上 下
429 / 491
愛し子と樹海の王

甘えたい神様とスイーツ

しおりを挟む
 side・レン 


「え~とぉ・・・ママン?」

「なあに?」

「あのぉ・・・そろそろ地上に戻った方が、いいかなぁって」

 恐る恐る聞く私に、ママンの眉が八の字に下がってしまいました。

「レンは帰りたいの? そうだよね。私なんかと居るより、番のいる地上の方が楽しいよね」

 私の事を自己肯定感の低い子。って言ったくせに、そういう事言う?

「あのね。どっちが楽しいとかじゃなくて、私まだ死んでないので、やっぱり地上に戻った方が良くないですか?みんなも心配してると思うので」

「そうだけど。クレイオスは馬鹿だし。天使達は、私の事を崇めて仕えてくれるけど、話し相手にはならないんだよ?もうちょっと、私に付き合ってくれても良くはない?」

 う~~ん。
 確かにママンとの時間を大切にしなくちゃって思いましたよ。
 でも、流石に長すぎませんか?
 
 私の身体も、ほったらかしで大丈夫なのかしら?
 その辺の事は、ママンの謎な神様の力で、どうとでも為りそうでは有るけど。
 でも、なぁ・・・・。

「じゃあ、あと一日だけですよ? クレイオス様の所為で、魔物も増えちゃったんでしょ?浄化とか私もお勤めを果たさないと。それに、せっかくママンに授けてもらった神託も、みんなに伝えられなかったら、困りますよね?」

「増えたのは魔獣ね。地上の人間達は、魔の物と魔獣を一緒くたにして、魔物って呼んでいるけれど、幻獣や魔獣は、無害な生き物と比べると数は少なかったけれど、瘴気が増える前から、元々生息していたんだ。瘴気が濃くなったり、瘴気溜まりが増えたせいで、狂暴化してしまったけれどね」

「へぇ~そうなんだ」

「君、せっかく用意してあげたステータス画面。使ってないの?」

「うッ!・・・・つっ使ってますよ?でも、ほらあれって、割と表面的な事をざっくり纏めただけだから、人に聞いた方がより深い情報が・・・・」

「・・・・私が用意してあげたものは、役に立たないんだね。やっぱり私みたいな下っ端が、出来る事なんて大したことないんだ・・・」

 あ~~~~!
 また拗ねちゃった。
 どうしましょう。
 段々面倒臭くなって来ちゃった。

「あのほら。ゲームのステータス画面のモンスター図鑑より、アルティマニアの方が、より深い情報が載ってたりするじゃないですか。開発スタッフの裏話とか?」

「あっ!なるほど!」

 えぇ~?!
 これで納得するの?!
 なんだろう。
 物凄く理不尽な気がするのは、気の所為かしら?

「あの、話を戻しますね? 魔獣は元々居た生き物なんですよね? そうしたらゴブリンとかオークもそうなんですか?」

 ゴブリンと聞いてママンは、物凄くいや~な顔になりました。
 これは違うって事だと思うけど、なんでこんなに嫌な顔をするのかしら?

「レンは、私の事を、もっと分かっていると思っていたけど、違うみたいだね。レン?よく聞いて。この私が、ゴブリンやオークみたいな醜い生き物を、わざわざ創ると思う?」

「・・・・創らないと思います」

「それは何故?」

「ママンは、耽美主義だから?」

「その通り!私はクリーチャーものの映画より、ドラキュラの映画が好きなんだ。私の創作意欲は、耽美で色っぽいものに刺激されるんだよ?」

「あはは・・・でしょう~ねぇ」

「それで?何故にゴブリンとオークなの?」

「あ~。前にゴブリンの群れに遭遇した時に、浄化しても死体が消えない個体があったんです。生物としてヴィースに定着したからだって話をしたと・・・・」

 うわぁ~。
 メチャクチャ嫌そう。
 本当に醜いものが御嫌いなのね。
 でも、神様が醜美で好き嫌いしちゃっていいのかな?
 生きとし生けるもの全てを愛せ。
 じゃない訳?

「仕方がないね・・・魔族や幻獣と同じで、自然・・・とは言い難いけれど、勝手に生まれて来たものでも、私の記憶の影響は受けるから、ファンタジーものには、ゴブリンとオークはつきものだ。今更私の記憶を消すことも出来ないし・・・サラマンダー辺りならいくらでも定着してくれても良いのだけどね・・ここは認めざるを得ないね」

 なんか、メチャクチャ依怙贔屓な気がします。
 
 でも、アウラ様のいう事も分かる気がする。
 私もラノベは、平凡な主人公の日常物より、麗しい方々の、ほんのり色っぽいお話の方が、私も好きだったし。
 
「あの、メイジアクネとかは、元からいた魔獣?」

「そうだね。大昔からあの蜘蛛の糸は、利用されていたよ?」

「・・・・そうなんだ。浄化しても消えないわけね」

「レンは、蜘蛛が嫌いなの?」

「はい・・・・昔から苦手で・・・」

「なんでまた。大人しい魔獣ではないけれど、役には立つでしょ?」

「そうなんですけど・・・蜘蛛が益虫だって事は分かっているんです。でも・・・ヤベちゃんと沖縄に行ったときなんですけど、二人でホテルの部屋でやけ酒してた時に、出たんです。こ~~んな大きい蜘蛛が」

 こっちの蜘蛛から比べたら、ミニマムサイズですが、あの時の私には充分巨大でした。だって、絡新婦と同じくらいの大きさですよ?

「うん。それで?」

「その蜘蛛が、Gを抱えて走ってたんです壁を、パタパタ足音立てて。蜘蛛なのに」

「う~ん。たしかに気持ち悪いかも」

「苦手な蜘蛛とGのコラボですよ?それだけでもう、気絶しそうな程怖かったんですけど、その時あの蜘蛛、何を思ったのか急にジャンプしたんです。Gを抱えたまま、私に向かって」

「あぁ~」

「で、着地したんですよ。私の太腿に・・・素足の上で、タシって音がして、私そこから記憶が無くて、気が付いたら部屋のドアに縋り付いてたんです」

「それは・・・トラウマになりそうだ」

「私の悲鳴で、ホテルの人が駆けつける大騒ぎになっちゃって。ホテルの人には謝り倒したんですけど、またあの蜘蛛が飛んで来るかも、Gも出るかもって思ったら、もう怖くて寝られなくなっちゃって、やけ酒ついでに吞みすぎちゃって、翌日は二人で二日酔いで苦しんで・・・・あれ以来、お酒もあまり飲まなくなったし、蜘蛛全般が駄目なんです」

「・・・・・・」

「その頃、なんか私、やたらと虫に好かれてる時期だったみたいで、気が付いたら肩でカマキリが揺れてたり、頭に蝶々がとまってたり、背中にセミが飛んできたりと・・・なんなんですかね?」

「・・・・ドンマイ」

 えッ?
 それだけ?
 私のトラウマの告白なのに?
 この神様。
 たまに薄情よね。
 自分は甘えたのくせしてさ!
 大体なんで ”ドンマイ” なの?
 ここヴィースよね?

 それに何故目が泳いでいるのかしら?
 ほんと、神様の考えてる事って理解できない。

「はあ~~。そろそろ禊ぎの時間じゃないですか?」

「そっそうだね。レン一緒に行かない?庭の花でも見て、嫌な事は忘れた方がいい」

「はい。お供します」

「お供って・・・他人行儀な」

「すみません。嫌な記憶でちょっと、気分が落ちちゃって」

「なら、禊ぎが終わったら、外でお茶にしよう。彼方の神から、レンにお菓子が届いたんだ」

「地球の神様から?私に?」

「そう、最近流行りのスイーツだって言ってたから、楽しみにしてて?」

「はい!楽しみです」

 私も大概現金ですよね。
 スイーツって聞いただけで、気分が上がっちゃう。
 でも、健康な女子なら、みんなそうだと思うのよ?

 アウラ様の日課の禊ぎは、お庭の一角に湧き出る泉で行われます。

 なんでもこの泉は、アウラ様に掛けられた呪いを浄化するために、大神様が用意してくれた物なんですって。

 青く透き通った泉に、アウラ様が身を沈めると、アウラ様の身体から真っ黒な呪いが流れ出して、それを湧き出る清水が浄化してくれるのです。

 アウラ様の身体から呪いが流れ出なくなるまで、毎日続けなくてはいけないそうなのだけれど、ここに来てから毎日その光景を見ていますが、流れ出す呪いが薄まる様子は全く無くて、アウラ様の身の内に込められた呪いの濃さに、胸が痛くなります。

 泉から出たアウラ様は、お付きの天使さん達に囲まれて、真っ白な羽で隠されながらお着替えをして戻ってくるのですが、やっぱり禊ぎをした後のアウラ様は、少し顔色が良くなっているように見えて、ちょっとだけホッとするのです。

 私がこのお庭で過ごす、最後の日だという事で、二人だけのお茶会では、アウラ様が沢山の事を話してくれました。

 相変わらず核心に触れるようなことは、言葉を濁していましたが。それでも、かなり有益な情報は引き出せたと思います。

 これでアレクさんが、少しでも楽になればいいのですけど。

 そして、地球の神様が贈ってくれたというスイーツは、最近彼方で流行っているというだけあって、どれも絶品でした。

 スパイスとハーブを練り込んだ、フィナンシェ。
 ベリーがたっぷり入ったクロフラン。
 生クリームやチョコソース、私の好みはフランボワーズソースでしたが、それらを付けて食べるディップチュロス。

 此方でも再現できそうで、アレクさんにも食べさせてあげたいと思います。

 でも、このスイーツは、おばあちゃんが家のお庭のお稲荷さんに、毎日お供えしている物だと聞いて、私は切なくて、ちょっと泣いてしまったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません

一条弥生
恋愛
神凪楓は、おじ様が恋愛対象のオジ専の28歳。 ある日、推しのデキ婚に失意の中、暴漢に襲われる。 必死に逃げた先で、謎の人物に、「元の世界に帰ろう」と言われ、現代に魔法が存在する異世界に転移してしまう。 何が何だか分からない楓を保護したのは、バリトンボイスのイケおじ、イケてるオジ様だった! 「君がいなければ魔法が消え去り世界が崩壊する。」 その日から、帯刀したスーツのオジ様、コミュ障な白衣のオジ様、プレイボーイなちょいワルオジ様...趣味に突き刺さりまくるオジ様達との、心臓に悪いドタバタ生活が始まる! オジ専が主人公の現代魔法ファンタジー! ※オジ様を守り守られ戦います ※途中それぞれのオジ様との分岐ルート制作予定です ※この小説は「小説家になろう」様にも連載しています

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。 さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。 “私さえいなくなれば、皆幸せになれる” そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。 一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。 そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは… 龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。 ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。 よろしくお願いいたします。 ※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました

りつ
恋愛
ミランダは不遇な立場に置かれた異母姉のジュスティーヌを助けるため、わざと我儘な王女――悪女を演じていた。 やがて自分の嫁ぎ先にジュスティーヌを身代わりとして差し出すことを思いつく。結婚相手の国王ディオンならば、きっと姉を幸せにしてくれると思ったから。 しかし姉は初恋の護衛騎士に純潔を捧げてしまい、ミランダが嫁ぐことになる。姉を虐めていた噂のある自分をディオンは嫌悪し、愛さないと思っていたが―― ※他サイトにも掲載しています

転移先で愛されてます

水狐
恋愛
一ノ宮 鈴華(いちみや すずか)は15歳の美少女で頭も良くお金持ちで皆が羨ましがるが実は両親に虐待され養父に引き取られた過去がある。そして血の繋がりのない従姉妹にいつも会う度いじめられているので今日もかと思いきや珍しく上機嫌だった、次の瞬間いきなりナイフを取り出して刺されて死んだ。 はずだった。 しかし、目の前に現れた美形の人間?は言った。 「何故こんな所に女性が1人いるのですか?」 あの、私死んだはずですが?あれ?この人耳尖ってる……。ハイエルフ?女性が極端に少ないから夫を複数持てるってすごいですね…… 初の作品です。たくさん投稿できるように頑張ります

処理中です...