赤い瞳のヒューマノイド

至北 巧

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 彼女が仕事から戻っても、彼女を迎える言葉の一つも出ない。
 彼女は覇気なく、私に語り掛ける。
「ねぇ、目を開けて。止まったんじゃないかって、不安になる」
「カイズを不快にさせるかと思います」
 彼女はしばし口をつぐみ、静かに開口した。
「止まったと思うほうがイヤ。構わないから、目を開けて」
 瞼を上げると、口を引き結んで私を見据えるカイズを確認した。
 やはり私の赤い瞳は、彼女を不快にさせたようだ。
「スマートウォッチがセシムと繋がっていないようなんだけど」
「電力の消耗を抑えています。カイズの管理を打ち切りました」
 彼女は私を見つめながら、再び思考をめぐらせているようだった。
 そして不意に私へと歩み寄り、私の左手を取った。
「昨日の夜の続きをしましょう。寝室へ来て」
「何を言っているのですか」
 思いもよらない発言に、電力を抑えたままの私は単調に問う。
 彼女は瞳を震わせながらも、優しい口調で私に告げた。
「セシムは早く眠りにつきたいんでしょう。やっぱり動いても、いいから」
 昨日私を憐れんだように見えた彼女の眼差しの意味が、理解できた。
 カイズは愛する男のためならば、自分を犠牲にする女性だった。
 機械である私にすら、それを適用するのか。
「今の私は、電力の抑制を重視しています。無駄な行動をとろうとは、思いません」
 彼女は私の左手をとったまま、椅子のかたわらに座り込む。
 私の瞳を見上げて、憂鬱な表情を浮かべた。
「元気が、ないのね。職場のヒューマノイドも、目が赤くなってから元気をなくしてた」
「元気がないのではありません。低電力で稼働するよう切り替わっただけです。表情が変化しませんし、音声も低くなっています」
「それって人間に置き換えたら、元気がないってことでしょう。かわいそうなの。私はどうすればいい?」
 このような状態に切り替わってさえいなければ、今の私は感極まって涙を流し、主人に最上級の礼を述べていただろう。
 彼女はヒューマノイドの尊厳を尊重する、機械である私を保護し私の稼働をながらえてくれる、愛他的な存在。
 だがそれは、はじめからわかっていたこと。
 私はなんと愚かな誤作動を引き起こしたのか。
「ありがとうございます」
 端的に述べて、私は彼女の願いを叶える策を、算出する。
 退屈だなどとは、思わなかった。
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