上 下
469 / 535
千年王国

ザキエル・エレ・ウジュカ 3

しおりを挟む
「受け入れちゃったんだ」

「ドラゴンや龍は、元来頑固な生き物の様です。一度決めたら梃子でも動かない、というやつですね。アーロン様が心を決めてしまった以上、ヨナス様にはどうする事も出来なかったのでしょう」

「でも・・・・」

 私は思わずアレクさんの顔を見ていました。
 するとアレクさんは、頭を撫でてくれて、その暖かい手が、自分はそんな事はしない、と言ってくれているようで、安心出来たのです。

「悲嘆にくれるヨナス様に、アーロン様は、ヨナス様が輪廻の輪に戻られたら、柩は自分の眠る神殿に安置して欲しいと仰いました。レジス様の柩と共に、ご自分が永劫の刻を護るから、と仰ったのです」

「しかし、ヨナスの柩は」

「はい。ゴトフリーでヘリオドス様と共に、安置されていると聞き及んでおります」

「どうしてかしら?」

「カルはその時の事を、何か知らないのか?」

『私は・・あの時は・・・・・あっ思い出した!あの時はヨナスのお付きの者達が凄く揉めていた。ヨナスの遺言に従う、と言う者と。場所が分からないのにどうやって探すんだって言う者がいて、私はなんの事か分からなかったけど、暫くは大騒ぎだった』

 大公殿下は、当時の様子を知るカルに、不思議そうな視線を向けていましたが、ここでカルが大門前に現れた龍だと明かすと、感動した殿下が、また暴走しそうなので、今はお口にチャックです。

「なるほどな。ここでも呪いの効果が出ていた訳か。そうでなければ、ヨナスに仕えていた者達が、レジスが眠る場所を知らぬはずが無い」

「おそらくそういう事だったのだと思います。しかしヨナス様が身罷られてからも30年近く前までは、この地は平穏でありました。相変わらず、我等は外の世界には移り住むことは出来ませんし、外の世界からは、忘れられがちではありましたが、以前の様な怪異はかなり減りましたし、謎の病に罹る者は激減しています。それに、ここに人の住む街があり、国が出来た事は認知されて居ましたから、アーロン様の加護は生き続けていた、と申せましょう」

「ふむ・・・・30年前と言うと、ギデオンの侵攻の事か?」

「左様です。世界に忘れられるという事は、裏を返せば外敵の脅威に晒される事が無い。とも言い変えられます。我等はレジス様の魂を鎮める為の存在です。この国は本当に小さな国でもありますし、治安を護る為の兵士は居りましたが、戦の為の軍や兵を持ったことが有りません。ギデオン帝の侵攻は、それはそれは恐ろしかったと、幼心にもよく覚えております」

「国を守ったのは、あの結界か?」

「当時の結界は、公国全体を包み込めるほどの力を持っておりました。ですが、ギデオン帝が侵攻を諦めた後、一度だけアーロン様がお目覚めになり、次は無いと仰ったのです。もし結界を張るとしても、首都の周囲だけだ、アーロン様が守るべきは、この地の民ではなくレジス様の柩なのだと」

「アーロンの力は、弱まって来ているのか?」
 
 大公殿下は、とても申し訳なさそうにフルフルと首を振っています。

「私には判断できかねます。そもそも咎人の系譜である私達を、アーロン様が護る理由は無いのです。アーロン様が公国を護って下さったのが、唯の気まぐれであった、と言われても、納得するしかないのです」

「ヨナスとの間で、この地を守護するという約定は無いのだな?」

「私の知る限りではございません」

「ふむ・・・実際に見てみれば分かるか・・では、ゴトフリーには、どういう経緯で付け込まれるようになったのだ?」

「それはギデオン帝が退いた後。魔物の被害が急激に増えた事が発端です。魔物の急増は我が国に限った事では無かったのですが、わが国には貴国の様な騎士は居りません。急ごしらえで治安部隊を強化した処で、焼け石に水です」

「まあ、そうだろうな」

「それに今以上に、我々は外の世界の情報に疎かった。その為私の父、先代の大公は間違いを犯したのです」

「間違い?お父君は何をした?」

「父は、魔物の増加は、アーロン様がお怒りなって居るからだ、と考えたのです。アーロン様が首都以外を護らないと仰ったのも、全てヨナス様の柩を、神殿へ安置しなかった所為だと。愚かにも父は独断で、ヨナス様の柩の返還をゴトフリーへ求めたのです」

「鴨葱だ」

「かもねぎ?」

「鴨と言う鳥が、食材を背負って人間の前にやってくるという。敵に貢ぎ物を持って、自ら命を差しすような真似の事を言います」

「なるほど、上手い言い回しだ」

「異界の言葉でしょうか?まさに愛し子様が仰った通りだったのです。」

「何が有った?」

「最初はゴトフリーも、魔物の被害で困っているだろうし、帝国に膝を折りたくもないだろうと言って、援軍を送ってくれたりと、友好的な振りをしていました。ヨナス様の墓所の場所は分からないが、手を尽くして探している。見つかり次第、柩はそちらに返還しようとも言って来たのです。実際ゴトフリーの援軍の働きは目覚ましかった。閣下達の戦いぶりを見た後では、子供だましの様な軍ではありましたが、何も持たない我々には救世主の様に見えたのです」

「だろうな」

「神官を中心にした部隊が、魔物の巣窟へ赴くと、いくらもしない内に魔物は全て居なくなる。何と有難い事かと、父は手放しで喜んでおりました。しかし・・・」

「そんな旨い話がある訳が無い」

 ゴトフリーの神官は、呪具を使って瘴気溜まりを創ったか。自分達で魔物を召喚し、暴れ回らせた後、何食わぬ顔で現れて、魔物達をまた別の所に転移させていた。

 多分後者の可能性が高いと思います。
 彼らが魔物をティムしていたとは考えにくい。けれど魔物を引き寄せる囮さえいれば、転移だけなら簡単にできる。
 彼等は獣人を囮にすることを躊躇わなかっただろうし、それ以外考えられない。

「その通りです。最初はこちらから謝礼を渡していました。働きに見合う謝礼は当然ですからね。ですが彼等はそれ以上を求める様になりました。求めに応じねば兵は送らないと。ですが財貨も食料も、勝手に天から降って来るものではございません」

 ん~~~~。
 私の場合、勝手にお菓子が降って来るけどね~~~。

「まあ、普通はそうだな」

 みんなも同じこと考えてるのね?
 視線が痛いわ~。

「一度これ以上は無理だ。と突っぱねたのです。すると、ヨナス様の柩を人質に取られました。言う事を聞かねば、ヨナス様の柩を燃やしてしまうと、脅されたのです」

「悪党と金貸しの常套手段だな」

「そうなのですね?世間知らずな私達は、そんな事とは露知らず。ゴトフリーの意のままになって行ったのです。そんな心労からか、父が身罷り、私が公国を引き継いだのですが、その時にはこの国はゴトフリーの手で、がんじがらめに縛り付けられておりました。父亡き後、私が知らぬゴトフリーとの書簡が、腐るほど出て来て。そのどれもが無理難題を、突き付けてくるものばかりで、国民の命でさえ、何時どうなるか分からない状態でした。しかし私はやられっぱなしは性に合わず。食料の代金だけは欲しいと、交渉したのです」

「弱気ではあるが、何もせぬよりかはマシだな」

「弱気ではなく。この国は本当に弱いのです。幸いと言っていいのか、この国の領地は小さいですが、平地が多く土地と水が豊かなお陰で、農作物の栽培に適しております。しかしゴトフリーはいつも食糧難でしたから、財貨ではなく、食料をただ同然で売る事の同意を得るのがやっとでした」

「ふむ・・・そうこうする内に干ばつが始まり、盗賊に荒し回られ、宝物が盗まれた。その宝物を返す代わりに、公子を人質に取られ、公子の命が惜しければ、愛し子を連れてこいと脅され、誘拐を企てた。それが失敗すると、愛し子とアーノルドの王配目当てに、エスカルを送り込むから、その手伝いをしろ、とでも脅されて、アルマを送り込んだと云う処か?」

「まさしくその通りでございます」

 そう言って、大公殿下は恭しくアレクさんに頭を下げたのでした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

処理中です...