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エンドロールの後も人生は続きます
口は災いの元
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「まぁ! 本当に素敵! この衣装を着られないのは確かに残念だわ。貴方もそう思うでしょ?」
俺の手から、デザイン画を奪い取ったロイド様は、手放しで喜んでいるが、俺は違う。
俺は、嫉妬深くて狭量な雄だから。
番に何十着でも衣装を作ってやる、と言っておきながら、美しい番を独り占めにしたいのだ。
「俺は、容認できん」
「貴方、そんな言い方は無いでしょう!」
皇太后が、目を三角にしようが、ガミガミ怒ってこようが、そんなことはどうでも良い。
番の美しい肢体を知るのは、俺だけでなければならない。
レンの体を這い回る、雄達の視線を想像しただけで吐き気がする。
直ぐにでも、この会話を終わらせたくて、仕方がなかった。
「兎に角 レンの加護については、クレイオスが何か解決策を知っているかもしれない。クレイオスの話を聞くまでは、俺のマーキングで対処する。レンの性の違いについても、公表するかどうか、アーノルドの意見を聞かずに決めることは出来ない」
「アレクサンドル?急にどうしたのです」
突然態度を硬化させた俺に、レンとロイド様が驚いている。
その様子に余計腹が立ち、俺は口を閉じることが出来なかった。
「娼夫でも有るまいし、こんな、肌の露出が多く、体の線がハッキリ分かる衣装など、どうせ着せる事など出来ないのだ。どうしても着たいと言うなら、公表するかを決めた後だ」
「アレクサンドル!なんてことを言うのです! それが番への正しい態度ですか?!」
「皇家に連なる者として、大公妃に相応しい衣装を作れと言ったのは、ロイド様、貴方だ。この如何わしい衣装が、大公妃に相応しいと、本気で思っているのですか?」
「例えそうだとしても、言って良いことと悪いことが有るでしょう!」
「ロイド様良いんです。アレクの言ってることは正しいですから。それに、色々言いましたけど、加護の所為で今までみたいに、気軽に人と話せなくなるのかと思って、ちょっと神経質になってしまっただけの、私の我儘なので。気にしないで下さい」
「レン様・・・・大丈夫? 顔色が悪いですよ?」
「やっぱり、体調が戻ってなかったみたいです。失礼して休みたいのですが」
レンの強張った笑みも、俺の心に浮かんだしこりを、溶かすことは出来なかった。
「ええ。勿論。 私より貴方の体の方が大事ですからね。ゆっくり休んで頂戴」
「ありがとうございます。アレクはロイド様のお相手をして差し上げてね」
ペコリと頭を下げたレンは、セルジュを伴い応接室から、トボトボと出ていってしまった。
その後ろ姿を見送った皇太后は、扉が閉まるのを確認してから、俺に噛みついてきた。
「アレクサンドル。どういうつもりです?私は貴方を、見損ないました」
「どう言うつもりとは?」
「何故レン様を、傷つける様な事を言ったのかと聞いているのです。 どうせあの衣装を着た、魅力的なレン様の姿を、他人に見せたくなかっただけでしょうけれどね」
「だから何です? 魅了の所為で、どんな危険な奴らが寄ってくるかも分からない状況で、ただ可哀そうだからと言う理由で、あんな無防備な姿のレンを、人目に晒せと?」
「屁理屈は結構! 戴冠式は一年後です。あの衣装を着て挙式を上げるのも一年後。貴方一年もの間、手を拱き何もせぬまま、レン様を閉じ込めて置くつもり?! 帝国第2騎士団、団長ともあろう者が、子供じみた執着心で、番を悲しませる気ですか?救国の英雄が、こんな狭量な人間とは、恥ずかしくて言葉もでません」
「俺の事は好きに言ってくれて構いません。だが、公表するのも、あの衣装を着るのも、俺は反対だ」
「レン様は観賞用の、駕籠の鳥ではありませんよ?」
捲し立てる皇太后の声は、耳を滑り、心には響かなかった。
しかし、この人もウィリアムと似たようなことを言うのだな。
あの時のウィリアムが言ったことは、アルサクヘレンを行かせるための、ただの方便だった筈だ。
この人が言うことも同じか?
「重々承知致しております」
「いいえ。何も分かっていません。貴方が本当にレン様を愛しているのなら、囲い込み、外界からあの方を切り離すような真似はお止めなさい。レン様が望みをかなえるために障害があるなら、貴方がその障害を取り除き、あの方が前に進めるよう道を整えて差し上げるのです。それがどんな困難な道であろうともですよ?貴方にはそれだけの力があるでしょう?今の貴方はレン様に甘えているだけ。そんなものは愛とは呼びません」
「愛ですか。皇太后陛下は愛にお詳しいようですが、上皇陛下との間に愛があったとは存じ上げませんでした」
俺の嫌味にロイド様は、一瞬目を見開き、切れ長の目が眇められた。
「貴方何を言っているのです?私たちの間にあるのは契約であって、愛ではありませんよ?」
そんな事も分からないのか、と皇太后は額に手を当て首を振っている。
分かった上での嫌味だったのだが、この人には通じないのか、更に上手なのか。
「では、どこで愛を知ったと?」
「本当に朴念仁だこと。私にも若い時はあった、と言えば理解できますか?」
「左様で」
母国での初恋か、帝国での愛人か。
どっちにしても興味はないな。
「私の昔話に興味など無いでしょう?」
「・・・・」
「まったく・・・貴方もレン様の描いた肖像画を見たでしょう?どんなに私やアーノルドが心を尽くしても、騎士達と仲良くなったとしても。あの方の孤独を癒すことは出来ないのです。出来るとしたら、それは貴方だけなのですよ?」
「分かっております」
「分かっている様には、見えませんね。無理を通して式を挙げ、あの方の心と体を手に入れ、抱き潰して置いて、何が足りないのです? 貴方は、あの方を独占して悦に入っているだけ、あの方の献身に、応えて差し上げる気はないのですか?」
「応えられるよう、努力しております」
「ハッ! 努力? 努力ですか?!全く足りていませんね」
皇太后の掌で、ビシビシと鳴り続けていた扇が、甲高い金属音を上げ開かれた。
「そこの貴方。ローガンと言いましたか?貴方も獣人ですね?」
「左様でございます」
「貴方の主は誰?」
「私とセルジュの主はレン様で御座います」
「そう! では貴方は、大切な主の為なら何でも出来ますね?」
「はい。誠心誠意尽くさせて頂きます」
ローガンは左手を胸に当て、皇太后に一礼した。
「ではローガン、貴方に命じます。そこの石頭の朴念仁に、番への愛とは何かを、教育し直しなさい」
「はい?私が閣下に教育ですか?」
「出来ないのですか?」
「私は独身ですので、閣下にお教え出来るほど、経験がございません」
「まあ、番もいないのですか?」
「残念ながら」
「この宮には、恋愛初心者しかいないの?」
「それなりの猛者も居りますが、レン様のような尊い方とは雲泥の差ですので、参考にはならないかと」
「はあ~~。お話になりませんね。アレクサンドル。私の忠告を思い出しなさい」
「忠告?婚姻の恨みですか?」
「覚えているなら、どうすべきか分かりますね?」
「ご忠告感謝いたします」
「この子は本当にわかっているの? とにかく私の言った事を、よく考えるのですよ?」
見送りは結構、とロイド様は靴音を響かせ、翡翠宮へ帰っていった。
ドサリとソファーに身を投げた俺に、ローガンは入れ直した茶を差し出した。
「差し出がましい様ですが、陛下の御立腹も致し方ないかと」
「何故そう思う」
「失礼ながら、先程の閣下の言いようでは、レン様の婚礼衣装など、どうでもいい、と言ったも同然です」
「そんなつもりは、無かったのだが」
「意図があろうとなかろうと、関係ありません。レン様が憧れていると言った衣装を閣下は "こんな如何わしい物" と蔑まれた。あれでは、レン様のお考えが、無価値と言った様な物です。レン様にはショックだったでしょう」
「そうだな」
「それに」
まだあるのか?
「閣下は、レン様を “娼夫” と貶められたのです。 私の大切な主をです。到底許すことは出来かねます」
「あれは!言葉のあやで、本心ではなかった」
「左様ですか。ですが、閣下が誠心誠意レン様に謝罪し、レン様がお許しになられるまでは、閣下の御用は他の者にお命じ下さい」
「おい!」
「私は傷心の主を、お慰めに参りますので、御前失礼致します」
ローガンは冷たい一瞥の後、足音も荒く、部屋から出ていってしまった。
俺の手から、デザイン画を奪い取ったロイド様は、手放しで喜んでいるが、俺は違う。
俺は、嫉妬深くて狭量な雄だから。
番に何十着でも衣装を作ってやる、と言っておきながら、美しい番を独り占めにしたいのだ。
「俺は、容認できん」
「貴方、そんな言い方は無いでしょう!」
皇太后が、目を三角にしようが、ガミガミ怒ってこようが、そんなことはどうでも良い。
番の美しい肢体を知るのは、俺だけでなければならない。
レンの体を這い回る、雄達の視線を想像しただけで吐き気がする。
直ぐにでも、この会話を終わらせたくて、仕方がなかった。
「兎に角 レンの加護については、クレイオスが何か解決策を知っているかもしれない。クレイオスの話を聞くまでは、俺のマーキングで対処する。レンの性の違いについても、公表するかどうか、アーノルドの意見を聞かずに決めることは出来ない」
「アレクサンドル?急にどうしたのです」
突然態度を硬化させた俺に、レンとロイド様が驚いている。
その様子に余計腹が立ち、俺は口を閉じることが出来なかった。
「娼夫でも有るまいし、こんな、肌の露出が多く、体の線がハッキリ分かる衣装など、どうせ着せる事など出来ないのだ。どうしても着たいと言うなら、公表するかを決めた後だ」
「アレクサンドル!なんてことを言うのです! それが番への正しい態度ですか?!」
「皇家に連なる者として、大公妃に相応しい衣装を作れと言ったのは、ロイド様、貴方だ。この如何わしい衣装が、大公妃に相応しいと、本気で思っているのですか?」
「例えそうだとしても、言って良いことと悪いことが有るでしょう!」
「ロイド様良いんです。アレクの言ってることは正しいですから。それに、色々言いましたけど、加護の所為で今までみたいに、気軽に人と話せなくなるのかと思って、ちょっと神経質になってしまっただけの、私の我儘なので。気にしないで下さい」
「レン様・・・・大丈夫? 顔色が悪いですよ?」
「やっぱり、体調が戻ってなかったみたいです。失礼して休みたいのですが」
レンの強張った笑みも、俺の心に浮かんだしこりを、溶かすことは出来なかった。
「ええ。勿論。 私より貴方の体の方が大事ですからね。ゆっくり休んで頂戴」
「ありがとうございます。アレクはロイド様のお相手をして差し上げてね」
ペコリと頭を下げたレンは、セルジュを伴い応接室から、トボトボと出ていってしまった。
その後ろ姿を見送った皇太后は、扉が閉まるのを確認してから、俺に噛みついてきた。
「アレクサンドル。どういうつもりです?私は貴方を、見損ないました」
「どう言うつもりとは?」
「何故レン様を、傷つける様な事を言ったのかと聞いているのです。 どうせあの衣装を着た、魅力的なレン様の姿を、他人に見せたくなかっただけでしょうけれどね」
「だから何です? 魅了の所為で、どんな危険な奴らが寄ってくるかも分からない状況で、ただ可哀そうだからと言う理由で、あんな無防備な姿のレンを、人目に晒せと?」
「屁理屈は結構! 戴冠式は一年後です。あの衣装を着て挙式を上げるのも一年後。貴方一年もの間、手を拱き何もせぬまま、レン様を閉じ込めて置くつもり?! 帝国第2騎士団、団長ともあろう者が、子供じみた執着心で、番を悲しませる気ですか?救国の英雄が、こんな狭量な人間とは、恥ずかしくて言葉もでません」
「俺の事は好きに言ってくれて構いません。だが、公表するのも、あの衣装を着るのも、俺は反対だ」
「レン様は観賞用の、駕籠の鳥ではありませんよ?」
捲し立てる皇太后の声は、耳を滑り、心には響かなかった。
しかし、この人もウィリアムと似たようなことを言うのだな。
あの時のウィリアムが言ったことは、アルサクヘレンを行かせるための、ただの方便だった筈だ。
この人が言うことも同じか?
「重々承知致しております」
「いいえ。何も分かっていません。貴方が本当にレン様を愛しているのなら、囲い込み、外界からあの方を切り離すような真似はお止めなさい。レン様が望みをかなえるために障害があるなら、貴方がその障害を取り除き、あの方が前に進めるよう道を整えて差し上げるのです。それがどんな困難な道であろうともですよ?貴方にはそれだけの力があるでしょう?今の貴方はレン様に甘えているだけ。そんなものは愛とは呼びません」
「愛ですか。皇太后陛下は愛にお詳しいようですが、上皇陛下との間に愛があったとは存じ上げませんでした」
俺の嫌味にロイド様は、一瞬目を見開き、切れ長の目が眇められた。
「貴方何を言っているのです?私たちの間にあるのは契約であって、愛ではありませんよ?」
そんな事も分からないのか、と皇太后は額に手を当て首を振っている。
分かった上での嫌味だったのだが、この人には通じないのか、更に上手なのか。
「では、どこで愛を知ったと?」
「本当に朴念仁だこと。私にも若い時はあった、と言えば理解できますか?」
「左様で」
母国での初恋か、帝国での愛人か。
どっちにしても興味はないな。
「私の昔話に興味など無いでしょう?」
「・・・・」
「まったく・・・貴方もレン様の描いた肖像画を見たでしょう?どんなに私やアーノルドが心を尽くしても、騎士達と仲良くなったとしても。あの方の孤独を癒すことは出来ないのです。出来るとしたら、それは貴方だけなのですよ?」
「分かっております」
「分かっている様には、見えませんね。無理を通して式を挙げ、あの方の心と体を手に入れ、抱き潰して置いて、何が足りないのです? 貴方は、あの方を独占して悦に入っているだけ、あの方の献身に、応えて差し上げる気はないのですか?」
「応えられるよう、努力しております」
「ハッ! 努力? 努力ですか?!全く足りていませんね」
皇太后の掌で、ビシビシと鳴り続けていた扇が、甲高い金属音を上げ開かれた。
「そこの貴方。ローガンと言いましたか?貴方も獣人ですね?」
「左様でございます」
「貴方の主は誰?」
「私とセルジュの主はレン様で御座います」
「そう! では貴方は、大切な主の為なら何でも出来ますね?」
「はい。誠心誠意尽くさせて頂きます」
ローガンは左手を胸に当て、皇太后に一礼した。
「ではローガン、貴方に命じます。そこの石頭の朴念仁に、番への愛とは何かを、教育し直しなさい」
「はい?私が閣下に教育ですか?」
「出来ないのですか?」
「私は独身ですので、閣下にお教え出来るほど、経験がございません」
「まあ、番もいないのですか?」
「残念ながら」
「この宮には、恋愛初心者しかいないの?」
「それなりの猛者も居りますが、レン様のような尊い方とは雲泥の差ですので、参考にはならないかと」
「はあ~~。お話になりませんね。アレクサンドル。私の忠告を思い出しなさい」
「忠告?婚姻の恨みですか?」
「覚えているなら、どうすべきか分かりますね?」
「ご忠告感謝いたします」
「この子は本当にわかっているの? とにかく私の言った事を、よく考えるのですよ?」
見送りは結構、とロイド様は靴音を響かせ、翡翠宮へ帰っていった。
ドサリとソファーに身を投げた俺に、ローガンは入れ直した茶を差し出した。
「差し出がましい様ですが、陛下の御立腹も致し方ないかと」
「何故そう思う」
「失礼ながら、先程の閣下の言いようでは、レン様の婚礼衣装など、どうでもいい、と言ったも同然です」
「そんなつもりは、無かったのだが」
「意図があろうとなかろうと、関係ありません。レン様が憧れていると言った衣装を閣下は "こんな如何わしい物" と蔑まれた。あれでは、レン様のお考えが、無価値と言った様な物です。レン様にはショックだったでしょう」
「そうだな」
「それに」
まだあるのか?
「閣下は、レン様を “娼夫” と貶められたのです。 私の大切な主をです。到底許すことは出来かねます」
「あれは!言葉のあやで、本心ではなかった」
「左様ですか。ですが、閣下が誠心誠意レン様に謝罪し、レン様がお許しになられるまでは、閣下の御用は他の者にお命じ下さい」
「おい!」
「私は傷心の主を、お慰めに参りますので、御前失礼致します」
ローガンは冷たい一瞥の後、足音も荒く、部屋から出ていってしまった。
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