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愛し子と樹海の王

本物の神託

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「もしかして、私、拙い状況ですか?」

「そうだね。控えめに言って、拙い状況だね」

「そういうのって、事前に教えて貰ったりは・・・・出来ないのですよね?」

「制約があるからね。それに大筋は私も分かるけど、人と言うものは、私の考えの及ばない事をする。私も困惑する事ばかりだ」

「でも、今回も原因はヴァラクですよね? ちょっとくらい、ヒントをくれてもいいのでは?」

「教えて上げたい気持ちは、山々なのだけれどね。これが災害などの、人の関与出来ない物なら、いくらでも教えて上げられるよ?」

「そうですか・・・では。今後危機的なものについては、教えてもらえますか?・・・アウラ様が、元気になってからでいいので」

「気を使わなくても良いよ。レン達が呪具を浄化したり解呪してくれているお陰で、随分良くなって来たからね」

 その微笑みが、余りにも儚げで、完全な解呪は、まだまだ先になりそうだと感じました。

「もしかして、あの瘴気溜まりにも、呪具が有ったのですか?」

「カエルレオスが、見つけてくれたようだね」

「そうなんだ・・・後いくつあるのでしょうか?」

「私も見当がつかない。けれど、確実に数は減っているから、大丈夫だよ」

「でも・・・」

 まったくもう! 

 ヴァラクとその信徒の人達って、どれだけ呪具をばらまいたのかしら。

 もしかして、各領に一個ずつとか?

 ヴァラク教の信徒達は、帝国の中を歩き回っていた。もし、その過程で、呪具を置いて回っていたとしたら?

 一般信徒が持ち歩くなら、それほど大きくも無く、強い呪いは掛けられなかった筈。
 例え小さな神像だったとしても、あれだけの人数が、全員その像を持っていたとしたら?

 とんでもない数の呪具が、帝国中にばらまかれて居るかもしれない。そんなものから、どうやって、アウラ様を守れば良いの?

 今まで、あちこちの瘴気溜まりを浄化してきたけれど、呪具の捜索もした方がいいのかしら?

「レン? 急に黙り込んでどうしたの? 気分が優れないなら、横になる?」

「すみません。ちょっと考え事を。あの! アウラ様は呪具のある場所とか、分からないのですか?」

「この可愛らしい頭で、そんな事を考えていたの? ありがとう」

 頭を撫でられてしまいました。
 ちょっと、嬉しいかも。

「強い呪詛が掛けられている物は分かる。それ以外は把握しきれないかな」

 あぁ・・やっぱりそうなんだ。

 ヴァラクは、信徒のアウラ様への信仰心を利用して、呪いをかけたんだ。

 愛憎は表裏一体というけれど、彼はアウラ様の事が好きだった筈なのに。どうして、こんなことになっちゃったのかしら。

 手に入らないなら、壊してしまえ。って、まんまサイコパスよね?

 でも・・・もし・・・アレクさんが浮気して、他の人を愛したとしたら。

 絶対許さない!!

 アレクさんも相手の人も、地獄に落としてやりたくなるだろうなぁ。牛の刻参りとか、やっちゃいそうな、自分が怖い。

 でもそれって、信じていた相手に裏切られたからで、アウラ様は最初からクレイオス様の伴侶だったから、やっぱり自分勝手な思い込みなのよね。

 本当に迷惑で哀れな人。

「また、考え込んでるの?」

「はっ。ごめんなさい。なんか色々考えちゃって。それでその強い呪詛が掛けられている場所って、教えてもらえたりします?」

「浄化するつもり?」

「ダメですか?」

「ダメと言うか・・レンたちに託して良いものか、大神に確認しないとね?」

 成る程。
 神の世界の制約は、相変わらず融通が利かないみたいです。

「もう一つ、教えてほしい事があるのですが」

「なにかな?」

 もう!
 コーヒーカップを、傾ける姿まで優雅!

 美人さんは何をやっても、絵になります。
 私もこの優雅さを見習いたい。
 でもなぁ。手指も手足も長さが違うのよ。
 長さが。
 アウラ様が白魚の様な指なら、私は芋虫。
 
 あっ。
 自分で言ってて、悲しくなっちゃった。
 
 いけない、いけない。
 また余計な事考えちゃった。
 大事な事だから、気を取り直してしっかり聞かなくちゃ。

「クレイオス様から聞いているかもしれませんが、ゴトフリーって、瘴気に混じった念も強いし、なんか変な感じがするんです」

「変な感じと言うと?」

「言葉にし辛いのですが、なんとなく、何かに邪魔されて居る様な、居心地が悪くて、悪意というか・・・ずっと傍で誰かが怒ってる感じ?」

「ふむ・・・・他には?」

「誰かの視線を感じるみたいな、兎に角落ち着かない感じです。さっきドラゴニュートの封印のお話を聞いて、その所為かな?っとも思ったのですが、それにしては範囲が広いし、王都に入る前から、感じていたのですけど。クレイオス様はその原因を知っていて、教えてくれないのじゃないかって・・その、制約とかで」

「・・・・」

「アウラ様?」

「レンは、君の招来を告げる、私の神託を知っている?」

 急に話が飛びましたね?
 なぜ今、神託なのでしょうか?

「神託ですか? えっと確か・・・・」

  白花の月輝ける刻
  愛し子 湧き出ずる泉となりて
  ミーネの森 竜と戯る
  我 愛し子と共にありて
  慈愛と平安をもたらさん
  
  蒼き森深く 緑海を行く
  愛し子 幾多りの献身と
  安寧を与えん
  樹界の王 その標となりて
  いにしえの契約となす

「だったと思います」

「ふむ・・・・。ヴァラクは随分と手を加えた。いや、削ったものだ」

「神託の内容が違うの?」

「違うね。まあ、君の招来さえ知らせられれば、目的の殆どは達成されているから、放って置いても良かったのだけど・・・今からもう一度、正しい神託を与えても良いのだけれど・・・・」

 するとアウラ様は、" どうしようかなぁ " と腕を組んで考え込んでいます。

 何でしょうこのわざとらしさに、既視感が・・・。
 自分で言い出したくせに、土壇場で焦らしに入るとか、イラっときます。

「お嫌でしたら、無理にとは言いませんよ?」

「えッ?」

「体調が優れないのに、悩ませてしまうのは申し訳ないし、人の暮らしは人の力で、どうにかしなくちゃいけないのですよね?大神様との制約もありますし、嫌々神託を授けて貰うのも、気が引けますので」

 私も、負けじと大袈裟に溜息を吐いて見せました。

「嫌じゃない! 嫌じゃない本当だよ!!ただちょっと・・・」

「ちょっと。なんですか?」

 あらら?
 なんか臍曲げちゃったみたい。
 意地悪し過ぎたかしら?

「・・・・まあいい。今から神託を授ける。心して聞きなさい」

「へぇ? あっはい!」

  白花の月輝ける刻
  竜の戯れしミーネの森深く
  湧き出ずる聖なる泉に
  光となりて愛し子招来せり

  我が愛し子慈愛と光りの恩寵となりて
  世に平安と繁栄を齎す者成り
  
  樹海の王 愛と献身を愛し子へ奉じ
  守護者となりて、安寧を得るべし

  樹海の王 愛し子と共にあり
  蒼き森深く 
  緑海の王墓に封じられし者解き放ち
  その標となりて、慈愛と平安を齎さん
  
  愛し子と樹海の王 我の道を行き
  世を導く光の標となり
  
  此処に、古の契約成就せり
  千年王国の誕生とす

 なっ長い!
 覚えきれるかしら?
 もっと普通の言葉で、良いのでは?

「あの・・・これの意味は?」

「神託とは、命令では無いよ。自分で考えるものだ」

「え~っと。それだと解釈違いとかで、後で困りませんか?」
  
「それも人が選んだ道だからね。私は手出しが出来ない」

「あの、せめて、口語でお願いできませんか?」

「それだと、有難味が減るでしょう?」

 あ・・・はい。
 もう好きにして下さい。

「神託の意味を正しく理解出来たら、君の感じる違和感も解消するだろう。クレイオスもこの神託を聞けば、助言はしてくれるのでないかな?」

「成る程? でもクレイオス様にお願いする時は、条件を付けられるんですよね」

「条件? あのクレイオスが?」

 あの、ってどんなでしょうか?
 私の知っているクレイオス様は、ちょっと痛いパパさんですが?

「どんな条件を出すの?」

「アウラ様と、クレイオス様は。記憶を共有しているのですよね?ご存じないのですか?」

「さあ。どの記憶の事かが分からないとね」

「はあ、そうなんですね?」

 なんでしょうか?
 妙にアウラ様が、ソワソワしている気がしますが。
 本調子じゃないのだから、静かにしていた方が良いと思うのだけど。
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