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第1章 私はただ平穏に暮らしたいだけなのに!
22 謝罪
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私とジョシュアは大きな木の下の根元に力無く座り込んだ。後はもうただ救助を待つしかない。
私は気が緩んだせいか、座り込んだ直後に頭痛と吐き気と眠気に襲われた。理術を使い過ぎるとそういった症状に襲われることがあったが、最近は理力の量が増えて余裕ができたからか、久しぶりの感覚だ。
私はそれらに必死に抗っていてジョシュアが何か言いたそうに私のほうをチラチラと見ているのに気付くのが遅れてしまった。
このままでは気を失いそうなので、色々と抗いつつジョシュアと話をすることにする。
「ジョシュア、大丈夫?怪我はない?」
「…大丈夫だよ。……ルリエラ、ごめんなさい!」
「謝るなら、私ではなく、あなたが心配かけた家族とあなたが迷惑かけた村のみんなに言いなさい。それから、あなたを助けようと必死にがんばっていたみんなに感謝を伝えなさい」
余裕があるならどうしてこんな馬鹿なことを仕出かしたのか問い詰めてお灸をしっかりと据えたいところだが、それはジョシュアの親やアンヌに任せるしかない。
この状態で私がジョシュアにお灸を据えるのは無理だし、ジョシュアもそんなことをされてこれ以上気力を削がれたら命にかかわるかもしれない。今はまだ完全に安心できる状況ではない。
ジョシュアは「私の謝らなくていい」という言葉に「ちがう、ちがう」と主張するように激しく首を振った
「そうじゃないんだ!…いや、それも謝らないといけないけど。俺は『孤児院の奴らは村の人間じゃない』と言ったことをずっと謝りたかったんだ」
そういえばそんなこともあった。でも、ジョシュアは自分でも悪いと思っているのに、なぜそんなことを言ったんだろう?たしかアンヌはジョシュアが「拗ねている」と言っていた。
「どうしてそんな酷いことを言ったの?マリーは泣いていたのよ。今まではそんないじわるなんてしないで孤児院のみんなと仲良くしてくれていたのに。何かあったの?」
私が理由を尋ねると、ジョシュアは先ほどまでの勢いが完全に消え失せて俯きがちに口を開いた。
「……嫌だったんだ」
「嫌だった?何が?孤児院の誰かがあなたに嫌なことをしたの?」
「ちがう!……マリーがこの村からいなくなってしまうのが嫌だったんだ!」
ジョシュアは恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながらそう叫び、ズボンのポケットから真っ赤なグゴの実を取り出した。
それでやっとジョシュアの今回の行動の意味と拗ねた理由を悟ることが出来た。
なるほど!そうだったのか。ジョシュアはそんなお年頃だったのか~。好きな女の子をいじめてしまう、男の子の悲しい性だったのか。
私自身はそんな経験は無く、前世の彼女の記憶にもそういった色恋沙汰にまつわることは一切無かったために、全く思い至らなかった。
「そっか、そうだったんだ……。でも、それでもあんな酷いことを言っては駄目よ。マリーはとても傷ついていたし、今だってまだ傷ついたままよ。それこそ私ではなく、マリー達に謝って。恥ずかしくてもちゃんと直接自分の口から『ごめん』と伝えて」
「……分かった。後で必ずマリー達に直接謝るよ」
グゴの実も手に入ったしこれでマリーの熱を下げることはできるだろう。全て一件落着。良かった良かった。
色々な問題が一段落して気が緩みそうになった私にジョシュアが真剣な顔で質問してきた。
「ねえ、ルリエラは寂しくないの?孤児院の子はみんなこの村から出て行って二度と帰ってこない。ずっと孤児院にいるのはルリエラしかいないよ」
その質問に一切の悪意がないことは分かっていた。それでもその質問は私の胸を鋭く穿った。私はその痛みとずっと付き合ってきている。だから、痛みを一切顔には出さずにジョシュアの質問に答えることができた。
「……寂しいよ。別れは寂しい。私だってずっと一緒にいたいよ。でも、それはできない。だから、寂しいのは我慢して別れを受け入れるしかない」
ジョシュアは私の答えに何も言えず、ただ口をつぐんで下を向いている。その答えを受け入れたくないと表明するように。
「それに、寂しいのは私だけじゃない。孤児院を出ていく子の方がよっぽど不安で寂しい思いをしている。それなのに、見送る側が悲しい顔をしてはいられない。見送るなら笑顔で見送ってほんの少しでも出ていく子が笑えるようにしたいからね」
この村には雇用が無い。人は働かないと生きていけない。働いて稼いで、食べ物や服や家賃とかを払って生きてかなければならない。この村には今以上の人間を養うだけの収穫や収入が無い。今いる村人だけで飽和状態だ。これ以上増えたら、この村の収入だけでは養えない。人が増えたからといって、農地や収穫物が一度に増えるわけではない。
村の人たちが少しずつ農地を広げて、村人の家族は出稼ぎや口減らしをしなくてもやっていけているが、それ以上の余裕はない。
村人でも、町に憧れて出ていく子や他の村に嫁ぐ子は何人かはいる。それでも、みんなは一年に一度は里帰りで帰ってくる。
でも、孤児院では里帰りを受け入れる余裕がないので、孤児院の子はみんなそれをわかっているから、帰ってはこない。
「ねえ、ジョシュア。もし、あなたが本当にマリーのことが好きで、ずっと一緒にいたい、離れたくないと思っているなら、方法は1つだけあるよ」
「えっ!そんな方法あるの!?教えて!」
「とても難しい方法よ。それでも聞きたい?」
「聞きたい!どうか教えて下さい」
ジョシュアの熱意は本物だ。危険を顧みずに雨の日にマリーを助けるためにグゴの実を採りに森に一人で行くほどジョシュアはマリーのことを大切に思っている。
「わかった。マリーとずっと一緒にいる方法は『家族になる』ことよ」
「……『家族になる』?」
「今すぐにどうこうすることはできないけど、16歳になったら結婚できるでしょ?ジョシュアとマリーは同い年なんだから、ジョシュアが16歳になったら、村の外にいるマリーを迎えに行って、結婚して、村で一緒に住めばいいのよ。それならその後、何があってもずっと一緒よ」
「け、け、結婚!!!」
「言うほど簡単なことではないけどね。マリーが同意するか分からないし。この前、マリーに酷いことしたから、マリーはジョシュアのことが嫌いになったかもしれないしね。ただ、マリーと一緒にいたいなら、それだけの覚悟が必要だということを理解しなさい。駄々こねて、人に当たって、不貞腐れて、八つ当たりとかして周りに迷惑をこれ以上かけないように!」
口で言う程に本当に簡単なことではない。まず、ジョシュアの両親が反対するだろう。次に村人がマリーを快く受け入れてくれるかどうかわからない。一番の問題は4年間離れ離れの二人が心変わりしないかどうかだ。
他にも、見習いの間世話になって、16歳になって結婚するから辞めます、ということが許される職場なんてあるだろうか?マリーの教育費から生活費の4年間の全てが無駄になる。そんな職場はなかなかない。辞めたくても辞められないだろう。
問題は山積みだが、今の問題はなんとか一応解決はした。それに、いろいろ言って気分もすっきりした。私をずっと襲っていた頭痛と吐き気が薄れて楽になった。
代わりに、完全に気が抜けてしまったせいなのか、一気に眠気が強くなってきた。必死に抗うが、徐々に抗いきれなくなってくる。
ジョシュアが何か言っているが、その言葉が聞き取れない。ジョシュアの声が段々と遠くなっていき、私の意識は完全に途切れてしまった。
私は気が緩んだせいか、座り込んだ直後に頭痛と吐き気と眠気に襲われた。理術を使い過ぎるとそういった症状に襲われることがあったが、最近は理力の量が増えて余裕ができたからか、久しぶりの感覚だ。
私はそれらに必死に抗っていてジョシュアが何か言いたそうに私のほうをチラチラと見ているのに気付くのが遅れてしまった。
このままでは気を失いそうなので、色々と抗いつつジョシュアと話をすることにする。
「ジョシュア、大丈夫?怪我はない?」
「…大丈夫だよ。……ルリエラ、ごめんなさい!」
「謝るなら、私ではなく、あなたが心配かけた家族とあなたが迷惑かけた村のみんなに言いなさい。それから、あなたを助けようと必死にがんばっていたみんなに感謝を伝えなさい」
余裕があるならどうしてこんな馬鹿なことを仕出かしたのか問い詰めてお灸をしっかりと据えたいところだが、それはジョシュアの親やアンヌに任せるしかない。
この状態で私がジョシュアにお灸を据えるのは無理だし、ジョシュアもそんなことをされてこれ以上気力を削がれたら命にかかわるかもしれない。今はまだ完全に安心できる状況ではない。
ジョシュアは「私の謝らなくていい」という言葉に「ちがう、ちがう」と主張するように激しく首を振った
「そうじゃないんだ!…いや、それも謝らないといけないけど。俺は『孤児院の奴らは村の人間じゃない』と言ったことをずっと謝りたかったんだ」
そういえばそんなこともあった。でも、ジョシュアは自分でも悪いと思っているのに、なぜそんなことを言ったんだろう?たしかアンヌはジョシュアが「拗ねている」と言っていた。
「どうしてそんな酷いことを言ったの?マリーは泣いていたのよ。今まではそんないじわるなんてしないで孤児院のみんなと仲良くしてくれていたのに。何かあったの?」
私が理由を尋ねると、ジョシュアは先ほどまでの勢いが完全に消え失せて俯きがちに口を開いた。
「……嫌だったんだ」
「嫌だった?何が?孤児院の誰かがあなたに嫌なことをしたの?」
「ちがう!……マリーがこの村からいなくなってしまうのが嫌だったんだ!」
ジョシュアは恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながらそう叫び、ズボンのポケットから真っ赤なグゴの実を取り出した。
それでやっとジョシュアの今回の行動の意味と拗ねた理由を悟ることが出来た。
なるほど!そうだったのか。ジョシュアはそんなお年頃だったのか~。好きな女の子をいじめてしまう、男の子の悲しい性だったのか。
私自身はそんな経験は無く、前世の彼女の記憶にもそういった色恋沙汰にまつわることは一切無かったために、全く思い至らなかった。
「そっか、そうだったんだ……。でも、それでもあんな酷いことを言っては駄目よ。マリーはとても傷ついていたし、今だってまだ傷ついたままよ。それこそ私ではなく、マリー達に謝って。恥ずかしくてもちゃんと直接自分の口から『ごめん』と伝えて」
「……分かった。後で必ずマリー達に直接謝るよ」
グゴの実も手に入ったしこれでマリーの熱を下げることはできるだろう。全て一件落着。良かった良かった。
色々な問題が一段落して気が緩みそうになった私にジョシュアが真剣な顔で質問してきた。
「ねえ、ルリエラは寂しくないの?孤児院の子はみんなこの村から出て行って二度と帰ってこない。ずっと孤児院にいるのはルリエラしかいないよ」
その質問に一切の悪意がないことは分かっていた。それでもその質問は私の胸を鋭く穿った。私はその痛みとずっと付き合ってきている。だから、痛みを一切顔には出さずにジョシュアの質問に答えることができた。
「……寂しいよ。別れは寂しい。私だってずっと一緒にいたいよ。でも、それはできない。だから、寂しいのは我慢して別れを受け入れるしかない」
ジョシュアは私の答えに何も言えず、ただ口をつぐんで下を向いている。その答えを受け入れたくないと表明するように。
「それに、寂しいのは私だけじゃない。孤児院を出ていく子の方がよっぽど不安で寂しい思いをしている。それなのに、見送る側が悲しい顔をしてはいられない。見送るなら笑顔で見送ってほんの少しでも出ていく子が笑えるようにしたいからね」
この村には雇用が無い。人は働かないと生きていけない。働いて稼いで、食べ物や服や家賃とかを払って生きてかなければならない。この村には今以上の人間を養うだけの収穫や収入が無い。今いる村人だけで飽和状態だ。これ以上増えたら、この村の収入だけでは養えない。人が増えたからといって、農地や収穫物が一度に増えるわけではない。
村の人たちが少しずつ農地を広げて、村人の家族は出稼ぎや口減らしをしなくてもやっていけているが、それ以上の余裕はない。
村人でも、町に憧れて出ていく子や他の村に嫁ぐ子は何人かはいる。それでも、みんなは一年に一度は里帰りで帰ってくる。
でも、孤児院では里帰りを受け入れる余裕がないので、孤児院の子はみんなそれをわかっているから、帰ってはこない。
「ねえ、ジョシュア。もし、あなたが本当にマリーのことが好きで、ずっと一緒にいたい、離れたくないと思っているなら、方法は1つだけあるよ」
「えっ!そんな方法あるの!?教えて!」
「とても難しい方法よ。それでも聞きたい?」
「聞きたい!どうか教えて下さい」
ジョシュアの熱意は本物だ。危険を顧みずに雨の日にマリーを助けるためにグゴの実を採りに森に一人で行くほどジョシュアはマリーのことを大切に思っている。
「わかった。マリーとずっと一緒にいる方法は『家族になる』ことよ」
「……『家族になる』?」
「今すぐにどうこうすることはできないけど、16歳になったら結婚できるでしょ?ジョシュアとマリーは同い年なんだから、ジョシュアが16歳になったら、村の外にいるマリーを迎えに行って、結婚して、村で一緒に住めばいいのよ。それならその後、何があってもずっと一緒よ」
「け、け、結婚!!!」
「言うほど簡単なことではないけどね。マリーが同意するか分からないし。この前、マリーに酷いことしたから、マリーはジョシュアのことが嫌いになったかもしれないしね。ただ、マリーと一緒にいたいなら、それだけの覚悟が必要だということを理解しなさい。駄々こねて、人に当たって、不貞腐れて、八つ当たりとかして周りに迷惑をこれ以上かけないように!」
口で言う程に本当に簡単なことではない。まず、ジョシュアの両親が反対するだろう。次に村人がマリーを快く受け入れてくれるかどうかわからない。一番の問題は4年間離れ離れの二人が心変わりしないかどうかだ。
他にも、見習いの間世話になって、16歳になって結婚するから辞めます、ということが許される職場なんてあるだろうか?マリーの教育費から生活費の4年間の全てが無駄になる。そんな職場はなかなかない。辞めたくても辞められないだろう。
問題は山積みだが、今の問題はなんとか一応解決はした。それに、いろいろ言って気分もすっきりした。私をずっと襲っていた頭痛と吐き気が薄れて楽になった。
代わりに、完全に気が抜けてしまったせいなのか、一気に眠気が強くなってきた。必死に抗うが、徐々に抗いきれなくなってくる。
ジョシュアが何か言っているが、その言葉が聞き取れない。ジョシュアの声が段々と遠くなっていき、私の意識は完全に途切れてしまった。
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