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千年王国

ザキエル・エレ・ウジュカ 2

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 そこからは、創世時代から現在に至るまでと、呪いと予言について大公殿下は語ってくれました。

 永い永い刻を、口伝のみで引き継がれて来たからでしょうか、殿下の語るウジュカの歴史は、吟遊詩人が語る叙事詩の様でした。

 ここからは、その補足です。

「では要約すると、殿下の祖先はレジス様に仕えていたが、命惜しさにレジスとヨナスを裏切りその結果、ヨナスが魔族に囚われる事になった。その際レジスは首を刎ねられ、後にヨナスはその首だけをこの地に持ち帰った。そしてその首が呪いの原因であっているか?」

「左様です。レジス様のお身体は魔獣の餌にされてしまいましたが。ヨナス様の従者が、晒されて居たレジス様の首を盗み出し、ヨナス様にお返ししたのです。ヨナス様の怒りと悲しみは、言葉では言い表せないものであった事でしょう」

「ふむ」

「ヨナス様は、レジス様の民を護る為、自らリザードマンと呼ばれる怪物を創り、戦に投じて下さいました。それは世界中の人族と獣人族に対する裏切り行為でありました。ですが、そのお陰でエストの民は生き延びることが出来たのです。魔族が地底へと退いた後。この地へ戻られたヨナス様は、神殿を建立されました。そしてレジス様の首を安置されたのです。その際、レジス様を裏切った我が祖先とその家門に、未来永劫その神殿に仕える様に命じられたのです。それが我らへの縛りとなりました」

 呪いは相手を縛る事。って何かの本で読んだことが有ります。
 質の悪い契約みたいなものだって。

「エストに戻られたヨナス様は、神殿を建立された後、表立った活動を行う事は有りませんでした。それは民を護る為とは言え、怪物を創り出し、多くの命を奪った事への贖罪と、嫉妬深いラジート王の目から隠れる為でもありました」

 でもレジス様という庇護者を失い、後を継いだヨナス様は隠者暮らし。
 あっという間にエストは衰退して行ったのだそうです。
 そして、エストの民の多くが、大陸中に散って行ってしまった。

「残ったのは、エストの首都であったこの地と、ヨナス様がおられた現在のゴトフリーのみ。彼の地はヨナス様の伴侶となられた、ヘルムント王、後のヘリオドス様が、ラジート王の目に付かぬよう、気を配りながらではありますが、彼の地を良く治めておいでだったそうです。それでも住民の流出は止まらなかった。そしてヨナス様とヘリオドス様には、それを止める気は無かったようです」

「何故なのでしょうか?」

「神が定めた人の王が治める世界に、獣人の王が治める国は在ってはならないからです」

「そっか・・・」

「その頃、レジス様の首を安置した神殿で、怪異が起き始めました」

「ああ、さっきのお話にあった、干ばつや地震、疫病の事ですか?でもそれって自然災害なんじゃないのかしら?」

「普通はそう考えますね。この地の者達も、始めはそのように考えて居たようです。ですが災害の全てが、この地に限定されて居ればどうでしょう?神殿では夜な夜な体を求めるレジス様の頭を見た、と言うものが続出したら?我が祖先を呪う声が神殿に響いたら?」

「それは・・・・怖いかも」

「そうでしょう?当然神殿と首都から逃げ出そうとする者も出てきます。しかし、逃げられたものは一人も居ませんでした。皆首都を出る前に命を落としてしまったのです」

「それが、レジスの怨念に因る呪いだと?」

「そう考えるのが妥当でしょう?ですが閣下。中には、ヨナス様の怒りが原因ではないか?と言うものも居りました」

「あぁ。だからヨナス様に神殿に参拝して貰ったのね?」

「はい。ヨナス様は魔族の血を引いて居られ、優れた魔力お持ちでした。ならば我が祖先を呪う事も可能であろうと。その頃は子供や老人、体の弱い者から次々に病に罹り、この地は惨憺たる有様でしたが、逃げ出す事さえ敵わなかったのです。当時の人々は、藁にも縋る気持ちだった事でしょう」

 なんと言うか
 まるで東京にある、首塚みたい?
 みたいじゃなくて、実際そうなのかも。

「ヨナス様が神殿に詣でると、一時的にではありますが、怪異も大人しくなりました。しかし、暫くするとまた悲劇が起きる。それからはヨナス様はラジート様の命日と合わせ、年に4度、神殿を訪れて下さるようになりました。その際 ”父上を裏切った者共の顔など見たくない” と仰れた事が有るそうで、その一件以来、ヨナス様が神殿を訪れる時には、出来るだけ近付かない様にしたのだそうです」

「ヨナスが怒りを見せた事で、呪いの犯人だという声が大きくなりはしなかったのか?」

「実際そうだったようです。ですが、もしそうだとしても、咎人がヨナス様を問い詰められますか?怒りを納めて貰う為には、贖罪を続けるしかないのです」

「まあ、そうだな」

「困った事は他にもありました。この地が世界から忘れられた国だ、と申し上げましたね?」

「ええ。聞きました」

「ヨナス様が神殿に詣でる時に、行商の者達が一緒について来る事は有ったのですが、それ以外で商人が、この地を訪れる事も、他国の者が訪れる事も一切なくなってしまったのです。ヨナス様の怒りが解けず、交易を差し止めているのでは?と疑う者も居りました。ですが行商人達は、こんなところに人の住む町がある事すら知らなかった。と口にし、そして次に同じ人物が来た時も、同じ事を言ったのだそうです」

「記憶を消されたって事?」

「その通りです。我等はこの地を去る事も出来ず。世界から切り離されてしまったのです」

「う~む」

 アレクさんが顎を擦り乍ら考え込んで、顎を擦る度に、ショリショリ音がしています。

 お鬚を剃り忘れてしうなんて、珍しい。
 朝方まで張り切り過ぎて、アレクさんも疲れているのかしら?

 ・・・・・・それは無いな。
 だってアレクさんは体力お化けだもん。
 単に忘れただけでしょう。 

「しかし、今は国として認識されているよな?」

「ある日碧玉の龍が舞い降り、この地に平穏を与えたもうた。という部分を覚えていますか?それが、公国の龍神信仰の始まりなのです」

「その龍は何処から来たのだ?いきなり空から龍が降りて来る事は、あったかも知れんが、その龍にこの国を助けてやる義理は無いだろう?」

「仰る通りです。ある年、それはそれは麗しい二人の青年と一緒に、ヨナス様は神殿を訪れられた。その内の1人はヨナス様の番であられたのです」

「番?」

「ヘリオドス様が身罷られてから、永い事ヨナス様は、独り身を貫いて居られましたが、後年、番を得られていたのです。此の方がアーロン様と仰る碧玉の龍でした」

「ヨナス様の番が、龍?」

 私達の視線がカルに集中しました。
 視線を向けられたカルも、初めて聞く話なのでしょう。
 食い入るように大公殿下を見つめています。

「ヨナス様は、魔族の血が流れている為、大変長寿でしたが。その頃にはもう老齢になられて居りました。アーロン様は老いて行くヨナス様を見続ける事も、やがて輪廻の輪に戻られる時を迎える事も、耐えられないと仰り。この地で、レジス様の怒りを鎮める役を、引き受けると仰ったのです」

「なんて自分勝手な!・・・・あ、ごめんなさい。続けてください」

 つい感情が先走ってしまいました。
 でも、番が死ぬのを見たいくない、って気持ちは分かるけど。だからって、大事な番を一人ぼっちにするなんて信じられない!
 
「確かに身勝手な言い分かも知れませんが、私達と違い、龍やドラゴンは悠久を生きる生物です。永遠とも言える時間を、番を失った悲しみを抱えて生きろ、というのも酷な話なのかもしれません。ヨナス様も、もうお一方も最後まで反対されたようです。しかしアーロン様の決意は固く、ヨナス様も最後には泣く泣く、アーロン様の意思を受け入れられたのです」
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