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千年王国
王都進入
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山を駆け下り、王都に近付くと、逃げ出して来た住民たちの姿が、ちらほら見え始め。
それはあっという間に、街道を埋め尽くすほどの人数に膨れ上がった。
道を開けさせようにも、王都から逃げ出してくる人の流れが絶えることは無く、子供や年寄を連れた家族連れも多い。
無理に押し通る事も出来ず、作戦に参加しない者達に、避難してくる住民の整理を任せ、俺達は脇道にそれる事にした。
脇道にそれたからと言って、他の街道に繋がる門は、ここと変わりはないだろうが、エーグルが、忌地と呼ばれている一角は、森になっており。その裏が岩山である為塀も低く、余り手入れされていないから、進入しやすい事を教えてくれた。
「そんなとこから魔物が入り込んだら、どうするつもりだったんだ?」
「あそこは、家族の無い獣人が病に罹ったり、死期が近くなると押し込められた場所でしたから、魔物が入り込んだとしても、最初に被害にあうのは獣人です。使い道のなくなった獣人が魔物に喰われ、魔物が満足すれば、それで御の字だったのではないでしょうか」
「ケッ!胸糞わりーなぁ!」
「ロロシュの言う通りですね。私もゴトフリー王家の連中は、楽に死なせすぎたと、猛省している処です」
エンラを駆るマークとロロシュも、憤慨する事しきりだ。レンの手前、酷い事は言えないが、俺もマークの考えに完全同意だった。
「エーグル。忌地と言うと、あの地下墓地に繋がる穴があった所か?」
「はい。そうです」
「では、あの穴を通れば、敵に遭遇する事なく、神殿の地下。街の中心迄行くことが出来るな?」
「仰る通りですが。この人数が通るとなると、時間が掛かり過ぎませんか?」
「一部なら問題なかろう。神殿は王城に近い。モーガンやゲオルグ達とも連絡が取りやすいやも知れん」
「そういう事でしたら、閣下のお考えに同意します」
「また、あの穴を降りるのかぁ」
レンはカルとの飛行と言うか、落下を思い出したのだろう、ブツブツと呟き、ブルリと肩を震わせている。
「今度は俺が一緒だから、大丈夫だ」
「うん。でも、出来るだけ。出来るだけでいいからゆっくりね?」
顔を強張らせる番の頭を撫でてやったが、そうそうゆっくりも出来ない。
レンが我慢できる、ぎりぎりを攻めるしかないな。
エーグルに案内され、粗末な塀を壊して進入した忌地は、鬱蒼とした森の中に、風が吹いたら倒れそうな掘立小屋が数件立ち並んでいるのが、炎に照らされ確認できた。
「こんな所に、病人を押し込めてたの?」
今は人気は無いが、俺達がゴトフリーを落とすまでは、かなりの人数がここに押し込められ、人生の最後の時を過ごしていたのだそうだ。
「今は騎士団の治癒師の方達の、治癒を受けることが出来るようになりましたし、ここが使われる事はもう無いでしょう」
ゴトフリーの人族の治癒師は、未だに獣人の治癒を拒むものが多かった。
その言い分は、治癒の能力は神の恩寵で有り、神の慈悲は獣には必要ないのだそうだ。
よって彼等は捕らえられ、財産を没収の上、希望通り人族相手に、無給で治癒の奉仕活動に従事させている。
永年すり込まれた教えが、そんな事で改心させられる訳ではないが、見せしめ程度にはなる。
「そうよね。ここはもう必要ないわよね」
その時、地響きと爆発音が同時に聞こえ、そう遠くない所で、火柱が上がるのが見えた。
「近いぞ!!各部隊手筈通りに散開!!1個中隊は俺に続け!!」
「みんな!!マスクッ!!マスク着けてねッ!!」
ブルーベルごと穴の中に飛び込み、光玉を放つと、長い年月油を流し込まれ、火を放たれて来た穴の壁面は、黒く煤け焼け残った油で、てらてらと光って見えた。
「うっきゅう~~~~~!!」
風を纏い、落下速度は調節しているが、レンの恐怖心は相当なようで、俺の腰に腕を廻しぎゅうぎゅうと抱き着いて来る。
こんな時に不謹慎だとは分かっているが、余りの可愛らしさに、笑ってしまいそうだ。
「もう着くぞ?」
「うううぅ・・・」
地下墓地に続く横穴に入り込み、ブルーベルの足が地面に着くと、レンの肩からふっと力が抜けたのが分かった。
「レン。もう目を開けて大丈夫だ」
「つ・・・着いた?」
「ほら、もう墓地の中だ」
「ほ・・・ほんとだ・・・今度は落ちなかった」
あの龍の親子と一緒にされては、堪らんのだが?
「急ぐぞ。ここも長くは持たんかもしれん」
「はっはい!」
地上から爆発音が聞こえる度に、天井から石榑がばらばらと落ちてきている。このままだとここも陥没してしまうかもしれない。
俺達は狭い墓地の通路を、出来る限りスピードを上げて通り抜け、神殿の敷地に飛びだした。
地上に出て最初に目に飛び込んで来たのは、地獄の業火とはこういう物かと、思う程の燃え盛る炎だった。
敷地も広く石造りの神殿に延焼は起こっていなかったが、神殿を囲む街の建物は、火の手が上がり、レンの指示で着けたマスクが無かったら、熱気と焦げ臭い匂いで鼻と肺がやられてしまっていたかもしれない。
俺達が着けているマスクは、別の用途の為にレンが第二騎士団に支給したものだが、こんな所でも役に立つとは思わなかった。
「ダディ!!ダディ!!いる?!」
『ここに居るぞ』
とまた頭上から声が聞こえて来た。
レンの気配を追って来たのか。
最初からここに来ることを予想していたのか。なんとも絶妙なタイミングだ。
「ダディにお願いがあるの!」
『なんでも言ってみなさい』
「カルのお家に行って。魔素水をいっぱい持って来て欲しいの!あと、いちごを預かって!!」
「魔素水?」
「回復薬の代わりです」
「それなら、いちごで良いじゃないか?」
「いちごは植物ですよ?こんなところで連れて歩いたら、燃えちゃうでしょ?」
「あ・・・確かに」
『分かった』
クレイオスの同意と共に、レンの髪にくっ付いていたいちごが、空に浮かび上がった。
ピーーーーッ!!ピギュギューーッ!!
「ごめんね!いちご!でも危ないから。クレイオス様と一緒に居てね!!」
ピュギーーー!!
浮かび上がったいちごは、レンと離れたくないのか、空中でジタバタと暴れ、荊を伸ばしてきたが、クレイオスが張った結界の中に閉じ込められ、空へと登って行った。
「可愛そうだけど、仕方ないですよね」
「まぁ、そうだな」
「この後は?王城に行くのよね?」
「そうだな。3人の内誰かは居るかもしれん」
「分かった」
「王城へ向かう!!ドラゴニュート達に注意しろ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
王城への道は、焼け落ちて倒壊した建物が道を塞ぎ、逃げ遅れた者達が途方に暮れた顔で、炎が届かない場所に蹲って居いた。
俺達は魔法で瓦礫を吹き飛ばし、消火をしながら道を進んで行った。
逃げ遅れた者には、近くに救助に来た騎士が居る事を教え、部下の指示に従う様にと言い含めた。
マークが信号弾を打ち上げていたから、そう時間を掛けずに、部下が迎えに来ることだろう。
逃げ遅れた住民たちから少し話を聞いてみたが、彼等も何が起こっているのか分からないそうだ。
急に爆発が起こり、火の手が次々と上がったのだそうだ。彼等も逃げようとしたが爆発で道が塞がれ、炎を避けている内にあの場所にたどり着いたと話してくれた。
「この辺りにはドラゴニュートは、居ないのでしょうか?」
「火災が起きている以上、いないとは考えにくい」
「そうですね。つい、いないで欲しいと言う願望で話してしまいました」
「それは俺も同じだ。・・・・ところでレンは、本当に王城へ行っても良いのか?」
「え?私?」
「クレイオスとの話を聞いて居たら、他に行きたい場所が有るのではないかと思ってな?」
「ん~~。それはもっと後でいいかな。私は先にドラゴニュートさんに会いたいので」
「ドラゴニュートに会いたい?」
俺とマークは思わず、顔を見交わしてしまった。
あの立ち合いの時よりも、何倍も強くなった奴らなど、出来れば一生お目に掛かりたくない。
それは後ろで話を聞いていた、ロロシュとエーグルも同じだったようで、二人は揃って唸り声をあげている。
「何故レン様は、ドラゴニュートに会いたいのですか?」
恐る恐るく聞くマークに、レンはにっこりと微笑んだ。
「クレイオス様に、ドラゴニュートさんを味方にできるかって聞いてみたんです。そうしたらクレイオス様は、私なら可能だって言ってくれたので」
「ドラゴニュートを味方に?」
俺達4人は揃って首を傾げたが、レンはニコニコと目元を綻ばせ乍ら、自分の顔を隠しているマスクを指差した。
「だって。その為のマスクですよ?」
「あっ!!」
「そういう事か!」
「なるほどね」
「その手があった」
間抜けにも俺達4人は、再びそろって手の平を拳で打ったのだった。
それはあっという間に、街道を埋め尽くすほどの人数に膨れ上がった。
道を開けさせようにも、王都から逃げ出してくる人の流れが絶えることは無く、子供や年寄を連れた家族連れも多い。
無理に押し通る事も出来ず、作戦に参加しない者達に、避難してくる住民の整理を任せ、俺達は脇道にそれる事にした。
脇道にそれたからと言って、他の街道に繋がる門は、ここと変わりはないだろうが、エーグルが、忌地と呼ばれている一角は、森になっており。その裏が岩山である為塀も低く、余り手入れされていないから、進入しやすい事を教えてくれた。
「そんなとこから魔物が入り込んだら、どうするつもりだったんだ?」
「あそこは、家族の無い獣人が病に罹ったり、死期が近くなると押し込められた場所でしたから、魔物が入り込んだとしても、最初に被害にあうのは獣人です。使い道のなくなった獣人が魔物に喰われ、魔物が満足すれば、それで御の字だったのではないでしょうか」
「ケッ!胸糞わりーなぁ!」
「ロロシュの言う通りですね。私もゴトフリー王家の連中は、楽に死なせすぎたと、猛省している処です」
エンラを駆るマークとロロシュも、憤慨する事しきりだ。レンの手前、酷い事は言えないが、俺もマークの考えに完全同意だった。
「エーグル。忌地と言うと、あの地下墓地に繋がる穴があった所か?」
「はい。そうです」
「では、あの穴を通れば、敵に遭遇する事なく、神殿の地下。街の中心迄行くことが出来るな?」
「仰る通りですが。この人数が通るとなると、時間が掛かり過ぎませんか?」
「一部なら問題なかろう。神殿は王城に近い。モーガンやゲオルグ達とも連絡が取りやすいやも知れん」
「そういう事でしたら、閣下のお考えに同意します」
「また、あの穴を降りるのかぁ」
レンはカルとの飛行と言うか、落下を思い出したのだろう、ブツブツと呟き、ブルリと肩を震わせている。
「今度は俺が一緒だから、大丈夫だ」
「うん。でも、出来るだけ。出来るだけでいいからゆっくりね?」
顔を強張らせる番の頭を撫でてやったが、そうそうゆっくりも出来ない。
レンが我慢できる、ぎりぎりを攻めるしかないな。
エーグルに案内され、粗末な塀を壊して進入した忌地は、鬱蒼とした森の中に、風が吹いたら倒れそうな掘立小屋が数件立ち並んでいるのが、炎に照らされ確認できた。
「こんな所に、病人を押し込めてたの?」
今は人気は無いが、俺達がゴトフリーを落とすまでは、かなりの人数がここに押し込められ、人生の最後の時を過ごしていたのだそうだ。
「今は騎士団の治癒師の方達の、治癒を受けることが出来るようになりましたし、ここが使われる事はもう無いでしょう」
ゴトフリーの人族の治癒師は、未だに獣人の治癒を拒むものが多かった。
その言い分は、治癒の能力は神の恩寵で有り、神の慈悲は獣には必要ないのだそうだ。
よって彼等は捕らえられ、財産を没収の上、希望通り人族相手に、無給で治癒の奉仕活動に従事させている。
永年すり込まれた教えが、そんな事で改心させられる訳ではないが、見せしめ程度にはなる。
「そうよね。ここはもう必要ないわよね」
その時、地響きと爆発音が同時に聞こえ、そう遠くない所で、火柱が上がるのが見えた。
「近いぞ!!各部隊手筈通りに散開!!1個中隊は俺に続け!!」
「みんな!!マスクッ!!マスク着けてねッ!!」
ブルーベルごと穴の中に飛び込み、光玉を放つと、長い年月油を流し込まれ、火を放たれて来た穴の壁面は、黒く煤け焼け残った油で、てらてらと光って見えた。
「うっきゅう~~~~~!!」
風を纏い、落下速度は調節しているが、レンの恐怖心は相当なようで、俺の腰に腕を廻しぎゅうぎゅうと抱き着いて来る。
こんな時に不謹慎だとは分かっているが、余りの可愛らしさに、笑ってしまいそうだ。
「もう着くぞ?」
「うううぅ・・・」
地下墓地に続く横穴に入り込み、ブルーベルの足が地面に着くと、レンの肩からふっと力が抜けたのが分かった。
「レン。もう目を開けて大丈夫だ」
「つ・・・着いた?」
「ほら、もう墓地の中だ」
「ほ・・・ほんとだ・・・今度は落ちなかった」
あの龍の親子と一緒にされては、堪らんのだが?
「急ぐぞ。ここも長くは持たんかもしれん」
「はっはい!」
地上から爆発音が聞こえる度に、天井から石榑がばらばらと落ちてきている。このままだとここも陥没してしまうかもしれない。
俺達は狭い墓地の通路を、出来る限りスピードを上げて通り抜け、神殿の敷地に飛びだした。
地上に出て最初に目に飛び込んで来たのは、地獄の業火とはこういう物かと、思う程の燃え盛る炎だった。
敷地も広く石造りの神殿に延焼は起こっていなかったが、神殿を囲む街の建物は、火の手が上がり、レンの指示で着けたマスクが無かったら、熱気と焦げ臭い匂いで鼻と肺がやられてしまっていたかもしれない。
俺達が着けているマスクは、別の用途の為にレンが第二騎士団に支給したものだが、こんな所でも役に立つとは思わなかった。
「ダディ!!ダディ!!いる?!」
『ここに居るぞ』
とまた頭上から声が聞こえて来た。
レンの気配を追って来たのか。
最初からここに来ることを予想していたのか。なんとも絶妙なタイミングだ。
「ダディにお願いがあるの!」
『なんでも言ってみなさい』
「カルのお家に行って。魔素水をいっぱい持って来て欲しいの!あと、いちごを預かって!!」
「魔素水?」
「回復薬の代わりです」
「それなら、いちごで良いじゃないか?」
「いちごは植物ですよ?こんなところで連れて歩いたら、燃えちゃうでしょ?」
「あ・・・確かに」
『分かった』
クレイオスの同意と共に、レンの髪にくっ付いていたいちごが、空に浮かび上がった。
ピーーーーッ!!ピギュギューーッ!!
「ごめんね!いちご!でも危ないから。クレイオス様と一緒に居てね!!」
ピュギーーー!!
浮かび上がったいちごは、レンと離れたくないのか、空中でジタバタと暴れ、荊を伸ばしてきたが、クレイオスが張った結界の中に閉じ込められ、空へと登って行った。
「可愛そうだけど、仕方ないですよね」
「まぁ、そうだな」
「この後は?王城に行くのよね?」
「そうだな。3人の内誰かは居るかもしれん」
「分かった」
「王城へ向かう!!ドラゴニュート達に注意しろ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
王城への道は、焼け落ちて倒壊した建物が道を塞ぎ、逃げ遅れた者達が途方に暮れた顔で、炎が届かない場所に蹲って居いた。
俺達は魔法で瓦礫を吹き飛ばし、消火をしながら道を進んで行った。
逃げ遅れた者には、近くに救助に来た騎士が居る事を教え、部下の指示に従う様にと言い含めた。
マークが信号弾を打ち上げていたから、そう時間を掛けずに、部下が迎えに来ることだろう。
逃げ遅れた住民たちから少し話を聞いてみたが、彼等も何が起こっているのか分からないそうだ。
急に爆発が起こり、火の手が次々と上がったのだそうだ。彼等も逃げようとしたが爆発で道が塞がれ、炎を避けている内にあの場所にたどり着いたと話してくれた。
「この辺りにはドラゴニュートは、居ないのでしょうか?」
「火災が起きている以上、いないとは考えにくい」
「そうですね。つい、いないで欲しいと言う願望で話してしまいました」
「それは俺も同じだ。・・・・ところでレンは、本当に王城へ行っても良いのか?」
「え?私?」
「クレイオスとの話を聞いて居たら、他に行きたい場所が有るのではないかと思ってな?」
「ん~~。それはもっと後でいいかな。私は先にドラゴニュートさんに会いたいので」
「ドラゴニュートに会いたい?」
俺とマークは思わず、顔を見交わしてしまった。
あの立ち合いの時よりも、何倍も強くなった奴らなど、出来れば一生お目に掛かりたくない。
それは後ろで話を聞いていた、ロロシュとエーグルも同じだったようで、二人は揃って唸り声をあげている。
「何故レン様は、ドラゴニュートに会いたいのですか?」
恐る恐るく聞くマークに、レンはにっこりと微笑んだ。
「クレイオス様に、ドラゴニュートさんを味方にできるかって聞いてみたんです。そうしたらクレイオス様は、私なら可能だって言ってくれたので」
「ドラゴニュートを味方に?」
俺達4人は揃って首を傾げたが、レンはニコニコと目元を綻ばせ乍ら、自分の顔を隠しているマスクを指差した。
「だって。その為のマスクですよ?」
「あっ!!」
「そういう事か!」
「なるほどね」
「その手があった」
間抜けにも俺達4人は、再びそろって手の平を拳で打ったのだった。
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