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千年王国

従魔は主人だけが大事らしい

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「あの雫が何か分からないので、止めようとしたのですが、いちごの警戒と抵抗が激しく、レン様に何かあってはと・・・・」

「抵抗したのか?」

「近づこうとしたら、荊が生えてきました」

「荊か・・・・いちごは従魔だ。主を傷つける真似はせんだろう。それに温室に居た魔物も薬を創り出してレンに渡していたからな。問題ない筈だ・・・・多分な」

「はあ・・・多分ですか・・・・」

「温室の魔物は、レンの魔力を吸って薬を作った。いちごのあれが薬なら、どうやって魔力を得ていると思う?」

「さあ・・・・どこかに、枝か根を伸ばしているのでしょうか」

「そう言えば・・・」

「何かありましたか?」

「ここに戻って来る途中、俺と入れ違いで、何かが地面を這って行ったような気が・・」

「閣下?」

「実はな。いちごは俺が倒した、サンドワームを喰ったんだ」

「サンドワームをですか?」

「だから・・・その辺の魔物の死体に、いちごの荊か根が・・・・・」

「・・・・絡まってますね」

「絡まってるな」

 ・・・・・・・・・。

 ひよこ達が倒したオークとオーガ。

 俺達がさっき倒した、モリオオトカゲの身体に、いちごから伸びた白く細い根が絡みつき、モリオオトカゲに居たっては、まるで繭のように、いちごの根に覆われて居るのが見えた。

「・・・レンには言うなよ」

「それは・・・レン様が知ったら、ショックを受けそうですから・・・でもいつかは知られてしまいますよ?」

「そうなんだが・・・今は拙い気がする」
 
 何時ならいいとも言えんのだが・・・・。

 目覚めた直後に、今呑んだ薬の原料は、魔物の死体だ。などと知らされて、気分の良い人間は居ないだろう?

「レン様に秘密にするのは構いませんが、レン様が目覚めるまで、あの状態と言のも如何なものでしょうか。いちごは頑張って抱えている積りでしょうが、あのままではレン様のお身体が冷えてしまいます」

「かと言って、でかくなられても困るしな」

「閣下何とか出来ませんか?」

「なんとか・・・ね」

 俺としては、俺以外の誰か・・・・マークは除外する。がレンを抱き替えていること自体が気に喰わん。

 例えそれが魔物や、魔獣であってもだ。

 本心を言えば、クレイオスやカルであっても。
 ノワールやクオンがレンに甘えているのも。
 アン達狼がレンと遊びたがるのも、このいちごが人を小馬鹿にした顔で、レンを守ろうとして居る事も、全てが気に喰わん。

 しかし子供や魔物相手にまで、嫉妬しているとレンに知られたら、重すぎて嫌われてしまいそうだから、我慢しているだけだ。

 そう思うと、マークに対してだけは嫉妬心が湧かない、と言うのも不思議な話だ。

 モーガンとレンが楽しそうに話をしていると、イラッと来るから、番持ちだから、と言う訳でもない。

 理由や理屈は分からんが、マークは俺達にとって、特別な存在なのだと、改めて思う。

「無理やり引き剥がそうとしたら、暴れるよな?」

「そうですね。私達は近付く事も出来ませんでしたから」

 ならば、搦め手しかないな。

 いちごを刺激しないよう、出来るだけゆっくり、且つ静かにレンに近付き、2ミーロ程離れた場所から、俺はいちごに話しかけた。

「いちご」

 ビギュ!ギュギュビギービュ!

「おいおい。口から牙が出てるぞ?そんな顔を見せたら、レンが驚いてしまうな」

 ギギギ・・・ギュギビー。

「なあ。レンの魔力を回復してくれているのか?」

 ピーギュギュ! ピピーギュルルル!

 なんだ?葉っぱでマークを指してるのか?

「マークが近付いたのが嫌だったのか?」

 ギュギュギュ。ビビー!!

 こいつ・・・何言ってるのか全く分からんが、良くしゃべる魔物だな。

「あのな?いちごが知らないのは仕方がないのだが、レンの魔力の回復は、クレイオスから教えてもらった、特別な方法じゃないと駄目なんだぞ?」

 ピギュ。ピピギュギュ

「治癒師って分かるか?病気や怪我を治す人間の事なんだが、その治癒師からも、レンには、あまり回復薬を飲ませるな。と言われている。そうしないと逆にレンは、病気になってしまうんだ」

 ピリュ?

「それにな、いちごは水に濡れるのは好きかもしれないが、そんな濡れたところにレンを座らせていたら、体が冷えて、本当に病気になってしまう。だからレンを俺に返してくれないか?」

 ピピリュピーピッ。ピピピーピッ!!

 なんか、慌て出したな。
 これは話が通じていると思っていいのか?
 それなら、あと一押しか?

「いちごが助けようとしてくれて。レンもきっと喜ぶと思う。でもな遣り過ぎは駄目なんだぞ?今のレンに必要なのは、ちょっとの薬と、暖かい場所で眠る事なんだ。分かるか?お前のその薬が、他の人間の怪我も直せるなら、あそこに居るヤンとグローデルヒを治してくれたら、レンはもっと喜ぶと思うぞ?」

 俺の話が通じたのか、いちごは俺とレンを何度も交互に見て、花弁の頭を傾げて見せた。

「たのむよ。レンは俺の大事な人なんだ」

 魔物相手に真剣に話してる俺って、傍から見てどうなんだろうな。

 だが、いちごもレンを思っての事なのだから、ムカツクが無下にも出来んしな。

 俺の気持ちが通じたのか、俺とレンを何度も見て居たいちごは、レンを持ち上げスルスルと伸ばした枝で、レンを返してくれた。

 まあ、最後の最後で。
 俺が伸ばした腕から、フイッとレンを遠ざけると言う、悪ふざけと言うか不毛な抵抗に、イラっとしなかったと言えば嘘になる。

「おい」

 ピギィー。

 軽く凄むと、魔物のくせにさも渋々と言った風情で、レンを返してくれた。

 腕の中のレンの身体は泥土で濡れ、冷え切っていた。

 濡れた体を魔法で乾かし、マントで包んでやりたかったが、生憎俺のマントはサンドワームに溶かされてしまった。

「誰か!マントを貸してくれ!」

 すると我も我もとマントが差し出されたが、マークが自分のマントを外し、皆を無視してレンの身体を包み込んでしまった。

 マントを手にした部下達は、一瞬唖然とし、次にブーブーと不満の嵐が吹き荒れた。

 曰く。

「副団長ばっか、狡い!!」

「あれ閣下以上に、過保護なんじゃね?」

「副団長ってさ、番の2人よりレン様に優しいよな」

「番持ちな上に、レン様にベッタリって、どうなの?」

「よく閣下が怒らないよな?」

 それに対しマークは。

「好き勝手言うのは、私に勝ってからにしなさい。レン様の傍に侍るのは、強者の特権です」

 ・・・・・だそうだ。

 まあ・・・なんだ。
 突っ込み処は満載だが。
 マークだから仕方ないよな?

 一旦マークの事は置いといて。

 レンを手放したいちごだが、マントで包まれたレンを、頭を傾げて見上げている。

 いちごは感情や思考を持っている様だが、植物と動物の違いを、今一つ理解できていないのかも知れない。

「いちご。レンの代わりに、ヤンとグローデルヒを治せるか?」

 ピギューーー。

「嫌か?だが、二人を治してくれたら。レンはいちごの事を、物凄く褒めてくれると思うぞ?」

 ピュピピーー。

 イラついて居るのか、考えているのか、根っこでバシバシと地面を叩いていた、いちごだが、レンに褒めて貰える。というのが効いたのか。

 よちよちと、グローデルヒに近付いて行った。

「か・・・閣下?これ・・・?」

「レンの従魔だ。悪いようにはしない筈だ」

「本当ですか・・・あ”ッ!!あががっ!!」

 いちごには、遠慮と言う物はないらしい。
 
 いちごは細い根で、グローデルヒの潰された腕を、ぐるぐる巻きにしてしまい。

 根っこが巻かれた腕からは、砕けた骨が動く音がゴリゴリと聞こえて来た。

 激痛で悶絶する体を、伸ばした荊でガチガチに拘束したいちごは、レンの時よりも色の薄い薬液を、荊で無理やり開かせたグローデルヒの口に、ダバダバと流し込んだ。

 おいおい。
 それは治療じゃなくて拷問だろ?!
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