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12話
しおりを挟む「それで、カリストには考えがあるのね?」
「有ります。これ以外に方法が有りません」
自身に満ちたカリストの言葉に、国王夫妻は顔を輝かせた。
「それを早く教えなさい」
「父上。私はこの方法を父上がいち早く、思い付かなかった事が残念でなりません。そして、お二人には受け入れがたい事でしょう。それでもこの方法を選ぶと、約束してくれますか?」
念押ししてくるカリストに、国王は地団太を踏まんばかりに焦れて見せた。
「公爵を繋ぎ止めておけるなら、何でも構わん!早く申せ!!」
期待に震える両親を痛ましげに見つめていたカリストは、心を決める為に深呼吸を繰り返し、重い口を開いた。
「ナリウスを廃嫡の上、幽閉して下さい。そして、キャニスを私の妃として迎えたいと、侯爵に頼むのです」
「は!廃嫡?!ナリウス以外に、王家の色を持った者は居らんのだぞ?!」
「色が何です?ナリウスが王太子の座に居座り続け、更には王になると言われて、公爵がそれを見過ごしてくれると、本気でお考えですか?それに、そこに有るのは、ナリウスの犯罪の証拠です」
「だが、これは表沙汰にはなっていないだろう?」
「これまではキャニスが、秘密裏に処理してくれていましたが、もうそんな事は出来ないし、してはならない。庇ってくれるキャニスは、もう居ないのですよ!」
「いや・・・だが王家のしきたりが」
「しきたりがなんです!?父上は犯罪者に、国民の命を委ねろと仰るのか?公爵を引き止める為なら、何でもすると言ったのは貴方でしょう!?」
「しかし・・・」
顔色を無くし脂汗をダラダラと流す王に、カリストは現実を突きつけ続けた。
「公爵の怒りを和らげ、交渉の席に着いてもらうには、ナリウスの廃嫡は必須です。更に王太子に指名された、私から正式に求婚状を送れば、顰蹙は買うでしょうが、時間稼ぎにはなります」
「時間を稼げても、お金は無いのよ?」
「分かっています。時間を稼ぐ間、王家の直轄地を、公爵とキャニスに下げ渡す手続きを進めるのです」
「直轄地だと!?そんなことをしたら、王家の財産も収入も、無くなってしまうではないか?!」
「なら陛下が金を用意できるのですか?」
「う・・・ぐぬぬ」
「それから、父上と母上にも、隠居していただきます」
「いっ?!」
「隠居っ?!」
「カリスト!!貴方、父上に向かってなんて事を言うの?!」
金切り声を上げる母を、カリストは冷たい一瞥で黙らせた。
「公爵は、父上と母上もナリウスと同罪だと言っていました。それには私も同感です。ナリウスの行いを知りながら放置し、まだ子供だったキャニスに全てを押し付けた」
「それは・・・そうだが」
「せめて私に、キャニスを助ける機会が有りさえすれば、状況は少し違ったかも知れません。ですが貴方方は留学を口実に、私を国外に追いやった。愚かな王太子より、王家の色を持たない弟の方が真面だと、周囲に知られたく無かったからでしょう?」
「カリスト。それは完全に誤解だ!」
「そうよカリスト?誤解しないで?」
「誤解でも何でも。結果的にはそう言う事です。誤解と言うなら、王子である私が、政務から遠ざけられて居るのは何故ですか?留学先のオセニアでは、王家の人間は総出で政務に取り組んでおりますが?」
「他国と比べるのは、筋違い・・・・」
「良い加減にしてください!!貴方達は、無責任すぎるのです!将来国を背負うべき王太子に教育を施しもせず。キャニス一人に全てを押し付け、ナリウスの代わりに邪魔な私を排除した。それが全てだ!!」
「うぅ・・・」
「百歩譲ってお二人に悪気は無かったとしましょう。ですが、キャニスがいくら優秀だと言っても、子供であったことに変わりはない。それに彼は昔から、感情表現が豊かではないが、本気で傷付付いていないと思っているのですか?」
「それは・・・」
「それに、お二人が何もして来なかったのは事実でしょう。国民にとって、無能な王など害悪でしかない」
「がっ!がいっ害悪だと?それが父に向って云う事か?!」
「旱魃や飢饉があったわけでもないのに、今も国庫が空なのは何故ですか?公爵頼みで、貴方が何もして来なかったからでしょう?!そんな無能な王を、害悪と呼ばずに何と呼ぶのです?!」
「カリスト!言い過ぎですよ!!」
「母上も金も無いのに、何を呑気に茶会などを開いて居るのです。そんな暇があるなら、もっとマシなことに時間を使うべきでしょう」
「カッカリスト・・・貴方に寂しい思いをさせた事は謝ります。だからそんな酷い事は言わないで」
「母上には、その自覚がお有りでしたか。ですが、今更謝って頂いても手遅れですし、御涙頂戴のわざとらしい謝罪など、公爵の怒りを鎮める役には立ちません」
「なんて酷い事を言うの?あぁ!何処で育て方を間違えたのかしら」
なんて世間知らずで、勝手な人なんだ。
私の母親が、此処まで愚かだったとは。
「貴方に育てられた覚えはありません。貴方達はナリウスに夢中で、私の事は乳母に任せきりだったではありませんか」
「カリスト?」
「子供の頃には、寂しく思った事も有ります。ですが、こうなると私の育ての親が、貴方の様な身勝手な人間ではなく、賢明な乳母で良かったと感謝したいくらいです」
「?!・・・・・」
この程度で傷付くなよ。
あんた達が、キャニスにした事は、この何百倍も非道な事なんだぞ!
「カリスト!母に対し無礼が過ぎるぞ!」
「本当にいい加減にして下さい。全て事実でしょう?違うと言うなら、私を二束三文で売り飛ばす以外の、代案を聞かせてもらいましょうか?」
「なんと生意気な!・・・私を廃位させてどうする?お前が王になるのか?!」
激高する王にカリストは、疲れ切った老人の様な溜息を吐き、椅子に深く沈みこんだ。
この人は、此の期に及んで本当に何も分かっていないのか。
「廃位する必要は有りません。ただ、何処かの離宮にでも引っ込んで、今後政務に関わらないで頂きたい。母上もですよ?そして私は、貴方達の後始末をするだけです」
「後始末だと?」
「分かりませんか?私は公爵が王位を譲れと言って来たら、公爵が選んだ相手に、王位を譲るべきだと考えています」
「なんだと、貴様は国を売るつもりか?!」
「売る?はは?・・・あははっ!!」
「何がおかしい!!」
「これが笑わずにいられますか! 父上。この国に金を出す価値があると、本当に思って居るのですか?負債しかないこの国に?」
「グッぬぬ・・・・」
「国を売るのでは有りません。どうか国と国民を助けてくれ、帝国の脅威から、守ってくれ、と公爵に頭を下げて頼むんですよ。自分の立場を未だ理解できないのですか?」
「しっしかし。それとこれとは」
「違いませんよ。国随一の功臣の信頼を裏切り、そっぽを向かれ、国庫は空。そんな状態になるまで、問題を放置し、打開策を考える事も出来ない。金も力も無い無能な国王。この国は終わりです。少なくともルセ王朝は、父上の代で幕を閉じるんです」
「カリストもうやめて。これ以上私たちを苦しめないで」
「国母ともあろうお方が、何を緩い事を言って居るのです。あなた頭のなかには、砂糖菓子でも詰まって居るのですか?いつまでも都合の悪いことから目を背けていないで、いいかげん現実を受け入れてください」
カリストの独白に国王夫妻は息を呑み、突きつけられた現実の厳しさに、二人は一気に10も20も老けたように見えた。
この国に帰って来た時は、留学中の5年分老けたと思っただけだが。
今の二人は、唯の老人にしか見えないな。
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