上 下
395 / 491
愛し子と樹海の王

閣下と龍神

しおりを挟む
 side・レン


「ん~~~~っ!」

 ベットの上で伸びをしたら、背中がポクポク音を立てたけれど、やっぱりお家のベットは落ち着くし、久しぶりに熟睡できた気がします。
 
「おはよう。よく眠れたか?」

 先に起きていたアレクさんは、既に稽古着に着替え終わっていました。

 騎士服のアレクさんも素敵だけれど、こういうラフな格好も良くお似合いで、寛げた襟元から覗く鎖骨が、とてつもない色気を醸し出しておりますよ。

 朝から、私の番は麗しく。
 眼福で御座います。
 
 こんなイケメンが私の番とか。
 私、前世でどんな徳を積んだのかしら?

 ありがたや、ありがたや。
 今日も一日、頑張れそう。
 心の中で合掌です。

「おはよう。こんな早くから、練武場に行くの?」

「あぁ。新人が何人か入って来たそうでな?ミュラーから少し揉んでくれ、と頼まれた」

「ふ~ん。私も行ってもいい?」

「ん? 構わんが、昨日は衣装合わせと晩餐会で疲れただろう?ゆっくり休んだ方が良くはないか?」

 言いながら、指に髪を絡めるのやめて。
 凶悪な色気で、気絶しそうです。

「う~ん。そうなんだけど。昨日の晩餐会の服が重くって、体が強張っちゃってるみたいなの。軽く体をほぐしたいし、邪魔しないから一緒に行ってもいい?」

「レンを邪魔にする奴など、第2うちには居ないぞ? だが、今はマーク達が居ないから、出来るだけ、俺から離れないようにな?」

「騎士団の練武場よ? 危なくないでしょ?」

「まぁそうなんだが」

 なんでしょう。
 この歯切れの悪さは。
 
「じゃあ。キッズ達とカルも誘ったらどう?」

「・・・・それなら、まあ」

「じゃあ決まりね! 顔洗って着替えちゃうから、先にご飯食べてて?」

「・・・いや。着替えは俺が」

 そう言うとアレクさんは、衣裳部屋に消えたかと思うと、私のお稽古着を手に戻って来て、いそいそと着替えさせてくれた後、髪もゆるふわな感じで結ってくれました。

 以前はきっちりした結い方ばかりでしたが、偶にきつくて頭痛がするから、緩くして欲しい、と彼方の纏め髪をイラストにして説明したら、あっさり習得してしまって、現在アレクさんのヘアアレンジの腕前は、達人の域に到達していると思います。

 このビジュアルでこの腕前、彼方だったら人気過ぎて予約も取れない、カリスマ美容師になって、モテモテなんだろうなぁ。

 そうしたら、私なんて口を利くどころか、存在も認識してもらえない、別世界の住人だったと思います。
 
 ヴィースに来て、彼と出会えて本当に良かった。

 朝食を取り、玄関ホールで待って居ていくれた、カル達と合流して、練武場へ向かいます。

「朝早くから、付き合わせてごめんね」

『何故謝るのかな?私にとって時間なんて、有って無い様なものだよ?』

 う~ん。
 私が言いたいのは、そういう事じゃないのだけど。

 なんかこう、微妙なニュアンスが、伝わり難い感じがします。

 まぁ、相手は龍神様だし、気にしたら負けよね?

 気を取り直した私は、昨夜晩餐の席でうやむやになっていた話を、アレクさんに振ってみました。

「ねぇ。お見合いの話しなのだけど、ゲオルグさんをこっちに呼ぶの?」

「ん? いや、シエルを向うに行かせようと思う」

「それって、大丈夫なの? アーべライン侯爵が許してくれるかしら」

「そこは、話の持って行きようだな」

 そこを詳しく聞きたかったのだけれど、アレクさんは決まったら教えるの一点張りで、どんな手を使うのかは、教えてくれませんでした。

 それは、怪しい手を使うから私に話せないのではなく、糠喜びをさせたくないだけだった様なので、ここは大人しく引き下がる事にしました。

 練武場に着いて、ミュラーさんや、顔見知りの騎士さん達と挨拶を交わした後は、キッズ達と軽く走って体をほぐし、木刀片手に素振りと型のお稽古です。

 その間、何となく嫌な視線を感じて振り向くと、そこには馴染みの無い人達が、小馬鹿にしたような顔で、ニヤニヤと私の事を見ていました。

 なるほど、あれがアレクさんの言っていた新人さんね。

 何故あんな感じの悪い人達が、第二騎士団に入れたのかしら?

 不思議です。

 でも、まあ・・・うん、アレクさんがこっちを見ているから、彼らの事は気付いているでしょうし、教育的指導が入るのは間違いないので、私は知らん顔をしておきましょう。

 いい感じで体が解れた頃に、カルに声を掛けられて、そのまま手合わせをする事になりました。

 カルが剣を使える事にも驚きでしたが、『長く生きていると、退屈凌ぎに色々とね。なんでも一通りは使えるけど、槍が一番得意かな』と言って、ぱっと手を広げると、何もなかった空間から、穂先を潰した槍が現れて、カルの手の中に納まりました。

 これって、ゲームの無限収納インベントリってやつ?
 クレイオス様の、謎空間収納も良いけど。

 いいなぁ!!
 これ出来るようになりたい!
 パッ!! シュバッ!! 
 ってかっこいい~。
 憧れちゃう~。

 アウラ様も、魅了なんて面倒臭い加護じゃなくて、こういうのを付けてくれればいいのにな。

 そんな事を考えながら、一合、二合と打ち合いましたが、カルはとんでもなく強かった。

 全く歯が立ちません。
 気分はもうあれです。
 幼児がお父さんに、戦いごっこを挑む、みたいな?
 私はやったことが無いので定かではないですが、こっちは必死なのに、相手は全然余裕で、悔しいけれど、それが嫌では無くて。


 結局私の木刀は、リアル竜騎士のカルの槍に絡め取られて、遠くに飛ばされてしまいました。

 龍神様が強いのは、当たり前な気もしますが、これだけ強いなら、アレクさんと戦ったら、どうなっちゃうんだろう。

 凄く見てみたい。

「カルは強いのね」

『そう?かなり鈍ってしまったよ。勘を取り戻すには暫くかかりそうだ』

「なら、アレクと手合わせしてみない?彼、もの凄く強いのよ?」

 ”好奇心は猫をも殺す”

 今の私がまさにそれ。

 好奇心に負け、アレクさんとカルの手合わせを、セッティングしたのが運の尽きでした。

 カルの木槍と、アレクさんの木剣が打ち合った初激の衝撃で、打ち込み用の木人と、木剣立てが吹き飛び、二人が手にしていた練習用の木剣と木槍が、粉々に砕けてしまいました。

 そこで止めてくれれば良いものを。

 アレクさんは徐に腰の剣を抜き、カルもインベントリから銀色に輝く槍を取り出して、再び打ち合い始めたのです。

 アレクさんの放つ斬撃が、地面を抉り。
 カルの槍が突き出される度に、練武場の石積みの壁に穴が開いていきます。

「退避!! 退避だっ!!」

「防護結界を張れっ!!」

 騎士さん達が、練武場の外に被害を出さない様に、必死で防護結界を張ってくれましたが、今ここにいる騎士さん達は、全員Bランク以下。

 謂わば2軍、3軍の騎士さん達です。
 彼らが張った結界は、アレクさんの起こした竜巻で、あっさり砕かれてしまいました。

「嘘でしょ!?」

「なんで、二人の手合わせを、許したんですかぁ~!?」

 ミュラーさんに泣き着かれてしまいましたが、私だってこんな事になるなんて思ってなかった。

ちょっと二人の対決を、見てみたかっただけなのに・・・。

 結界魔法が得意でない私は、三重の氷の壁で練武場をドーム状に覆うのが精一杯。

 私が張った氷の壁も、次々に放たれる魔法と斬撃で、バリバリと削られ、ドカドカ割られて行きます。そのたびに新しい壁を作り出しては居るのですが。

 アレクさんは、手加減なしで戦える相手に、完全にハイになってるし、カルはカルでメチャクチャ楽しそう。

 でも楽しんでいるのは、2人だけだって、お願いだから、早く気づいて!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!

梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。 13代目の聖女? 運命の王太子? そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。 王宮へ召喚? いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え? 即求婚&クンニってどういうことですか? えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。 🍺全5話 完結投稿予約済🍺

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...