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第6章 私はただ知らないことを知りたいだけなのに!

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 前世の彼女の世界では「悪い予感ほどよく当たる」と言われていたが、それが今世の世界でも通用することになるとは思いもしなかった。




 自称両親を撃退して孤児院と領主宛に手紙を出してから5日後、私は朝から研究室でアヤタを助手にして研究をしていた。

 偶々、ライラが用事で留守にしていたときに扉が外からノックされたが、アヤタが扉を開けて対応してくれた。

 部屋の外でアヤタと若い男性が何かを話している声が聞こえるが内容までは聞こえない。しかし、二人が揉めている様子なのが分かった。

 どうしたのかと気になって仕事を中断して扉の方へ視線を向けると困惑しているアヤタと目が合った。

 「……あの、ルリエラ理術師、門からの伝令なのですが……」

 アヤタが申し訳無さそうに揉めている事情を説明してくれた。
 外でアヤタと揉めていたのは門からの伝令役だったようで、その伝令内容が「両親の訪問」だからだった。

 予め前回の自称両親がまた門に来ても今度は取次がずに門前払いするようにと伝えているにも関わらずそのような伝令が来たことでアヤタと揉めていたようだ。

 アヤタは今回の問題の全ての事情を知っている。
 自称両親の訪問の翌日にはアヤタに包み隠さずに何があったかを全て説明し、その上で情報の収集を依頼している。
 私一人では他人の情報なんて集められない。精々、学園の図書館にある貴族名簿で自称両親の男爵と黒幕らしき伯爵の名前が載っているかどうかしか調べられない。

 アヤタは自分の伝手を使って自称両親や黒幕らしき伯爵などの情報をいくつか集めて既に報告してくれている。
 今はまだ黒幕らしき伯爵の思惑を探っている最中で時間がもう少しかかるらしく、それまでの時間稼ぎのために自称両親とは会わずに居留守を使って門前払いすることになっている。

 それなのに、自称両親を門の門番が事前の依頼通りに門前払いせずに学園内に通して伝令を送ってきたことでアヤタと揉めていたようだ。
 もし、門番が門前払いをしなかったのではなくできなかったのならば、何か厄介な問題でも発生したのかもしれない。

 伝令役の人から直接話を聞くことにして、部屋の中に伝令役を通してもらった。

 伝令役は前回と同じ事務の新入りの青年だった。
 彼が悪いことをしたわけでもないのに、ものすごく恐縮している。

 「あの・・二人が訪ねてきても私は留守と伝えて穏便に門前払いするようにと伝えていたはずだけど何かあったの?」

 「───そ、それが、違うのです!!」

 「……違う?何が?」

 「べ、別人なんです!!前回来られた両親と名乗られた男女ではなく、全くの別の男女が門で『ルリエラ理術師の両親』を名乗って面会依頼を出されました!」

 伝令役の叫ぶような言葉にアヤタは驚いていたが、私は驚くよりも悪い予感が当たったと内心で舌打ちをした。

 私が門へ出していた依頼は『今回の両親と称する男女がまた門に来ても今度は取次がずに留守と伝えて門前払いするように』だったから、別人の自称両親ならば門番の対応を責めることはできない。
 門番だってこんな不可解な事態に初めて遭遇して困ったに違いない。
 


 私の悪い予感は「偽物大量発生」というものだった。

 伯爵のさらに上に黒幕がいて、伯爵もその真の黒幕の単なる配下で手駒の一つでしかなかった場合、私を手に入れるという真の黒幕の目的のために伯爵と同じことをしようとする別の配下の人間が現れるかもしれないという可能性が一つ。
 また、私を手に入れようとする勢力が複数あり黒幕が複数いた場合、伯爵とは別の勢力に属する人間が伯爵と同じ手段を使うかもしれないという可能性もあった。

 でも、そんな馬鹿なことはあり得ないだろうと思い直してその予感に蓋をした。
 だって、それはあまりにも非常識で非現実的で非効率だから。
 捨て子の孤児に対して実の両親というカードはとても有効で強力で絶対的なカードになる。
 でも、それが何枚も出現してしまったら、全てのカードが偽物かと疑われて一気にそのカードの価値は暴落してしまい、誰のカードも価値の無いものに成り下がってしまう。
 
 まともな人間ならもっと慎重にその貴重なカードを切るときを見計らうだろう。
 少なくとも、自称両親が次から次に押し寄せてくるような馬鹿な真似はしないはずだ。

 そんな希望的観測を抱いて、悪い予感は馬鹿馬鹿しい考えだと蓋をした。

 でも、そんな希望的観測は簡単に打ち砕かれてしまった。
 私が馬鹿馬鹿しくてあり得ないと思ったことが現実に起こっている。



 こうなれば腹を括るしかない。
 自称両親について本当の親かどうか考えるのは止めて、情報収集の相手とだけ思ってできるだけ多くの情報を引き出すことだけを考えよう。

 相手の企みを探ることが最優先だ。

 まずは前回に有効だった待ちぼうけ作戦を仕掛けよう。
 さあ、自称両親から情報を搾り取るぞ!




◇◇◇◇◇



 今までは私を訪ねてくる人は予定にある人か顔見知りだけだった。
 だから、ライラやアヤタが伝令役の対応をして伝令を受け取るだけで用は済んでいた。

 しかし、イレギュラーな内容の伝令は私が直接伝令役から話を聞く必要がある。

 ここ最近はイレギュラーな訪問客が多すぎてすっかり伝令役の事務の新入りの青年とは顔見知りになってしまった。


 あれから数週間の内に自称両親だけでなく、自称父親単独、自称祖父母、自称叔父、自称伯父、が訪れた。

 貴族もいれば平民もいて、関係性は全員ばらばらで住んでいる地域も異なっており、彼らには血縁関係も親戚関係もない。
 完全なる赤の他人同士が私のことを「子ども」「孫」「姪」などと言っているので、違和感が半端ない。
 何も知らないふりをして平然と相手にするのは骨が折れて疲れてしまった。

 二組目の自称両親の主張は「やむを得ない事情で孤児院に預けた」と基本的な誤魔化し方が一組目と同じだった。

 自称父親は「お前は浮気相手との子どもで浮気相手は妊娠後に行方不明になってしまった。浮気相手はすでに死亡していてなぜお前が孤児院に預けられていたかという事情は分からない」、自称祖父母は「あなたは駆け落ちした息子の子どもで息子夫婦はすでに死亡していてなぜ孤児院に預けられていたかという事情は知らない」、自称叔父は「君は駆け落ちした弟の子どもで弟夫婦はすでに死亡していてなぜ孤児院に預けられていたかという事情は不明だ」、自称伯父は「あんたは駆け落ちした姉の子どもですでに姉夫婦は死亡していてなぜ孤児院に預けられていたかは自分が知るはずがない」と全員が死人に口無しで、細かい事情に関して曖昧に誤魔化した。

 誰も私が孤児院に捨てられることになった詳しい経緯を口にする人はいなかった。

 誰の指示か意向か知らないが、全員がばらばらに私の保護者の権利を得ようと動いていることだけは分かった。

 目的のための目の付け所はみんな一緒のようだが、足並みは揃っていない。
 各自の独断のようで、情報共有がされていない。

 流石に数週間もしたら学園内に私の両親やら親戚やらが何名も訪れていることが噂となり、そこから学園の外にも噂が流れたようで自称両親やら親戚の訪問はぱたりと無くなった。

 



 
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