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愛し子と樹海の王

感情とは

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 side・レン

 あれ?
 私どうしたんだろう。

 ご飯食べながら泣いている人に、なんでこんなに怒りが湧いてくるの?

 普通、相手を心配するところよね?

 皆が美味しい! って食べてくれるのに慣れ過ぎたのかしら?

 泣かれてイラついてるとか、私、性格悪すぎない?

 いきなり湧きあがった怒りの感情と、スプーンを握りしめ、男泣きするエーグル大将に私は戸惑い、マークさんとクレイオス様に目を向けました。
 
 マークさんに浮かぶのは戸惑い、クレイオス様は分かり難いですけど・・・後悔・・でしょうか?

 そう・・・二人が浮かべる感情が正しい。
 この場に怒りの感情なんてそぐわない。

 そこまで考えて、漸く私は気が付きました。

 ”あぁ・・・アレクさんが怒ってるんだ”

 どうやら私は、彼から伝わって来る、強すぎる感情に引きずられ、自分の感情を見失ってしまったみたいです。

 こんなに怒るなんて
 お城で何かあったんだ。
 でもいったい何が・・・・。

 今すぐお城に駆けて行きたいくらい、アレクさんの事が心配で仕方がない。

 でも、アレクさんに何かあったのなら、念話で教えてくれるはず。

 それに人同士が争っているのだから、何も感じない方がおかしいのです。

 私はアレクさんに無理を言って、隷属の首輪を外す場を作って貰ったのだから、私は伴侶としてやるべき事を果たして、少しでもアレクさんの負担を減らしてあげないと。

 小さく深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせてから、やっとエーグル卿に話しかけることが出来ました。

「お口に合いませんでしたか?」

「いえ! うまい・・・うまいです。こんなに美味いものは初めてです」

「それは・・・・・」

 簡単に作った、ただのシチューが、涙を流すほど美味しいの?

 彼の国の獣人達は、真面な物を食べる事も出来ないような、奴隷として扱われてきたのだと改めて思い知らされ、私は頭を殴られた様な気分になりました。

 それはマークさんも同じだったようで、涙を零すエーグル卿から、そっと視線を外しています。

「気に入って貰えてよかったです。沢山ありますから足りなかったら、御代わりして下さいね」

 涙を零しシチューを頬張るエーグル卿に、戦さや今後の話しをする気にはなれず、私達は、彼が食べ終わるまで、日常の他愛ない会話を続けていました。

 その間もアレクさんの事が、心配で仕方がなかったのですが、戦闘中だったら?と思うと、念話を使う気にはなれません。

 そしてお鍋の中身が空っぽになり、最後の一皿を食べ終えたエーグル卿が名残惜しそうにスプーンを置き、満足そうな溜息を吐いたのを見る頃には、私の中の動揺も落ち着いて、ほっこりした気分になることが出来ました。

「お茶の御代わりをどうぞ?」

「やっ!これは申し訳ない。馳走になりました」

 テーブルに手をついてペコリと頭を下げるエーグル卿には、奴隷として扱われて来た、卑屈さは感じられず、唯々気のいい青年の様に見えます。

 そこへシッチンさんがやって来て、一礼してマークさんに何かを伝えています。

「レン様、オーベルシュタイン侯爵が、先ほどからお待ちの様です」

 どうやら侯爵は、私達の様子を見て遠慮してくれていたらしく、食事が終わったのを見計らって声を掛けてくれたのでしょう。

 案内されたオーベルシュタイン侯爵とは、最近のリアンの様子など、話したいことは沢山ありましたが、挨拶もそこそこに、今後の話し合いとなりました。

 そこで家族が王城に囚われている、獣人部隊の隊員さん達は、私達が最後まで責任をもって面倒を見ると約束しました。

 帝国に移住するのも、ゴトフリーに残るのも自由です。

 但し、アレクさんからの許可が出るまでは、全員ガルスタ砦に留まる事が条件であるとも伝えました。
 私達が隷属の首輪を外すことが出来ると、今はまだゴトフリー側に知られたくないからです。

 現在ガルスタ砦はゴトフリー軍の一個師団が占拠しているそうです。
 その中から、オーベルシュタイン侯爵(面倒だから、リアンパパと呼ぶことにします)を追って来たのは、獣人部隊を含む1個大隊と、人族が取り仕切る1個大隊を合わせた2個大隊だそうです。

 エーグル卿が率いる、獣人部隊を含む約1300人が抜けたとしても、ガルスタ砦に集結しているゴトフリー軍はおよそ、1万5千~1万8千。

 その軍勢を退け、砦を奪還する事を前提にした条件に、エーグル卿は怪訝な顔をしています。

「エーグル卿の懸念は尤もだと思うぞ? だが今回は閣下が居られるからな」

第二騎士団うちのの団長は、単騎でドレインツリー6体と火竜を2匹、軽く討伐できる方なのです」

 そうなの!
 私の旦那様は凄いのよ?
 もっと褒めて褒めて!

「はぁ・・・ドレインツリーと火竜ですか・・・」

 マークさんの説明に、エーグル卿は半信半疑な様子でしたが、直ぐ傍でレッドボアの骨をおやつに食べているアン達を見て、納得したように頷いていました。

「城に入ったゴトフリー軍は、どうなされる?」

「その事なら問題ないと思いますよ?・・・少し待ってね?」

 さっきからアレクさんの事が気になって仕方がなかった私は、目を閉じて、アレクさんとの念話に集中しました。

[アレク・・・・今大丈夫? 怪我してない?]

[・・・レン? 問題ない。終わったのか?]

[うん。そっちはどう?]

[片付いた。早く来てくれ。君が恋しいよ]

[う"ッ!・・・わっわたしも・・・]

 いつも以上に甘々な気が・・・。
 やっぱり何かあったんだ。

「愛し様はどうされた?急に赤くなってしまわれたが、熱でもあるのではないか?」

「侯爵様、レン様は今、閣下と念話の最中ですので・・・・」

「あ・・・これは無粋でしたな」

 やめて~。
 ほんと、恥ずかしいからぁ!
 分かってますよ。って目で見ないで~。

「あの、先ほどからお話に出てくる、閣下と言うのは、帝国の大公閣下の事でしょうか?」

「そうですが。なにか?」

「大変失礼ですが、愛し子様とは、どういうご関係で?」

「おや? ご存じない?」

「お恥ずかしながら、私達には外の情報はあまり入って来ませんので」

「レン様は、閣下の番なのです。先帝の喪中故、内々ではありますが、婚姻式も挙げられております」

「はあ? 帝国では、子供でも婚姻できるのですか?」

「子供?・・・・・プッ!」

「クッ ククククッ」

「あの? 私はなにか、おかしなことを言いましたか?」

「ちょっとマークさん! リアンパパも! 笑い過ぎ!!」

「リッ・・リアン、パパ?! プハッ!ハハハ・・・」

「このリアクション、久しぶり過ぎて忘れてました。エーグル卿、私26歳です」

「えっ? 6歳?」

「違います!

「えぇ~~? こんなにちっちゃいのに?」

「26?」

 なんでマークさんまで首を傾げてるのかしら?

 ほんと、失礼しちゃう!

「もういいです!! 面倒なので、マークさん説明しておいて下さい! リアンパパ。お城のゴトフリー軍は制圧済みだそうです。お城に帰りますよ!」

「えっ?! もう?!」

「私の番を誰だと思っているのですか? アレクサンドル・クロムウェル大公ですよ? このぐらい当然です」

フンスと胸を張る私に、リアンパパは若干引き気味です。

「はは・・・・さ・・・・左様ですな」

「ほら、速く準備して。置いて行っちゃいますよ?」

 久しぶりに、おこちゃま扱いされた私は、プリプリしながらアンに跨り、みんなを急かし、愛おしい男性ひとが待つ、オーベルシュタイン城へ向かったのでした。

 
 



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