虚飾と懸想と真情と

至北 巧

文字の大きさ
上 下
12 / 37

12 敗北

しおりを挟む
 月曜日、夏季休暇に入って初めての部活動。
 南方が放送室に入ると、大型のスタジオで部員たちは文化祭に向けてのミーティングをしていた。
 部員は全員揃っていない。
 大我の姿が見えなかった。
 泉は話がひと段落着くと南方を招いてスタジオを出て、防音扉を閉じる。

「白石、みなちゃんに会いたくないって言ってたんだけど、なんかあったの?」

 部活動を辞めたいではなく自分に会いたくないであることに安堵する。

「んー、嫌われたのかな。昨日白石に、付き合いたくないって言っちゃったんだよ」

 信頼できる人間だから、正直に告げる。
 ただ、白石が複数の人間と交流があるらしい事実はさすがに伏せた。
 できることはすると言いながらなにもできていないことが、泉に対して申し訳ない。

「あぁ、けどしかたないよな。無理だもん」

「でも部活はせっかく頑張ってたんだから、来るように部長から言ってもらいたいんだけど」

 自分との関係が原因で学校生活に支障をきたすようなことになっては心苦しい。
 有能な部長は南方の心中を汲んで、そこはどうにかすると言ってくれた。
 南方も力になれるかわからないがなにかあったら相談してくれと、最低限の協力を約束した。

 大我は南方に諦めたと言った。
 それは彼が父親に対して抱いている心境。
 完全に自分を見限ったのだろうか。



 次の日から大我は部活動に姿を見せた。
 南方に対して挨拶だけはしてきたが、あとは目を合わせることもしなかった。
 先日泣きそうな顔をして自宅を訪れ、誰でもいいから愛されたいと自暴自棄になっていた大我を不憫に思い抱きしめたことが、遠い昔のように感じる。
 恋人になりたいと自分を困らせることがなくなったからと言って、このまま放置して良いのだろうか。
 このような生徒こそ、特に注意して見守るべき。
 なのに。
 南方は更に困惑していた。

 大我と関わりたくない。

 どんな形でも良いから大我に愛情を与えるべきだと頭では理解しているつもりなのに、心が全く動かない。
 むしろ避けようとしている。

 高校生としては理解を越える貞操観念に不快感を持った。
 あどけなくすら感じた少年が、自分と泉に告白をしただけでなく、恐らく告白が成就して身体の関係まで持った相手が少なくとも二人いる。
 そのことを普通ではないと思っていない。
 一刻も早くその考えを正そうと、強く大我を否定した。
 
 南方は捨て身で大我の恋愛観に影響を与えたのだと、自分を正当化したかった。
 不誠実はいけないことなのだと、自分との関係が壊れたことで学んでいてはくれないだろうか。
 そうでもなければ日々生徒と対等で友好的な関係を築こうとした努力が、報われない。

 生徒に対して関わりたくないなどと思うことは、絶対に間違えている。
 当事者になったためにここまで不快になっているのではないか。
 大我に対して好感を持っていたから、憶測不可能な貞操観念に失望してしまったのではないか。
 もし相手が自分に好意を持つ生徒でなければ、せめてもう二、三年成長した大人であったならば、個人の恋愛観として認識できて、不快になどならなかったのではないか。

 関わらねばならないと痛切に感じながらも、行動に移せず、葛藤しながら日々が過ぎてゆく。
 大我が目を逸らしたような、自分を見ていたような姿を何度も見かけた。
 大我がまだなにかを期待しているのではないかと察しながら、南方はなにもできなかった。

 年度が変わり航一朗がこの高校に入学し、放送部へと入部した。
 航一朗との関係は良好に見える。
 大我のクラスで倫理の授業を受け持ったが、会話のない関係は変わらない。
 ただ、大我は日本史に次いで倫理も試験で高得点を取り続けた。

 南方に酷い敗北感を植え付けて、大我は高校を卒業していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

あいつと俺

むちむちボディ
BL
若デブ同士の物語です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...