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紫藤 蓮(シトウ レン)
大穴3
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地底湖の前に立ったアレクさんは、湖面に右手の掌を向けて、何かを調べている様です。
声を掛けるのは憚られ、私はアレクさんが調べ終わるのを、じっと待って居る間、地底湖の周りを見渡すと、湖の対岸にひしゃげた大きな檻が見えました。
あのドラゴンが入れられていた檻なのでしょうか?
そうだとすると、あのドラゴンには小さすぎる檻だと思います。
あれの中に入れられて居たなら、身動きが出来ないほど、窮屈だったに違いありません。
やがて、アレクさんが ホウッ、と息を吐き「これは、魔素湖だな」と言いました。
「魔素湖?」
初めて聞く言葉です。
「この世界の地下には、地下水と同じように、魔力の流れが有る。それを魔素と呼ぶのだが、稀に地下水の流れと混じって、多くの魔素が含まれた泉や池が出来ることがあるのだが、こんなでかいのは初めて見るな」
「これだけの魔素水が有れば、国庫の心配が無くなりますね!」
マークさん大喜びですね?
「魔素水は高く売れるの?」
「この水は使い道が多くてな、植物や家畜に与えれば成長を促進する。魔力の回復だけなら、回復薬よりも魔素水の方が早い。薬の素材にもなるし、魔素水のある所には魔晶石の鉱脈があるからな」
なるほど、金のなる木なんだ。
「昔、魔素水を飲むと魔力量が増えると言う噂まであったのですよ」
「本当に魔力が増えるの?」
本当なら魔力値が低いって悩んでいる騎士さん達に飲ませてあげたいです。
「さあな。ただの噂だ。高価なものだから、貴重すぎて毎日飲める奴など居ないだろう?」
実証した人は居ないって事ですか。
「それより、この容器、水槽か?中に入れられて居るのはドラゴンだな」
「そうみたい・・・でも・・」
私は壊された水槽に目を向けました。
中に入っていたドラゴンは、息絶えてしまっています。
ここが日本なら、動物虐待で訴えられて、逮捕送検は確実ですね。
魔獣は厄介な存在だけれど、可哀想な生き物でもあるのです。
優しくしろとは言いませんが、弄ぶ様な行動はやめて頂きたいです。
「他の水槽も見てみよう」とアレクさんが、励ますように言ってくれました。
本当に優しい人です。
「これは・・・バジリスクの幼体だな」
「こっちはキマイラとガルーダですね」
「それに、ヨルムガンドの幼体か?」
「ヨルムガンド?! 伝説の幻獣じゃないですか?!」
マークさんが驚愕の声をあげていますが、
幻獣なんて言われたら、分かって居ない私でも驚きますよ?
ヨルムガンドと聞いてすっかり興奮したマークさんは、どうにかヨルムガンドを水槽から安全に出す方法は無いか、出せたとしてもどうやって育てるのか、と水槽に張り付く様にして、ブツブツと独り言を言っています。
それを横目に私は、ステータス画面でヨルムガンドを検索です。
なになに。
成長すると30mにもなるの?
猛毒を持って居るが、卵から育てると、人に懐く場合が・・・あるんだ・・・。
でも、猛毒かぁ・・・・。
30mの巨体なら、幻獣っていうより、山の主っぽく無いですか?
私の検索は終了しましたが、マークさんは、まだヨルムガンドに夢中です。
マークさんって見た目と違って、ちょっとオタクっぽい所があるのよね。
益々親近感が湧いてきます。
「マーク落ち着け。本の挿絵に似ていると思っただけだ。本物のヨルムガンドとは限らんのだぞ?」
「はっ! 失礼しました・・・まだ分からないのですよね?」
マークさんがすっごくガッカリして肩がシュンと落ちてしまいました。
どうしましょう。ステータク画面でエンカウント済みになってるから、本物で間違い無いのですが・・・今教えたら、余計興奮してしまいそうです。
私は迷いましたが、今は教えない方が良い気がするので、黙っておくことにしました。
「閣下、ロロシュ殿が確認して頂きたいものがあるそうです」
え~っと。この人は一緒に来てくれた騎士さんの・・・なんて言ったかな?たしか美味しそうな名前の人だったと思うのですが・・・。あまり練武場でも見かけない人だから名前を思い出せません。
アレクさんは一つ頷くと、水槽に齧り付いているマークさんの肩を掴んで引き剥がし、一緒に歩き出しました。
「閣下、私はここにいても良いのでは?」
「後で好きなだけ見にくれば良いだろう?」
「許可して頂けるのですか?」
「これだけの物だぞ? 地下だからと言って放置もできまい。何人かつけるから、レンの護衛に支障が出ない範囲でなら、許可しよう」
マークさんがとても嬉しそうです。
幻獣だと言われると、おっ?ってなりますが、見た目は大きめの蛇と変わらないのですよ?
これは、やっぱりあれですか?
ロロシュさんが蛇だからなのですか?
私が内心でムフフと笑って居る間も、騎士さんの案内でアレクさんは軍靴を響かせて、奥へと進んで行きます。
「こちらです」と示されたのは、ドアを開けたままの一室でした。
一室といっても、体育館くらいの広さがあります。
そこには、中央に魔晶石で囲まれた魔法陣があり、壁に向かって、魔獣が入れられた檻が整然と並んでいました。
「魔獣を飼って居たのか?」
「いや。あっちに解剖台があるから、実験してたってとこじゃねぇか?」
「実験? なんの?」
思わず声が震えてしまった事は、許して欲しいです。
「この記録だと、魔獣から効率よく瘴気を取り出す方法だとか、後は魔薬の調合だな」
「魔薬だと? まさかあの薬か?」
「そのまさか、みてぇだぞ? しかもこのサインは大神殿の神官様のもんだ」
「なんだと!? ヴァラク教では無いのか?」
「でけぇ声出すなよ。ちびっ子が驚いてるぞ」
ロロシュさんに指摘されて、申し訳なさそうな顔を見せるアレクさんに、私は “大丈夫” とニッコリして見せました。
けれど心の中では、神官達の堕落ぶりにうんざりています。
でも激しい怒りは湧いてきませんでした。
人は憤りも度が過ぎると、呆れて何も感じなくなるみたいです。
ロロシュさんが “見てみろ” と差し出した、分厚いノートには、瘴気の抽出方法やいかに正常に見せつつ、相手の自我を奪い操る為の魔薬の適量がどのくらいなのか、中毒性を強める配合をどうするか等々が記入されていました。
一緒にノートを覗き込むアレクさんの奥歯がギリギリと鳴って、喉の奥でグルグルと唸っています。
「それでよ。言い難いんだが、あっちにドアが二つあんだろ?」
言い難いってなんだろう。
あぁ、嫌な予感がする。
聞きたくないな。
「ああ。向こうは何がある?」
「右側の部屋は、卵だらけだ。ざっくり読んだだけだが、こっちのノートは繁殖実験の記録だ。・・・っで左の部屋なんだけどよ・・・」
「なんですか、ロロシュ? 貴方らしくも無い。ハッキリ言いいなさい」
マークさんが痺れを切らした様です。
「・・・あっちには、人が捕まってる・・いや。もう人とは呼べねぇかもしれねぇ」
これを聞いて、私とマークさんは息を呑み、アレクさんの奥歯がギリッっとなったのが聞こえました。
「レンは。ここでマークと待って居てくれ」
私を降ろそうとするアレクさんに、私は首を振って彼の上着にしがみつきました。
「私行きます」
「だが・・・」
逡巡するアレクさんに、ロロシュさんも ”ちびっ子が見るもんじゃねぇよ“ と反対されてしまいました。
「ロロシュさん。私は体は小さいですが、子供では無いので、そのちびっ子と呼ぶのはやめて下さい。・・・アレク?奥にいる人達に、浄化と治癒が必要かもしれないでしょう?」
「しかし・・・」と探るようにロロシュさんと互いの目を見交わして居ます。
ロロシュさんは、本気で反対して居るようで、難しい顔で首をふっています。
ですが、私にはここで待つと言う選択肢は有りません。
このままアレクさんの抱っこで行くか、自分の足で後を追いかけるかの違いだけです。
「アレク? 一緒に連れて行って?」
会社であざとい、と有名だった子の真似をして、上目遣いでお願いしてみました。
「うぅ・・・無理はしないと約束できるか?」
「うん。約束する」
産まれてから二十五年。
今日私は、あざと女子のおねだりは、最強なのだと知りました。
声を掛けるのは憚られ、私はアレクさんが調べ終わるのを、じっと待って居る間、地底湖の周りを見渡すと、湖の対岸にひしゃげた大きな檻が見えました。
あのドラゴンが入れられていた檻なのでしょうか?
そうだとすると、あのドラゴンには小さすぎる檻だと思います。
あれの中に入れられて居たなら、身動きが出来ないほど、窮屈だったに違いありません。
やがて、アレクさんが ホウッ、と息を吐き「これは、魔素湖だな」と言いました。
「魔素湖?」
初めて聞く言葉です。
「この世界の地下には、地下水と同じように、魔力の流れが有る。それを魔素と呼ぶのだが、稀に地下水の流れと混じって、多くの魔素が含まれた泉や池が出来ることがあるのだが、こんなでかいのは初めて見るな」
「これだけの魔素水が有れば、国庫の心配が無くなりますね!」
マークさん大喜びですね?
「魔素水は高く売れるの?」
「この水は使い道が多くてな、植物や家畜に与えれば成長を促進する。魔力の回復だけなら、回復薬よりも魔素水の方が早い。薬の素材にもなるし、魔素水のある所には魔晶石の鉱脈があるからな」
なるほど、金のなる木なんだ。
「昔、魔素水を飲むと魔力量が増えると言う噂まであったのですよ」
「本当に魔力が増えるの?」
本当なら魔力値が低いって悩んでいる騎士さん達に飲ませてあげたいです。
「さあな。ただの噂だ。高価なものだから、貴重すぎて毎日飲める奴など居ないだろう?」
実証した人は居ないって事ですか。
「それより、この容器、水槽か?中に入れられて居るのはドラゴンだな」
「そうみたい・・・でも・・」
私は壊された水槽に目を向けました。
中に入っていたドラゴンは、息絶えてしまっています。
ここが日本なら、動物虐待で訴えられて、逮捕送検は確実ですね。
魔獣は厄介な存在だけれど、可哀想な生き物でもあるのです。
優しくしろとは言いませんが、弄ぶ様な行動はやめて頂きたいです。
「他の水槽も見てみよう」とアレクさんが、励ますように言ってくれました。
本当に優しい人です。
「これは・・・バジリスクの幼体だな」
「こっちはキマイラとガルーダですね」
「それに、ヨルムガンドの幼体か?」
「ヨルムガンド?! 伝説の幻獣じゃないですか?!」
マークさんが驚愕の声をあげていますが、
幻獣なんて言われたら、分かって居ない私でも驚きますよ?
ヨルムガンドと聞いてすっかり興奮したマークさんは、どうにかヨルムガンドを水槽から安全に出す方法は無いか、出せたとしてもどうやって育てるのか、と水槽に張り付く様にして、ブツブツと独り言を言っています。
それを横目に私は、ステータス画面でヨルムガンドを検索です。
なになに。
成長すると30mにもなるの?
猛毒を持って居るが、卵から育てると、人に懐く場合が・・・あるんだ・・・。
でも、猛毒かぁ・・・・。
30mの巨体なら、幻獣っていうより、山の主っぽく無いですか?
私の検索は終了しましたが、マークさんは、まだヨルムガンドに夢中です。
マークさんって見た目と違って、ちょっとオタクっぽい所があるのよね。
益々親近感が湧いてきます。
「マーク落ち着け。本の挿絵に似ていると思っただけだ。本物のヨルムガンドとは限らんのだぞ?」
「はっ! 失礼しました・・・まだ分からないのですよね?」
マークさんがすっごくガッカリして肩がシュンと落ちてしまいました。
どうしましょう。ステータク画面でエンカウント済みになってるから、本物で間違い無いのですが・・・今教えたら、余計興奮してしまいそうです。
私は迷いましたが、今は教えない方が良い気がするので、黙っておくことにしました。
「閣下、ロロシュ殿が確認して頂きたいものがあるそうです」
え~っと。この人は一緒に来てくれた騎士さんの・・・なんて言ったかな?たしか美味しそうな名前の人だったと思うのですが・・・。あまり練武場でも見かけない人だから名前を思い出せません。
アレクさんは一つ頷くと、水槽に齧り付いているマークさんの肩を掴んで引き剥がし、一緒に歩き出しました。
「閣下、私はここにいても良いのでは?」
「後で好きなだけ見にくれば良いだろう?」
「許可して頂けるのですか?」
「これだけの物だぞ? 地下だからと言って放置もできまい。何人かつけるから、レンの護衛に支障が出ない範囲でなら、許可しよう」
マークさんがとても嬉しそうです。
幻獣だと言われると、おっ?ってなりますが、見た目は大きめの蛇と変わらないのですよ?
これは、やっぱりあれですか?
ロロシュさんが蛇だからなのですか?
私が内心でムフフと笑って居る間も、騎士さんの案内でアレクさんは軍靴を響かせて、奥へと進んで行きます。
「こちらです」と示されたのは、ドアを開けたままの一室でした。
一室といっても、体育館くらいの広さがあります。
そこには、中央に魔晶石で囲まれた魔法陣があり、壁に向かって、魔獣が入れられた檻が整然と並んでいました。
「魔獣を飼って居たのか?」
「いや。あっちに解剖台があるから、実験してたってとこじゃねぇか?」
「実験? なんの?」
思わず声が震えてしまった事は、許して欲しいです。
「この記録だと、魔獣から効率よく瘴気を取り出す方法だとか、後は魔薬の調合だな」
「魔薬だと? まさかあの薬か?」
「そのまさか、みてぇだぞ? しかもこのサインは大神殿の神官様のもんだ」
「なんだと!? ヴァラク教では無いのか?」
「でけぇ声出すなよ。ちびっ子が驚いてるぞ」
ロロシュさんに指摘されて、申し訳なさそうな顔を見せるアレクさんに、私は “大丈夫” とニッコリして見せました。
けれど心の中では、神官達の堕落ぶりにうんざりています。
でも激しい怒りは湧いてきませんでした。
人は憤りも度が過ぎると、呆れて何も感じなくなるみたいです。
ロロシュさんが “見てみろ” と差し出した、分厚いノートには、瘴気の抽出方法やいかに正常に見せつつ、相手の自我を奪い操る為の魔薬の適量がどのくらいなのか、中毒性を強める配合をどうするか等々が記入されていました。
一緒にノートを覗き込むアレクさんの奥歯がギリギリと鳴って、喉の奥でグルグルと唸っています。
「それでよ。言い難いんだが、あっちにドアが二つあんだろ?」
言い難いってなんだろう。
あぁ、嫌な予感がする。
聞きたくないな。
「ああ。向こうは何がある?」
「右側の部屋は、卵だらけだ。ざっくり読んだだけだが、こっちのノートは繁殖実験の記録だ。・・・っで左の部屋なんだけどよ・・・」
「なんですか、ロロシュ? 貴方らしくも無い。ハッキリ言いいなさい」
マークさんが痺れを切らした様です。
「・・・あっちには、人が捕まってる・・いや。もう人とは呼べねぇかもしれねぇ」
これを聞いて、私とマークさんは息を呑み、アレクさんの奥歯がギリッっとなったのが聞こえました。
「レンは。ここでマークと待って居てくれ」
私を降ろそうとするアレクさんに、私は首を振って彼の上着にしがみつきました。
「私行きます」
「だが・・・」
逡巡するアレクさんに、ロロシュさんも ”ちびっ子が見るもんじゃねぇよ“ と反対されてしまいました。
「ロロシュさん。私は体は小さいですが、子供では無いので、そのちびっ子と呼ぶのはやめて下さい。・・・アレク?奥にいる人達に、浄化と治癒が必要かもしれないでしょう?」
「しかし・・・」と探るようにロロシュさんと互いの目を見交わして居ます。
ロロシュさんは、本気で反対して居るようで、難しい顔で首をふっています。
ですが、私にはここで待つと言う選択肢は有りません。
このままアレクさんの抱っこで行くか、自分の足で後を追いかけるかの違いだけです。
「アレク? 一緒に連れて行って?」
会社であざとい、と有名だった子の真似をして、上目遣いでお願いしてみました。
「うぅ・・・無理はしないと約束できるか?」
「うん。約束する」
産まれてから二十五年。
今日私は、あざと女子のおねだりは、最強なのだと知りました。
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