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愛し子と樹海の王

其々の戦いへ

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 side・アレク


「上手く城に誘導できたようだな。これでゴトフリー侵攻の大義名分が出来た。オーベルシュタイン侯爵のお陰だ。ご苦労だった」

「いえ。閣下のご指示通り、逃げていただけですから、大した苦労でもありません。それで次はどうすれば宜しいか?」

「随分とやる気だな?」

「いや~。我が領の騎士達はよく言えば単純、でなければ猪突猛進な者が多くてですな、今回の様に真面に剣を交えない戦いには、慣れていないのですよ」

「欲求不満か?」

「まあ、そんな処です」

「うむ。だが暫くは満足させられんな」

「・・・今後の計画を、お聞きしても宜しいですか?」

「今後か?まずは城に入ったゴトフリーの獣人部隊を、おびき出したい」

「どこまでですか?」

「近場だ、城下町の広場に獣人部隊を誘導する」

「広場にですか?」

「城下の住民は避難済みだ。人的被害の恐れはないし、戦闘をする必要も無い」

「ただ、おびき出すだけで良いと?」

「そうだ。それさえ上手く行けば、後はレンが獣人部隊を無力化してくれる」

「愛し子様が?」

「そうだ」

「説得でもなさる御つもりか? 危険でありましょう?」

 うむ。正常な反応だ。

「説得も必要かもしれんが、それよりもっと効果的な罠を仕掛けたのだ」

「罠? あの愛し子様が?」

「説明しても良いが、見た方が早い」

「左様で・・・」

 レンの魔力量その他の能力を知らなければ、納得は出来んだろうからな。
 
「砦に居る本隊と合流する前に、方を付けたい。今夜は交代で城に入ったゴトフリーの兵に、嫌がらせを繰り返し、敵に寝る暇を与えない。そうすれば、堪え性の無い上役が、獣人部隊を送り出す筈だ。獣人部隊をおびき出した隙に、敵を制圧。ザックリ言うと、こんな所だな」

「成る程。して愛し子様は今どちらに?」

「本番に備え、広場近くの宿で休ませている」

「お一人で?大丈夫なのですか?」

 普通はそう思うよな。

「一人ではない。信用のおける俺の部下達と、ドラゴン3匹。あとは従魔にしたフェンリルとシルバーウルフの群れが15頭。一個師団でも敵うと思うか?」

「はあ・・?ドラゴンとフェンリル・・・?」

「ドラゴンの一匹はクレイオスだぞ?」

「左様ですか・・・・流石・・・と感心した方が良いのでしょうが、いやはや、なんとも・・・・」

 何の冗談かと思うよな?

「納得出来たら、あとは頼む」

「閣下はどちらに?」

「獣人部隊を引き離したら、城を奪還せねばならんだろう?」

「閣下直々にですか?」

「侯爵が準備を整えてくれたからな、楽な仕事だ。自分で城を奪い返したければ代わっても良いが、どうする?」

 個人的には、レンと一緒に居たいのだ。
 代わると言ってくれると良いのだが?

「そうしたいのは山々ですが、愛し子様のお力を、直に見る機会も逃したくありませんな」

 クソッ!
 まあそうだよな。
 好奇心の方が強いよな。

「・・・・そうか? だが今回は浄化は無いが、いいのか?」

「構いません。せっかく口外禁止の魔法契約にサインしたのです。我が騎士達も自分達が、どんな方をお守りするのか、知るべきだと思いますので」

「・・・では、レンを頼む。あの人はたまに無茶をするのでな、そうならんように務めを果たしてくれ」


 ◇◇◇
 

 side・レン

「レン様!合図です!!」

「は~い!! では騎士の皆さん、注意事項は覚えていますね?魔力切れを起こす前に離脱する事。獣人部隊からの攻撃を受けたら、魔法陣より自分の命を優先する事。良いですね?」

「「「「はいっ!!」」」」

「では、配置について。よろしくお願いします!」

「レン様、大丈夫ですか?」

「うん。緊張してるけど、大丈夫。マークさんこそ顔色が良くないみたい。眠れなかったの?」

 輝く美貌が・・・・。
 これはこれで、アンニュイな感じが色っぽかったりするけど、マークさんには、もっと溌溂とした感じの方が似合うのに・・・・。

「ええ、まぁ。ですが問題ありません。以前は2徹3徹はざらでしたから」

「そう・・・無理はしないでね。魔力切れじゃなくても、具合が悪くなったら直ぐに離脱するのよ?」

「はい。レン様もご無理はなさらないでください。今頃閣下も気を揉んでいる筈ですから」

「そうね。ちゃちゃっと成功させて、安心させてあげないとね」

「はい」

 あ~~!!もう!!
 なんなの、この儚げな微笑みは!!
 乙女から笑顔を奪う男なんて最っっ低!!

 番なんて縛りが無ければ、マークさんだって、次の恋に行けるのに!!
 
 でも・・・・。

「マークさん心配しないで。なんとなくなんだけど、良い事ありそうな予感がするの」

「予感・・・ですか? レン様の予感なら当たりそうですね」

 元気はないけど、キラッキラ、サラッサラの髪で、小首を傾げるイケメン。
 眼福、眼福。

「うふふ。楽しみにしててね」

「見えました!! オーベルシュタイン騎士団です!!」

「獣人部隊は?!」

「80ミーロ後方!!」

「結界のタイミングを合わせろ!!」

 さすが、うちの乙女なイケメンは、仕事が出来てかっこいい!

「クオン!ノワール!準備はいいわね?」

「は~い」

「レン様、まかせて~」

 はあ~~。
 うちの天使ちゃんズは、今日もかわいい。
 後で美味しいお菓子、作ってあげるからね。

 おっと。萌えてる間に、侯爵の騎士団が通り過ぎちゃった。
 もだもだしてる場合じゃありませんね。

「結界展開!!」

 ヴォンッ!!

 唸るような低い音と共に、広場を囲うように結界が展開され、行く手を塞がれた、ゴトフリーの獣人部隊の人達が、広場の中を右往左往しています。

「ゴトフリーの兵よ、私は神の愛し子。レン・シトウです!」

結界越しとは言え、緊張する~!

「愛し子?」

「帝国の愛し子が、何故ここに?」

「創世神アウラと、エンシェントドラゴン、クレイオスの名の下、貴方たちに自由と解放を!!」

 ひゃーーー!!
 私26になったんですけど~!
 中二病っぽくて恥ずかしいーーー!!

 でも、やるべきことはやらないと。

 私の中二病宣言を合図に、一斉に魔法陣へ私とみんなの魔力を注いで行きます。

 広場の石畳、獣人部隊の人達の足元に魔法陣が展開し、広場の中が黄金の光で満たされて行きました。

「なんだ?!」

「魔法陣?!」

「何をする気だ?!」

 ごめんね。びっくりするよね?
 でも、もうちょっとで、自由になれるから。

 広場に溢れる光が強くなるほど、私の中から引き出される魔力が増えていきます。

 これは、離脱した騎士さんの分の負担が増えたからでしょう。

 横目でちらりと見えたマークさんも、頬を流れた汗が、細い顎を伝って落ちています。

「マークさん!無理しないでっ!」

「ですが!」

「離れなさい!!」

 マークさんも限界が近い。
 これ以上は危険です。

 クオンとノワールは、まだ余裕がある。

「アン!! 手伝って!!」

 アンは魔獣だけれど、魔力値は人よりも遥かに多い。
 けれど、手伝ってくれる騎士さん達が、アンを使うのを躊躇っていた。
 従魔であっても、戦闘以外で魔物の手を借りるのに抵抗が有ったからだと思う。

 だけど、私は最初からアンの力を計算に入れていたのよね。

 だって、その方が安全だもの。

 アンが加わった事で、私の負担はグッと少なくなり、そして広場全体が強く輝いて。

 カシャーン!!

 金属質な音が広場に反響し

 カシャッ! カシャ!

 隷属の首輪が次々に外れ、石畳に落ちていきます。

「首輪が・・・」

「これは夢か?」

「首輪が外れた!!」

「俺達は自由だっ!!」

 うおおぉーーーーー!!

 ゴトフリー王国建国以来、奴隷として虐げられ、先代王の時代から全ての自由を奪われ続けた、ゴトフリーに生きる獣人が、漸く自由を手にした瞬間。

 ガルスタの城下町に、獣人達の歓喜の雄叫びが、鳴り響いたのでした。
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