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愛し子と樹海の王

お預けは辛い

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 said・アレク


 おぉう?
 なんだか知らんが、ものすごい尊敬の眼差しで見てくるぞ?

 そんなキラキラ見つめられても、俺は恋愛経験0で、レン以外知らんから、他人の色恋の事なんぞ分からん。

 だが、こんな期待のこもった目で見られたら、分からんで終わらせられんよな・・・。

「そうですよね。ただ、この話し。エーグル卿から聞かされるのだけは、駄目だと思う」

「なんでだ?」

「だって、タイミングを間違えたら、恋敵を貶める、やな奴になっちゃうでしょ?」

「う~ん。確かに」

 なるほど、そう言う考え方もあるのか。

「いっそのこと王国の内情を調べた結果って事にして、全員に情報を共有しちゃうとか・・・・って乱暴すぎる?」

「「うーーーん」」

 二人して胸の前で腕を組み、悩みに悩んだ。

「エーグルに事情を話して、口止めするか?」

「それ。エーグル卿が気を使いませんか?さっきエーグル卿と別れた後、アレクの肩越しに見えたんですけど、彼、マークさんを見つけて、嬉しそうに話しかけていたんです。それに彼は、優しい良い人みたいだから、マークさんが傷つくのは、嫌なんじゃないかな?」

「マークは今までの思い込みがあるから、なんとも言えんが、エーグルは確実に番だと気付いているよな?」

「多分?」

「ロロシュとマークの婚約は公になって居る。奴隷だった自分と帝国の伯爵家の出で、第二騎士団の副団長。立場の差を気にして遠慮する可能性は有る。だが、普通は我慢など出来んのだがな」

「これも、首輪の影響かしら?」

「なんと言うか・・・マークの番は、癖の強い奴ばかりだな」

「本当にね・・・もっと普通の穏やかな人でも、良いのに・・・」

「「はあ~~~」」

 揃って溜息を吐いてしまった。
 俺はマークの番は、何処ぞの芸術家なのではないか、と想像していた時期もあったのにな。

「さっきの ”誰に” って話ですけど、一番の当事者のロロシュさんには、話すべきでは?」

「そうだなあ・・・。あの二人には、一応ロロシュの種族的な問題があるかもしれないから、習性を調べろとは言ってあるのだ」

「えっ? 本当? いつの間に?」

「レンが泣かされた日だ。前からあいつの精神的なものだけが、問題だとは思えなくてな? 調べた上で、よく話し合えと言ってある」

「へぇ~~。さっすがぁ! 出来る男って感じ!」

「そ・・そうか?」

 出来る男・・・・。
 悪くない。

「オホンッ。 あ~~。そうだな。やはり2人に隠すのは良くないだろう、と思う。ロロシュは当てにならんが、マークの執着ぶりから見て、二人が番なのは間違いだろうし、事実を知ってこそ、2人いや3人か、の今後を考えられるのではないか?」

「そうですよね! あっ・・・でも」

「どうした?」

「ロロシュさんは、マークさんの愛情は負担だけど、他の人には渡したくない、って言ってたの。3人で仲良くって言うのは、難しいかも知れないと思って」

「まったく。パールパイソンとは、何処までも我儘な種族だな」

「他の人の事は分からないけど、番への執着がちょこっとでも有るだけ、マシなのかも知れないですよ?」

「それはそうだが」

「それと、二人に話すなら、出来るだけ早い方がいいと思います」

「なぜだ?」

「どの道王都に入ったら、いつか知られるだろうし、マークさんだって、あんな風にエーグル卿が嬉しそうにして、優しくされてたら、幾らマークさんの感覚が鈍くなっていたって、流石に気付く筈でしょ? それに、エーグル卿の我慢がいつまで続くか分からないから、これ以上拗れる前に、教えた方がいいと思うの」

「成る程・・・・では折を見て、出来るだけ早く、二人には伝えることにしよう」

「アレクは忙しいでしょ? 私から話そうか?」

 俺を心配してくれるのは有難いが、その席で、レンが泣かされたら、俺の理性の方が持たない。

「いや。俺が話そう。どんな流れになるか分からん。婚約を破棄するか、複数婚にするのか。どちらにしても貴族である以上、それなりの手続きがあるからな、二人には、その話もする必要があるだろうからな」

「そう? そうよね。 法律とか色々あるものね!」

 なんなんだ、この頼り切ったキラキラの尊敬の眼差しは?!
 俺はそんなに高尚な人間ではないのだぞ?

 あ~~!!
 もう!!
 なんでこんなに可愛いんだ!!

「話は決まったな? では明日も早い。そろそろ寝ようか」

「はい。・・・でも、今日は駄目ですよ?」

「えっ?」

「えっ? じゃないでしょう? 明日も今日みたいに寝こけて、2日続けて皆んなから、生温い目で見られたら、私、恥ずか死んじゃいます」

「はずかし・・・?」

「恥ずかしすぎて、死にそうって事です」

「それは・・・・いかんな」

 そうか・・・・。
 今日は駄目か・・・。

「そんな、しょんぼりして見せても、駄目なものは駄目よ? 出征で番と離れ離れの人だって、沢山居るんだから、移動中くらい我慢して。 ね?」

 移動中・・・。
 明日も・・・・。
 いや王都の入る迄、駄目ってことか?
 
「・・・・2日に一度」

「めっ!!」

「あっはい」

 クッソーッ!!


 ◇◇◇


「なあ、なんで閣下は、あんな機嫌が悪いんだ?」

「さあ? レン様とケンカした、って事はなそうだが」

「そうだよな。レン様は、ずっとご機嫌だし、いつもより元気なくらいだろ?」

「だよな? いつもより元気・・・あ、俺分かっちゃったかも」

「なんだ、閣下はどうしたんだ?」

「いや・・・俺の口からは言えない」

「なんでだよ!」

「・・・・オレも分かったかも」

「なんなんだよ!教えろよ!?」

「俺達は命が惜しい。自分で考えろ」

「えぇーー?!分かんないの俺だけ?!」

「お前の純粋さは、貴重だ。そのままで居てくれよ?」

「余計わかんないって!!」


 ◇◇◇


「斥候から伝達!! 閣下! 6ヤール先に関です!!」

「分かった」

「斥候に片付けさせますか?!」

「やらせろ。到着までに片付いていなければ、俺がやる」

「閣下がですか?」

「問題あるか?」

「いえっ!! 斥候に伝達します!!」

 レンに待てと言われ。
 お預けを食らって、早5日。

 控えめに言っても、欲求不満だ。

 もしこれが、遠征に出ていて全く会えないとか、レンが体調を崩しているのであれば、まだ我慢が出来る。

 だが、日々共にあり。
 夜は、柔らかい身体を腕に抱いて眠るとなれば、話は別だ。

 俺は健康な雄で、番の甘い香りを嗅ぎ、暖かい身体を前にして、待てと言われても。

 頬をくすぐる吐息で目を覚まし、熟睡することも出来ない。

 まるで拷問だ。

 番の香りを嗅ぐだけでも兆してしまうのは、致し方ないだろう?

 それなのに、宮とは違い、風呂で発散させることもできない。

 レンという番を得た俺が、一人木陰に潜り込む姿を、誰かに見られようものなら、そう言うことをしに行ったのが、丸分かりだ。

 立場的にも、雄としても、そんな不名誉な思いはしたくない。

 だが、番の肌は味わいたい!!

 クソッ!
 こうなったら、何処かで城攻めでもするか?
 移動中じゃなければ良いのだろ?

 王都まで、あと3日。

 あと3日も我慢しなければならんとは。

 あ~~!!

 なんの問題もない状態での禁欲が、こんなに辛いとは、思いもしなかった。
 3日目に神殿を潰した時、あのまま神殿で休めれば良かったのだが・・・・。

 愚かな神官達がクレイオスノ逆鱗に触れ。
 あの神殿は、神官もろとも、瓦礫と化してしまった。

 本当に、余計なことをしてくれたものだ。


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