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第一夜
しおりを挟む――ずっちゅ、ぐっちゅ、ぐちゅっ。
はあ、はあ、と荒い息遣い。遠くでサイード様の声が聞こえる。
「ふっ、ふうっ……! なんとも奇なるものよ。男の穴とはこのように食らいついて離さぬのか……。おい、レィチェ、聞いているのか、レィチェ」
「……は……はぁ……はぁ……」
もはや、何度目かもわからない。中にこれ以上入らないというほどに放射せられて、僕自身も幾たびも放たれて、全神経がすべて糖蜜のようにとろかされて……。
遠くの声を聞きながら、僕は疲労とまどろみの中へ溶けていった……。
***
遡ること数時間前……。
「ほ、本当ですか……、サイード様……」
「ああ、お前が本当に俺に見せてくれたらな。その最上の桃源郷とやらを」
冷たい瞳でニヤリと口だけで笑うサイード・スレイマン・グリードシャバーヌ。この男こそ、他国の追随を許さないシャバーヌ王国の若き帝王だ。そして僕は彼に捧げられた供物。それもこの異国では性奴隷として扱われる男娼。
僕の顎を乱暴に掴んで、サイード様が引き上げた。冷たい雨のように視線が体を降り注いだ。
「どうだ、やる気はあるか?」
「……本当に、ラピュートナリアム国をお救いくださるのですか?」
「二度も言わすな。俺は気が短い」
「やります……!」
急いて答えた。鋭い瞳がさらに細くなった。
「フン……。口ほどにもなければ、日の目を見られんと思え」
「そ、それより、どうか約束をして下さい。僕のご奉仕がサイード様をご満足させた暁には、きっとラピュートナリアム国をルーマン様に……、ナリアム王家にお返し下さると。どうか……!」
「お前も愚かだな、どうしてお前を捨てた男をかばう?」
「ルーマン・シャリフ・ナリアム様は僕を捨てたのではありません……! 僕はラピュートナリアムの桃香花。目上の者に対しルーマン様はもっとも価値のあるものとして僕をサイード様に贈ったのでございます」
「はっ……!」
腹の底からおかしいとばかりに、冷たい笑いが渇いて響いた。
「わが国では最上級の捧げものとして金仙花……つまり家臣共が手塩にかけて磨き抜いた己の娘を王である俺に差し出す。我が王家の子を産み一族を増やし栄えをもたらす女であるからこそ価値があるのだ。ラピュートナリアムの国習とはまことに異なるものよ。男のお前にどうしてそのような価値がある」
「それは……」
「国の歴史だか宗教だか知らぬが愚かだ。愚かにもほどがある。男同士で交わったところでなんの生産性も意味もない。愚か極まりない国が我が大国に滅ぼし尽くされるのは命運というものだ」
ああ……! この方は本当になにもご存じない。我が国が代々伝え守ってきたシェフテリィーの伝統を、その真価を。シャバーヌ国が穢れなき娘をアイニセファーとして王に捧げる国習が貴ばれるのと同じように、ラピュートナリアム国ではシェフテリィーが幸福をもたらすものとして貴ばれてきた。そこに違いはあっても、古くから重きを置かれ人々の信仰の要になってきたことは全く同じであるのに……。
顎を掴まれたまま、悔しさに震えた。
「その顔。言いたいことがあるなら言え。それともなにか? さっきのは口先だけの戯言か」
「い、いえ……」
「だったら、さっさと奉仕せぬか!」
掴まれた顎をそのまま後ろに強く放り出された。倒れたベッドは柔らかかったが、こんなふうに手荒く扱われたことは初めてだった。気持ちを強く持っていたつもりだったのに恐怖で震えた。自分の手が別人の手のようにぶるぶると震えている……。
「それとも、俺に犯されるのを待っているのか?」
ギクリ、と背筋が凍った。いつの間にか背後に迫ったその低い声と威圧。体がすくんでいうことをきかない。満足させると大口を叩いてしまったが、僕にこの方のお相手が本当に務まるのだろうか……。恐る恐る振り返ると、野生の獣のような冷たい目が私を見下ろしていた。
「ヒッ……」
「まあいい。謂れ高き桃の花とやらを話のネタに散らしてみるのも一興」
ガブッ、と噛みつくように大きく唇でふさがれた。息もできないほどの激しい口づけ。息を吸うために首を反らそうものなら、ぐいっとさらに追い詰められる。こんなに荒々しく求められるのは久しぶりだ。本当に獣のような勢いだ。
うろたえてしまったが、サイード様の呼吸とお好みに合わせてみる。ハッと、サイード様が一瞬止まった。互いの視線が互いを見つけた。
「……」
「サイードさ……、あっ……」
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