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紫藤 蓮(シトウ レン)

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 話しすぎて声が嗄れて来た私に、アレクさんが薬湯を差し出してくれました。

 よく見ているというか、絶妙なタイミングです。
 
 でも、出来ればみんなと同じお茶が良かったな。この薬湯、体に良いのは分かるけど、本当に体に良さそうなお味で、あんまり美味しくないのですよ。
 
 アレクさんの目が、全部飲めって言ってるから、飲みますけどね?

「今のレン様のお話しで、ヴァラクの為人の様なものは分かりましたが、奴はこの世界を滅ぼす事を望んでいると考えて良いのでしょうか?」

「はい・・・方法は、契約を破った人族に怒ったアウラ様が “天罰を与える” と言うのがヴァラクにとっては一番の理想だったのだと思います」

「理想だった?」

「神が愛した世界を、神の手で自ら壊させれば、アウラ様に対する嫌がらせと復讐になりますから」

「かぁ~。マジで性格悪いな」

「本当にね。・・・ヴァラクが考えている方法は他にも有ります」

「ほか?」

「・・・一つ目は、アウラ様に天罰を落とさせる。二つ、人と獣人を争わせ、且つ魔獣を増やして人々を蹂躙させる。三つ・・・・この国の全土を利用した魔法を発動させて、全てを壊す。多分2と3は合わせ技と考えていると思います。天罰については心配しなくても大丈夫です・・・・今の所はなのですけど。」

「それが神の考えなのか?」

「はい、三番目の魔法については、すでに発動条件がほぼ満たされてしまっているそうです」

「いつ発動してもおかしくないと?」

 険しい顔のアレクさんに頷くと、ポンと頭に手を乗せられました。

「その魔法の存在は、神殿地下の記録に記されていたから、俺達も予備知識はある。詳しい事が分かるなら教えて欲しい」

「・・・帝国の地図ってありますか?」

 直ぐに持って来させると言って、マークさんが部屋の外で待機していたローガンさんに声を掛けてくれました。

「レン?地図を待つ間、いくつか質問をしてもいいか?」

 アレクさんが、心配そうに私を見ていますが、ずっと寝ていただけなので、元気いっぱいですよ?

「クレイオスが空間を閉じたミーネに、どうして俺たちは入れたんだ?」

「それは、クレイオス様が封印されたことで結界が弱まった事と、アレクがいたからです」
 
「俺?」

「ヨシタカ様はマイオールの獣人に嫁ぎました。アレクのご先祖様ですよ?」

「・・・・知らなかったな」

 アレクさんに家系図を気にする暇なんて無かったですよね?
 驚いて当然です。

 私もアウラ様に教えてもらって、驚きましたし。

「だから奥の院の扉が開いたのか」とロロシュさんが、一人納得しています。
 
 なぜか悔しそうに見えるのは、ミーネの神殿で何かあったからでしょうか?

「ロロシュ、あの石像は彫刻ではない様だ。諦めろよ?」

 ロロシュさんを揶揄ってる?
 マークさんは苦笑いだし
 寝てる間に何があった?

「クレイオスは石化していたのだろう?呪具に使われた鱗を、ヴァラクはどうやって手に入れたんだ?」
 
「あの鱗と爪は、最初の攻撃の時に落ちたものを使ったのです。アウラ様は鱗からクレイオス様の魂が封印されている場所を探そうとしたそうです。でも逆にヴァラクの呪いを受けてしまって・・・」

「予想はしていたが、本当に神を呪えるのか」

「最初の魔族はアウラ様達の力の残滓から生まれています。実体も、力のほとんどを失っても、ヴァラクの本質は神に近い存在と言えます。だから呪うことも可能だった様です」

「アウラ神はヴァラクに呪われ、今弱っているのだな?」

「呪具を見つけた後から、アウラ様とお話出来なくなったのはその所為です。全能の神の御力で、ある程度回復できましたが、以前の様にお会いすることは出来なくて、お声だけでした」

「ちょっと待て。今、全能の神と言ったか?」

 ロロシュさんが驚いていますが、何が問題なのでしょう?

「言いましたけど?」

「え~と。なんだ・・神は他にもいるってことか?」

「そうですよ?異界にも神様がいるのは知っているでしょう?」

「いや。そう言われるとそうなんだがよ」とロロシュさんは困惑して頬を掻いています。

「レン。この国はアウラ神とクレイオス以外の神は居ないと教えられて来ているのだぞ?ロロシュが驚くのも無理はないぞ?」

「あっ。そっか・・・えっと、この世界の神様はアウラ様とクレイオス様のお二人で間違いないのですよ? ただ、異界の数だけその世界を創った神様がいて、その全ての神様の頂点にいらっしゃるのが全能の神と呼ばれている神様なんです」

「なっなるほど?」
 ロロシュさん大丈夫かな?
 ますます混乱してるみたいだけど。

「神様には、神様の決まり事があって、世界の創世後は、過度に世界に干渉してはいけない決まりがあるそうです。 アウラ様が多くを話さなかったのは、それを守っていたからなのですが。でも今回、アウラ様が呪われてしまって、全能の神様に解呪をお願いした時に、情報開示の許可を貰ったそうでして」

「なんだそりゃ。俺たち宮仕とかわんねぇじゃねぇか」

 ご尤もです。
 アウラ様も、全能の神様に “加減も分からんのか” って怒られたって愚痴ってたし、自分たちの神様が、神の世界では新米のペーペーだなんて思っていないでしょう?

 神様なんだから、なんでも出来て当然、知ってて当然、と思いますよね?
 神様業はサービス業とおんなじです。

「失礼します。地図をお持ちしました」

 アレクさんが入るように言うと、ローガンさんが私の身長くらいある、大きな地図を持って来てくれました。

 地図が大きくてテーブルに乗り切らなかったので、床に広げてもらいました。
 私は、地図の上に膝をついて印をつけて行きます。

 みんなは地図を囲んで、私が印をつけていくのを見下ろしているのですが、 みんな背が高くて、いい体格をしているので、壁に挟まれているような、けっこうな圧迫感がありますね。

と言うか、影が出来て暗いのですけど?

「印をつけているのは、呪具があった場所か?」

「はい。クレイオス様の神殿があった所と、呪具があった所です」

「それが、魔法の発動と関係あるのか?」

「ちょっと待っててくださいね・・・・」

 印を付けた所を、線を引いて結んで行くと、難しい顔で腕を組んだロロシュさんが、唸り声をあげました。

「こりゃ。邪法の魔法陣じゃねぇのか?」

「私の国にも同じものが有って。この頂点が上に来ていれば、 “五芒星” とか “晴明桔梗” と呼ばれる魔除けの護符になりますが、こんな風に上下が逆になると “デビルスター” と呼ばれて悪魔信仰の象徴になります」

「悪魔信仰ね・・・」

「地下には魔力の流れがあるのですよね?」

「ああ。そうだ」

「私の国では、魔法はありませんが、地脈とか気の流れ、竜脈と呼ばれるものが有ります。クレイオス様の神殿はこの竜脈の上に建てられているので、そこを汚すことでクレイオス様と土地の力を弱らせ、国全体を使った巨大な魔法陣を形作ったのです」

「最後の場所は、マイオール?」

「マイオールは最初の場所です」

「・・・あの時か?」

「はい」

 アレクさんとウィリアムさんが北の辺境伯シルベスター侯爵と、魔物の討伐に明け暮れた時の事ですね。

「マイオールを起点にこのデビルスターは描かれています。この線を順に辿ると最後はマイオールに戻るのです」

「ヴァラクは南に向かった後姿を消しているが、今後マイオールに向かうと思うか?」

「そうだと思います。 普通なら五芒星の中心の皇都に魔法陣の力は蓄えられますが、皇都はアウラ様が降臨された地で、今でも加護の力が残されているので、ある程度魔法を抑える効果はあるそうです。 瘴気の病の発症者がいないのもその為ですね。 それにマイオール、ニックス、アミー。 この三箇所以外は浄化が出来たので、ヴァラクの望み通りの威力ないだろう、とアウラ様は仰ってました」

「安心して良いのか、微妙ですね」

 マークさんの言う通りです。
 威力が半減したとしても、魔法が発動してしまえば、被害が出ることは確実です。

「皇都から避難させた方がいいんじゃねぇのか?」

「帝国全体を包んだ魔法陣だぞ? 何処に逃げる? 他国か? 地底か?」

「だよなぁ」
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