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紫藤 蓮(シトウ レン)

最後の神託

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 仮に神様の孫的な存在だったとしてもやって良い事と、悪いことの区別くらいはして欲しい物です。

「有益な情報をありがとうございます」
 
 お礼を言うと画面の向こうから、アウラ様のドヤっとした雰囲気が伝わって来て、ちょっとイラっと来ました。

「どうせなら、ヴァラクが今いる場所も教えて頂けると助かるのですが?」

『?? どうして?』

 この神様、惚けているのかしら?

「どうしてって、弱っているなら攻撃するチャンスじゃないですか。わざわざ動き出すのを待つ必要なんて無いですよね?今なら魔法を発動される心配も無いし」

『あ~そういう・・・』

 なんでしょう。
 アウラ様が投げ槍な感じです。

「アウラ様?」

『レン?私はね、魔法の発動を止める気はないのだよ』

「えっ!・・・・どうして?」

『天罰を落としても良いのでしょ?』

 神様だって怒って良いのだと、天罰を下しても良いのだと、私はたしかに言いました。
 
 でも首謀者が分かっているのだから、天罰を落とすならヴァラク一人で良いのでは?
 
『私は人の子に何度も機会を与えたよ? 邪なる者の言葉に耳を傾けてはいけないと、何度もね。レン、私の教えは、そんなに難しいものかな? 獣人か人か、そんなものに関係なく、人種の違いの区別なく、互いを尊重し仲良く暮らすように、と言っただけだよ? 私の考えは間違っているの?』

「いえ・・・アウラ様は正しいです」

『私は、魔族・獣人・人族、そして多くの動植物達、この世の全てが区別なく愛おしい存在だ。けれどアザエル達魔族はやり過ぎた。だから地底に閉じ込める事にしたのだよ。ヴァラクが逃げた時、アザエルは子殺しを買って出てくれた。そして私との契約を守れなかった贖罪として、魔族の力の多くを私に還した。 彼等は非道な行いをしたが、私を尊重し罪を償った。今の魔族は、昔のような圧倒的な力は持っていない。魔族固有の能力はあるけれど、強さは獣人と変わらないのだよ』

 アウラ様のお声は少し疲れたように聞こえます。
 私はアウラ様が言いたいことが、分かるだけに、口を挟むことも出来ません。

『翻って、地上ではどうだ? 私に似せて人を創ったけれど、中身は全く別の物になってしまった。これは私の力不足だっただけでは無いと思うよ?』

「私もそうだと思います」

 どう在るべきか、どうなりたいのかを選ぶのは、自分自身です。

『人は己の欲を優先し、劣等感から獣人を貶めることに躍起になった。獣人は、自分たちの優位性を理解しているが故に、その祖であるクレイオスと、自らが貶められることに抵抗すらせず、自分達の権利を守る為に声を上げる事もなかった。それによって人族は益々増長したと言っていい。これって両者とも、私との契約を軽視しているとは思わない? 贖罪が必要でしょ?』

 だったら、こんな大事になる前に、ヴァラクに天罰でもなんでも落とせば良かったのに。

『不満そうだね? 君の言いたい事はわかるけれど、彼等が私の教えと契約を大切にしていれば、ヴァラクの誘惑に負けず、私の声に耳を傾けていれば、こんな事にはならなかった。・・・違うかい?』

「でも!魔法が発動したら、多くの人が犠牲になるんですよ?!」

 アウラ様の自嘲の溜息が聞こえてきました。

『そうだね。 犠牲になるのは脆弱な人族の方が多いだろう。 これは私に似せて創られたと言うだけで、驕り高ぶった彼等人族への罰だ。そして私自身への戒めでもある』

「そんな・・・この世界の人々は充分苦しんだじゃないですか! 今だって瘴気の所為で病に罹って苦しんでいる人も、魔物に怯えて暮らす人も沢山いるのよ?! アウラ様やクレイオス様だって、呪いを受けたり、封印されたりしたでしょ?! これ以上罰が必要ですか?!」

『そう思ってくれるのだね? ありがとう。 君には未だ苦労をかけるけれど、どうか樹海の王を助けてあげて?君が居ればあれが道を踏み外す事はないからね』

「良い感じで勝手に話を纏めようとしないで下さい。何か方法は無いのですか?罪の無い子供達だって犠牲になるんですよ?!」

 神様に対して散々な物言いなのは分かっていますが、防げるものを座して見過ごすのは性に合いません。

『・・・ではアドバイス、神託をあげよう。ヴァラクを探すのはやめなさい。そして覚醒前でもいい、クレイオスをミーネに連れて行きなさい』

「覚醒していなくても良いのですか?」

『構わないよ・・・・君が居ればなんとかなるだろう。それが済んだら、マイオールの魔獣の森に陣を敷くよう、君の伴侶に伝えなさい』

「そこにヴァラクが現れるのですね?」

『そうだよ。出来るだけ急いだ方が良い』

「猶予はどのくらい?」

『・・・一月かな』

「そこで、ヴァラクを倒して浄化すれば、確実に、魔法の発動を止めることが出来るんですね?」

『・・・最悪の事態は避けられるだろうね』

 明言しないところが胡乱すぎるけれど、今は信じるしかないのでしょうね。

「全てが終わったら、またアウラ様と楽しくお茶ができますか?」

『・・・・・・君と食べたお菓子は美味しかった。そうなることを願っているよ』

 また曖昧なことを・・・。
 そう言うのをお茶を濁すって言うんです。

 事態を収拾させた後、私は蟠りなくアウラ様と、お話が出来るのかが知りたいのに。
 
『後は君たち次第・・・・レン?もしもの時は命を奪うことを躊躇ってはいけないよ」

 命を奪う?
 ヴァラクの事でしょうか?

「アウラ様?それって」

『ここまでだ。・・・・これから全てが終わるまで、君の呼びかけには応えられない」

「・・・・・・・神様の誓約ですか?」

『全能の神のご意志の前で、我々に否やは無いからね』

 その言葉を最後に、アウラ様は別れの言葉もなく、去って行きました。

 猶予はたったの一月。
 
 アウラ様との最後の会話は、納得できない引っかかる部分が多くても、傷ついたアウラ様の心情を理解できて、胃のなかに鉛を流し込んだみたいな複雑な気分です。

 でも感傷に浸っている暇は有りません。

 私には出来る事を、精一杯頑張るしか無いのです。

 私は下っ腹に力を入れて、気合を入れ直し、授かった神託を告げに、アレクさんの元へと向かったのでした。
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