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エンドロールの後も人生は続きます

求婚1

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 宮に戻ったはいいが、どうやってレンに、婚姻式の話を切り出せば良いだろうか。

 思い返せば、レンへ婚約を申し込んだときは、魔力切れの治療を口実に押し切った。
 いわば、騙し討ちとも言える。

 言い訳になってしまうが、あの時は俺も頭に血が登って、冷静とは言い難い状態だった。

 俺は世の雄達が当然行うであろう、求愛と求婚をすっ飛ばし、やるべきことをしていないのだ。

 婚約前に、俺と言う人間を知ってもらう努力も、求婚のロマンチックな演出も何もなかった。
 あんなに性急に事を勧め、あの時レンに拒絶され、嫌われていてもおかしくない行動だった。

 あの時嫌われていたらと、考えるだけで、冷や汗が流れるほど、ゾッとする。

 レンが俺を受け入れてくれたのは、単にレンの心の広さ故、だったのだろうな。

 やはり、喪中だが式を挙げたい、と伝えるだけでは足りない。
 求婚するところからやり直したい。

 そうなると、一体どうしたら良いんだ?

 求婚の定番といえば・・・花? 花か?

 花束程度で、俺の気持ちが伝わるのか?
 いっその事、何処かに土地を買って、そこを花で埋め尽くすか?

 いやダメだ。吹きさらしの野原なんかに連れて行ったら、レンが風邪を引いてしまう。

 あとは何だ? 何かレンが喜ぶようなプレゼントを・・・・ってレンが喜ぶものってなんだろう・・・。

 俺が何をしても、何を贈っても。レンはいつもニコニコと ありがとう と・・・。
 あれは本当に喜んでいたのだろうか。

 今までレンが、個人的に欲しいものを、俺にねだった事があったか?

 レンは宝飾品に興味がないし、衣服も大公妃の品格維持に必要だから、揃えている様なもので、あれこれ贅沢に買い求めた事は一度もない。
 季節の変わり目などに、俺がテーラーを呼ばなければ、新しい服を作ろうともしない。

 テーラーには自分の希望を伝え、納得のいく衣装を作らせているのだから、おしゃれに興味が無いと言う訳でも無さそうなのだが、必要な物を必要に合わせて作らせているだけだ。

 婚約式と婚姻式の衣装も、必要だから作らせているだけで、本当にレンが欲しいものとは違う様な気がする。

 レンが自分からテーラーを呼んだのは、ロロシュの魔道具を作る相談をした時と、討伐用に俺の団服に似せた服を作った時くらいじゃないか?

 あとはなんだ?
 ・・・ヨシタカが製法を伝えた調味料?
 アルサクであの調味料を見つけた時、レンは大層喜んだそうだが、それは元の世界で慣れ親しんだ物を見つけて喜んだだけだろうし、自分で食すより、俺達に料理を振る舞う方が断然多い。

 第一、求婚に調味料を贈るバカがいるか?

 魔石や魔晶石を送れば、喜ぶのは分かっているが、それは錬金の素材として、仕事の一環だ。

 困った。
 本気でレンが喜びそうな物が分からない。

 一年も一緒にいて、番の好むものが一つも思い浮かばないなんて、俺は番失格だ。

 こんな事で、どうやってレンに求婚をしなおせばいいのだ。

 途方に暮れ、玄関ホールで立ち尽くす俺に、迎えに出て来たセルジュが困惑している。

「あれ? アレクお帰りなさい。ロイド様とのお話は終わったの?」

「ん? あっあぁ。レンはこれから作業部屋か?」

「はい。ロロシュさんのベストを、本格的に寒くなる前に改良しようと思って」

 嗚呼、こんな不甲斐ない俺に、そんな無垢な笑顔を向けないでくれ。

「そうか・・・無理はするなよ?」

「はーい!アレクもお仕事頑張ってね!」

 レンの言葉に星が飛んで見える。
 やはりレンの 頑張って は良いな。

 パタパタと作業部屋に向かうレンを、母親のように見守るマークを呼び止めた。

「後で交代の者をやるから、書斎に来てくれ」

 葬儀前に面倒な書類仕事は、粗方終わっている。(れんとマークが手伝ってくれたお陰だ)にも関わらず、自分が書斎に呼ばれる理由がわからないのだろう。

 マークは怪訝そうに柳眉を顰めたが、文句を言うでもなく “では、後ほど” と頭を下げ、レンの後を追って作業部屋に入っていった。

 レンの作業部屋は、魔法局の連中が、あれこれ運び込んだお陰で、最早工房と言って良い程、設備が充実している。

 素人の俺が、何か道具を取り寄せる必要も無い。

 錬金の類もダメだな

「閣下。今何か?」

 どうやら心の声が、漏れ出ていたらしい。

「いや・・・・セルジュ、ローガンと一緒に書斎に来てくれ」

「?・・承りました」

 マークに声をかけた時には、藁にもすがる思いで、つい呼び止めてしまったが、よくよく考えれば、マークやセルジュ達は、れんと接する時間が長い。
 この3人は俺の知らないレンの好みを、知っているかもしれない。

 知っていたら、いたで、腹が立ちそうだが、そこは仕方がないよな?

 それにマークは、帝国で随一のモテる雄なのだ。こう言う時どうすべきか、よく知っていそうだ。

 一応ロロシュに求婚されているしな。

 他人ひとに教えを乞う事は恥では無い。

 分からぬことを、分からぬまま放置して、失敗する方が、よっぽど恥だ。
 それが番に関する、あれこれなら尚更だ。

 っと、強気に考えていた時が俺にもあったな。

「っで? ローガンとセルジュまで呼んで、何すんだ?」

 ロロシュは行儀悪く、頭の後ろで手を組んで、椅子の足をグラグラさせている。

 しかし、今は教えを乞うみのおれとしては、文句も言い辛い。

 セルジュに茶の用意をさせながら、書斎にいる全員の顔を観察していく。

 今書斎に居るのは、マーク、ミュラー、ロロシュ、シッチンとローガンにセルジュだ。

 総勢6名。
 この中で一番頼りになりそうなのは、既婚者のミュラーだが。

 うむ。皆見目の良いものばかりだから、俺よりは経験豊富だろう。

 茶を配り終え、全員の視線が俺に集中しているのが分かる。

 机に肘をつき、組んだ両手に額を乗せ、俺は考える。

 そう、俺は怖気付いたのだ。
 自分の恥を6人もの人間に、打ち明けても良いのだろうか、と。

 だが・・・今優先すべきは、俺の面子よりもレンを喜ばせることだ。

 番の幸せの為なら、俺の面子など、羽虫の命よりも軽い。

 何より、今際の際まで、レンから恨み言を言われるなんて、御免だ。

 俺は意を決し、一つ息を吐いて、今の状況を説明し、皆に教えを乞うた。

「マジかよ」

「閣下がそんな、弱っているレン様につけ込むような真似をされたなんて」

「団長が、まさかの鬼畜」

 書斎に集まった、全員の眼が冷たい。

「いや。俺も我慢しようと思ってたんだぞ?だが、レンが成人していると知って、気が抜けたというか・・・我慢できなかった」

尻すぼみになる俺に、マークが畳み掛けてくる。
「呆れた。よくレン様が受け入れて下しましたね。一歩間違えれば犯罪ですよ?」

「まったくだ」

「貴方は、閣下の事をとやかく言う資格はありませんよ」

 マークの小言は、その通りだから受け入れよう。ロロシュは人のことを言えない様な何かを、マークに仕出かしたのだな?
 
 うん。ロロシュの意見は、話半分くらいで聞く方がいいな。

「二人とも、閣下は反省して求婚をやり直したいと仰ってるのですから、もうそのくらいにして差し上げて」

 ミュラー。大人の対応感謝する。

「まぁ、相手がうちのザックだったら、殴られて歯の2、3本は折られていたでしょうけどね?レン様がお優しい方で良かったですなぁ」

 揶揄われてるのか?
 上げて落とされたのか?
 どっちだ?
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