上 下
477 / 491
千年王国

目覚め

しおりを挟む
 アーロン様の角を掴み、浄化は全開。

 狭くて踊る事は出来ないので、歌だけは心を込めて歌わせて頂きました。

 今回は、おばあちゃんが好きだったフォークソング。

 それもレコードも直ぐに廃盤になって、グループも解散してしまった、超マイナーなやつを選びました。

 歌詞の内容は、纏めると。

 祖国は滅びてしまったけれど。
 大地は何処までも続いている。
 太陽は世界の全てを照らし。
 雨は優しく大地を潤し。
 滔々と流れる川は、海に流れ着き。
 逆巻く波が、全れの苦しみを洗い流してくれるだろう。
 だからどんなに辛くとも、太陽のように心を燃やし。
 果てしない大地を踏みしめ生きて行こう。

 という感じの、哀愁が漂いながら、なんとなく元気を貰える歌で、おばあちゃんが良く口ずさんでいた歌です。

 おばあちゃんが若い頃は戦後の復興期で、物は無かったけれど、みんなが希望を胸に頑張って働いていた時代なのだそうです。

「今の子は、物はなんでも有って、食べるのにも困らないけど、窮屈な事ばかりで可哀そうだよねぇ。人間はちょっと不自由なくらいが、楽しみが有って丁度いいんだよ」

 この歌を口ずさんだ後に、おばあちゃんが繰り返し言っていた言葉です。

 あの時は私も子供で、物は沢山あった方が良いし、不自由な暮らしより、お腹いっぱい好きなだけ食べられる方が、絶対良いって思ってた。

 でもヴィースに来た今なら分かる。

 スマホで動画を見ながら時間を溶かすより。アレクさんとのおしゃべりの方が楽しいし。不便な事も多いけど、それをどうにかするための道具作りも楽しい。

 ヴィースの人達は、みんな一生懸命に生きていて、その生活は元気で力強い。

 私はこの世界が好きだ。

 アレクさんが居て、マークさんやセルジュやローガンさん、ロロシュさんはちょっとあれだけど、嫌いではないし、騎士団のみんなもロイド様もアーノルドさんも。
 
 もう会えないウィリアムさんも、リリーシュ様も、大好きな人がたくさん出来た。

 魔物はいっぱいるし、浄化は大変だけど、可哀想な魔物を助けてあげられる力を貰えて、本当に良かったと思う。

 そんな思いを込め、アーロンさんの身体に纏わり付く瘴気と、ガーディアンローズの為に歌いました。

 アーロンさんの角に絡みついた荊が光りの粒に変化して、ふわふわと浮かび上がり、私の髪にじゃれる様に纏わり付いて来ました。

 喜んでくれるの?
 よかった。
 よかったね。

 ほんわかした気分になった私は、フワフワと踊る光に触れたくて、アーロンさんの角から手を放し手の平の上に光を乗せました。
その時、浄化の光りが弾け、目の前が金色に染まりました。

 なにこれ?
 今までこんな事なかったのに。

 これまでの浄化では、ブワーッと光りが満ちるって感じでしたが、今回のは何と言うか、光りの爆発?

 こう・・・スパーキングッ!!って感じ。
 と言ったら伝わるでしょうか?

 私も目を開けていられない程の、光りの洪水に、思わず縋り付いたのは、アーロンさんの角でした。

 浄化した本人ではありますが、この光の洪水がいつ治まるかも分からず、ぎゅっと目を閉じて、動揺してバクバクする心臓の音を聞いていました。

 私なんか変なことしちゃった?
 これ、いつ治まる?

 どうしよう。
 なんか足元もぐらぐら揺れてるし
 心なしか風が吹いて居る様な?
 地下なのに?
 あれれ、ピーピー耳鳴りも聞こえて来た。

 おかしいなぁ。
 魔力切れの症状とも違うし・・・・。
 あ・・・ちょっと光が納まったかも。

 恐る恐る目を開けた私は、目の前の光景を見なかったことにしようと、もう一度目を閉じました。

 きっと何かの見間違い。
 光りが強すぎて、目がおかしくなってるのよね。
 浄化した後でこれは無い。
 ない・・・よね?

 心の準備が出来ないまま、片方だけ薄目を開けて、前方確認。

 教習所なら一発で落とされるところですが、私が乗って居るのは車じゃなくて、龍の頭。握って居るのは、ハンドルじゃなくて龍の角です。

 薄目運転でも許されるはず。

「うそ・・・・」

 いつの間に、屋外へ出たのでしょうか?
 天井を突き破る音も、衝撃も無かったのに?

 高度は30mくらい?

 太陽の光が燦燦と降り注ぎ。
 アーロンさんの角を握る私の足元には、金色に棚引く鬣がキラキラと・・・。
 碧玉の鱗と相まってなんと美しい。

 空の青さが目に染みる・・・・
 とか言っている場合ではありません!!

「どうなってるの~~~?!」

『ようやく口を開いたか。人の子』

「へぇあ?あ・・・アーロンさん?」

『いかにも、アーロンだ。まずは浄化と、宝珠を返してくれたことに感謝する』

「は? いえいえ。秘宝を返したのは、カル・・・カエルレオスさんですから」

『カル・・・カルか。そうか』

 ん?
 アーロンさんは、カルを知っている?
 じゃあ、やっぱりアーロンさんは・・。
 カルのお父さんかお母さん?

「それであの・・・この状態は一体?」

『その前に確認だ。其方、アウラとクレイオスの愛子か?』

「愛子と言うか、愛し子と呼ばれていますけど」

『そうか・・・成る程・・・分かった』

 いや、一人で納得してないで、状況説明をお願いできないかしら?

「あの!すみません!下にいるあれは?魔物ですよね?」

『ん?魔物・・・そうかもしれないな』

 いやいや。見た目絶対魔物でしょ。
 なんかゲームのボスキャラ最終形態みたいな、巨大な生首ですよ?

 首?生首?

「あれって・・・レジス様だったりします?」

『まあ・・・似て非なるものだ。レジスでもあり別の者でもありだな』

 何?その禅問答みたいな答え。

「すみません。私、下に降りたいのですが」

『人の子には危ないぞ?』

「あそこで戦っているのは、私の夫なんです」

 やだ!
 髪の毛がうねうねしてなんか飛ばしてる?
 毒?消化液?
 治癒?浄化?どっちが必要?
 両方一辺が良い?

『樹海の王か?』

「え?ええ。神託ではそう呼ばれています。そんな事より、早く下に連れて行って!」

『えらく強気だな?だが人の子が行っても、危ないだけだろうに』

「大丈夫です。私、アウラ様の加護で能力マシマシなので。それに魔物の浄化は、私のお勤めですから」

『ふむ・・・アウラの加護か・・・だが其方まだ子供だろう?』

 カッチーーーンッ!!

「あの!!私大人ですッ!!あの人が私の夫だって言いましたよね?!聞いてました?寝起きでボケてるんですか?いいからチャッチャと下におろして!!」

 掴んでいた角を、グイグイ横に倒して、下に降りろとアピールです!!

『いたたたっ!! 分かった!! 下に行くから止めなさい!』

 分かれば宜しい!!

 ふんす!と鼻息を荒くする私に、アーロンさんは『まったく、クレイオスにそっくりだ』とかなんとかブツブツ言っています。

 そりゃね?
 ダディとは仲良しですから?
 似て来ててもおかしくないですよね?

『下に降りるから、しっかり捕まって居なさい』

「はい!・・・えっ?ウッ!!」

 ウッキャアアァーーーーーー!!!

 しまったぁ。
 早くって言っちゃった!!
 落ちもの嫌いなのにーーーーーーッ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!

梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。 13代目の聖女? 運命の王太子? そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。 王宮へ召喚? いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え? 即求婚&クンニってどういうことですか? えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。 🍺全5話 完結投稿予約済🍺

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...