上 下
4 / 259
第1章 私はただ平穏に暮らしたいだけなのに!

3 昼食準備

しおりを挟む
 洗濯物を濯いで、絞ったら、木に張ったロープに洗濯物を干す。

 やっと一仕事終えたけど、この次は畑仕事が待っている。

 孤児院では、裏庭で野菜やハーブや果樹を育てている。この裏庭の収穫は孤児院の大切な食糧になっている。

 私と子ども達は雑草を抜いたり、水やりをして、今日が食べ頃の野菜を収穫した。

 今日の収穫は、形はダイコンに似ているけど赤くてちょっと酸味があるレガラス、見た目はニンジンにそっくりだけどゴボウのような味と食感のカンドータ、形は白菜に似ているけどほうれん草のような色と味のスポンナ、外見は里芋そっくりだけど、中の色は黄色で味はカボチャに似ているけどあまり甘くないサトロ、サヤはそら豆に似ているが、中身はグリンピースに似ていて赤茶色のエアル豆、この5種類だ。

 「ねえ、シスタールリエラ。今日の昼食はこれで何を作るの?」

 私に尋ねてきたマリーは、何かを期待している目で私を見ている。

 私はそのマリーの目に気付かないふりをして答えた。

 「今日は普通の食事を作ります。私の創作料理はまた今度にしましょう。まずは他所の家庭でもよく作る料理を作れるようにならなくてはいけませんよ。私の創作料理が誰にでも受け入れられるものだとは限らないのだから、孤児院の外ではあまり私の料理を真似しないようにね」

 「は~い。でも、シスタールリエラの料理は美味しいよ!食べたらみんな絶対美味しいって言うよ!」

 「そうだよ!普通の料理なんて、美味しくないよ。野菜を形が無くなるまでグタグタのドロドロに煮込むだけだもん」

 「ルリエラの料理は、一つ一つの野菜が甘くて美味しいよ!」

 「私も!ルリエラの料理の方が好き!」

 「私も!」「私も!」

 その場に居た子ども全員がマリーの言葉に賛同している。

 この世界では、野菜は下茹でをするのが普通だが、その時間が普通ではない。葉物で30分、根菜類では1時間はグツグツとお湯で煮込む。そして、茹で汁は捨てて、ドロドロ一歩手前の葉物や崩れる寸前の根菜類をさらに調理する。

 地球でも、昔のヨーロッパでは、野菜をグタグタになるまで煮たり、お肉も何度も茹でたり蒸したり焼いたりしてパサパサにして食べていたらしい、と本で読んだことがある。

 この世界の調理法を初めて知った時は、どこも似たり寄ったりなんだな~、と思ってしまった。

 でも、私は料理は「シンプル イズ ベスト」だと思う。というわけで、私が孤児院のシスターになって、料理を任されるようになってからは、自分なりに色々と工夫をしてみた。

 最初は見慣れない不可思議な料理が出てきて、孤児院のみんなは驚いて、恐る恐る食べていた。けれど、味は今までの料理よりも格段に向上していたから、今ではみんなが私の創作料理を待ち望むようになってしまった。

 でも、私の創作料理は味が良くても、他の家庭ではまだ見慣れない怪しい料理でしかない。もし、そんなものを子ども達が養子先や職場で出して、問題が起きたら困る。だから、私の創作料理は月1回だけと孤児院長に決められてしまった。

 もちろん、孤児院長も私の創作料理の味は認めてくれている。しかし、孤児院の子ども達のことを考えての処置だ。

 私の創作料理に子ども達が慣れて、それが当たり前になってしまったら、ここを出て行く子ども達が外で困ることになるかもしれない。

 私はそんな当たり前のことも思い付かずに、ただ自分が作りたいと思った料理を作ってしまった。

 今も女の子達が普通の料理は美味しくないと不満を言っている。

 「 文句を言っては駄目よ。ご飯を食べられるだけ恵まれているのよ。味にまでこだわるなんて、贅沢過ぎです」

 私は自戒の念を込めながら、女の子達を諭した。

 この世界では、料理は味よりも、食材をどれだけ使って、どれだけ時間をかけて調理をしたかが重要視されている。はっきり言って、100種類の食材を使い、丸一日かけて調理をした不味い料理のほうが、ただ焼いただけの美味しいお肉よりも贅沢で素晴らしい料理と認識される。

 だから、子ども達が孤児院の外で私の創作料理を真似したら、手を抜いているとか、貧乏な料理だとか、嫌がらせなどと勘違いされるかもしれない。

 普通のスープを作る場合、畑で採れたあらゆる種類の野菜をまず水から下茹でをする。クタクタのボロボロになるくらいまで茹でて、その茹で汁は捨てて、下茹でした野菜を全て鍋にぶち込み、水を入れてまた長い時間煮込む。全ての野菜がドロドロになり、少々の塩で味付けして完成。

 このスープの味は、とても複雑だ。色んな種類の野菜を入れているけど、下茹でして、殆ど味というか旨味が抜けているから、味自体はあまりしない。でも、様々な種類の野菜がごった煮状態で、調和がとれてなく、とてもバランスが悪い。なんとか食べられるのは、下茹でしてあるから、アクやエグミや苦味が無く、一つ一つの野菜の味があまりしないおかげかもしれない。

 地球でナスとカボチャとピーマンとホウレン草とゴボウを鍋に全部ぶち込んで、野菜がひたひたに浸かるくらい水を入れてドロドロになるまで煮込み、ほんの少しの塩で味付けをした様なものの旨味だけを取り除いて、何倍にも味を薄めたものに似ているかもしれない。

 私は下茹では最小限に抑え、スープに使う野菜は味の調和を考えて選んでいる。

 私が自由に調理するなら、ゴボウに似ているカンドータを食べやすい大きさに切って熱湯で3分程下茹でをする。鍋に水を入れて、一口大に切ったレガラスと自家製のブーケガルニを入れて煮込み、沸騰したら下茹でしたカンドータを鍋に入れて、レガラスが柔らかくなるまで煮込む。最後に塩で味を調えて完成。

 ジャガイモに似ているサトロは、鍋に皮を剥かずに入れて、コップ一杯の水だけを入れて蓋をする。最初は湯気が出てくるまで強火で火にかけ、その後は弱火で30分くらい置いて完成。

 白菜に似ているスポンナは、お湯にさっと潜らせて、水気を絞る。食べやすい大きさに切って、砕いた木の実と植物油で和えて完成。

 しかし、今日は普通の料理を作るので、全ての野菜を30分から1時間下茹でをして、スープを作った。

 エアル豆だけは下茹でしただけで、スープには入れずに皿に盛って食卓へ出す。

 豆は滅多にお肉を食べられない私達にとっては貴重なタンパク源だから、スープには入れずに、下茹でした状態でお皿一杯食べるようにしている。

 これはどこの家庭も同じことをしている。知識は無くても、経験的に、豆のタンパク質を摂取する必要性を知っているみたい。

 昼食の用意をしていると、外に出ていた子ども達も戻ってきた。

 さあ、みんなで昼食だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...