女生徒の手をつかむと、公園の中央へ引っ張って走った。

「君はこっちへ。消防車をどこへ誘導すればいいと思う?」

 女生徒はひかれた手の強さに驚き、足の速さに必死なりながらも、手短に答えた。 

「広場の円形に合わせて丸く縦列しては? 東街道からの入り口をCの字のように開けておけば、北東の一団と車両はそこから入れるかも」
「なるほど」

 ハリーは広場の前方に控えていたラッパ隊に向かい、その隊長にすばやく何かを命じた。
 隊長は合図のラッパを吹きならし、大きな声で広場にむかってこう話した。

「これより消防車両の摸擬演習を披露いたします。ご参列の皆様、ご観客の皆様、どうかご協力おねがいいたします。
 行進曲に合わせて消防車両が動きます。皆様どうか互いに声をかけあって、われら消防隊員の成果のたまものをご覧ください」
「ラッパ隊、第三行進曲、用意、はじめ!」

 隊長の指揮とともに、ラッパ隊はまるで示し合わせたかのように、一音も遅れることなく高らかな音を鳴らし始めた。

「噴水の陣形! 左手から三台は、端から順に、公園中央から前方へすすめ! 右手から四台は、端から順に公園中央から後方へすすめ!」

 広場中心に止まっていた消防車両は隊長の指示通りに左右に分かれて噴水のごとく真ん中から円弧を描いてゆっくりと進んでいく。ラッパの音楽に合わせて、広場に黄色い半円ができ、次第にその間隔が広がっていく。動く消防車を見られてうれしがる子どもたちが、観客のあちらこちらで飛び跳ねている。

「円の陣形! 北東地区車両は、東街道から侵入し陣形をとれ!」 

 北東の消防隊員と車両は、たった今着いたにもかかわらず、隊長の指示通りに車両を運ぶ。八台の消防車両が公園に輪を描いて止まるころ、隊長が令を放った。

「隊員中央へ整列!」

 駆け足の音がラッパとともに鳴り響き、それがやむとほぼ同時に、各地区の消防隊員たちは一糸乱れぬ列をつくってそこへ立っていた。音楽がやむと同時に、拍手と歓声が惜しみなく注がれた。この見事な演習が、まさか急をろうしたものだろうとは、観客たちは誰も疑わなかった。

 ハリーの指示で大会はその流れのまま始まった。ハリーとラッパ隊隊長は部下たちに進行任せてようやく、ふーっと息を吐いた。

「何とか無事に始まりましたな」
「ラガン隊長、よくやってくれた。まさに日頃の訓練のたまものだ」
「殿下のご指示のおかげです。殿下に火事場で陣形をとるのと同じだ言われてはっとしました。
 こうも人が、しかも火事もないのに集まっておりますと、柄にもなく舞い上がってしまいました。お恥ずかしい限りです」

 ふたりのもとに、額の汗をぬぐいながら士官生たちが戻ってきた。モリスは興奮を隠しきれない様子で言った。 

「すばらしい編成隊列でした、ラガン隊長」
「いやいや、君たち士官生が素早く伝達してくれたおかげだ」

 たたえ合っているかれらをよそに、ハリーはあたりを見渡した。

「おや…、あの女学生はどこへいったのだ?」


 ・・・・・・・・


 王都にそびえるリバエル王宮は、中央に向かって主に三層に分かれている。一層目をダイネル宮。二層目をモンドナ宮。王殿がある三層目をルビアス宮という。ダイネルは第六代リバエル王の名前で、城は岩や石などの堅牢な作りとなっている。
 モンドナは第八代王の名で、主に土や貝を原料とした粘土やレンガなどの土壁が特徴の城となっている。ルビアス宮は主に木造でできており、なんども建て替えられているが、名前は変わらず第三代王の名で呼ばれ続けている。そして、第一代目国王の名はそのまま国の名まえとなって呼ばれている。

 今、ルビアス宮の王殿では、国王と弟が冷やした甘茶を飲んでいる。

「ハリー、先の大会では大役をよく果たしてくれた。近隣の村や町からも随分と民が来ていたそうだな」
「ありがとうございます。まったく、あれほど民が集まるとはだれも予想できませんでした。
 しかし、それほど先の大火でなくなったものを悼む心は厚く、また人々にとって火災が切実な問題だという表れでしょう」
「ところで、報告に受けた消防車両を移動を進言したという生徒は見つかったのか」
「それが、中央大学に使いを出しましたが、そのような者はいないと。女生徒でしたし、
 みなりからして貴族ではないのはわかっていましたから、すぐに特定できると思ったのですが」
「それはおかしな話だな。だれぞ大学に忍んでいたとすれば問題ではあるが、今回の件を鑑みればつまらぬことで咎めてもな。
 それに女であろうと身分がなんであろうと、有能な人材は国の宝だ」
「では、国王のお許しをもって、この娘を探し出してもよいですか」
「まあいいだろう。だが、仕事は怠らぬようにたのむ。わたしの代わりはお前しかおらぬ」
「はい、ジニエル兄さんはゆっくりと養生してください。姉君の心配そうな顔が見ていてたまりません」
「ああ、そうさせてもらうよ」

 ハリーは十八歳になったばかりだが、兄の急な病を受けて、王の執務を肩代わりしている。王位継承者の王族の多くは、士官学校で将来の臣下と共に学ぶのが習わしであるこの国では、ハリーもつい半年前までは学友とともに学び舎で過ごしていた。年の離れた実兄であるジニエル国王は、国内外のともにすぐれた人物と評される男で、国家財政は安定しており外交問題も少なく、国民の多くはいつ起こるとも知れぬ火災を除けば、安心し満足して暮らしていた。ハリーもその兄を敬愛しこの上なく慕っている。

 行政において若輩の弟は兄と比べて事足らぬ不安を持たれてはいるが、その明るい人柄や気さくな性格は兄とは違った魅力をもって多くの民から好かれており、学友たちからの人望も厚い。そして自らの未熟さを知っているがゆえに周りの話に耳を傾けつつも、時に兄譲りの行動力や決断力を発揮する場面もある。日頃から古株の家臣には落ち着きに欠けると揶揄されるが、はつらつとした若さはむしろ為政者としての伸びしろを感じさせるものだった。

「それじゃあ、あの娘は、大学に茶葉を納品しに来ただけなんだね」

 ハリーはベンジーとともにリベル中央大学にいた。ハリーのお供を買って出たモリスは監督生の君がいなければ困るだろうという理由で士官学校へとどまり、かわりにベンジーがともにつくことになった。ハリーを崇拝しているモリスはこらえてはいたが、ベンジーが気が引けるほど悔しがっていた。ベンジーはあとでモリスに逐一報告せねばならないのを覚悟した。

「その茶葉はどこから仕入れているんだい」
「実は宮邸指定業者ではないのです。茶屋を併設している小さな店なんですが、シェフが気に入っていまして」
「その分の利ざやを懐に?」
「めっ、めっそうもありません!ちゃんと帳面ならここに」

 ハリーは笑った。

「冗談、からかっただけだよ。その包みをもらってもいいかい」

 茶葉を受け取ったという仕入れ係の男は、包み紙を渡した。テレ茶房、リベル王都東区。ハリーはベンジーは東区へやってきた。町の人々はハリーだとわかると、めいめいに声をかけたり手を振ったりする。国王であれば考えられないことが、ハリーには許されるのだ。

「東区といえば、あのソーセージをはさんだパンの店があったな」
「いいですね、ぜひ寄りましょう」

 こんな具合に従者も役得を得られるのだった。ハリーは朗らかに笑う。

「気が早いな。娘を見つけた後だぞ」
「そんなのすぐですよ。ほら、もう茶屋です」

 茶屋の店主はハリー殿下をみるやびっくりしながらも、昨日の消防車両の演習がどれだけ素晴らしかったかをしゃべりたくった。結局店主は車両が解散する姿しか見られなかったのだが、妻に聞いた詳細をまるで自分が見たかのようにしゃべっりまくった。

「ぜひまた秋辺りにでも大会を開いて演習を披露してほしいものです。このテレは切に願います、殿下」
「いいね、検討するよ。ところでご主人、中央大学に茶葉を納品しているそうだな」
「はい。いつも大学のシェフにはごひいきにしていただいております」
「たしかに、なかなかの品ぞろえだね」

 ハリーは壁一面に並べられた茶葉の入ったガラス瓶を端から順に目で追った。

「かなり珍しい産地のものもそろっている。これだけの品数でこれだけ管理が行き届いているなら、官邸に入れてもいいくらいだ」
「へえっ!?」

 テレは並び替えたばかりの茶葉の便の列と、ハリーの顔を交互に二三度見くらべた。

「そうだな。あの一番上の左端のソルタロン産を、ミルクティーで一杯くれないかい」
「はっ、はい!喜んで」

 テレが茶を入れている間、ハリーは本題に移った。

「それはそうと、昨日はいつもと違う人物が納品に来たと言っていたな」
「ええ、昨日は、女房のやつがどうしても大会に行きたいというもんですから、人を雇ったんです。
 ちょうどいい具合に使いを頼まれてくれました」
「その人物に少しばかり用事があるんだが、今いるかい」
「いや、いませんが…。まさかあの娘なにかしでかしたんですか?」
「そうではないよ」
「実を言いますと、雇ったといいましても、あの娘とはあの日会ったばかりでして。使いの仕事を頼んだのもあのときだけなのです」
「では、その娘は今どこに? 名は何という?」
「いや、名前はわかりません。聞く間もなく行ってしまったもので。でも行った先ならわかりますよ。
 わたしが住み込みの仕事先を紹介してやったんです」

 一杯の茶をたしなんだ後、店を出た二人。

「ダモ縫製工場。南西地区の第二小路か」
「火災で一番被害があった場所ですね」
「こうなるとおれはいったん城へ戻らなければならない、仕事を残してきたからな」
「わたしが代わりに行ってみましょうか。彼女の顔はわたしも知っていますし」
「そうだな、頼む。ああ、それと帰りに大学へ寄ってもらえるか」
「はい」
「あの仕入れ番に、この店のあの茶葉を義姉上のもとへ、そうだな、月に一度一〇〇グラムずつ納めるように言ってくれ。
 請求はおれに回すようにな」
「わかりましたが、それなら直接お城のものに頼みましょうか。そのほうが早いですよ」
「今頃シェフと仕入れ番があらぬ疑いをかけられて青い顔になっているかもしれないから、安心させてやろう」 

 あはは、と二人は声をあげて笑った。



 ・・・・・・・・



「マーハリック、マリック、炭と枝~♪」
「ぷっ、シーラ、なにその歌?」

 十五くらいの娘が手元から顔を上げて、ルームメイトを見た。シーラの手元には、端をとがらせた細枝の木切れと、折の付いた紙の中には、炭とすすが入っている。

「気にしないで、口癖みたいなものだから。あ、気になるならやめるけど」
「別にいいのよ。つけられた新人があんたでよかったわ。だって、あんたと同じ日に入ってきたソナって子。
 貧乏人もいいところ、靴下も履いてないんだもの。四六時中びくびくしちゃってさ、見てるこっちの気がめいるわよ。
 それより何をやってるの」
「さっき、厨房のパドにもらったの。彼女、はす向かいの椅子工房の人といい仲なんですって」
「ああ、ダムのことね。まあ、さえないけど、まじめ差だけが取り柄の男よね」
「マリったら、パドが聞いたら怒るわよ」
「でも、そんなものもらってなにをしようっての。あら、もしかしてそれをもらう代わりに、配膳の役をパドから押し付けられたの?」
「別に押し付けられたわけじゃないわ。それにこれは役に立つもの」
「へーえ?こんなものが?」
「見てて」

 シーラは拾い集めておいた紙くずを取り出して、枝でカリカリと字を書きつけた。粉にした炭やすすを溶かして枝に染みこませておいた小枝は、満足とはいかないが簡単なペンの役割を果たすようだ。

「あらやだ、あんた、字が書けるの?こんな工房に来るくらいだから、てっきりあんたのことを田舎から出てきたばかりの
 鼻の一音だと思っていたわ」

 鼻の一音、というのはこういうことだ。リバエル国の古くからの慣習で、名前の文字数によって身分がわかるようになっている。王族は四文字、貴族は三文字。市民はたいてい二文字の名まえが多い。厳格な決まりや法律があるわけではないが、身分以上の文字を持つ者は鼻持ちならない奴と思われるので、そういうものを嘲笑の意味合いを込めて『鼻の一音』と呼ばれる。

 この呼び名に類して『見栄の一音』というものがあり、これは平民出にも関わらず貴族の妻や貴族の養子になった者に対してよばれるものだ。例えば、タリという名前の女性が、ある貴族の妻になった場合、つまり正式な戸籍に入ることになった場合、名前をタリーやターリというふうに改名することがままあるのだ。

 この慣例を習って、正式な戸籍に入ることはないが、貴族に近しい平民でとりわけ雇い主から目にかけられるような者が、『鼻見栄の一音』を名乗ることがある。すなわち愛人や信頼の厚い屋敷の使用人などがその例である。鼻見栄の一音は通称なので、普通主人のもとを離れると使われなくなるはずだが、そのまま三文字の名まえで暮らすものが多い。そのほうがいい仕事につくことができるからだった。

「鼻見栄の一音ってことは、シーラはお屋敷勤めをしたことがあるんでしょう? なんだってこんなとこへ来たのよ。
 もっといい仕事にありつけたでしょうに」
「なんでって、人から紹介されたからよ。町へきてすぐ住み込みの仕事がみつかるなんてラッキーだったわ」
「まさかあんたが貴族様の愛人だったなんて言わないわよね。ちょっとお手付きくらいでしょ?だって十人並みのあんたより、
 あたしのほうが数段美人よ」
「そんなこと言ってる間に休憩時間が終わりだわ」

 南西地区のダモ縫製工場は先の大火ですべて焼け、今は立て直され営業を再開しているとはいえ、突貫工事の隙間風だらけの工場である。
このまま冬を迎えれば厳しい労働になるのは目に見えていた。そのために女工たちは早く壁が補強されることを祈りながらせっせと働いている。

 オーナーのダモはケチで金にきたなく、もともと評判のいい男ではない。それが大火で工場を失い、失った損を取り戻すのに躍起になっている今、女たちは以前にもまして厳しい労働を強いられていた。その労働条件の悪さもあり、ダモの工場に働きにくる女たちは、他に行くところのない食い詰めたものやシーラのような宿無しのものばかりだ。一方でやめていくもの多く、ダモの工場がいつも人をもとめていることを町で知らぬものは少なくない。

 工場は一階で、二階は女工たちの寮になっている。二十八人いる女たちの半数ほどが寮住まいである。女たちはその技能によって扱うものが異なっており、熟練工はレースや刺しゅう、裕福な商家のドレスを縫うこともあるのでそれなりの金額がもらえるが、入りたての未熟な女工はベッドシーツや下着など安くて簡単なものしか縫製させてもらえない。ここでそれなりの給金を得るには、早く仕事を覚え、一枚でも多く縫うことだった。

「次はシーツの縫い方を教えるわよ。生地は大きいけど、作りはそう複雑じゃないから楽よ。でもその分たくさん縫わないといけないわ」
「わかったわ、マリ」

 シーラは手製のペンと紙でマリのいうことを書きつけていく。作業は単純なので、その場で覚えられることは覚えるように努めるが、この工場で使われる専門用語やききなれない言い回しなど、後で見返して役に立ちそうなことを書いておく。
 そしてもうひとつ、シーラがメモがあったほうが役に立つと思ったわけがある。先日のことだ。

「おい、シーラ、この箱を五番テーブルへもっていっておけ」

 工場長のゴドのがシーラに命令をした。五番テーブルは廃棄するものを置いておく場所だ。言われた通りにした翌日の朝。

「おい、シーラ! ここにあった箱をどこへやった?」
「それなら五番テーブルに。たしか昨晩処分に引き取られていきました」
「なんだって! おれは四番テーブルに持って行けと言ったはずだ! 大事な生地が入っていたのに、この分はお前の給料から
 差し引くからな!」

 こんなぐあいである。ゴドはごつごつとした細身の体躯で顔にいやみのある男である。仕事はずさんなところも多く、失敗は部下のせい一方で成功は自分のおかげという男で、女工たちはみなその被害に巻き込まれないよう常に気をめぐらしている。
 今朝はソナが同じような目にあってやり玉に挙げられた。ここに来るまでにいろいろとあったのだろうと見えるが、終始おどおどしたソナには女工仲間たちも関わりたがらない。そうしてなじめないところへきて、ゴドの火の粉に充てられては、哀れというほかなかったが、自分も巻き込まれたくない女たちはそ知らぬふりでやり過ごすのだった。

「おいシーラ、仕事には慣れてきたか」
「はい、工場長」

 シーラとマリは手を止めて、ゴドを見た。

「なんだその木切れは。おまえ、字が書けるのか」
「先日のように間違えることがないようにと思いまして」
「ふうん、それはいい心がけだな」

 そのすぐあと、シーラはゴドから呼ばれて執務室へ入った。

「それで、おまえはどこで字を習ったんだ」
「以前暮らしていたお屋敷です」
「ちょっとここへきて、ここにこれと同じものを書いてみろ」
「はあ」

 シーラは羽ペンを借りて、納品書に書かれた品目をその通りに紙に書いた。ゴドはその字ををじっと見ていった。

「手紙を書いてくれないか、シーラ」
「はあ…、手紙くらい自分でお書きになればいいのでは」
「恋文だよ!」

 ゴドは自分が書いた納品書のサインを見せた。

「見ての通り、おれは字が汚い。それに、女性がうっとりするような恋文の文句がわからない」
「つまり、恋文の代筆をしろと」
「そうだ」

 断られないと知っている強引な態度だが、ゴドは机から薄紅のきれいな便箋を、まるで羽か金ぱくかのように大事そうに出した。

「センスがいいですね。その便箋ならきっともらった女性はこころよい気分になるでしょうね」
「そうだろう」
「わたしもちょっとしたものをもらえたら、こころよくお手伝いできるような気がするのですが」

 次の日、朝礼で女工たちは信じられない光景を身にすることになった。

「ソナ、おまえにこれをやるから使え」

 ゴドの手からおどおどしながら受け取った包み紙から出てきたのは、新しい婦人用の靴下だった。その日一日中、女たちはどういう風の吹き回しがゴドの身に起こったのかを噂する楽しみにくれた。

「さて、約束は守ったぞ」
「はい、約束のものはここに」

 執務室に呼ばれたシーラは、昨夜書いた手紙を渡した。

「読みましょうか?」
「頼む」
「それでは。…親愛なるデル嬢様へ」

 真新しい靴下をはいたソナは、なにやら急に明るくなった。靴下も履いていない、という引け目がなくなったことが、よほどの効果を示したらしい。びくびくした様子や卑屈そうな雰囲気が消え、周りの仲間たちと過ごす時間も増え、仕事ぶりもめきめきよくなった。

「ゴドとソナはできているのかしら、ねえシーラ」
「それはないと思うわよ、マリ。工場長はほかにお目当ての女性がいるみたい」
「だったらソナがかわいそう……でもないわね。ソナはゴドのことは何とも思っていないみたいだもの。でもだとしたら、いったいどうしてあのいやみったらしくて仕事のできないくず男が、好きでもないソナを目にかけてやったのかしら」
「恋は人を変える力があるのかもね」

 それから少しして、女工たちの間でゴドにいい人ができたという噂が広まった。

「この間見ちゃったのよ、あれは西区の生地問屋で働いているデルって娘よ」
「だから最近私たちにも優しいのね」

 女たちはいつもは憎々しく思っていた工場長の別の一面を知り、微笑んだりあげつらったり、褒めてみたりけなしてみたりと忙しい。マリはシーラの脇を肘でつついた。

「あんたの言うとおりになったわね。なにか知ってるの?」
「わたしはこの間ここへ来たばかりなのよ。あなた以上に知ってることなんてないわよ」
「それはいえてるわね…」


 ・・・・・・・・


「縫製工場にはいなかったって?」

 ハリーに報告しにきたベンジーはことの経緯をはじめから話し始めた。 

「ぼくはあれからすぐ、ダモ縫製工場に行きました。ちょうど昼時でしたが、責任者は留守だったので、女工に聞いてきたのですが」
「最近入った娘を探しているって? あんたみたいなエリート坊やが、こんな場末の女に引っ掛かったのかい」
「ちがいますよ。それで、どこにいるんです」
「そうだねえ、あの子と、それからあの子」

 女工が指さした方向には中年の女と、そばかすの女がいた。

「いやもっと若い、十四か五ぐらいの」
「だとしたら、えーと、あの子だよ」

 女工の指はソナを向いていた。

「念のため、その場にいた何名かに聞いてみましたが、いないとすればもうすでにやめたのだろうといわれました。
 顔ぶれの入れ替わりはよくあるそうです」
「あまりいい職場ではないな」
「はい…」
「それで、娘は全くの別人だったんだな」
「はい、姿かたちも雰囲気も、見間違えようのない別人です。誓ってもいいですが、あの娘ではありません」
「他に働き口を見つけたのかもしれん。だとしたら、検索網を広げなければ見つからないだろう」
「思ったより時間がかかりますね」
「おれは仕事もあるし、こればかりに時間を割けない身だ」
「ぼくでよければ捜索を続けます。ですが…」
「うん?」
「それほど探す価値がある人物なのでしょうか」
「というと?」
「確かにあの娘は、あの日あの状況を打開する策をだしました。でも、あれくらいのことは誰でも考え付くことです。それほど頭が切れるとは思われません」
「おまえの言う通り、後から聞けばそれくらいのことは誰でも思いつくと言えるだろうな。だが、あれだけの人出を前にして時間もない中、おれや多くの官僚たちがつかいものにならなかったのは事実だ。まして公務に近い者ほど、町のシンボルをどかそうなどいう発想には至らなかったにちがいない」
「それはそのとおりですね…」
「兄上に恥をかかせずに済んだ。それだけでも十分な礼に値すると思っている」

 ハリーはなにやらにやりとした。

「それに」
「え?」
「つかまると思っていたものがつかまらないと、次第にどうしてもという気になってくる。これは狩猟本能というものだ」
「ええっ……」
「なんだ、意外か?」
「殿下は年上の聡明な女性がお好みかと思っておりました」
「聡明か……。あの娘には聡明というものとは違う、なにか別のものが感じられた。もっと軽快な、もっと明るい感じのする」
「はあ…、ぼくにはわかりませんでしたが。でも、結婚とは違って恋愛は自由ですから…」
「誰が恋愛だと」
「ですから、あの娘です」
「おれは結婚相手の話をしているんだ」
「へえっ?!」

 ベンジーはどこから出てきてのか首をしめられたにわとりのような声を上げた。その顔はまさに目玉が飛び出るほどに見開かれて、開いた口からはスカスカと息が漏れるだけで声が出ない。ハリーはひとしきりその顔を見つめた後、「冗談だ」といって一人で大笑いし始めた。ハリーの執務室を出たベンジーは、今一番会いたくないと思っていた先輩と顔を合わせてしまった。

「ベンジー、その後どうだ?」
「モリスさん…」
「なんだ、その顔は。まさかハリー殿下になにかあったのか」

 殿下に心酔しているモリスにこのことを告げたらどうなるのだろう。きっと怒り狂って、あの娘を絞殺しに行くかもしれない。いや、いっそのことそうしたら、探す手間が省けていいのかもな、などと考えてベンジーは頭の片隅で笑えてきた。

「なんだ? いいことがあったのか、わるいことがあったの、どっちだ」
「なんでもありませんよ。ちょっと考えごとをしていただけです」
「なんでもないように見えないから聞いているんだ」

 しつこく聞いてくるモリスに、ベンジーは最後には口を割った。

「モリスさんは、殿下の結婚のお相手についてはどう思われますか」
「結婚?まさか婚約がきまったのか?」
「そうではありませんが、殿下がご自身の結婚について語られたのをはじめて聞いたものですから」
「ほう、それで」
「冗談でこうおっしゃったんです。…冗談ですよ」
「だからなんて」
「結婚相手の候補に、あの娘はどうかなって」

 これもまたどこから出たのか、ひいとかきいとかいうヒステリックな鳴き声が廊下に響いた。

「だれがだれのなんだって!」

 ベンジーはしめあげられた首から、だから冗談です、と搾り出すのがやっとだった。

「確かに、お相手を真剣に探されてもよいお歳だが…!」
「最近、家臣たちからうるさくからもいわれるので、いっそ、だれとも知らぬ平民の娘を候補にして、ちょっと冷やかしてやろうかと思ったりするとか、おっしゃってました」
「なんというご冗談を!わたしが進言してまいる!」
「いや、やめてくださいよ!ここだけの話っていわれてるんですから」

 少し落ち着いたモリスはベンジーとともに場所を変えた。

「まったく、殿下もご冗談も過ぎる。いったい何をお考えなのか」
「モリスさん、ぼくが思うにこういうことではないかと」
「なんだ」
「王様とお后様にはまだお子がいらっしゃいません。ですから、殿下はお二人の子が生まれる前に自分の子をさずかることに
 ご遠慮なさっているのではと。その一方で、家臣たちは国家安泰のために王位継承者となるお子が欲しいので、殿下を急かしてしまうのです」
「わたしは正直いうと、殿下は義理の姉上様のことを忍んでいらっしゃるからだと思っていた」
「ぼくもさっきまでそう思っていましたが、聡明な年上美人が好みというわけではなかったようです」
「くっ、それでなにがよくて、あんな小娘を!」
「だから、それは冗談とおっしゃったじゃないですか。…でも、正直どこまでが冗談なのかわからなかったんですが」
「ううっ、殿下…!」
「落ち着いてください、モリスさん」
「ぜったいに許せん!殿下の妻が平民だと。平民の候補だと!」
「しかし、王家に平民の血が入った記録は正式なものだけでも三回はあります」
「ハリー殿下にあってはならん!」

 もう少し落ち着かせるために、ベンジーはモリスを外へ連れ出した。こうしてすこしずつハリーと物理的距離をおくことで、次第に心理的な距離も測れて落ち着くことを、ベンジーは長い付き合いで心得ていた。おかしな先輩を持つと後輩は苦労である。

「殿下にはきちんとした家柄の貴族の中から相手を選んでもらわなければならない」
「ええ、きっとそうなると思いますけど、当の殿下はまだちっともそういう素振りがありません」
「確かにな。茶会や夜会であれほど多くの年頃の娘たちに囲まれているのに、だれも殿下の心をいとめるものはいないのか」
「そうですね。でも、もし射止める方がいるとすれば、それは決っていますよ」
「うん…、まあそうだな」
「まあそうだな、ではありません。そうなんです!」

 今度はなにやらベンジーが興奮し始めた。

「ハリー殿下は国政を担う上で、外国の姫君を迎え入れることもありましょう、ただ!」

 ベンジーの瞳はきゅうに熱っぽくなって、なぜか劇的な間を入れる。

「ぼくの愛しい姉君ノエル姉様、もしくはかわいい妹マチルちゃん!」

 さらに劇的な間。

「わが国の貴族から殿下に相応しい女性をえらぶなら、この二人を置いて右に出るものはいない!」
「お、おお…」

 気おされたモリスはひとまず頷いた。 

「そうだな、そうだった、ベンジー。おまえの姉君と妹君がいたな。そうだった…」
「そうですとも! 聞いてくださいよ、モリスさん! こないだなんか、ノエル姉さまとマチルちゃんが一緒に、ピアノの連弾をしましてね! ふたりともいつも同じところで間違えちゃうんです! これが何度弾いても間違えちゃうんです! もーっ、かわいくって!」
「お、おお…」
「それでね、それでねっ」

 モリスはベンジーの話にひたすら頷いた。こうして気が済むまでひたすら姉妹の話を聞いてやることで、ベンジーがいずれ落ち着くことを、モリスは長い付き合いで心得ていた。おかしな後輩を持った先輩も苦労である。




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