上 下
457 / 524
千年王国

良い仕事しましたね

しおりを挟む
 side・レン


「レン準備はいいか?」

「は~い!今行きま~す!」

 首都への突入を前に、抜丸と破邪の刀の点検をしていた私は、アレクさんに呼ばれて、刀を鞘に戻しました。

 此方の剣とは違う、刃紋の美しさや刀が立てる チャキって音は、いつ聞いても心が落ち着きます。

 刀のお手入れ用の打ち粉が無くて、困っていたのですが、アレクさんの剣に使う、使い古しの砥石を貰い、それを砕いて粉にして、打ち粉を作ることが出来ました。

 錆止めの丁子油の替わりは、こちらの剣に塗って居るのは動物性の脂だったので、サニーという、クローブに似た植物の脂を利用しているのですが、これが結構優れもので、お陰様で、二振りともピッカピカです。

 昨夜、戻って来た途端喧嘩を始めた3人は、一度揃って出かけた様でしたが、夜遅くに戻ってきて、順番に謝ってくれました。

 けど、怖い思いをしたのは、私より周りで見ていた騎士さん達の方だし、マークさんはクレイオス様に髪を切られても居ます。

 だからクレイオス様には、マークさんに必ず謝る様に、とだけ言って、後は笑って許すことにしました。

 喧嘩はしたけど、困難な状況に駆け付けて?飛んで来てくれた事に変わりはりません。

それだけでも有り難いもんね。

 アウラ様のお菓子が降って来た時には、私も内心ビックリだったけれど、アウラ様がちゃんと見守ってくれているのだと感じて、少し嬉しくも有りました。

 それに街の人に配った物資の分の補給だと考えれば、アウラ様にはサムズアップでGJと言ってあげたいです。

 マジで、タイミングぴったりの、いい仕事だったと思いますよ?

 それに、クッキー缶が頭に当たった時の、カルの間抜けな顔。

 プククッ!
 普段すましているから、余計に笑っちゃう。

 マークさんの斬られてしまった髪は、左の顔の横髪が顎のあたりですっぱりと切れてしまっていました。これがもしマークさんの顔だったらと思うと、ぞっとして震えてきてしまいます。

 それに片方だけ短いのは、バランスが悪く・・・も無い?

 これがその辺の大学生だったら、どうしたぁ。って聞きたくなるかもしれませんが、美人なマークさんだと、アシンメトリーな感じが、モデルさんかな?と言いたくなります。

 でも本人が、バランスが悪いと言って、せっかく伸ばした白銀の綺麗な髪を、ナイフでざっくり切ろうとしていたので、私は全力で止めました。

 ええ。そりゃぁもう。涙を流さんばかりに懇願しましたとも。

 その甲斐あって、マークさんの髪は私が整えることが出来て、出来上がったのは、白銀キラキラ、サッラサラの姫カット。

 やっぱあれですよ。
 モデルが良いと、何をやっても似合っちゃうのよね。

 まぁ、右側の髪を シャキーン と切っただけなんですけどね?

 でも、これが思いの外、マークさんが気に入ってくれて。

 ウキウキとエーグル卿に自慢している姿が、もう可愛らしいというか。
 それをニコニコ聞いているエーグル卿と二人、並んだ姿の尊さよ。

 良い物を見せて貰いました。
 こんな尊い生き物を創ってくれた、ご両親とアウラ様に感謝!!

 これから向かう先は、魔物が犇めく戦いの場です。

 見たくないものを色々と見なければいけないのだから、このぐらいの楽しみは、許してもらえますよね?

「お待たせしました!」

「うむ。刀の手入れは完璧か?」

「はい!バッチリです!」

 うふふ。
 微かに緩んだ目元の笑い皺が、今日も素敵。

 この人はゲラではないけれど、偶に大笑いした時の楽しそうなお顔も好き。

 でも、やっぱり。こういう時の優しい目が一番好きだなあ。

「じゃあ、行こうか」

 腰に回した力強い腕に攫われて、今日もブルーベルちゃんに二人乗りです。

 なんとなくアンが不満そうに見えるけど、こればっかりはね。

 とある漫画のフェンリルさんは、人の言葉をペラペラしゃべって居たから、アンもその内喋れるようになるかもね?

 そうしたら、どんな文句を言われるのか、想像するとちょっと怖い気もします。
 ステーキ食わせろー!! とかだったら全然welcome,Ok!OK!なんだけど。

 そんなこんなで、あっという間に昨日の丘にたどり着きました。

「うわあ~~・・・・・」

 昨日同様と言うか、一日でまた数が増えてないですか?

 特に昨日ワイバーンとハーピーの群れを倒したのに、更に飛行タイプの魔物が増えている気がします。

「ねえアレク、飛んでる魔物が増えてない?」

「グウウ」

 あっ。これはかなりヤバイ状況って事?
 でも、今日はカルとクレイオス様が居るから楽勝・・・かな?

「何が飛んでるのかしら?」

「あれは・・・グリフォンとヒッポグリフとガルーダも居るな」

「こんな遠くなのに、見えるの?」

「ん?あいつ等は飛び方に特徴があるから、遠目でも分かりやすい。グリフォンとヒッポグリフは、似たような魔獣なのだが、両方とも体がでかいから、同じ場所に留まろうとすると、一回羽ばたく毎に体が沈み込むんだ」

「はーー。なるほどぉ。確かに上下に揺れてますね。じゃあ、ガルーダの方は?」

「あいつ等は飛んでいる時に、時折毒をまき散らすから、周りが紫っぽく霞んで見える」
 
「おぉ。本当だ。なんかプファって出たね。毒々しいやつ」

「他の小さいのは、よく分からんが、動き方からすると昆虫系じゃないかな」

「その違いは?」

「同じ位置に留まっているが、動きにブレが無い、それに群れているだろ?」

「群れって事は、キラービーみたいな蜂とかでしょうか?」

「多分な。甲虫が居ると面倒だ」

「甲虫ってカブトムシとかクワガタとか?」

「レンが言っているのが、どんな虫か分からんが、硬い外骨格を持った虫だな」

「やっぱりカブトムシね。なにが面倒なの?」

「魔法があまり利かないんだ。硬い外骨格に弾かれてしまうからな」

「ふ~ん。ねえアレク、甲虫ってお腹の辺りに呼吸器官が有るって知ってる?」

 アレクさんは記憶を辿っているのか、顎を摘まんで考え込んでいます。
 こんな姿も素敵って、リリーシュ様と上皇陛下は、いい仕事しましたね!

「いや、初耳だ」

「向こうと同じかどうか分からないけど、甲虫ってお腹の周りが濡れると、溺れて死んじゃうんだって」

「ほぉ~。それは良い事を聞いた。マーク。他の連中にも伝達しておいてくれ」

「了解しました」

 きびきびと、将校さん達が集まっている場所に向かったマークさんですが、心持ち緊張しているように見えるのは、首都の中にいるはずのロロシュさんを、心配しているからだと思います。

 マークさんの為にもチャッチャと片付けて、首都に入らなくちゃね。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。 そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!? 貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

処理中です...