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千年王国

帰路

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 クレイオスにより首都の外郭周辺に集まっていた魔物の掃討も終わり、首都の中に入り込んだ魔物も、全て片付けることが出来た。

 魔物の討伐に当たっている間は、動きたがるレンに俺かマークが付き添い、しっかり休ませ、魔力と神聖力の回復に専念させた。

 別にレンを監視していたと言う訳ではないのだが、大公城に避難していた民が、レンの治癒の力を知り、病や怪我を治癒して欲しいと、離宮の周囲に集まって来てしまったからだ。

 レンは慈悲の人で、助けを求められれば、全ての者に治癒を施そうとする。

 それでは何時まで経っても、レンは疲弊したままで、自身の回復など後回しになってしまう。

 病や怪我を癒して欲しいと言う、切実な思いは理解できるが、神ではなく人の身のレンには限界があるのだ。

 それにこの国に治癒師がいない訳ではない。 

 その腕前がどれ程のものかは知らんが、なんでもかんでも奇跡に縋ろうとするのは、如何なものかと俺は思う。

 俺とマークはそこの所を、口が酸っぱくなるまでレンに諭したのだが、レンも頑固なところがあり、結局重篤な病に罹った子供の治癒だけは認める事になった。

 案の定やっと回復したばかりの、レンの神聖力はごっそりと抜け落ち、その回復にクレイオスの手も借りる事になってしまった。

 神聖力の回復に、クレイオスと・・・そのなんだ。

 性的なものは何も無かったが、レンの両手を握り。満足そうな顔をするクレイオスに、イラついた事は事実だ。

 そんなこんなで、回復したレンによる浄化も済み、手配していた援助物資も、数日後にはウジュカに届くと言う連絡も、ダンプティーが届けて来た。

 その連絡を受け、俺達はゴトフリーへ戻る事にしたのだが、首都を囲む外郭のあちこちが、崩壊と決壊をしてしまっている為、ショーンとロドリックの部隊から、其々25名ずつ、計50名を残し魔物の警戒に当たらせることにした。

 この50名は支援物資を運んで来た部隊と入れ替えで、ゴトフリーに戻るよう手配も済んでいる。

 そして出発の時が来た。

「愛し子様。クロムウェル大公にはご尽力頂き、真にありがとうございました」

「大公子殿下も、大変だとは思いますが頑張って下さいね。何か困ったことが有れば連絡してください。この国を救うにはどうしたらいいか、一緒に考えましょうね」

 レンの優しい言葉に、大公子は感極まったのか涙を零していた。
 
「サタナス。国と人を動かす為には、常に学び続けなければならない。一人で背負いきれない事も有るかも知れんが、お前には弟が二人も居る。3人で力を合わせれば何とかなると俺は思う。まあ、どうしようもなければ言ってこい。レンも言ったように一緒に考えてやるから」

「はい。ありがとうございます。大公閣下の教えを胸に、精進いたします」

 別れを惜しむ人々に見送られ、俺達は大公城を後にした。

「アレクの教えって何?」

「あぁ。あれか?離宮に盗賊が入り込んだ時に、少し説教をしただけで、大した話はしてないぞ」

「ふ~ん」

「なんだ?何か言いたそうだな」

「ん~?アレクは人にものを教えるのが上手いから、きっと熱く語ったんでしょう?私も一緒に聞きたかったなぁ。って思っただけ」

「熱く語った訳ではないが、大公子がやる気になってくれてよかったよ」

「ふふ。アレクはいい先生になりそうよね?」

「それはない。俺が教壇に立ったら、子供が泣きだす」

「うっとりして、身が入らないの間違いじゃないの?」

 この人は・・・・。
 そんな事を言うのは自分だけだと、未だに気付いていないのか?

 まあ、番に魅力的だと思われるのは、かなり気分がいい。

 ここは、否定するのは止めておこうと思う。

 沿道に集まった人々の歓声を受けながら、首都の大通りを進んで行くと、街の中にはまだ土砂が残り、倒壊した家屋もそこかしこに見えた。

 その事にレンは心を痛めていたが、やる気を出した大公子なら、復興に力を注ぐことだろう。

 暫く進む内に、聞こえて来た水音に視線を移すと、俺達が首都に到着した時、チョロチョロと力なく水を零していた噴水が、今は力強い水の流れを作っていた。

 陽の光にキラキラと煌めく水の流れは、この国の未来を象徴しているようで、俺は少し嬉しくなったのだ。


 その夜、野営の準備を終えた俺は、疑問に思っていたことをレンに聞いてみた。

「サンドワームはどうしたのだ?」

「ああ、あの子達はクレイオス様に預かってもらいました」

「なぜクレイオスに?」

「乾燥したらもっと小さくなったけど、やっぱり大きいのには変わりはないし、連れて歩く訳には行かないでしょ?それにあの子達は住む場所を選ぶから」

「ああ、そうだったのか。しかしせっかくティムしたのに、使い道がないと言うのもな」

「使い道ならありますよ?」

「あるのか?」

「はい。でも今直ぐにって事では無いので、それまではクレイオス様に預かって貰う事にしたんです」

「なるほどな。サンドワームはどう使う積りなんだ?」

「それはですね・・・・」

 と、ちょっと自慢気にレンが話してくれたサンドワームの使い方に、俺は感心してしまった。

「面白いな。それに汎用性が高そうだ」

「うん。考えた通りの成果があるかは分からないけど、試してみて損はないかな?って思ってます」

「いや、レンが考える事に間違いはないだろ。きっと上手く行くさ」

「ふふ。ありがとう」

 ニコニコと嬉しそうな番が可愛くて、唇を重ねたのだが、このところの禁欲生活で、オレの我慢は、直ぐに限界が来た。

「いいか?」

「・・・・ちょっとだけなら。いっぱいは駄目」

 可愛いな。
 だが、この俺にチョットだけが、通用するとでも?

「善処はする」

「本当にチョットだけよ?」

 念押しをして来る唇をキスで塞いで、俺はしっかりと番を堪能させて頂いた。

 俺としては、番の希望も考慮し、かなり控えめにしたつもりだったが。

 翌日のレンは、昼過ぎまでブルーベルの上でウトウトし続けた。

 マークからは、何やってんだコイツ。と言いたげなジトッとした視線が刺さって来たが、番と仲良くする以上に、大事なものなど無い。と俺は開き直る事にした。

 途中支援物資を運んで来た部隊と行き会い、情報交換をしたが、ゴトフリーでは特段変わった出来事は起きていないそうだ。

 カルを探しに行ったアーロンが、神殿で大暴れしているのではないかと、ひやひやしていたが、あの巨大な龍を見たものも居ないらしい。

「カルは、普通にお家に帰っただけだったのかな?」

「どうだろうな。状況的に考えて、それはない気がするけどな」

「う~ん。ねぇ、ダディ。カルとアーロンさんが今どこに居るか分かる?」

『いや。分からん。アーロンは偉そうなくせに、色々雑な奴なのだ。あ奴がこうも完璧に気配を消せるとは思えんな』

「やっぱり捕まっちゃたのかしら」

「今の所はなんとも言えん。とにかくゴトフリーに帰らないとな」

「うん。そうだね」

 ゴトフリーとの境界になって居る山を登り始めたが、魔物が姿を見せる事も無く。
 順調に距離を稼ぐことが出来た。

 静か過ぎる気もしないではなかったが、王城に戻る事を優先し、俺達は先を急いだのだった。

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