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千年王国

ヨナスとヴァラク

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 結局カルは見つからなかった。

 大門が開いた形跡は無し。
 カルほどの魔力の持ち主が結界を破れば、その形跡が残らない筈も無く。

 これは空間を開いて転移したのだろうという事になったのだが、ではどこに行ったのか。

 それは誰にも分からなかった。

「カルは、あちこちほっつき歩く性格じゃないっすよ?」

「そうよね。ゴトフリーの自分のお家に帰ってるかもね」

「自分も詳しい話はしてないっすけど、なんかカルが話す事って、あそこの中の事ばっかりなんすよね」

「そうなのよね。たまにお出掛けはしていたみたいだけど、どこか気に入った場所があるとか、そんな話はしてなかったわね」

「やっぱ、家だと思うっす」

「シッチンは、俺達が大公子の話を聞いた後、カルと話してないのか?」

「そうっすね。最近は俺が寝る前に顔を出すことが多かったんすけど。昨日は来なかったっすね」

「朝、いちごの話をしたのが、最後なんだな?」

「多分」

「クオン、ノワール。カルが居なくなった事に、全く気付かなかったのか?」

「うん」

「かるはすねると、すぐにすがたをかくしちゃうの」

「けはいも、けしちゃうんだよ」

「「ねぇーー!」」

「そうか」

 ほんとにお子ちゃまだな。

「だから、きょうもすねたんだとおもってた」

「気配が消えたのは何時だ?」

「ん~と」

「おかしたべてたとき」

「今さっきだな」

「アレク、どうする?」

「どうすると言われても、自分で出て行ったなら、どうしようもないだろ?」

「そうなんですけど・・・」

「何か引っかかるのか?」

「ん~~今は気にしないで下さい。取り敢えずアーロンさんと話して来ますね」

 ふむこれは面倒な事になりそうだ。

「マーク、ショーンの部隊に、最低限の人数だけ残して、こっちに戻る様に伝達してくれ」

「何かあるとお考えですか?」

「俺と言うよりはレンがな。レンがああやって何かを言い渋る時は、多かれ少なかれ何かあるのだよな」

「あ~。確かにそうですね。一応警戒態勢を取らせておきます」

「そうしてくれ。俺もアーロンの所に行ってくる」

 こうして俺はアーロンの元へレンを追って向かったのだが、アーロンへ宛がった天幕の中に二人の姿は無く、辺りを見回すと、外郭の下で、ドラゴンの二人が所在無げにしゃがみ込み、乾いた土に指で絵を書いていた。

「2人ともレンはどうした?」

「ん~?」

「おじさんと、はなしがあるってぇ」

 2人は揃って外郭の上を指差した。

 2人が指さした外殻を見上げると、そこにはレンの黒髪と、アーロンの黄金の髪が風に揺れていた。

「レン!」

「あれ?アレクどうしたの?」

「俺もいいか?」

 2人が構わないと言ってくれたので、俺は風を呼び外郭の歩廊に飛び上がった。

『獣人にしてはやるな』

「それはどうも」

「アレク。アーロンさんもカルの居場所は分からないって」

「そうか。カルの事も気になるが、俺は別件で話しに来た」

『面倒事は御免だ』

「だろうな。俺もだ」

『ふん。それでなんの用だ?」

「あんた、この国の今の有様をどう思う?」

 アーロンは結界越しに首都の外に目を向けた。

『我と番の思い出が台無しだ』

 この龍もしんみりした声を出せるんだな。

「この先どうするつもりだ?」

『どうするとは?』

「この地に残るのか、出ていくのか。雨を降らす気は在るのか無いのか。色々だ」

『我の勝手だろう』

「まあ。そうなんだが。俺の立場としては、ここに住む住民の、今後も考えてやらなければならない。そうなるとあんたの動向次第では、住民を移住させねばならんしな。その為には知らなければならない事も多い」

『人の世は、時が経っても面倒事ばかりだな』

「人も獣人も群れなければ生きられないからな。あんた達の様な孤高の生物とは根本から違う」

『聞いた風な口を利く。この地を離れるかどうかはまだ決めて居らん』

「なら少し手を貸してもらえんか?」

『図々しい奴だな』

 小馬鹿にした言い方だが、少しは興味を引けたようだ。

「そうか?気の所為だろ?」

『はあぁ~~~。それで?我に何をさせたい』

 うんざりした様子のアーロンに、結界を張っている魔晶石を調べる事と、魔物の討伐の手伝いを頼んだ。

「もともとカルに頼むつもりだったのだが、あいつが居なくなってしまったからな。あんたに頼むしかない」

『・・・・仕方あるまい』

 嫌そうに、同意したアーロンにレンはホッとした様子を見せながらも、おずおずと口を開いた。

「あの、さっきの続きを話してもいいかしら?」

『ん?構わんぞ?』

「えっと、さっき話したみたいに、色々な事があって、私は呪具の浄化をすることになったのですけど、その呪具を仕掛けていたのが、ヴァラクという魔族の王子だったんです」

『ヴァラク?・・・・聞いた名だな』

 レンは「やっぱり」と一人納得している。

「それで、ヴァラクはヨナスさんに、会いに来たりして居ませんでしたか?」

『・・・・・どうだったか・・・・そう言えばヘルムントが、ヨナスの従兄弟が合いに来たと、話していたことが有ったな』

 それを聞いたレンが、うんうん。と頷いている。

「そのヴァラクなんですが、アウラ様との契約を破ったって事で、アザエル王とその長男に粛清されたのですが、つい最近まで、多くの人の身体を乗っ取って、精神だけ永らえていたんです」

『・・・・執念深い雄だな』

 アーロンも呆れた顔を見せているが、本当に何も知らなかったかどうかは、怪しいと感じた。

「ですよね。でもあまりにも多くの人の身体を利用したせいで、あの人の精神と言うか自我は、壊れてしまっていて、遣る事に整合性が無くなっていたんです。でも体を乗っ取られた人たちは、みんな其々恨みや葛藤を抱いていた人達ばかりだったらしくて、遣る事がそれはもう陰湿で」

『ふん。それで?』

「もしかして、ヨナスさんも同じことが出来たりしませんか?」

 レンは何を言い出したのだ?
 ヴァラクと同じ事ができるか・・・だと?

『ヨナスは・・・ヨナスは強い魔力を持った雄だった。リザードマンの軍団を作れるほど、錬金術にも長けていた。そのヴァラクという雄が出来たのなら、ヨナスにも出来るだろうな』

「レン。いったい何を考えている?」

「・・・・・ねえ。もしかして、ウジュカとゴトフリーで起こって居る事って、ヴァラクだけじゃなくてヨナスさんも、手を貸している可能性は無いかしら?」

「なんだと?どういうことだ?」

「だって。ヴァラクはあっちこっちに手を出してはいたけど、基本的にな標的は帝国だったでしょ?」

「まあそうだな」

「ヴァラクにとって、呪いに侵された、ウジュカみたいに小さな国なんて相手にする必要あったのかしら?」

「うむ」

「それに、アーロンさんが居た神殿に置かれた呪具や転移陣は、ヴァラクのやり口だけど、じゃあこの結界は?誰が張ったの?」

そう言われると、俺も首を傾げるしかない。

「レジスさんのお墓の場所も知っていて、アーロンさんの宝珠が納められていた祠を、大公殿下に発かせたのは誰?何故ゴトフリーとこのウジュカの瘴気は、同じ感じがするの?」

「ヨナスとヴァラクは手を組みはしたが、その利害は一致していなかった?」

「私はそう感じます。そうでなければギデオン帝の侵攻から、ウジュカを護る必要なんてないでしょ?それにアーロンさんの宝珠は、ヨナスさんとヘルムントさんの墓所って言われている場所に隠されていたけど、あそこにも、呪具と転移陣は在ったでしょ?でもアーロンさんの力が強くて、呪具の役目をはたしていなかった。それは、アーロンさんの力を知らなかったからじゃないかしら」

「そうとも考えられるな」

「あと今回の魔物の増加は、クレイオス様が関係しているから、ヨナスさんにも想定外だったと思うの。だからこんな中途半端な結界なんじゃないかしら」

「そうだな・・・・ん?今魔物の増加に、クレイオスが関係していると言ったか?」

「あ・・・」

 レンは如何にも、しまった という顔で、視線を泳がせている。

「レ~~ン」

「えっと、あのね。これはクレイオス様が自分で話した方が良いと思って、カルもその方が良いって言って・・・・た・・・から」

「黙っててごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 両手を顔の前で擦り合わせ、拝むように謝る番は可愛いし、別にレンが悪いわけでもない。

 クレイオスめ。
 しらっと、逃げやがって。
 俺達に降り掛かる面倒事のほぼすべてが、神とその眷属の所為だと言うのは、どういう事だ?

 あいつら本当に神なのか?
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