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千年王国

カルはお子ちゃま

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「これで5個目だな」

「あと、いくつあるのでしょうか?」

「ん~~~多分、あと一つだと思います」

「分かるのか?」

「当てずっぽうなんですけどね?ちょっと見て貰っていいですか?」

 俺が指揮を取る天幕の中で、レンは机に広げたウジュカの地図を覗き込み、魔晶石が発見された場所を記入していた。

 レンに言われ、俺とマーク、ロロシュ、エーグルの4人が、机の上の地図をレンの頭の上から覗き込んだ。

「うわ。急に暗くなった」

 小柄なレンは、俺達の影に入り込んでしまった所為で、暗くなったとぶつくさ言っている。

 俺達は、視線を交わし合い、机の脇に揃って片膝を付いた。

「ぐぬぬ・・・これはこれで、腹が立つと言うか、ちょっと複雑」

「そう言うなよ。ちびっ子がちっちぇのは仕方ないだろ?」

 ベシッ!!

 鈍い音と共に、ロロシュの後ろ頭をマークがはたいた。

「いってぇなぁ」

「貴方はその無駄に動く口を、暫く閉じて居なさい」

「ロロシュの事は放って置け。それで、どうしてあと一つだと思うのだ?」

「んとね。ここが魔晶石が見つかった場所でしょ?」

 レンは目印の赤い石を、魔晶石が発見された場所に置いて行った。

「それで、この場所を線で繋ぐと・・・」

 地図の上をレンの指が滑り、所々に石を置いていくと、星の形が象られた。

「これは、私の国で六芒星とか、籠目紋って呼ばれて居る図形なんですけど、最後はここだと思うんです。でも、もしかしたらこの内側の線が重なる場所にも、何かあるかも知れないので、念の為調べた方が良いかも知れませんね」

「本当だ、星みたいだな」

「この図形は、邪法の魔法陣で見たことが有る。ちょっとシッチンと相談してくるわ」

 ロロシュが天幕を出て行くと、マークもレンが示した場所へ騎士を向かわせると言って、ロロシュの後を追って行った。

「すまんな。助かるよ」

「いえいえ。只のあてずっぽうですから。何にもないかも知れませんよ?」

「しかし、君のそういう勘は外れたことが無いからな」

「ん~~~」

「どうした難しい顔をして」

「・・・あの。このヴィースってアウラ様が創った世界ですよね」

「あぁ。それはレンも良く知って居るだろ?」

「この世界は、アウラ様の影響が大きいじゃないですか。その、アウラ様の好み全開と言うか。それでアウラ様って、私が居た世界の文化大好きなんです。その所為で色々丸パクリと言うか・・・・共通点が多くて。だから私が言った事で、みんなに感心されたり、褒められたりすると、逆に申し訳ない気分になるんです」

「なぜだ?役に立って良いじゃないか」

「何と言うか。あっちの文化が無かったら、こんな事には成って居なかったかな?余計なことしちゃってるなあ、とか思っちゃって」

「ふむ。君の気持ちは分からんでもないが、それはレンが気にする事では無く、アウラ神が反省すべき点ではないのか?」

「う~~ん」

 納得いかない様子のレンの頭を撫でていると、空中から菓子の包みがポポンッと飛び出して来た。

「おっと」

「かっこいい~!」

 レンの頭に当たる寸前で菓子の包みを掴み取る事に成功すると、俺の可愛い番がパチパチと手を叩き、褒めてくれた。

 この程度の事で。と思いもするが、番いにに褒められるのは、どんな事でも気分が良い。

「ほら、アウラも気にするなと言っているぞ?」

「・・・あはは。お菓子でつられちゃう私は、子供って事なんですかね~」

 レンは立派な大人だ。
 色々とけしからんが、立派な大人だぞ?
 
「レン様~おかし~?」

「たべてもい~い~?」

「良いわよ。でも一袋だけね」

「え~!」

「いっぱいたべたい~」

「沢山食べると虫歯になっちゃうわよ?それに他の人にもあげないと。可哀そうでしょ?」

「ん~~。じゃあ。ロロシュのぶんは、ぼくたちが食べてもいいよね?」

「ロロシュさん?どうして?」

「ロロシュは、マークをおこらせてばっかり」

「「ねーーー!」」

「あらら。本当の事だけに反論し辛いわ」

 苦笑いをするレンだが、それでも躾はきっちり行い、ドラゴン達の無駄食いは許さなかった。

 不満を口にしつつ、ノワールがいちごの顔の前に菓子を差し出すと、糸のように細い口がガバリと開き、ノワールの差し出した菓子を一口で食べてしまった。

 運よくレンはクオンに気を取られて見ていなかったが、かなり衝撃的な場面だ。
 それを見てノワールはケタケタと笑っているが、いちごの口の中を見てしまった俺は、ノワールのように手放しで、笑うことは出来なかった。

 どんなに可愛らしい見た目でも、所詮魔物か・・・。
 
 従魔が主人を襲う事はないだろうが、この衝撃的な事実を、どうやってレンとマークに伝えたものか・・・・。

 2人とも、すっかりいちごに、骨抜きにされてしまったからな。

 結局カルとアーロンも、いちごの正体を知らなかったし。何ならアウラ神も、自分で創造した生き物では無いから分からない。とレンに答えたらしい。

 本当にこいつは、何なのだろう。
 温室に居たトレントの、亜種のさらに亜種にでもなるのだろうか。

 あのトレントの亜種は、魔力を吸い取り子づくりに特化した薬を作っていたが、いちごも何かを作り出したりするのだろうか?

◇◇
 

魔晶石の捜索結果を待つ間、俺達はロドリックも交え、外郭周りの魔物の討伐についての打ち合わせを進めていた。

 昨夜の報告通り、外郭に押し寄せていた魔物は、徐々に首都から散って行っている様だ。しかし人里離れた場所に散って行くなら良いが、自衛の手段が無い小さな町や村が襲われては元も子もない、集まり過ぎるのも困るが、散り過ぎる前に、一匹でも多く数を減らしておかなければならない。

 そして、結界の主がアーロンでない以上、何時結界が消されてもおかしくはない。更に言うなら、結界を発動させている魔晶石に、別の仕掛けがある可能性も否めない。

 クレイオスのブレスのお陰で、相当数の魔物を駆逐する事は出来た、それでも全てでは無いし、魔物を産み、転移で呼び寄せていたのが、アーロンの居た神殿だけとは限らない。

 ウジュカは小さな国だが、それに対して魔物の数が多すぎる。

 レンは浄化による救済を望んでいるが、全ての魔物を、というのはやはり無理がある。

「ここの外殻は堅牢とは言い難く、結界の無い状態で魔物の群れに襲われたら、ひとたまりも有りません」

「そうだな。だがあの結界有りきで、対応を考えるのは危険すぎる」

「いつ消えてもおかしくないのですよね?」

「消える事を前提に考えたら、カルのブレスで薙ぎ払ってしまう事も可能でしょうが。乱暴すぎますかね」

「・・・・・・レンは、カルと一緒か?」

「クオンとノワールを連れて、アーロンの所に行くと仰っていましたが、カルが一緒に居るかは・・・」

 明らかにカルとアーロンは親子だが、何故かアーロンは、カルに自分が親だと名乗りを上げずにいる。

 あの偏屈な龍が、何を考えているのかはさっぱり分からんが、親代わりとして育てて貰ったヨナスが、親子を引き裂いた張本人だと知らされ、カルが穏やかな気持ちでいるとは思えない。

 そうは言っても、魔物の大軍を前に悠長な事も言ってはいられず、討伐に向けカルの意見も聞きたいという事で、カルを呼びに行かせたのだが・・・・。

「カルさんの姿が、何処にも見えません」

「隠形で隠れているのか?」

「いつもならクオンちゃんかノワールちゃんが、どこに居るか見つけてくれるのですが、2人ともどこに居るか、全く分からないそうでして」

「閣下。アーロンの事で拗ねているのではありませんか」

 コソコソと囁くマークだが、そんな子供っぽい事をするか?

 ・・・・・カルならするかもしれない。
 あいつの精神年齢は、クオンとノワールと変わらん、お子ちゃまだった。

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