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#12、 聖水のエレスチャル
しおりを挟むステージ毎のお約束。
新着アイテムを知らせに、商人がやってきた。
ラリッサとメローナが先ぶれを出しておいてくれたおかげで、商人は既婚者と女性のみだ。
奈々江にはありがたい。
「ナナエ姫様の黒髪には、このつやつやした焼き物の髪留めが似合います!」
「ドレスはこちらの花柄はいかがでしょう?
共布のお帽子も素敵ですわ」
ラリッサとメローナが見立ててくれるものをそのまま購入を決めた。
なにせ、ステータスの支度金の残高は無限になっている。
迷う必要などないのだ。
一通り買い物が終わると、奈々江は商人を呼び止めた。
男性がトマス、女性がベラ。
ふたりとも、城下に店を持つ大店の店主だ。
ベラは先約があるというので、トマスが残ってくれた。
「聞きたいことがあるの。少しいいかしら」
「もちろんでございます。
ナナエ皇女殿下が多くをご購入下さったので、わたしもベラも胸をなでおろしております。
お役に立てることならなんなりと」
「どういうこと?」
「皇太子妃選びがなくなったので、候補の姫君やご令嬢たちが次々に城を後にしております。
わたしどもは皇太子妃候補のみなさまからの多くの受注を見込んで準備しておりましたから、正直皇太子妃選びがなくなったと聞いてがっかりしていたのです。
今ナナエ姫様以外に城に残っているのは、ビバルディ伯爵令嬢様とトリステン皇女殿下だけだと聞いております」
(えっ!? ビバルディが残ってる!?
しかも、隣国の皇女で知略家の、主人公と最後までグレナンデスを巡って競い合うあのトリステンが残っている……!
す、すごい、やっぱりライバルキャラはだてじゃない!)
思わず笑みを浮かべていた。
帰れといわれても居座るだけの神経の太さを持ち合わせているなら、今後奈々江に対してなにかしらのアクションを仕掛けてくる可能性は大いにある。
「それで、なにをご所望でしょうか?」
「あ、ええと……。
太陽のエレスチャルのことなんだけど」
「さすがはエレンデュラ王国の皇女殿下にあらせられます。太陽のエレスチャルをご存知だとは。
しかし残念でございますが、この世にたった一つしかないといわれている太陽のエレスチャルは、すでに誰かが所有しており、市場には全く出回らないのです」
「そう……。それで、例えばなんだけど、そういう魔法のアイテムを装備したり外したりするには、どういう方法があるの?」
「太陽のエレスチャルのような小さな石でございましたら、衣服に縫い留めたり、アクセサリーなどにして装備いたします。
春風のマントや天使のティアラなどと変わりなく、普通の衣服を身に着けるのと同じでございます。
エリクサーやポーションのようなものでしたら、口から摂取いたします。
口から摂取するようなアイテムは、時間が過ぎれば自動的に効果が消えてしまいます」
「例えばだけど、太陽のエレスチャルを飲み込んでしまった場合はどうなるの?」
「それは聞いたことがございませんね……。
しかし、太陽のエレスチャルのような高価なアイテムを間違っても飲み込むなどということは起こりえないと存じます」
「そ、そうよね……。だけど例えば、子どもやペットが飲み込んでしまうような場合だってあるでしょ?」
「確かにないともいいきれませんが……。
あ、そういえば……、それに近いことがあることにはございます」
「えっ、本当?」
「アイテムを飲み込んだわけではありませんが、体の中に貴重な魔法のアイテムを持っているという人物がいらっしゃるのです。
その方の場合は、その方の母君がご懐妊中に酷くご体調を損なわれ、司教から天啓の聖水を飲むように勧められたそうです。
その後、母君はご体調を取り戻し、無事にお子を出産なされました。
そして、そのお子には生まれたときから、聖水のエレスチャルが備わっていたそうです」
「聖水のエレスチャル?」
「はい。なんでも、聖水のエレスチャルを持つ者は、どんな相手でもその心のうちを全て見通すことができるそうです」
そのとき、奈々江は思い出した。
(それって、第二皇太子のシュトラスのこと……!?
シュトラスは確か王家の中でも魔力に秀でていて、生まれつき相手の心が読めてしまうっていう設定だった。
そうか、考えてもみなかったけど、体の中にアイテムを持っているという意味ではシュトラスと同じなんだ……)
「それって、聖水のエレスチャルを取り出すことって、できるんですか?」
「さあ、そこまでは……。しかし、その話はあまり大きな声で話さないほうが良いと存じます。不敬に当たりかねませんので」
「た、確かに……」
生まれたときから持っている力を、しかも王族から奪うなんて、この世界では考えられないことだろう。
下手に探りを入れれば、いらぬ疑惑を招きかねない。
(……だけど、有益な情報が聞けた……!
しかも、このあと王家のお茶会に呼ばれている。
シュトラスに直接話を聞けるかもしれない)
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