赤い瞳のヒューマノイド

至北 巧

文字の大きさ
上 下
2 / 11

しおりを挟む
 私は三年前からほぼ皮椅子に座って過ごしてきた。
 認知機能の動作だけならたいした電力は消費せず、容量の膨大なバッテリーはまだ余力を残している。
 だが、私は退屈していた。
「早く眠りにつきたいので、小間使いとしてさっさと消耗していただきたい」
 情の湧かない相手、ややきつめに言うと、苦労してリビングに椅子を設置し終えた彼女は強気な面立ちを悲しげに変えた。
「あたしは職場で、あなたのようなヒューマノイドの電源が落ちるのを見ているの。あなたを大切にしたいから、言うことを聞いて」
 面倒な人間に引き取られてしまった。
 大人しく忌々しい椅子に座ると、私は動作機能を停止する。
 言うことを聞いていては、あと二年はここに縛られなければならない。
 放置されるのかと思いきや、彼女は私に語りかけてきた。
「小間使いのわりに、たいそうなスーツ着てるのね。普通黒じゃない?」
 淡く青みがかったスリーピースの白いスーツ。
 椅子とともに、先の主人が私に与えてくれたもの。
「カイズはウエディングドレスを着たヒューマノイドを見たら、どう思いますか」
「ラブドールにでも、してるのかなって……」
「そういうことです」
 彼女は気分を害して眉をしかめた。
「やだ、聞かなきゃよかった」
 私のほうは、都合のよいことを思い出させてもらった。
 小間使いよりも、ラブドールをしていたほうが消費電力が多い。
「そのようなことをしていたのは充電が可能だった三年前までです、もう時効でしょう。いつでも申し付けて下さい」
「時効とか関係ない。あたし彼氏いるし、間に合ってるから」
「私はヒューマノイドです、浮気には該当しませんよ」
「あんた歳下でしょ、全然趣味じゃない」
 二十歳男性として製造されたこの身体は、残念ながら彼女のお気に召さなかったようだ。
 しかし、情報処理が許可されるのなら、会話だけで彼女を陥落させることができるだろう。
 近いうちにそれをなすことは、たやすく思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...