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愛し子と樹海の王

お仕事下さい

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 捕まったオレステス親子は、その場で帝国に移送済み。

 彼方で裁判を受けた後、既に捕まっている長男も含め、極刑が下されることは、確実だそうです。

 只、計算高い事で有名だったオズボーン伯が、無謀で短絡的な行動に出た背景に、ゴトフリーの神官の関与があった以上、魔薬の使用も疑われるので、伯爵経由で魔薬が広がっていないか捜査が必要と、アーノルドさんへ意見書も送付済み。

 皆さん、仕事が早いですね!

 オレステスは傲慢で我儘で、全然可愛くない子だったけれど、あの若さで極刑に処されるのかと思うと・・・・。

 彼にもうちょっと分別があったなら、私がもう少し忍耐強い性格で、彼を導いてあげる事が出来たなら、と・・・烏滸がましいかも知れませんが、後悔に胸がうずきます。

 そんな私の髪を撫でながら、アレクさんの話は続きました。

「オズボーンを匿っていたワース伯は、尋問が終了次第、息子と一緒に、キャプロス侯爵に引き渡すことになっている」

「裁判とかしないの?伯爵も戦犯でしょ?」

「候からは王都侵攻の邪魔をしない事、今後、貴族達の取り纏めの助力と、俺達への全面協力をする代わりに、ワース親子の引き渡しを要求されてな、断る理由も無いから、侯爵の条件を呑んだのだ」

「・・・・そうなのね」

 確かにキャプロス侯爵の申し出は、帝国側にとって、得しかないものね。

 裁判に時間をかける事も、収監している間の面倒を見る必要さえない。
 情報を得た後は、公開処刑なんて面倒な事をせず、それによって国民から不要な反感を買う事もなく、侯爵が後始末を付けてくれる。

 戦後処理で、超多忙な騎士団のみんなの為にも、手っ取り早く厄介払いできた方がいいのでしょう。

 エスカルは、ブレイブと言う伯爵に保護されているとの事でした。

 このブレイブ伯爵は、エスカルの引き渡しの際、外交特使としてガルスタ砦へ、エスカルを迎えに来た人だそうです。

 その時にオーベルシュタイン侯爵から、国や自身の今後について、よく考える様に言われた伯爵は、エスカルの引き渡し後の混乱に乗じ、王子を連れて自領に逃げ帰り、軍部からの出兵要請にも応じなかった。

 エスカルの捜索に訪れた騎士達を、丁重にもてなしたブレイブ伯は "自分がいかに無知であったかを教えてくれた、オーベルシュタイン侯爵には、感謝している” と告げた上で、エスカルの助命を条件に、恭順の意を示し、アレクさんはそれを許したのだとか。

「エスカルは、放置して大丈夫なの?」

「エスカルは・・・そのなんだ、罪人扱いをされたのが、精神的に堪えたらしくてな?今は夢の国の住人だ。今後叛逆を企てる者が居たとしても、帝国に反旗を翻す旗印にはなれんだろう」

「夢の国? 護送中に何かあったのかしら?」

 とみんなを見ると、ロロシュさんとマークさんが気まずそうに眼を逸らしたので、成る程そういう事か、と納得しました。

 晒し首に、私的制裁に、拷問まで・・・。

 中世そのまま、私の常識とは相いれないものではあるけれど、この世界で生きていく以上、今は受け入れるしかないのでしょう。

 私的制裁の是非についても、私は口出し出来る事では無いし、ヴィースにはヴィースの正義があるのだと思う。

 私の中にある常識や倫理観を、今のヴィースの人達に押し付けたところで、反発を生むだけです。

 私たちの世界がそうだった様に、時間をかけて根付かせていくしか、方法はないのだと思います。

「教えてくれてありがとう」

 でも・・・。
 この何倍の事を、隠しているのかしら?
 
「いや・・・・」
 
 とっても気まずそうね?
 無理に聞き出そうなんてしないから、安心して?

 それにね。アレクさんが隠そうとしていること程、私の耳に入りやすいのよ?

 不思議よね?
 
 私が知るか、知らないままでいるかの違いは、私が知りたいかどうか、だけなのよ?

 私には、ロロシュさんみたいな、情報に強い人達が付いて居る訳ではないけれど、私が話の水を向けると、大概の人が “ここだけの話ですよ?” “閣下には内緒ですよ?” って色々な事を話してくれるのよね。

 本当に不思議。

 知る必要が出来るまでは、何も聞かないしし、気付かない振りでいて上げる。

 アレクさんの口から聞きたいときは、ちゃんと貴方に伝えるから。

 だから安心してね?
 
「・・・それじゃあ。私に出来る事はある?」

「君は、財務の手伝いもしてくれているだろう?」

「そうだけど、グリーンヒルさんが人を送ってくれたから、私暇なの」

 小国とは言え、一国の財政を確認するには、帳簿も膨大で細かいところまで見る事はできて居ませんが、ざっくり見ただけでも、この国の異常性がわかりました。

 国を支える国庫はほぼ空、プール金は0。奴隷の売買で得た利益で、自転車操業状態です。

 それなのに、王家の個人資産は莫大で、領主達が収めた税は、ほぼ王家の宝物庫に収められ、それが神殿へと渡されている様でした。

 よくもまあ、この状態で国としての体制を保てたものだと、逆に感心してしまいましたが、神聖国家を目指していたなら、こんな物なのでしょうか?

 お金の流れを見るだけでも、この国の本当の主は、国王ではなく、ヴァラクだったのだと痛感させられました。

「そうなのか?」

「うん。王家の財産は、目録との照らし合わせも終わって、全部国庫に移動完了。王城のキンキラな装飾は、奴隷商人から保護した人達を雇って、金箔を剥がしてもらう手配も済んだでしょ? 馬鹿みたいに、あちこちに置いてあった、純金の置物は、剥がした金箔と一緒に全部鋳溶かして、国庫に入れてもらう算段も付いたの。後は、これから取り潰しになる、貴族達の財産を没収してくるだろうから、文官の人達は、全部把握するまでは大変かもしれないけど、私の概算通りなら、財政的には、公共事業も雇用支援も、福祉だってバッチコイって感じよ?」

「ばっち?・・・・財政は潤沢なのだな? だが、面接はどうなった?」

「今まで、王城で働いていた使用人には、解雇を通達し終わって、必要最低限の求人と面接も終わったから、後は順次入れ替えていくだけね」

「・・・・王城内の浄化は?」

「私が立ち入りを許されているところは、終わってます」

「こんなに早くか?!」

「なんで驚いてるの? 移動の途中で気になるところと、見える範囲は、チャチャっとやって置いたから、もう大丈夫な筈だけど」

「いや・・・君を信用して居ないとかではなくてな。働きすぎじゃないか?」

「でも、みんなも夜遅くまで、毎日頑張ってるでしょ?」

「それは、まぁそうなんだが・・・・しかしいつの間に・・・・」

「でも、軍部と後宮は、まだ何も手を付けてないのよ?」

「後宮は閉鎖しているし、軍部は立ち入り禁止にして居たから、当然だな?」

「クレイオス様と、クオンとノワールは、カルの所に入り浸りだから、私暇なの。何かやる事ない?」

 そう言って、会議に参加しているメンバーを見渡すと、マークさんとロロシュさんは、クツクツと笑いを堪えて、肩を震わせて居ますが、他のみんなは、ポカンとした顔で私を見ています。

「私、変な事言ったかしら?」

 もう一度、振り返ってアレクさんを見上げると、額に手を当てて天井を仰いでいます。

「どうしたの? 大丈夫? 具合悪い?」

「大丈夫だ・・・そうだよな。君はそう言う人だった・・・・」

 そう言う人とは?
 何が問題なのでしょうか?

「・・・分かった。では君に頼みたいことが有る」

「なんでもどうぞ?」

 どんなお仕事かな。
 ワクワクしちゃう。

「軍部にいる、子供達の面倒を見てほしい」

「子供?」

 私はアレクさんの頼みに、思わずエーグル卿の顔を探したのです。
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