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紫藤 蓮(シトウ レン)

アイオス

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 ブネの森の浄化を終えた私達は、現在第3騎士団の砦がある、アイオスの街に逗留しています。
 
 イマミアでの私とマークさんの会話をきっかけに、国内で瘴気による病の発症状況の調査を皇宮に要請したアレクさんは、既に各騎士団長にも、注意喚起と調査の必要性を説いた書面を送付してあるとの事です。

 真面目なモーガンさんは既に調査を進めていて、タマス平原近郊の街と、このアイオスに似た症状の病人がいることを把握していました。

“出世する人は仕事が早いって、本当なんだぁ” と感心していましたが、以前話に出てきた、モーガンさんの10歳になる息子さんが、この病に罹っているようだとの話を聞いた私は、アイオスに到着後、宿で簡単に身支度を整え、直ぐにモーガンさんのご自宅に伺うことにしました。

 モーガンさんの伴侶のナディーさんとは、ミュラーさんの伴侶のザックさんと一緒に、柘榴宮で一度お会いしたことが有ります。
 
 その時はとても元気で溌剌とした印象の方でしたが、今は息子さんを案じているからか、元気が無い様子でした。

「カール君こんにちは、私は紫藤・蓮と言います。お父さんにはお仕事で沢山助けてもらっているんですよ?」
「ボク知ってる!レン様って愛し子なんでしょ?」
「カール君は物知りなんですね?」
「レン様は、超有名なんだよ?それに母様をお茶に招待してくれたでしょ?あれから母様はレン様の話ばっかりなんだ」
「これ!カール!レン様に失礼ですよ」
 
 あたふたとカール君を嗜めるナディーさんに、問題ないと告げると、ナディーさんは申し訳なさそうに肩をすくめています。

「お父さんからカール君の調子が悪いって聞いて、お見舞いに来たのだけど、何処か痛かったり気持ち悪かったりする?」
「うん。ボク前は風邪も引いたことが無かったんだ。でも今は動くと目の前がクラクラしたり、ご飯を食べると気持ち悪くなっちゃう。母様のご飯おいしいのに・・・」
 とさっきまで背中でパタパタ動いていた羽が、萎れたように閉じられてしまいました。

「ボクもう飛べないのかな」としょんぼりしています。

 モーガンさんが鷲の獣人だとは聞いていましたが、子供の頃は羽が普通に生えているとは思いませんでした。

 それに髪もモーガンさんの髪は、短く刈り込まれているので気付きませんでしたが、カール君の髪は、細い鳥の羽が幾重にも重なってふわふわしています。

「大丈夫。直ぐに飛べるようになるからね」
 そう言ってカール君の頭を撫でたのは羽毛の誘惑に負けたからではありませんよ?

 ふわふわで気持ちよかったですが、元気付けたかっただけです。
 決して邪な考えではありませんからね!

「ほんとう?でも治癒師の先生も、どうして気持ち悪くなるのか、わからないって・・」
「まぁ。そうなの? じゃあカール君には、私の生まれ故郷のおまじないをしてあげましょうね?とてもよく効くおまじないだから。きっと直ぐに良くなりますよ?」

「やったあ!愛し子様のおまじないなら、絶対きくよね?」
「ふふ。そうでしょう? じゃあ、お腹の何処が気持ち悪いのか教えてくれる?」

 布団を捲って見せてくれたお腹の辺りから、瘴気が漂い出ていました。
 背丈は私よりも大きそうですが、それでも子供には、かなり辛かったのでは無いでしょうか。

「お腹に触ってもいい?」
「うん、いいよ」
「少し時間が掛かるかも知れないから、じっとしててね」

 寝巻き越しにカール君のお腹に手を当てた私は、ゆっくり浄化をかけて行きました。
 
「わあ!母様なんだかキラキラして、ぽかぽかするよ!?」
「カール。レン様のおまじないが終わるまでじっとしていなさい」
「はーい」

 ふふふ。
 親子の会話って感じで、ほのぼのします。

 カール君の中にある瘴気は、イマミアの漁師さん達ほど濃くは有りませんが、このまま放置していたら、同じように足が動かなくなってしまったかも知れません。

 それに純粋な分、心も影響を受けてしまう可能性もあります。

 隅々までしっかり浄化してあげないと。

「もう直ぐ終わるからね・・・最後の仕上げに 痛いの痛いの飛んでいけ~~!」

 ちょっと大袈裟に、病の元を投げ捨てる真似をすると、カール君はポカンとした顔になってしまいました。

 ちょと大袈裟すぎたかな?
 ノーリアクションは、恥ずかしいのだけど・・・。

「どうかな?」
 
 カール君はお腹を撫でたり、手をグーパーしたり、背中を見ながら羽をパタパタ動かして身体の状態を確かめています。

「すごいや!ぜんぜん気持ち悪くない!」
「本当? おまじないが効いてよかったね」
「母様!ボクお腹すいちゃった!」
「これっ!レン様の前ではしたない」
「ナディーさん気にしないで。いっぱいご飯をつくってあげて?」
「はい・・・レン様ありがとうございます」

 ナディーさんの瞳にうっすら涙の膜がかかって見えます。
 それを見て気恥ずかしくなった私は、カール君に向き直りました。

「カール君が元気になったから、私は帰るね」
「はい。レン様また遊びに来てね」
「ありがとう。カール君も皇都に来たら、柘榴宮に遊びに来てくださいね?」

 バイバイと手を振り合って、子供部屋を出ると、ナディーさんが応接間まで案内してくれました。

「終わったか?」
「レン様。カールはどうですか?」
「モーガンさん。カール君はやはり瘴気の病でした。でも浄化も終わりましたので、もう大丈夫です。安心してくださいね」
 
 それを聞いたモーガンさんは、気が抜けたように、浮かせていた腰を椅子に戻して、長い溜息を吐きました。

「レン様には、なんとお礼を言えば良いのか」
「いえ。気にしないで下さい。根本的な解決がまだですし」
「そうだな・・・。同じ物を飲み食いしているモーガン達に症状が出ていない。カールは何処か別のところで瘴気に侵された筈だ。心当たりはあるか?」

 モーガンさん夫夫ふうふは暫く考えていましたが、直ぐには思い付かなかったようです。

 子供の行動範囲は狭いようで、実は想像以上に広かったり、大人なら思いもかけない場所に出入りしている物です。
 行動の全てを把握はできないでしょう。

 カール君を怖がらせたくは無いけれど、汚染源の確認は必要です。

 そこの所は、信頼できるご両親にお任せして、私達は宿に戻ることにしました。

「カール君、かわいいかったです」
「レンは子供は好きか?」

 なんでしょう、アレクさんが元気が無いように見えます。
 どうしたんでしょう?

「う~ん、どうでしょう。私の周りには小さな子供が居なかったので。よく分かりません」
「そうか・・・」
「でもアレクの子供は、きっと可愛いと思いますよ?」
「そうか?!」

 あれ?
 急に元気になった?

「レンは子供は何人欲しい?」
「無理のない範囲なら、何人でも?」

 私が子供は要らない、とか言うと思ってたのかな?

 そうかそうかって、めちゃくちゃ嬉しそうですけど・・・・。

 あっ!しまった!
 これはちょっと早まったかも。

 この人が体力お化けなのを忘れてました。
 
 今から人数制限かけるの間に合うかな?
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