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愛し子と樹海の王
緊急事案
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”ざびえる禿げ” という地味過ぎて他人事なら笑ってしまうような、だが当事者は全く笑えない、破壊力抜群の呪いで、レンは第2騎士団全員を震え上がらせた。
俺の番は基本真面目な人だが、偶にこういう悪巫山戯をする事が在る。
今回は、自分で作り出した深刻な雰囲気に、耐えきれなかったのだろうが、聞いていた俺達からすれば、冗談だろうと思いはしても、相手は愛し子。
ただの冗談だと受け流すには、言葉の重みが・・・。
俺の番は可愛らしくも美しい容姿から、その実力を知らない者達から侮られて見られる事も多い。
こんな悪巫山戯でも怒らせたら怖い、という逸話が増えるのは、身の程知らずな連中を、牽制する一助には成るのかもしれない。
これを計算尽くでやっているなら、自分の番乍ら侮れないと考える処だが・・・。
うん、レンの場合は天然だな。
自分で罰を与えくせに、ロロシュとエーゲルが心配で、一睡も出来なかった様な人だ。
こんな巫山戯た呪いだが、存外本人にとっては、最凶の呪いなのかもしれん。
そんなレンだが、今は俺の腕の中で眠っている。
昨夜は一睡もしていないし、先日のように生温い視線を送る者も無い。
もう少し、眠らせてやった方が良いよな?
しかし、あれだな。
全力で駆けるブルーベルの上で、よくこんなに熟睡できるよな。
のんびり散策しているならともかく、平坦ではない山道を爆走していては揺れも激しい。
実際俺に寄り掛からせ、腕で押えていなければ、あっという間に転げ落ちてしまうだろう。
本当にこの人は見た目と違って豪胆と言うか・・・これも俺に対する信頼の証と思えば、腕の中でスヤスヤと眠る姿も愛おしい。
まあ、たまに涎で袖が濡れるのは御愛嬌だな。
顎に流れそうになる涎を親指で拭い、ぺろりと舐めると、その甘さに俺はにんまりとほくそ笑んだ。
涎を垂らして寝ている処を周りに見られたら、後でレンがが恥ずかしいだろ?
レンの治癒を受けたマーク達3人は、ロロシュが団員達から、白い目で見られている以外は、問題なく行軍に着いて来ている。
俺とブルベールに付いて来れるのは、マークと直属の部下の数名だけだ。
一度大人しいレンを心配したのか、道が開けたところでマークが横並びになった事があったが、眠るレンを見て安心したように微笑んで後ろに下がって行った。
どうやら護衛騎士の癖が、中々抜けないらしい。
この山を越え、問題が無ければ王都には2日も掛からず到着できるだろう。
伯爵三家の連合軍をセルゲイが追い散らし、その内の1人を下して以降、行軍の邪魔になったのは、神官が魔物を召喚した一度きり。
ここまでなんの抵抗も無いとなると、何かしらの罠の可能性が高い気がする。
索敵の範囲を広げようと、マークに合図を送り、行軍速度を落とした。
それから暫くして、山を下りきる少し手前で、腕の中の番が身じろいだ。
「起きたか?」
「・・・・・・」
返事をしないレンを不審に思い、細い顎を掬おうとした手を掴まれた。
「止めて! ここで止まって!!」
「どうした?!」
「クレイオス様が降りて来るわ」
「クレイオスが?」
降りて来るとは、空から?
ドラゴンのままで?
拙い!
「止まれ!! 全軍停止!!」
急な命令に混乱が生じ、エンラとオロバスの嘶きと、それをなだめる騎士達の声が、あちこちから聞こえて来る。
そして全てのエンラとオロバスが、怯えて口を閉ざし、その動きを止めた。
一瞬の静寂の後、騎乗した騎士達が犇めく山道を、木々の間を暴風が駆け抜け、頭上を覆う巨木がベキベキとへし折られた。
落ちて来る枝から、咄嗟に番をマントの中に庇った。
「クレイオス!! 危ないだろ!! 少しは考えろ!!」
枝から身を守るために上げた腕を下ろすと、夏の日差しを遮っていた木立は消え、代わりに巨大なドラゴンが、陽の光の中に立っていた。
『すまぬな。だがこちらも緊急事態だ。許せ』
「緊急事態?とにかく此処ではまともに話も出来ん、麓に降りるまで待て」
『そうだの。少し下った先に陣を張るのにちょうどいい場所がある。我はそこで待つ故、急ぎ来るように』
そう言ってドラゴンは羽を広げ飛び立とうとした。
「おい!! この有様で急げると思うか?!」
クレイオスがなぎ倒した巨木が、山道を塞ぎ通り抜けは不可能だ。
もう一度道を通すには、この巨木を焼き払うか、人の手で時間をかけて退かすしかない。
だが日照り続きで乾燥した山の中で火を使えば、山火事が起こる危険が高い。
怒鳴り声に振り向いたドラゴンは、さも仕方がないと言いたげに、前足の爪で巨木をひっかけ、ヒョイと放り投げてしまった。
流石は神殿を踏み潰すだけの怪力だ。
感心する俺達に、クレイオスは不機嫌そうに鼻を鳴らし、風を巻き上げて飛んで行ってしまった。
「なんなんだ? えらくご機嫌斜めだな」
「ん~~。なんとなく分かるかも」
「何があったんだ?」
「何と言うか、王都の方から変な感じがします」
「変な感じ? 瘴気か?」
「ごめんなさい。私もハッキリ分からないの。でもなんだろ、嫌な感じ」
「そうか」
ならクレイオスから直接聞くしかないな。
突然のドラゴン襲来に動揺する、エンラを宥め、再び山道を下ることが出来たのは、20ミン程後の事だった。
麓まで駆け下ると、そこは一面の草原だった。
そして俺達を待つと言ったクレイオスは、ドラゴンの姿のままで草原に佇み、王都のある方向を見つめているようだ。
「クレイオスッ!!」
『おお、来たか。思ったより時間が掛かったの』
そりゃな。
飛んで来るのと。地面を走るのとではスピードが違うからな。
クレイオスの前でレンを抱き上げて、ブルーベルから降りたが、クレイオスが人型を取る様子がない。
「そのままで良いのか?」
『ん? おぉ? 忘れておった』
風を巻き上げ、バサリと翼を開いたクレイオスは、瞬きの間に人型へと戻っていた。
「それで? 緊急事態なんだろ?」
『うむ。かなり重要な話だの』
分かったと頷いた俺は、モーガンとセルゲイを呼びに行かせ、主だった将校も集めるよう、部下に言いつけた。
その間、レンはクレイオスが話す事を真剣な面持ちで聞いていたが、何を聞いたのか一瞬息を呑み、難しい顔で考え込んでしまった。
後方に居るモーガンたちが到着するまでの間、レンは考え込んでいたが、クレイオスは草原の真ん中に、クオンとノワールの手を借りて、亜空間から取り出した、大きな丸テーブルと椅子を並べ、茶の用意までしていた。
到着したモーガンや将校たちは、草原に似つかわしくないテーブルセットに、戸惑っているようだったが、セルゲイだけは、大喜びで茶の味を褒めていた。
ピクニックと呼べなくもない謎の茶会。
これは一体何の時間だ?
考え込み一言も話さず茶を啜る番の口に、クレイオス提供の焼き菓子を運びながら、俺はクレイオスに声を掛けた。
「それで?緊急の重要な要件とは、茶会だったのか?」
『なに、これは移動続きの其方らへの労いだ』
「それはどうも」
言外で早く話せと催促するとクレイオスは ”面白みのない奴だの” と嘯いた。
「で? 用件は?」
『はあ~~~。其方は人の好意が分かっておらんな? まあいい。結論から言おう。このままでは王都に入れんぞ』
「王都に入れないとは、どういうことですか?」
腰を浮かせるモーガンをクレイオスは手で制した。
『どうもこうも無いわい。王都の外周に一重。王城の周りに二重目の結界が張られておるのよ』
俺の番は基本真面目な人だが、偶にこういう悪巫山戯をする事が在る。
今回は、自分で作り出した深刻な雰囲気に、耐えきれなかったのだろうが、聞いていた俺達からすれば、冗談だろうと思いはしても、相手は愛し子。
ただの冗談だと受け流すには、言葉の重みが・・・。
俺の番は可愛らしくも美しい容姿から、その実力を知らない者達から侮られて見られる事も多い。
こんな悪巫山戯でも怒らせたら怖い、という逸話が増えるのは、身の程知らずな連中を、牽制する一助には成るのかもしれない。
これを計算尽くでやっているなら、自分の番乍ら侮れないと考える処だが・・・。
うん、レンの場合は天然だな。
自分で罰を与えくせに、ロロシュとエーゲルが心配で、一睡も出来なかった様な人だ。
こんな巫山戯た呪いだが、存外本人にとっては、最凶の呪いなのかもしれん。
そんなレンだが、今は俺の腕の中で眠っている。
昨夜は一睡もしていないし、先日のように生温い視線を送る者も無い。
もう少し、眠らせてやった方が良いよな?
しかし、あれだな。
全力で駆けるブルーベルの上で、よくこんなに熟睡できるよな。
のんびり散策しているならともかく、平坦ではない山道を爆走していては揺れも激しい。
実際俺に寄り掛からせ、腕で押えていなければ、あっという間に転げ落ちてしまうだろう。
本当にこの人は見た目と違って豪胆と言うか・・・これも俺に対する信頼の証と思えば、腕の中でスヤスヤと眠る姿も愛おしい。
まあ、たまに涎で袖が濡れるのは御愛嬌だな。
顎に流れそうになる涎を親指で拭い、ぺろりと舐めると、その甘さに俺はにんまりとほくそ笑んだ。
涎を垂らして寝ている処を周りに見られたら、後でレンがが恥ずかしいだろ?
レンの治癒を受けたマーク達3人は、ロロシュが団員達から、白い目で見られている以外は、問題なく行軍に着いて来ている。
俺とブルベールに付いて来れるのは、マークと直属の部下の数名だけだ。
一度大人しいレンを心配したのか、道が開けたところでマークが横並びになった事があったが、眠るレンを見て安心したように微笑んで後ろに下がって行った。
どうやら護衛騎士の癖が、中々抜けないらしい。
この山を越え、問題が無ければ王都には2日も掛からず到着できるだろう。
伯爵三家の連合軍をセルゲイが追い散らし、その内の1人を下して以降、行軍の邪魔になったのは、神官が魔物を召喚した一度きり。
ここまでなんの抵抗も無いとなると、何かしらの罠の可能性が高い気がする。
索敵の範囲を広げようと、マークに合図を送り、行軍速度を落とした。
それから暫くして、山を下りきる少し手前で、腕の中の番が身じろいだ。
「起きたか?」
「・・・・・・」
返事をしないレンを不審に思い、細い顎を掬おうとした手を掴まれた。
「止めて! ここで止まって!!」
「どうした?!」
「クレイオス様が降りて来るわ」
「クレイオスが?」
降りて来るとは、空から?
ドラゴンのままで?
拙い!
「止まれ!! 全軍停止!!」
急な命令に混乱が生じ、エンラとオロバスの嘶きと、それをなだめる騎士達の声が、あちこちから聞こえて来る。
そして全てのエンラとオロバスが、怯えて口を閉ざし、その動きを止めた。
一瞬の静寂の後、騎乗した騎士達が犇めく山道を、木々の間を暴風が駆け抜け、頭上を覆う巨木がベキベキとへし折られた。
落ちて来る枝から、咄嗟に番をマントの中に庇った。
「クレイオス!! 危ないだろ!! 少しは考えろ!!」
枝から身を守るために上げた腕を下ろすと、夏の日差しを遮っていた木立は消え、代わりに巨大なドラゴンが、陽の光の中に立っていた。
『すまぬな。だがこちらも緊急事態だ。許せ』
「緊急事態?とにかく此処ではまともに話も出来ん、麓に降りるまで待て」
『そうだの。少し下った先に陣を張るのにちょうどいい場所がある。我はそこで待つ故、急ぎ来るように』
そう言ってドラゴンは羽を広げ飛び立とうとした。
「おい!! この有様で急げると思うか?!」
クレイオスがなぎ倒した巨木が、山道を塞ぎ通り抜けは不可能だ。
もう一度道を通すには、この巨木を焼き払うか、人の手で時間をかけて退かすしかない。
だが日照り続きで乾燥した山の中で火を使えば、山火事が起こる危険が高い。
怒鳴り声に振り向いたドラゴンは、さも仕方がないと言いたげに、前足の爪で巨木をひっかけ、ヒョイと放り投げてしまった。
流石は神殿を踏み潰すだけの怪力だ。
感心する俺達に、クレイオスは不機嫌そうに鼻を鳴らし、風を巻き上げて飛んで行ってしまった。
「なんなんだ? えらくご機嫌斜めだな」
「ん~~。なんとなく分かるかも」
「何があったんだ?」
「何と言うか、王都の方から変な感じがします」
「変な感じ? 瘴気か?」
「ごめんなさい。私もハッキリ分からないの。でもなんだろ、嫌な感じ」
「そうか」
ならクレイオスから直接聞くしかないな。
突然のドラゴン襲来に動揺する、エンラを宥め、再び山道を下ることが出来たのは、20ミン程後の事だった。
麓まで駆け下ると、そこは一面の草原だった。
そして俺達を待つと言ったクレイオスは、ドラゴンの姿のままで草原に佇み、王都のある方向を見つめているようだ。
「クレイオスッ!!」
『おお、来たか。思ったより時間が掛かったの』
そりゃな。
飛んで来るのと。地面を走るのとではスピードが違うからな。
クレイオスの前でレンを抱き上げて、ブルーベルから降りたが、クレイオスが人型を取る様子がない。
「そのままで良いのか?」
『ん? おぉ? 忘れておった』
風を巻き上げ、バサリと翼を開いたクレイオスは、瞬きの間に人型へと戻っていた。
「それで? 緊急事態なんだろ?」
『うむ。かなり重要な話だの』
分かったと頷いた俺は、モーガンとセルゲイを呼びに行かせ、主だった将校も集めるよう、部下に言いつけた。
その間、レンはクレイオスが話す事を真剣な面持ちで聞いていたが、何を聞いたのか一瞬息を呑み、難しい顔で考え込んでしまった。
後方に居るモーガンたちが到着するまでの間、レンは考え込んでいたが、クレイオスは草原の真ん中に、クオンとノワールの手を借りて、亜空間から取り出した、大きな丸テーブルと椅子を並べ、茶の用意までしていた。
到着したモーガンや将校たちは、草原に似つかわしくないテーブルセットに、戸惑っているようだったが、セルゲイだけは、大喜びで茶の味を褒めていた。
ピクニックと呼べなくもない謎の茶会。
これは一体何の時間だ?
考え込み一言も話さず茶を啜る番の口に、クレイオス提供の焼き菓子を運びながら、俺はクレイオスに声を掛けた。
「それで?緊急の重要な要件とは、茶会だったのか?」
『なに、これは移動続きの其方らへの労いだ』
「それはどうも」
言外で早く話せと催促するとクレイオスは ”面白みのない奴だの” と嘯いた。
「で? 用件は?」
『はあ~~~。其方は人の好意が分かっておらんな? まあいい。結論から言おう。このままでは王都に入れんぞ』
「王都に入れないとは、どういうことですか?」
腰を浮かせるモーガンをクレイオスは手で制した。
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